座談会『音楽会としての夢の島・小事変』
参加者:S.D. ( 日置寿士、木下正道)
ゲスト:堀池洋一
1999年11月吉日、日置寿士宅にて
なぜひとは夢の島・小事変へと駆け付けねばらないのか
日置「今日は1999年11月1日に我々が目の当たりにすることになった東京都夢の島における日本共産党主催の赤旗まつり会場周辺で起こったさる出来事についていくらか言葉を連ねてみようということで皆さんをこの座談会にお呼び立てしたわけです。まず先日は御苦労さまでした。当日の様子を録音してありますので、とりあえずそれを聴きながら対話を進めるのがよいかと思います。それにしても類い稀な大音量を享受することになりしたねえ」
木下「もちろん様々な変奏、ヴァリエーションがそのなかで演じられたわけですが、ひとことで言えばしゃべるバスがいたと。相手陣営を罵倒する激しい台詞の洪水の中で、みだりに車外へ出てその抗議行動を行う若手構成員に向けて『全員乗車!』とか『なんとか車両しゅっぱーつ!!』などと控えめに響く言葉が発せられたりしたことが印象に残っているんですよ」
堀池「あれはいんちき車両と聞こえますよ」
日置「そうですか。ちょっと聴いてみましょうか」
木下「ほんとにそう聞こえる」
堀池「いんちき車両と言っています」
木下「機動隊を暴力集団と呼び、日共を暴力革命集団と呼んだのはよかったな」
堀池「俺たちは喧嘩をしにきたんじゃないと」
木下「あれじゃあ喧嘩になると思うけどなあ」
日置「しかし自らの懸命の説得によってようやく全員をバスに乗り込ませて事態を収集したと誰もが思ったその直後に『国賊、日本共産党を、たーたきつぶせー』と言い放ったあのリーダーはすごい」
木下「お経あり、叫び声あり、歌ありといろとりどりあらゆるものがそろうこのショーを積極的に聴きにいこうとする人がいないのが不思議ですね。喧嘩もあるという」
日置「音も暴力でありうると抽象的に語る程度に意識的な音楽家というのはいまやどこにでもいるわけですが、実際に音が暴力として機能した現場というものが彼らには欠けている。この小事変に対して知らんぷりを決め込んで音を云々することは完全にマナー違反だと思う」
木下「『あなたのマナーが21世紀の日本を救う』って書いてあるバスも、来てましたね」
日置「ああありましたね。バスの上に大きく書いていた。目立ってたよね。あの言葉」
木下「あと我々が録音の小休止をとって、近くの吉野家で牛丼を食べているとき、突如現われた、これまた物凄い大音量でお経を流しながら爆走するバスは、やはり強烈な印象を残しました」
日置「牛丼屋の中にいた私服警察官みたいなのが、おっかない顔して睨んでましたね、バスの方」
木下「まあしかし、これだけ大きな音を聴ける機会はめったにないんだから、やはりとにかく聴いておこうと思わないといけないんですよ。赤旗まつりに来た人たちも能もなく耳をふさぐのはいけない」
日置「そう思います」
積極性は完全を超えるか
木下「人生に対してそれぐらい積極的であっていいと思うんです」
日置「日頃大音量主義を標榜している我々でさえそれがいくらかでも抽象的でありはしなかったかと反省を迫られているわけですからねえ」
木下「我々の演奏も『やめろ!!』とまでは言われないとしても耳をふさがれるほどには大音量でありたいと」
日置「何かさっき仰ったことと矛盾しているようだけど。しかしひとつとして『なんだいまのは小さい音だったじゃないか』というような音はなかったですね」
木下「ふとひとりの街宣者の口をついて出た『共産党はいけない』。あれぐらいですかね」
日置「あの事変は一言で言えば『共産党はいけない』ということに尽きていますものね。・・・・(音源を聴きながら)この辺りから大分言葉遣いが乱暴になってきてますね」
木下「やはりやらせじゃないってのはすごいですよね。この積極性には圧倒されます」
日置「P.A.を使用した大音量による『4分33秒・完全バージョン』を我々は持っているわけですが(1999年9月23日に明大前キッドアイラックホールにて開催された『Hopscoych vol.2』の中で上演されたS.D./『大音量主義的なものとは?』のなかで初演)、この小事変の現場をロケ地にしてレコーディングをすれば、『4分33秒の積極的バージョン』とでもいうべきものを制作できると思いますよ」
\×?※☆●∋◇&→┯仝⊇〆∬¶♂!!!
