魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
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この幹比古は雪花と出会ったことによって色々変わっています。深雪とも既に知り合っています。
ではまた後書きで。
「はぁ…」
放課後の教室にて吉田幹比古はある少女のことを思い出しため息を吐いた。
「何よミキ、ため息なんて吐いちゃって」
幼馴染みでありクラスメイトである千葉エリカの問いかけに一切の反応を見せずどこか遠くを見るような瞳で虚空を眺めながらまたため息を吐く。
「こりゃ重症だな、いつもなら突っ掛かるミキ呼びにも反応しねぇし」
「そうですね、吉田くんどうしちゃったんでしょうか?」
西条レオンハルトがお手上げとばかりに手を挙げながら言うと柴田美月も頷き賛同する。
「達也くん何か心当たりある?」
「ないな…いや、そういえば幹比古が珍しく深雪に何かを聞きに来たらしいぞ、わざわざA組までな」
エリカは今だ我関せずとばかりにいる達也にあまり期待せず訊ねるが予想外に得られた有力なもとい面白そうな情報に驚きの表情を見せるとやがてニヤニヤとした人の悪い笑みを浮かべる。
「お兄様お待たせ致しました…エリカ何かあったの?」
そこにちょうど良く深雪があらわれエリカは一も二もなく飛び付いた。物理的に。
「エリカ、深雪が混乱している」
「アハハハごめーん」
未だ状況の飲み込めていない様子の深雪に美月は現状を伝える。
「実は吉田くんが朝からちょっとおかしくて。何を聞いても上の空ですしため息ばかり吐いているんです」
「たしかにちょっとおかしいかもしれないわね」
相変わらずの様子の幹比古を見て深雪も心配そうに言う。
「ねぇねぇ達也くんから聞いたんだけどミキの奴がA組まで深雪になんか訊きに行ったんでしょ?それなんだったの?」
「なんだか良く分からない質問だったのよね。一年生の一科生で一人称が『ぼく』の女子生徒を知らないかって」
「なにそれ?」
不可解な質問に誰もが首を傾げる。
がその中で一人、美月だけが何かに気がついたのか顔を赤くしてモジモジし始めた。
「美月どうかした?」
一番近くにいた深雪が挙動不審な美月に問いかける。すると美月はおずおずと手を挙げて言う。
「あの、もしかして吉田くん……ただの恋煩いなんじゃ」
美月の言葉に残りの全員が顔を見合わせる。そして幹比古の顔を見る。
「…はぁ」
幹比古は憂鬱そうに今日何度目か分からないため息を吐いている。
「それだ!」
エリカの声が放課後の教室に響いた。
◆
幹比古がその少女と出会ったのは偶然だった。授業の実習であまり良い結果を出せずつい昔の僕ならと考えてしまい気がつけば古式魔法の本を片手に授業を抜け出していた。
軽く自己嫌悪に陥るものの授業に戻るような気分ではなかった。近くのベンチに腰を下ろし読み慣れた本を読む。もはや何度読み返したかも分からないその本は既にボロボロだった。幹比古にはそれが自分の努力の証のように思え買い換えることもせず何年も使っている。
幹比古は無心でページを捲る。内容なんて入ってはこなかった。ただ自分は努力しているんだとそう言い聞かせるためだけに読み進めていく。
そんな時だった。
「サボりかね?」
「うわわわ!?」
彼女が現れた。人形のようだと幹比古は思った。黒い髪は美しく白い肌をより際立たせ整った容姿はそれこそ優秀な人形師が何十年をかけて作り出したかのようだった。
名も知らぬ彼女との出会いは幹比古を変えた。
「努力が必ず報われるとは言わないよ。報われない努力もある。でも君は大丈夫だ。このぼくが保証しよう」
その言葉は幹比古にとって大きな励みとなった。心のどこかで考えていた努力をしたところで全盛期の神童と呼ばれていた自分には戻れないんじゃないかという諦め。実際努力しても家から見放され一校でも二科生だった。それが彼女に保証されると自分ならできるという気になってきたのだ。それは読み込んでボロボロになった本に努力の証を探し自分を鼓舞するだけでは得ることのできなかった自信だった。幹比古は彼女と出会い自分を信じられるようになった。
それからというものの幹比古は前にも増して努力した。すると不思議なことに彼を取り巻く環境はすぐに良くなった。まず友人が出来た。一校に入学して数ヶ月、誰一人として出来なかった友人があっさりと四人も増えた。そして一人、また一人と増えていく。幹比古は孤独ではなくなった。
そして家に居場所ができた。家族が幹比古の努力を分かってくれていることに気がついたのだ。今までの落ちぶれた自分を誤魔化すための努力しかしてこなかった自分には見えていなかっただけだったのだ。自分が見下され輪から外されていると勝手に思い込んでいただけなんだと。
そうして環境が変わると魔法も上達した。微々たるものではあったし全盛期には及ばないものの努力が形となって現れていることを知った。
本よりも確かな証がそこにはあった。
幹比古は彼女を探した。一言お礼を言って今の自分を見せたかった。しかし彼女は見つからなかった。発言から一年生であり制服から一科生であることが分かっていたためすぐに見つかると思っていた幹比古は思わぬ捜索の難航に普段であるならば絶対にしない行動に出る。一科生でA組の友人である司波深雪に訊ねに行ったのだ。しかしそこまでして尚彼女は見つからなかった。
まるであの日の出来事は夢か幻であったかのように。
やはり名前を聞いておけば良かった。そう思うとため息を吐かずにはいられない。
もう会えないのではないか?幹比古の脳裏に過るそんなネガティブな言葉とは裏腹に彼はもうすぐ彼女と再会することになる。正確には彼女であると勝手に思い込んでいる人ととであるが。
それは果たして幹比古にとって希望か絶望か。
もはや言うまでもないだろう。
幹比古は制服の肩についたマークを見て一科であることを確認した後は劣等感から制服には目を向けないようにしていたので勘違いしています。
さてこれで入学編は終わりです。いつもなら章終わりということで一日開けるところですが明日から九校戦編をスタートさせます。さらに九校戦初回は二話投稿します。いつも通り0時投稿です。