島根県西部・浜田市に住む島根県立大学1年生の平岡都さん(当時19歳)がアルバイトからの帰宅途中に消えた。それから半月後の'09年11月。浜田市から25㎞南に離れた広島県北広島町の山中で、バラバラになった彼女の遺体が発見された。
この事件で注目されたのは平岡さんの見るも無残な遺体だった。顔面にまで残る凄絶な暴行の痕に、内臓が抉りだされた腹部—。
稀にみる残虐極まりない事件。当初は警察も早期解決を見込んでいたという。事件の取材を続けてきた地方紙記者はこう語る。
「平岡さんが行方不明になった浜田市は人口約6万人の小さな町。彼女の交友関係も絞られるため、犯人の特定は時間の問題だと考えたのでしょう」
しかし警察の思惑とは裏腹に、次々と浮かぶ容疑者たちから決定的な確証をつかめずにいた。そうして1年が経とうとしていた矢先、捜査線上にある男が浮上したのだ。
「事件発生時、浜田市から遺体発見現場の臥龍山に向かう国道の通過車両を調べた警察は、黒のワンボックスカーに注目したのです。同時期に平岡さんのストーカーとみられる男が特定され、彼もまた同色同型の車を所有していたため、この『黒い車の男』に焦点が絞り込まれたのです」(前出の地方紙記者)
ところが、この捜査も結局警察の勘違いに終わってしまう。犯人が乗っていたとみられる自動車が、最近になって別物だということが分かったのだ。警察の捜査が大きく転換した時を平岡さんの同級生はこう振り返る。
「5年前に事情聴取を受けた時は黒のワンボックスについて詳しく聞かれたんです。けれど、今になって再び捜査員がやって来て、今度は白のセダンについて熱心に聞いてきました」
警察の捜査対象が「黒い車の男」から「白いセダンの男」へ—捜査が迷走していることをうかがわせる証言だ。
その一方で、平岡さんに近しい人たちの間では、事件の真犯人に関する噂が今でも絶えない。
「この町は人もそれほど多くはないから、平岡さんを無理やり車に連れ込もうとすれば、目立って何らかの痕跡が残るはずなのに、いまだ犯人が見つからない。もしかしたら平岡さんを襲った犯人はごく身近な人物で、今もこの町で普通に暮らしているのではと思うと、不安で仕方ありません」(前出の同級生)
平岡さんは裏表のない性格で同性より異性の友達が多かった。しかしその性格ゆえに、辛辣な意見を言って時に人の恨みを買うこともあったという。仲が良かった男友達が、彼女の何気ない一言で豹変し、猟奇的な殺人に走ったのではないかという噂が周囲では囁かれている。
平岡さんが通っていた大学の敷地内には、両親が寄贈したオリーブの木が彼女の慰霊碑のそばに植えられ、捜査の行方を見守るように佇んでいる。