日置「そしてついにこの音響の登場ですね」
木下「なんなんだろ、これは。これはいったい・・・」
日置「街宣車が、どうして純粋音響を発するのかなあ」
木下「このシャアアアアーというホワイトノイズだけは、永遠のなぞです」
日置「ほとんどヒットアンドアウエーで、まぼろしのように現われて消えましたね」
木下「シャアアアーっていうのは、怒っているんだということなのかなあ」
日置「いやもうこれはもう、我々の想像をはるかに超えて自覚的な音楽家がそこに出現したのだと考えるのでなければ辻褄が合わないと思う。さっと現われて、すっと消えたのも、それこそ考え抜かれた戦略的なものですよ」
木下「来年はこの音が町中のトレンドだ、なんてことになったら、それこそ戦術の成功ですよね」
日置「たしかに、いい音なんだよなあ。ドカーンとか、ゴオーッとかじゃないんだ。シャアアアーッっていうセンスはすごい」
共産主義陣営の反撃
日置「では、いまひとつのクライマックスを聴いてみましょう。そうこうするうちついに赤旗まつり参加者が相手陣営に対しひとつ、ふたつと罵倒し返し始めたわけです。それに対する民族主義陣営の台詞がすごい。『なんだこのやろう!』。これも純粋音響に等しいですね、『なんだこのやろう!』。あと、『このやろう、共産党!!』というのもありました。党に向かって言ったという。これらの台詞からは徹底して抽象的であろうとする強い意志のようなものを感じずにはいられません」
木下「そしてこのあと起きたことには笑いました」
堀池「僕はこのとき少し離れた場所にいたんですよ」
木下「会場から駅へ向かう人々が、駅へ向かうにも、しゃべるバスが前でとおせんぼしているものだから道にあふれたんです。それを整理しようとして赤旗まつり側の交通整理要員が同僚に指示を出したんですよ。『イソガイさん、イソガイさん、音出して』」
日置「音はもういいはずなのに」
木下「我々のすぐ後方にいたそのイソガイさんは混雑する歩行者の群れを誘導すべく同僚から促されたわけです。そこであらかじめ手にしていた拡声器の電源を入れたところ--------」
日置「もうだめだ」
木下「そこからぴぃぃぃー、ひょぉおーーーというハウリング音が-------(音源が再生される)」
堀池「これは・・・ホーミーですね」
日置「巻上公一なんかがやっているホーミーです」
木下「我々はまさに右から左から音を聴くことになったのです」
日置「この後すぐ冒頭で話したような両陣営による小競り合いが起こるわけなんですが、どうもイソガイさんの音響がそれを用意したとしか思えない。民族主義陣営は共産主義陣営が音響を発することだけは我慢がならなかった」
木下「民族主義陣営にとってあの音が自覚的な音であるとは到底聴こえなかったんでしょう。あんなものは粉砕すべき小音量主義であると」
日置「あの日に起こった出来事の圧倒的な事実性は、もちろん安易で円滑な憶測を許さない。自覚的であることが少しでも足らないのであれば、我々は決まって敗北するほかはないであろう。ただひとつだけはっきりいえることは、シャアアアアーッという音を出したあの街宣車は・・・」
木下「・・・もうすでにはるか遠くへ行ってしまっている、ということですね」
日置「今日は本当にありがとうございました」
堀池「ありがとうございました」
木下「ありがとうございました」