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 前回(「『白より茶色の食べ物を選べ』は本当か?」)に続いて、炭水化物の「色」について解説していきます。

 果たして、本当に白い炭水化物よりも、茶色い炭水化物を食べた方が健康にいいのでしょうか。いくつか臨床研究の結果をご紹介します。

 まず、最もストレートなメッセージを持った報告として、「茶色い炭水化物(全粒穀物)を摂っているグループの方が、それを摂っていないグループよりも全死亡率が17%低かった」というものがあります。

 そして死因の中でも、心血管疾患の死亡率は25%も低く、がんの死亡率も6%低かったと報告されています(1)。

 この報告は過去に発表された20編の臨床研究を「メタアナリシス」という特殊な統計学的手法を用いて統合した研究です。

 20編を合わせたものになるので、この研究の観察対象となった人は約228万人と膨大なものでした。

 一般的にメタアナリシスは対象人数が多く、エビデンスとしてレベルは高くなります。ともすれば、「メタアナリシスでこれだけはっきりした死亡率減少効果が出ていれば間違いないな」と思ってしまいますよね。

 けれど、ここにはいくつかの大事な注意点があります。

 まず「全粒穀物」の定義が各研究によってまちまちなのです。どんな穀物を摂っているのか、三食すべて茶色なのか、たまには白色の炭水化物も食べているのか……。そもそも対象の人が申告した内容を額面通り受け取っていいのかも微妙です。

 定義があいまいで、それぞれの研究で統一されていないものごとを、メタアナリシスを使って力づくでまとめ上げた、という印象なのです。

 例えば、ある抗がん剤の効果が知りたくて、薬を〇㎎使用したら、生存期間が△日伸びて、副作用で白血球が□%減った、などといった客観的な指標がきちんとある研究であれば、メタアナリシスで複数を統合することで、エビデンスレベルは上がるでしょう。

 しかし食事のような「自由度と日々のバラツキ」が多い事柄をメタアナリシスで正確に扱うことができるのかは、はなはだ疑問です。

 さらに一番問題なのは、そもそも「茶色い炭水化物を摂っている人」は、「普通の人に比べて健康に対する意識が高い人に違いない」ということです。

 つまり「茶色い炭水化物」だけでなく、野菜も魚も普通の人より多く食べていて、ジャンクフードは極力避け、適度な運動も欠かさない。そんな人である可能性が高いのです。

 であれば、平均に比べて死亡率が低かったとしても、それを「茶色い炭水化物だけの手柄」にすることはできないはずです。

 では、「炭水化物の色」「その他の食事」「運動」などといった様々な要素が健康に貢献している「度合い」にも目を配った臨床研究はないでしょうか。

 実は一つ、興味深いものがありました。ご紹介しましょう。