ここで言う旧製品とは、昭和40年をもって製造が中止された国産の三線式旧製品のことを主に指します。カツミ・エンドウ製品を代表格に、カワイ、つぼみ、酒井などの製品を使用する上で、役立つヒントや技法を順次お知らせしたいと思っております。


§1・コレクターについて

頻繁な交換が必要だった国産コレクター
コレクターとは皆さんご存知のとおり、サードレールから集電するための装置で、言うなれば直巻モーターと並ぶ、三線式車輌の象徴のようなものです。
現在目にする旧製品の多くはカツミ/エンドウ製ですから、それらを中心にお話しますが、そのほとんどは左の写真のような、昔の業者用語で「セミ」と呼ばれる、赤いファイバー板に取りつけられた、薄い銅版プレス製のコレクターと思ってよろしいでしょう。銅のコレクターは火花が出にくく、材質が軟らかいためレールを痛めないので、スライダーシュウ式の集電器としては適当なのですが、軟らかいことすなわち減りやすいのは当然で、板厚も薄いため運転数時間程度で穴があいてしまうのは避けられませんでした。

つまりこのコレクターは、例えて言えば自転車や自動車のタイヤといっしょで、恒久的に使用に耐えるものではなく、磨り減ったら交換するべき部品なのです。「もう製造中止から40年近く経つんだから、交換用のコレクターなんて手に入らないよ!」ハイ、ごもっともです。当店にもさすがに在庫はなくなりました。(業者さんから大量に出していただいて、皆さんに均等に行き渡るように、お買い上げ個数を制限させていただきましたが、短い命でやんした…。)しかし、昭和30年代の少年たちにとっても、理由をたがえているとは申せ、状況は近いものがあったようで。その磨耗したコレクターを復活させる、なんとも直截な解決法が、下にご紹介する「オムツをはかせる」であります。
(←磨耗したコレクターの例。左端はスゴイね。)
最初の写真のような一番安価なコレクターが昭和36年当時で一個¥15-ナリ、B電関を買い与えられた幸せな少年とは言え、彼らのお小遣いから出すには痛い出費です。ですから左の写真の如く、真鍮板をかぶせてハンダ付けしてしまう「オムツをはかせる」方法が盛んに行われました。さきほど例えとしてクルマのタイヤを挙げましたが、昔はパンクしたタイヤをごっそり交換するなどというもったいないことはせず、ゴム板を溶着させ、ツギを当てて使いつづけたそうです。正にそれと同様のテイストを感じますね。
お好みにもよると思いますが、穴のあいてしまった旧製品のコレクターを、当時の模型少年の気持を髣髴しながら、オムツをはかせてみるのもまた一興。個人的には、旧製品のコレクターは取り外して大事に保存していただき、ライオネルの丈夫
なローラーコレクターで安心して運転していただくのをお勧めいたしますが…。
【上手に使うコツ】コレクターの接触圧力は最初強めに調整しておき、前進・後進とも試運転してみて、車輪とレールの間に火花が出やすかったり、脱線しやすいときは徐々にスプリングを弱くして調整します。接触圧力は強いに越したことはないのですが、車体を持ち上げてしまうほど強いと運転に支障があるのは言うまでもありません。また北米製ローラーコレクターに換装した場合、ブリキ製の旧製品ガラレールと材質的に相性が合わず、増速時に火花が出やすい事例が報告されております。北米製コレクターは北米各社の線路でご使用されることをお勧めします。(ただし集電性能に問題はなく、さらにコレクターが耐久性に富んでいるため火花による腐食はほとんど見られませんでした。)
【おまけ】国産コレクターのほかの例2種。手前は「セミ」よりさらに略式のもので、燐青銅のバネの先端に真鍮のシューをリベット留めしてある通称「スプーン」。奥は高級品の真鍮製ローラーコレクター。ともに自動逆転器装備車用のダブルがありました。


§2・逆転スイッチについて

旧製品修理の要諦は逆転スイッチにあり!
台枠の下から突き出た白いレバーをチョッと押しやると、レバーが倒れた方向に電関がスルスルと動き出す…。この何とも味のある瞬間を楽しませてくれる「逆転スイッチ」も、コレクターと並ぶ旧製品の象徴と言ってよろしいでしょう。
赤いファイバーが印象的なこのスイッチは、鉄道模型だけでなく、船舶や自動車など、同時代のモーターライズ模型にも盛んに利用され、よほど沢山作られたのか、10年ほど前まで都内の模型屋さんでも普通に在庫していましたので、覚えておられる方も多いでしょう。
モーターへのツナギを一挙動で転換し、車輌の進行方向を換える重要なパーツではありますが、故障の原因としても、不名誉なことに最も多い部分で、店主の

経験では、お客様が「動かない」とお持ちになる旧製品の車輌の7割が、逆転スイッチの不調によるものでした。(上の写真は比較的末期の製品。レバーがベークライト製と白いファイバー製の2種類がありました。)


上の図に各部の名称と、分解して基盤とレバーの裏を見せたところを示します。
動かない車輌を調べてみて、モーターに故障がなく、配線も断線しておらず、ギヤの噛み合わせや車軸の回転も滑らかでしたら、逆転スイッチが不調である疑いが濃厚ですから、スイッチを車体から外して検分してみましょう。まずレバー取り付けナットを外して、レバーと基盤を分解します。この時、レバー圧着コイルバネを飛ばさないように気をつけて下さい。
最初に見るのは、レバーの円形部分にツメで留められた2枚のセグメントです。ツメがゆるんでいると、セグメントがレバーの回転に伴いズレて、接点と正しく接触しませんから、ヤットコの先でツメを軽く締め、さらに瞬間接着剤をセグメントとレバーの間に染み込ませ、しっかりと固定します。(セグメントの表面に接着剤が回らないよう注意)また、レバー取り付けボルトとその周囲に接するセグメントを軽くハンダづけして、導通を確実にします。ハンダは少量にとどめ、ボルトのネジ山が埋まってしまわないように注意しましょう。ハンダづけの後は、シンナー拭きしてフラックスを取り除いておかないと、真鍮部分が腐食してきますのでやはり注意しましょう。
基盤の裏側に出ている3つの接点(銅のリベットの頭)も、汚れていたらワイヤブラシなどで磨き、高さに差が出ているようでしたら、軽くやすってセグメントが正しく3つの接点に接触するようにしてやります。

最後に、表側にリベット留めされている3つのラグに、フラックスを塗ってリベットを覆うようにハンダを流します。この工程が一番大切で、リベットでかしめられているだけのラグは、古くなるとリベットとラグの間に酸化皮膜を生じるのか、非常に接触が悪くなる例が多いからです。念には念を入れて、この時一緒に、古くなったリード線を取り換えたり、ハンダづけをやり直しておくのが良いでしょう。古くなったリード線は、被覆が経年劣化で硬くなり、折れて中の銅線が剥き出しになったりするからです。重複しますが、フラックスはシンナー拭きするか、接点清浄剤スプレーでしっかり洗い流しておかないと、配線やスイッチの金属部分の腐食の原因となります。

【以下建造中】


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