LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり
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第四十六話 極大魔法

ラキュース達が転移した後に、残されたラナーとイビルアイ。

 

最初に口火を切ったのはラナーだった。

 

「さて……、何から話しましょうか、と言いたいところですけど、ゆっくりしている時間は無いですね。イビルアイさん。残ってくれたお礼に、あなたの質問に一つだけ正直に答えましょう。そして、その後…‥、私からも一つ質問をさせて頂きます」

 

「……いいだろう」

 

二人の間に僅かに沈黙の時が流れる。

 

しかし、イビルアイは直ぐに質問すべきことを決定し、口を開いた。 

 

「その杖はどこから手に入れた? リ・エスティーゼ王国から離反する際に、国庫から相当な財貨を持ち出したようだが、その一部という訳ではあるまい。蘇生魔法……少なくとも第五位階以上の魔法が込められた短杖など、間違いなく国宝扱いになろうが、そんな至宝が王国に存在し、持ち出されたという噂は聞いていないからな。 そして、杖をリィジー殿に使うときも少し惜しがる素振りを見せただけで、あまり躊躇せずに使用した。

優秀とは言え、一介の薬師である彼女に、な。 

それは、もしも短杖を消費しても再入手の当てがあるから……そうだろう?」

 

言い訳の芽を埋めながら、少しづつ核心に近づいていくようなイビルアイの言葉を聞いたラナーは……、思わず笑ってしまった。

 

「ふふふ。イビルアイさん、質問には正直に答えると言ったでしょう。そんな探りを入れるようなことをしなくても直球で聞いてくれればいいんですよ。恐らくあなたの推測通り……、入手源はぷれいやーです」

 

あっけらかんと質問に答えたラナーが話した、ぷれいやー、という言葉にイビルアイは仮面の下で表情を険しくした。

 

二百年前、様々な種族の英雄と共に世界を旅したイビルアイは、ぷれいやーの持つ危険性を十分に理解している。

 

個人の意思で、世界を救い、あるいは滅ぼすという逸脱者。

ラナーは、そのぷれいやーと繋がりがある、とたった今明言したのだ。

 

「どういうことだ? ……まさか新王国にはぷれいやーが居るのか? 急に王国から独立したのも、それが要因……」

 

続けてラナーを問い詰めようとするイビルアイの目の前に、ラナーは掌を突きつけた。

 

「もう質問一つは終わりました。 次は私が質問する番ですよ。 ただおまけとして一つ付け足して置きますが、そのぷれいやーは人類の味方です。 ……恐らく今まで現れたぷれいやーの誰よりも、ね。 まあ、イビルアイさんについてはどう思うか分かりませんが……」

 

「どういう、ことだ?」

 

ラナーは顔に貼り付けた笑みを深くして、イビルアイに自分の質問を突きつけた。

 

「あなた……人間では無いでしょう?」

 

「………」

 

イビルアイから返って来たのは沈黙。

 

この質問が来ること自体は、イビルアイは薄々予感していた。

 

常に顔を隠し、子供のような体を持つ冒険者……、こんな存在はラナーで無くとも怪しいと思うだろう。

そして、もしかしたら、人間では無いのではないか、と思うこともあるかも知れない。

 

だが相手はぷれいやーと繋がりのある存在。

イビルアイは、正直に答えるべきか、それとも誤魔化すべきか、と悩んだ。

 

それを見たラナーは、口を開く。

 

「私が正直に答えたのですから、イビルアイさんも、そうして頂かないと……。 ふふ、私もイビルアイさんの真似でもしてみましょうか。 まず、あなたは十三英雄のリグリット殿と面識があったらしいですし、第五位階のマジックキャスターでもある。 つまり見た目以上に年上の可能性が高いですよね。 体自体は人間との違いは見当たりませんから、亜人種ではない。 人間と似た姿をしており、しかも長命な他種族として、エルフが思いつきますけど……仮面で覆われていないイビルアイさんの耳は人間のもの。何らかの魔法で人間に変身している……というのもなさそうです。 だってそんな魔法が使えるなら仮面をつける必要はありませんし」

