社説
捜査関係事項照会 令状なき個人情報取得に規制を
2019年1月23日(水)(愛媛新聞)
われわれの内面やプライバシーが、いともたやすく捜査機関に筒抜けになりかねない現状に戦慄(せんりつ)を覚える。
警察や検察が、交通機関の利用状況や、店舗での商品購入履歴、位置情報といった顧客情報を、顧客本人の了解を得ないまま取得していることが明らかになった。企業側への情報提供の要請は、裁判所など外部のチェックが入らない「捜査関係事項照会」を活用しており、取得後の管理体制、利用状況も不透明だ。これでは本当に捜査のために使用しているかどうかも分からず、断じて認められない。
憲法では、強制的な捜査を行う場合には裁判所の令状を必要とする「令状主義」を定めているが、これに反する可能性もある。企業などが保有する個人情報は種類、量ともに増加の一途をたどる。野放図な照会を許さないために、法整備による制度の透明化や規制、チェック体制の確立が急務だ。
共同通信の調べで、検察当局が顧客情報を入手できる企業などの一覧表を作り、内部で共有していることが分かった。対象企業は主要な交通各社やカード会社、消費者金融、コンビニなど多岐にわたる。入手可能とされた情報は、カードの名義人や使用履歴、運転免許証の写しも含まれる。複数の情報を組み合わせれば、個人の思想信条や健康状態まで把握でき、これではプライバシーはないに等しい。
6700万人を超す会員がいるポイントカード「Tカード」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブも令状なしで会員情報を提供していた企業の一つだ。各地の捜査当局から、大量かつ頻繁に照会が行われ、回答に1カ月以上かかる例があったほどだという。
さらに当局が、スマホゲームを運営する会社を通じ、衛星利用測位システム(GPS)機能を使って事件関係者の位置情報を取得した疑いも浮上。令状がないままGPSを取り付ける捜査は最高裁が違法と断じ、令状があっても問題がないとは言えないとしている。安易な照会や脱法的な手法が常態化している可能性が濃厚であり、実態について詳細な説明を求めたい。
過去には警察官が元交際相手の電話番号を調べるといった、事件と無関係の情報収集を行っていたことも発覚している。ずさんで不透明な運用や情報管理は国民への背信だ。捜査機関への信頼が失墜すれば、社会の協力も得られなくなると認識し、手法を改めなければならない。
提供する企業側にも大いに問題がある。照会は当局の要請にすぎず、必ずしも応じる必要はない。にもかかわらず、カードの利用規約や企業の個人情報保護指針に記載した「法令に基づく外部提供の可能性がある」といった一文を根拠に、勝手に提供することは許されない。大量の個人情報を扱う企業は、それを保護することで、国民が安心して暮らすための責任を負っていると自覚する必要がある。