監督がSNSを利用禁止にしようと考えてもおかしくはない状況ではあるものの…(写真:共同通信) © 東洋経済オンライン 監督がSNSを利用禁止にしようと考えてもおかしくはない状況ではあるものの…(写真:共同通信)

 読売ジャイアンツの原辰徳監督が所属選手たちに「SNSの利用禁止」を予告したという報道が、スポーツ関係者のみならず、ネット上に広く反響を呼んでいる。

 同監督が本当に自軍の選手関係者らにSNSの利用禁止を指示したかどうかは定かではない。だが、読売ジャイアンツは昨年、チームの若手選手が羽目を外しすぎた様子がSNS上に流出し話題を集めた。最終的に球団は、当該選手に対して謹慎処分を科しており、監督がSNSを利用禁止にしようと考えてもおかしくはない状況ではある。

 読売ジャイアンツに限らず、他球団でも選手のSNS上での発言が大きな波紋を呼ぶケースが起きている。たとえば2013年に、ある選手が「当時、女子高生が交際相手に殺害された」という事件について「自業自得」だという趣旨の発言をツイートしたことで、球団に対して抗議が殺到した。結果的に当該選手は自宅謹慎を命じられ、球団社長が公式サイト上で謝罪を行うという事態に発展した。

「SNS利用」に不慣れな日本の野球業界

 選手のSNS利用に関するトラブルは、こうした社会的に非難されるケースに限った話ではない。試合中に起こった故意であるか否かの際どいプレーに際し、マスコミに対しては「故意ではない」と説明していたにもかかわらず、SNS上ではファンに対して「故意にやった」とも取れる発言をし、炎上したケースもある。

 また、試合中の監督の采配について自分の意見を述べたことでチームや監督批判と取られて物議を醸し、結果的に自分の選手生命を縮めてしまう選手もいれば、戦力外通告を受けた直後、球団からの公式発表よりも先にSNS上で自らフライングする形で発表してしまうといったような、チームとしての機密事項や内部事情を表に出してしまう選手などもいる。

 さて、冒頭の報道に対するインターネット上の反応だが、「時代に逆行している」など非常に否定的な意見が多く飛び交っているのは想像に難くない。

 一方で海外の選手たちはSNSを通じて積極的に情報発信を行ったり、ファンとの距離を近づけたりしている。それはメジャーリーグベースボール(MLB)で活躍する日本人選手も同様だ。シカゴ・カブスに所属しているダルビッシュ有選手や、ニューヨーク・ヤンキースに所属している田中将大選手らが積極的にSNSを活用しているのは非常によく知られている。

もちろん日本にも、たとえば横浜DeNAベイスターズの山﨑康晃選手のようにSNSを積極的に活用し、ファンとのコミュニケーションを盛んに行っている選手はいる。だが、まだまだ少数派だと言っていいだろう。

「SNS利用」に積極的なアメリカの野球業界

MLBではリーグの公式アカウントがシーズン中のみならず、オフシーズンも含め日々多数のツイートを発信し、ファンとのコミュニケーションを積極的に行っている。それだけでなく、選手個人のツイッターアカウントをまとめたリストを作成して広く公開している。

 MLBに限らず、アメリカでは4大スポーツ(野球・バスケットボール・アメリカンフットボール・アイスホッケー)の全プロチームが比較的早くからSNS上に窓口を持ち、ファンとの関係性を強化させるために積極的な活用を行っている。これはヨーロッパのサッカーチームなどでも同様で、言ってみればリーグ全体でSNSを活用し、盛り上げていく土壌が作られている(ちなみに日本は、公式のSNSアカウントを開設していない球団も存在する)。

 海外の場合、リーグ、チーム、そして選手個人と、それぞれ盛んにSNSを活用しているが、もちろんトラブルがまったく起こらないわけではない。昨年の日米野球で来日したMLBオールスターチームのメンバーが、自身のインスタグラムのアカウントに対し、不適切とみられる投稿を行ったことで問題となったのは、まだ記憶に新しい。この一件では、選手個人に対する処分は科せられなかったが、選手だけではなくMLBジャパンの代表が公式の場で謝罪をするなど大きな波紋を呼んだ。

 アメリカの男子プロバスケットボールリーグ(NBA)はリーグだけではなく選手個人も積極的にSNSを活用していることで知られている。選手個人が自らの言葉で発信することでファンの支持を集めているが、時にはSNS上で選手同士の意見の対立が起こり、コート外での“場外乱闘”に発展するケースも決して少なくない。また、ほかのチームメンバーや監督の戦術などの批判を行い、罰金等の処分を受けることもある。

 だが、問題やトラブルは時折発生するものの、リーグやチームとしてSNSの利用を禁止するといったような動きに発展することはない。それは選手のSNSへの投稿によって起こる問題は、リーグやチームではなく、あくまでも基本的には選手個人の責任に帰する問題となるからだ。仮に自分の投稿によって、自らがファンからバッシングを受けようと、トラブルでチームやほかの選手などに損害を与えようと、その責任はすべて選手個人が負うこととなる。

 その結果、罰金や出場停止等のペナルティーを科せられたり、もしくはチームやスポンサーから契約を解除されたりしたとしても、それは選手が受け入れるべきであるといったことが選手自身にも、そして見ているファンにもきちんと浸透している。

「SNS利用禁止」からは何も生まれない

 海外のスポーツ選手は、こういったことを早い段階からさまざまな形で学んでいることが多い。たとえばアメリカの場合、カレッジスポーツなどがそうだ。選手はチームに所属する際に、飲酒や喫煙、ドラッグなどの禁止や、学業との両立(一定レベルの成績を下回ったら試合に出られないなど)といった、さまざまな事項が明確化された契約書にサインをする必要がある。

 その契約書に記載されていることを破れば、もちろん相応のペナルティーを科されることとなるし、場合によっては退部といった形で文字どおり選手生命が終わってしまうことも十分にありうるのだ。

 こういった環境を経ているため、選手もSNSの利用にあたって「自己責任」という点はつねに意識をしている。そのため少なくともチームの監督が選手のSNS利用を禁止するということは、そもそも起こりえない。

 日本の場合、環境と前提が異なるため、なかなか同じようにはできないと思う。しかし、SNSの使い方、向き合い方を、真剣に考える必要があるだろう。少なくとも禁止からは何も生まれないのだ。

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