挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
アイドルだけど百合営業を勧められたら相方の女の子がガチで可愛かった件 作者:田中みずな
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
2/22

はじめまして私の恋人

「せんぱーい!!お説教終わりましたか?気晴らしにクレープ食べにいきましょう!!カロリーを、ライブで消費したカロリーを補充摂取するのです!!」


事務所を出た瞬間、飛びついてきた後輩が怪我をしないように丁寧にいなしてやる。

彼女は水上(みずかみ)綾香(あやか)、小さい身体にポニーテールというあざといコンビネーションで私達のグループのマスコットポジションを担っている最年少メンバーである。

同じグループに組まれた時から最年少ということで色々気に掛けていたらすっかりなつかれてしまった。

慕ってくれるのはありがたいが私の姿を見掛ける度にダイブするのは勘弁してほしい。そのうち腰がぎっくりしそうで怖いっす。


「アヤちゃん、私が事務所に呼ばれただけでお説教と決めつけるのはやめようか。私が問題児みたいじゃない」


「問題児でしょうがあんたは。振りに入ってない宙返りなんてかまされるあたし達の身にもなりなさいよ、パンツ見えてたわよ」


次いで声をかけてきたのは白鳥(しらとり)菜月(なつき)、お嬢様然とした名前とは裏腹にキックボクシングとアイドルを両立させている異色のメンバーである。ショートに切り揃えた髪とイケメン寄りな顔立ちのせいで多くの女性ファンを抱えている。


「ありゃ、ナツキも残っててくれたんだ?大丈夫、これは見えてもいい下着だから!!」


アヤちゃんの後ろで悪態をついてくるナツキに向かってスカートをめくりあげる。心配してくれるのはありがたいけど私はステージでは常に生パンの上にブルマ的なスコートを着けており死角はないのだ!!

だがそんな私の鉄壁のパンチラッキースケベ対策を否定するようにナツキは私に拳骨を振るう。痛い、解せぬ。


「あんたが気にしなくてもファンにとっては立派なパンチラでしょうが!!そんなんだからネットで蒼井夕陽はビッチ、なんて書き込みされるのよ!!」


「そうです!先輩のセクシーショットなんてアイドルオタ共にはもったいないです!!ああいうのは練習中にだけすればいいのです!!」


あ、やっぱりそういう書き込みされてるんだ?マネージャー♀に聞くまで知らなかったわ。て言うかアヤちゃんの言い分はアイドルとしてどうかと思う。練習中にアドリブとか意味わかんないし。


「まぁ、終わったことはいいじゃない、結果として盛り上がったんだから。ナツキもクレープ食べに行くでしょう?駅前に美味しい店が出来たらしいよ」


「あそこ味は評判いいけどカロリーが半端じゃないらしいわよ?あたしは減量中だから遠慮したいんだけど……」


「大丈夫です!!ナツキ先輩が残した分は私が食べます!!私いくら食べても太らないのですよ」


「せっかくだしナツキも来てよ。マネージャーに話されたこと相談もしたいしさ」


しぶるナツキをアヤちゃんと一緒に説得してライブの打ち上げに向かう。それにしてもアヤちゃんの発言って結構毒の含有率高いよね。減量中の相手にその言い方は結構リスクが高いと思うんだ。









「「百合営業??!!!」」


事務所での話を打ち明けたメンバーの反応は概ね予想通りだった。びっくりするかなぁと内心ワクワクしていたのでイタズラが成功したような妙な満足感がある。


「な、ななな、なんで先輩がそんなことしなきゃなんないんですか!!い、いい、意味わかんないです!!」


特にアヤちゃんの狼狽っぷりは見ていてなかなか面白い。普段はませた様子だがそこはメンバー最年少、やっぱりそういうことへの免疫は薄いんだろう。まぁ私も人のことは言えないが。


「アオイ………あんた現実に恋人が出来ないからって新メンバーを毒牙に………」


ナツキさん?私、業務命令だって言ったよね?その可哀想なものを見る眼をやめようか。


「そ、そそ、そんな!!せ、先輩の恋人が彼女でいいんならいつだって私が一肌脱いだのに!!ひどいです!裏切りです!!」


アヤちゃんもいい加減話を聞こうか?業務命令のイメージ戦略だって言ってるでしょうが。


「だから営業だってば、振り、お芝居。ちょっと密着して写真撮ったり休日にデートしたり手を繋いで歩いたりするだけ」


「つまり新メンバーはアヤの敵です!!」


「アヤちゃん話し聞いてた?!」


「百合アピールすると男性ファンも増えるけどコアな女性ファンも増えるからね。アヤちゃんであしらい方勉強しておきなよ」


九割が女性ファンなナツキらしい発言だけどヒートアップしてるアヤちゃんを宥めるのがめんどくさいだけでしょ。

ナツキが完食したクレープがバッチリ脂肪に還元されますように。










「はぁ、疲れた。今日は即効で眠りたい」


お姉さんを盗られたみたいな感覚なのか、あの後も栗鼠のように頬を膨らませぷりぷりと怒るアヤちゃんのご機嫌取りに終始することになった。

今度の休日に一緒に映画を見に行く約束を取り付けてようやく機嫌をなおしてくれたが、「早速二股……魔性の女」などと呟いたナツキは事態を面白がりすぎである。タンスの角に小指をぶつけろ。

ため息と共にドアノブに手を掛けるとガチリと施錠に弾かれる。


(あれ?私、鍵掛けずに外出したっけ?………ああ、新メンバーに合鍵渡したって言ってたね。もう到着してたんだ)


どうやら今日という日のイベントはまだまだ終わらないようだ。

締めなおしてしまった鍵を開けて深呼吸を一つ。


カチリと開いた扉の先には一人の少女が立っていた。


はじめまして私の恋人。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。