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【ふるさとを返せ 津島原発訴訟】法廷に響いた〝加害者〟東電の本音。「ダム建設で沈んだ村よりマシ」「居住制限あるが立ち入り出来る」~原告本人尋問始まる。元GE佐藤暁氏も出廷

原発事故で帰還困難区域に指定された福島県浪江町津島地区の住民たちが国や東電に原状回復と完全賠償を求める「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」の第16回口頭弁論が18日、福島地裁郡山支部303号法廷(佐々木健二裁判長)で終日、行われた。原告に対する本人尋問が開始。この日は原告団長・今野秀則さんが法廷に立った。被告東電の代理人弁護士が「ダムの底に沈んで立ち入りすら出来ない村と比べれば津島はマシだ」とでも言いたげな尋問をし、法廷が騒然となる場面も。「ふるさと喪失」に対する東電側の本音が出た格好だ。午後は元GE技術者の佐藤暁氏が専門家として法廷に立ち、「必要な対策を講じていれば過酷事故は防げた」と語った。


【「原発事故の当事者が言う事か」】
 被告東電の代理人である棚村友博弁護士による反対尋問も終盤にさしかかった頃、ついに〝加害企業〟である東電の本音が飛び出した。
 「現在の状況としては、下津島の御自宅で生活が出来ない。それと、それに伴って原発事故前に行っていたような地域での、下津島での活動も出来ない。という事だと思うんですが、この点を除けば、あなたの行動や活動自体には特に制約はありません。例えば『ふるさとを失う』と言う場合、村が丸ごとダムの底に沈んでしまうという『公用収用』がある。この場合は、物理的に水面の下になってしまう。立ち入りすら出来ない。こういうケースが世の中では現実に起こっています。物理的に村が無くなってしまうという事。仮にこういうケースと比較した場合、津島地区は帰還や居住は制限されているわけですが、立ち入りは出来ている。接点が全く無くなってしまったわけでは無い…」
 我慢ならぬとばかりに、原告側の代理人弁護士たちが異議を申し立てた。
 「原発事故の当事者が言う事ですか?ちょっとそれは黙って聴いていられません」
 棚村弁護士は「ふるさと喪失に対する慰謝料を請求されているわけですから、認識をお聞きしたいんです」と応じる。しばらくやり取りを静観していた佐々木裁判長も、さすがに棚村弁護士に注意をした。「被告の意見を前提に、原告の意見を求めている感じがします。もう少し、質問の仕方を工夫してください」。
 法廷が騒然とする中、棚村弁護士はいったん、質問を撤回。しかし、ほぼ同じ内容で改めて質した。
 「公用収用の場合、村全体がダムの底に沈んでしまうので、いわゆる『ふるさと喪失』というものが考えられますが、そこに暮らしてきた様々な人のつながりとか思い出とか、そういうものが失われてしまうとは考えませんか?ダムの底に沈んだ場合には立ち入って触れるという事も出来なくなってしまうわけですが」
 これに対し、今野さんは努めて冷静に、こう答えた。
 「ダム建設の場合は地域の内外に集団移転する事が出来、地域の人々のつながりも一切失われてしまうわけでも無い。地域の伝統や歴史そのものも地域住民も離散して雲散霧消してしまったわけでも無い。私たちとは全く違うと思います」
 閉廷後、原告の1人は「そもそも津島の歴史を分かっていてダムの話を持ち出したのか?」と怒りをあらわにした。
 「大柿ダム(浪江町大字室原)を造る時に、多くの住民が移転させられたんだ。そして、今回の原発事故での避難。2回も住まいを奪われたんだよ。それに、ダム建設の場合は時間をかけて話し合って決める事であって、原発事故である日突然、ふるさとを奪われるのとは全く違う。自分たちで原発事故を引き起こしておいて、どうしてそんな事が言えるのか」


原告団の先陣を切って本人尋問に臨んだ原告団長・今野秀則さん。この日の法廷でも涙を拭う場面が何度もあったが、東電側弁護士の「ダムに沈んだ村には立ち入りすら出来ない。あなたは一時帰宅出来ている」との発言には、毅然と「ダム建設による土地収用とは全く違う」と答えた=2018年11月30日撮影