 

そして、ラナーは遂に核心を突く言葉を告げる。

 

「外見上は人間と同じ体を持つが、顔だけは人ならざる特徴を持つ……、私の知識で思いつく種族は一つだけです。……ヴァンパイア。 それがあなたの正体では?」

 

「まさか、僅かな手がかりからそこまでたどり着くとはな……推測の通りだ」

 

ラナーの宣告に、イビルアイは誤魔化すことを諦め、仮面を外す。

 

現れた顔には、ヴァンパイアの証である、縦に割れた真紅の瞳孔が輝いていた。

 

「それで……、どうする? 私の正体は蒼の薔薇のメンバーと限られた者達しか知らないが……、もしこのことが世間に知られれば、流石に冒険者として活動することは出来なくなるな。 もっとも、そんなことをしても、あなたには何の得もあるまいが」

 

「ええ、その通りです。私はただ知りたかっただけ……、詳しいお話は今はお聞きしませんよ。 そしてイビルアイさんに力を貸して欲しいと言ったのは、方便などではない真実です。 ンフィーレアという青年を助ける為に、ね」

 

イビルアイの顔に初めて驚愕の色が浮かぶ。

ラナーが、この悪魔で溢れかえる、エ・ランテルから一人の青年を助け出すと本気で言っているとは思っていなかったからだ。

 

ラナーの言葉は、自分と二人きりになるための方便。 イビルアイは、今までそう考えていた。

 

「本気か? まだ、薬師としても半人前のひよっこ一人を助けて何の得がある? それに、このエ・ランテルはもう終わった街だ。 将軍の転移魔法をもってしても、大した人数は救えまい。 ………酷な話だが、この街は運が悪かったと思って諦めるべきだな」

 

イビルアイの言葉にラナーは俯き、押し黙る。

 

もしかして、ショックを受けているのか? あまり感情に流されるタイプではないと思っていたが……と思いながらイビルアイが声を掛けようとしたとき、ラナーは急に顔を上げる。

 

そこにあったのは悲しみなどではなく、満面の笑みだった。

 

「素晴らしいです! その合理的な判断と、取捨選択の思い切りの良さ………、私が求めていた人材です。……でもあなたは一つ勘違いをしている。私も、もうエ・ランテルを救うのは無理だと思います。……しかし、ンフィーレアという青年のタレントには、底知れない価値が秘められているかも知れない。だから彼だけは何とか確保したいのです。 ………その為にはアンデッドのマジックキャスターの協力が必要でした。あなたを含めて二人。 体勢は整いましたね」

 

「二人? それはどういうことだ?」

 

ラナーは、ダンタリオンの指輪を再び胸の前に掲げた。

 

「見たほうが早いと思います……《七星転送方陣(ダンテ・アルタイス)》」

 

宙に再び魔法陣が展開される。

 

そして数秒後……、魔法陣の中から黒く萎びた手が突き出してきた。

 

イビルアイは、そこから漂う気配を感じ取る。

 

「なっ……、こ、これはアンデッド!?」

 

やがて、黒い手の持ち主がその全貌を魔法陣から現した。

 

漆黒のローブに身を包み、手には大きな宝石があしらわれた指輪や腕輪をつけている。

 

そして、その顔は骨に乾燥した皮だけが張り付いた生者ならざるもの。

空洞となっている眼窩には、二つの赤い光が怪しく揺らめいていた。

 

「ま、まさか………エルダーリッチ!」

 

御伽話にも語られる、高度な知能を持つアンデッド、エルダーリッチ。

生まれた時から、常人には到底手の届かない領域、第四位階魔法を使う恐るべきマジックキャスターであり、その知能故に、時にはアンデッドとしての本能を抑え、人間と取引をすることもある異質なアンデッドだ。

 

