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Tカード 個人情報の重大な侵害

 映画の好みや行きつけのレストラン。個人のそんな私生活が、本人の知らないところで捜査当局によってたやすく把握される状態になっている。プライバシー保護の観点から、到底許されるものではない。

 ポイントカード最大手の「Tカード」を展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が、会員の住所や商品購入のポイント履歴、レンタルDVDのタイトルといった情報を、裁判所の令状なしに警察など捜査当局に提供していることが分かった。

 会員規約は、当局への情報提供について明記していない。当局側も、Tカードによって個人情報を得たことが本人に知られないよう保秘を徹底していた。

 会員が納得した明確なルールもなく提供を続けるのは、重大な裏切り行為である。CCCは情報管理の在り方を見直すべきだ。

 Tカードの会員数は日本の人口の半数を超える約6700万人に上る。コンビニ、ドラッグストア、携帯電話など日常生活のあらゆる場面で利用されている。

 CCCは2003年、DVDや書籍を扱う「TSUTAYA」を中心にTカードの共通ポイント制度を開始。提携先を広げてきた。

 ポイントサービスは近年、顧客の利便性を高めようと共通化が進んだ。限られた業者が情報を握る傾向が強まっている。他のポイント制度にも同様の例はないか。各業者は、個人情報を預かる立場として責任を自覚してほしい。

 CCCは、捜査機関との協議を経て「開示が適切と判断された場合にのみ、必要な情報を提供すると決定した」としている。

 だが実態は、提供が日常化していたようだ。捜査関係者によると、一度に数十件の照会もあった。対象者が会員か分からなくても、氏名などで「取りあえず問い合わせる」こともできたという。

 裁判所の令状がなく企業などに任意で情報提供を求める「捜査関係事項照会」はいま、捜査当局にとって必要不可欠なツールになっている。検察が、情報を入手できる企業など計約290団体のリストをつくって内部で共有していることも明らかになっている。

 憲法は権力の乱用を防ぎプライバシーや財産権を守るため裁判所がチェックする令状主義を定めている。捜査当局が照会で私生活を網羅的に把握できるとすれば、その精神に反する恐れがある。

 企業が膨大な情報を保有する時代になったことを踏まえ、厳格なルールづくりを急ぐ必要がある。

(1月22日)

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