【五輪ムードにかき消される被害者の声】
 元県職員で下津島行政区長も務める今野さん。約2時間にわたる主尋問、反対尋問では、生まれ育った津島への想いや原発事故による放射能汚染で奪われたふるさとへの想いを、時折涙を拭いながら語った。
 自宅の柱には、きょうだいと背比べをした時のしるしが今も刻まれている。お盆や年末年始には親族が一堂に会していたが、それも叶わない。写真は後から再生出来ない、と持ち出したアルバムは103冊に達する。田植え踊りなど、地域の伝統芸能も継承の危機に瀕している。原発事故で奪われたのは物理的な「住まい」だけでは無い。行事などを通じて培われた地域の人々のつながりであり、家族との思い出。ふるさとへの愛着は、進学や就職で離れていたとしても否定されるものでは無い。
 保健所から引き取って可愛がっていた愛犬「リリー」に対しては「自責の念に苦しんだ」と話した。避難先に連れて行かれず、約1カ月間、津島に残した。後に一緒に暮らしたが2015年2月、リリーは突然、天国に旅立った。降り積もった雪が下血で真っ赤に染まったという。「あの時、高線量下の津島に1カ月間も置いて来てしまった事が悪かったのではないか」。今野さんは天国のリリーに詫びるように涙を流した。
 コミュニティを破壊され、地域の絆も奪われた原発避難。津島にわが家がありながら、なぜ新たな住まいを確保するための地鎮祭を行っているのか。思考は混乱し、体調を崩した事もあった。いわき市に自宅を新築した人から、壁に「原発御殿、田舎に帰れ」と落書きされたと聴いて哀しくなった。今野さん自身、避難先でリリーを散歩させていると、見知らぬ人からいきなり「原発事故の賠償金もらって良いね」と声を掛けられた事があるという。「私たちは地域で生きる喜びや生きがいの一切を奪われ、いつ帰れるとも分からない苦境に追い込まれているのです」。
 これまで国の対応に対し「声をあげても、なかなか聞いてもらえない。東京五輪へのカウントダウンが始まっているが、そちらに力が注がれてしまって、原発事故で苦しんでいる私たちの想いはかき消されがち。国土の一部を失うような原発事故が現実に起きて、いつ帰れるのかさえ分からない。国の政策を根本から見直さないと再び、同じような事故を起こすのは間違いないと思う」と述べた今野さん。東電に対しても、次のように怒りをぶつけた。
 「真摯に対応します、と言いながら誠実さがまるっきり感じられない。原発事故を起こした直接の責任者です。声をあげても、その声に応えようとする姿勢が感じられません。浪江町の集団ADRで何か居も東電本社に足を運んだが、私たちの要求に対して木で鼻をくくったような回答しか返って来ない。いつも逃げ口上でおしまいにしてしまう。そういう体質をぜひ改めて欲しい」


福島第一原発でも業務責任者を務めた事がある佐藤暁氏が裁判所に提出した意見書の一部。この日の法廷では約3時間にわたって原告代理人弁護士による主尋問が行われたが、一貫して「必要な対策を講じていれば過酷事故は防げた」と述べた。最後には「各裁判所の判決で『社会通念上、原発事故前の対策はあれで十分だった』とされている傾向には心配している。せっかくの反省の機運がしぼんでしまう」とも

【防げた過酷事故、低かった危機意識】
 午後、原発の検査・修理の専門家として主尋問に臨んだ佐藤暁氏。ゼネラル・エレクトリック社(GE)の日本法人に18年間勤務する中で、最も多くかかわったのが福島第一原発だという。原子炉内部の応力腐食割れに関する検査や修理、改造に関わった経験を活かし、現在はフリーランスの原子力コンサルタントとして活動している。
 佐藤氏は、2018年7月に提出した意見書「予防と緩和の事前対応が可能だった津波対策、および、回避可能だった福島第一原子力発電所事故」に沿って、改めて必要な対策を事前に講じていれば、過酷事故は防げたとの認識を示した。つまり、防げたはずの対策を怠ったために起きた原発事故で、津島地区を含め多くの人々が今なお被害に遭っているという事だ。
 「アメリカでは何か事象が起きた場合、炉心損傷確率が0・1%以上の場合は大変重大なリスクと受け止められる。0・1%ということは、同じ事象が1000回起こったら1回は炉心損傷事故になってしまうという事。一般の人には小さい数字だと受け止められるかもしれないが『ニアミス』。アメリカでは1971年から今日までに34回あった。日本と違い、リスクに対して敏感で危機感を持っている。その意味で日米の差を感じる。結局は何を守ろうとするか、だ。発電設備を守りたいのか、人や環境を守らなければならないという考え方に立つかだ」
 そして「この場で申し上げるのは恐縮ですが」と前置きした上で、次のように述べて尋問を終えた。
 「概していえば、福島第一原発事故の後、日本での安全に対する意識は高くなったという印象は持っている。もちろん、欧米のレベルには達していないし、指摘すべき事はたくさんある。ただ反省はしているし、手遅れではあるが、変わろうとしている。むしろ私が心配しているのは、各地の裁判所で言い渡されている判決文で、『社会通念に照らして原発事故前の対応に問題は無かった』とされている点。原子力の関係者にそんな事を考えている人は1人もいない。昔の対応も社会通念上問題無かったんだ、精一杯の事をやっていたんだ、という事が通ってしまうと、せっかくの反省の機運がしぼんでしまう。非常に心配している」
 次回期日は3月15日午前10時。佐藤氏に対する反対尋問は5月に予定されている期日で行われる予定。



(了)
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