「ふん……、場違いな小娘がいるから一体何者だと思ったがヴァンパイアか。 将軍よ、こんなところに呼び出して……、一体どんな状況だ?」

 

「まあ、詳しく話せば長くなるけど……時間がないから要件を手短に。 今事情があって、このエ・ランテルは悪魔に襲われてるの。 で、都市の中にンフィーレアという重要な人物がいるみたいなんだけど、出来れば回収したいのです。 それで……、一度都市の人間を皆殺しにして、ンフィーレアだけを手元で蘇生させようと思って」

 

ラナーの口から飛び出した話にイビルアイは理解が追いつかない。

都市の人間を皆殺し? 手元で蘇生? この女は何を話しているのだろうか。

 

だが、そうしている間にも、二人は話を進める。

 

「ほう……、随分大掛かりなことをやるのだな。 ……しかし悪魔か。 どれほどの強さの者かは分からぬが、貴様の力をもってしても倒せない程のものなのか?」

 

「幸い、今この近くにはいないみたいだけど……少なくとも数千体の悪魔がいるらしいわ。 例え強力な相手でも少数なら、倒せるけど……、こんなに大勢だと都市を巻き込まずにどうにかするのは無理ね。 それに今回の件には、前に話したぷれいやーが絡んでいるかも知れない。 そうなれば、魔神の力でも敵わないでしょうし……」

 

そこまで話して、やっと何とか状況を飲み込んだイビルアイが口を挟んできていた。

 

「ちょ、ちょっと待て。 そのエルダーリッチのことも気になるが、それは置いておいて……この街の人間を皆殺しにするとはどういう意味だ?」

 

「どうって……そのままの意味ですよ? この街は私の魔法で滅ぼします。 さっき、あなたも言っていたじゃ無いですか。 この街は終わった街だって。 どうせ助からないなら……悪魔に惨殺されるより、ひと思いに滅ぼされた方が、この街の市民にとってもいいでしょう」

 

「いや、確かにそう言ったが……、だからと言って………」

 

確かにイビルアイは、この街を見捨てる決断を既にしていた。

しかし……、見殺しにするのと、自分で殺すことは、結果は同じでも大きな差がある。

 

見殺しは、ただ目の前の脅威から逃げるだけでいいが、人を殺すには、殺人により自分に降りかかる罪悪感や葛藤と向き合う覚悟が必要なのだから。

 

その一線は常人には、まともな精神状態では越えられない。

 

イビルアイも二百年以上の時を生きてきて、時には自分が生き残る為に、人を殺めたことはあるが、何の罪もない数千人の人間を……少なくとも、自分の意思で殺したことはなかった。

 

だが、ラナーはその一線を目の前であっさりと踏み越えた。

 

特に葛藤も逡巡も無く。 ただ必要だから、とでも言うように。

 

化け物、と心の中でイビルアイは呟いた。

 

彼女は、今初めて目の前の麗人の正体を理解したのだ。

 

「まさか、今更引き下がりはしませんよね。 ……大事な秘密を共有した仲ですもの、ね」

 

ラナーは、イビルアイの背中を押すように呟く。

それだけでイビルアイは、彼女が何を言いたいのかを察した。

 

確かに、もしイビルアイが吸血鬼だと市民に知られれば、蒼の薔薇は必ず非難の的になる。

 

ラナーとの取引により手に入れた新王国での生活も全てが水泡に帰してしまうかも知れない。

 

ならば……、最早イビルアイに選択肢は残されていなかった。

 

「いいだろう……今回だけはお前の話に乗ってやる。 だが、その情報だけで私を縛れるとは思わないことだ」

 

「何の情報のことを言っているのかは分かりませんが……、まあ、私も程度というものは心得ています。 無茶なことは言いませんよ」

 

ラナーはイビルアイの承諾に心の中でほくそ笑む。

 

これまでのイビルアイを見てきたラナーの推測では、イビルアイはラキュース達とは違い、かなり厳しい判断を出来る。 

例え自分の判断で人を大勢殺すという選択に躊躇したとしても、少しの圧力と、仲間の為という言い訳を与えてやれば、そのまま流されてくれる……そのラナーの判断は当たっていた。

