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対応不十分、遠い合意 松阪の風力発電施設計画

山裾から眺めた白猪山=松阪市飯南町深野で

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 松阪市の飯南地域などにまたがる白猪山(しらいさん)(八一九メートル)で、東京都の発電会社「リニューアブル・ジャパン」の子会社「松阪飯南ウィンドファーム」が計画している風力発電施設。最大二万五千二百キロワットを出力する計画だが、地元住民からは建設を不安視する声が上がっており、住民合意は得られていない。

 「住民の水を守る気持ちがない」「建設に都合の良いデータばかり説明している」。県が十一日に飯南町横野で開いた同社の風力発電環境影響評価(アセスメント)準備書に対する住民の意見を聴く会。五十人以上が傍聴する中、十二人が意見陳述し、会社への不信感をあらわにする声や計画に反対する声が上がった。

 伊勢三山の一つである白猪山は市中部にある。環境省の絶滅危惧種に指定されているクマタカの飛行が確認され、阪内川の源流部にもなっている。地下水が豊富で飲み水としても利用されている。山裾には市特産の伊勢茶の茶畑が広がる。

 その山頂付近では安定した風が吹き、十年前から複数の事業者による建設構想が持ち上がってきた。

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 今回の計画では、羽根の回転時の直径が百三メートルの風力発電機八基を、尾根の東西約三キロに設置。二〇一九年十月に着工し、二三年六月の運用開始を見込む。他にも周辺では「くにうみアセットマネジメント」(東京都)が風車を七~八基設置し、最大二万二千~二万二千八百キロワットを出力する風力発電を計画している。

 東日本大震災以降、再生可能エネルギーへの関心は飛躍的に高まった。一二年に再生エネルギーで発電された電気を国の決めた固定価格で電力会社が買い取る制度も始まり、全国で太陽光や風力による発電が広がった。一方、各地で事業者と地域の間で開発に伴う問題が起こっている。

 松阪もそうだ。計画地一帯は険しい地形で雨量が多く、過去に土砂災害が発生している。開発による地下水の流れや山川の生態系、環境への影響、騒音を懸念する声が住民に根強い。計画が国に出された翌年の一六年、二千人を超える反対署名が集まった。一七年には地元自治会長らが出した建設に反対する請願が市議会で全会一致で採択。当初、施設は市有地の一部にかかっており、市は住民同意がなければ土地を貸さない方針も打ち出した。

 事態に同社側も計画を修正した。準備書では風車の数を十二基から八基に減らして騒音や景観への影響に配慮し、土砂災害リスクの低減を図ったと記した。風車の配置も尾根の南側から北側に動かし、風車の一部は市有地から外れた。

 ただ、竹上真人市長は昨年末、知事に出した準備書に対する意見で「地域住民の合意が得られているとは言えない状況にある」とし、丁寧な事業説明や環境保全を改めて求めている。

 反対請願の発起人で、意見聴取会に出席した飯南町下仁柿の樋口喜一郎さん(72)は「請願の可決を受け、わずかに計画地をずらしただけで、土砂災害の心配に答えていない。にもかかわらず準備書を出すことに憤りさえ感じる」と話す。

 リニュアーブル・ジャパンは取材に「計画を不安視する声は重く受け止めている。地域の理解を得られるよう説明を真摯(しんし)に進めていく」と文書で回答した。

 市環境影響評価委の委員長で、三重大人文学部の朴恵淑教授は再生エネルギーの広がりに「重要だが完全にリスクのない発電源はなく、社会全体でどう折り合いを付けるのか考える必要がある」と指摘。その上で今回の計画に「事業者による調査は不十分な点が多く、産業や文化といった地域特性の理解も不足していた。コミュニケーションが足らず、地域との信頼関係も築けていない」と話した。

 今後、準備書への知事意見が国に出される。

 (古檜山祥伍)

 

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