 

「だが、どうするつもりだ? この都市がどれだけ広いと思っている。 城壁の直径は、少なくとも二キロメートル以上はあるし……、どんな魔法を使おうと、都市内の人間を皆殺しにするなどということは………」

 

それこそ神話に語られるような大魔法を行使しなければ不可能だろう。

もしかして、このラナー将軍は、ぷれいやーからその魔法さえも提供されているというのか。

 

しかし、そのイビルアイの予想は裏切られた。

 

「出来ます。 魔神使いが契約した魔神毎に一つだけ使える最強の魔法……極大魔法なら。 デイバーノック、今回はダンタリオンを使うわ。 あれは発動後、三分間は私もこの都市から出られなくなるから、その間に予想される悪魔からの攻撃に耐える必要がある。 デイバーノックとイビルアイさんはその間、炎の魔法で私を回復して」

 

「ダンタリオン……、だからアンデッドである私を呼んだのか」

 

「炎の魔法で? ……どういうことだ?」

 

デイバーノックは納得したように頷き、イビルアイは攻撃魔法である炎の魔法を使い回復する、という言葉に違和感を覚える。

 

「……説明している時間がありません。 とにかくデイバーノックに合わせてください。 さあ、まずはンフィーレアさんの体の一部……髪の毛を探しましょう」

 

そして、ラナー達は素早く薬品店の中に散らばり、ンフィーレアのものらしい部屋を見つける。

 

そこはベッドと、薬品の調合方が記されているらしい多数のノートが入った本棚がある殺風景な部屋だった。

ノートの表紙に記されたンフィーレアの名前を確認した後、床やベッドを探し、数本の髪の毛を採取する。

 

「では髪の毛は三人で分けて持っていましょう。 ……私だけが持っていると戦闘中に無くしてしまうかも知れませんから」

 

「ああ……、しかし将軍。 私もそうだが……、そこのヴァンパイアの小娘も、例え、どれほど力を持っていようと、真っ当な方法では数千体の悪魔とは戦えまい。 直接、悪魔と戦うことはしないから、そのつもりでいろ」

 

「分かっているわ。 ……初めから、それは期待していない。 あなた達には魔力の補給を手伝ってもらえば、それでいいの」

 

髪の毛を、三人がそれぞれ所持したのを確認したラナーは、静かに詠唱を始めた。

 

『英知と冷徹の精霊よ……汝に命ず。

我が身に纏え、我が身に宿れ……我を大いなる魔神と化せ、ダンタリオン!!』

 

ラナーの体を眩い光が包み、瞬時に四散する。

 

その中から現れたラナーは、直前とは見違える程の変化を遂げていた。

 

短めに切り揃えられていた筈の黄金の髪は、腰辺りまで、長くしなやかに伸びており、その髪をかき分け、両耳のあたりからねじ曲がった角が上を向いて生えている。

 

体はところどころに鈴のあしらわれた黄金の鎧で包まれており、鎧の上から巻かれた大きな腰布は、夜の闇を凝縮したような漆黒。 その中に星の如き光点が無数に輝いていた。

 

「これが……魔神使い」

 

噂には聞いていたが、実際に見るのはイビルアイにとってこれが初めてだった。

 

その身から溢れ出す力と、あまりの美しさに暫し呆然とする。

 

「さて……極大魔法の発動まで、敵に邪魔されなければ良いのだけれど……」

 

ラナーは、右手をバレアレ薬品店の天井……、その先にある空に向けるように高く掲げた。

 

『星見の賢女紡ぐ、星霜の揺り篭に眠れ………《千星天葬包陣(ダンテ・イステル・セルティバーハ)》』

 

ラナー達のいる上空。

地上の惨劇など知らぬかのようにエ・ランテルを照らす太陽の下に、巨大な八芒星が描かれた。

 

 

 

 

 

 

 






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