生活保護申請却下処分取消等請求事件Add Star


主文

1 東京都千代田区が平成30年2月26日付けでした生活保護申請却下処分を取り消す。
2 千代田区原告に対し、生活保護を開始せよ。

理由

1 事案の概要

 本件は、原告が平成30年2月19日に、千代田区内でホームレス状態にあったときにした生活保護申請に対して、平成30年2月26日付けで、保護申請却下の処分をしたことに対し、原告東京都に不服審査をしたところ、処分を追認する裁決があったので、裁判所に対し、保護申請却下処分の取り消しを請求している事件である。

2 当裁判所の判断

 千代田区および東京都は、原告生活保護申請をした時点では、原告東京都に居たものの、調査の結果、住民票が宮崎県延岡市にあること、所持している健康保険証が父親の扶養によるものであること、父親に電話連絡したところ、旅行に出ているだけなので早く帰らせるように取り計らいたい旨の要請があったこと、などを総合考慮し、健全な社会通念に照らし、原告の当時の世帯は宮崎県延岡市にあり、居住地も同所にあるとして、生活保護法19条1項1号に規定する保護の実施責任が千代田区にはなかったとして、生活保護申請却下処分をしたという。
 しかしながら、千代田区は、原告が平成29年7月5日に、文京区福祉事務所において、生活保護申請をした結果、同区において、住居のない単身世帯であるものの、所持金が最低生活費を超えていたことを主な理由として、生活保護申請が却下されたことを、原告が提出した通知書のコピーにより、2月19日時点で知っていたはずであること、また、被告千代田区は、原告に対し、平成29年3月22日付けで、路上生活者として緊急一時保護をしていることが認められる。このように、被告は、区として一時、原告路上生活者と認定し、しかも平成29年7月に別の区において原告が都内の単身世帯であることが認められたことを知りながら、単に住民票等が宮崎県延岡市にあったことや、数度にわたり区役所に対して、親と仲が極めて悪いため東京に出てきているといった事情を聴いていながら、平成30年2月19日時点では、原告は単なる旅行者であって居住地宮崎県延岡市にあるとしたのは、にわかに首肯し難い。
 また、被告は健全な社会通念に従って、1年前からの諸般の事情があるにしても、2月19日時点での申請に関しては、旅行者がしたものにすぎないから被告には保護の実施責任がないと主張するのであるが、被告が言うところの健全な社会通念なるものがいかなるものか、また、そのようなものが果たして現在の社会に共有されているのか頗る怪しいし、少なくとも、被告が考えているような意味での健全な社会通念なるものは現在では法律を解釈する上で採用できないし、実際に社会に共有されている社会通念により判断すれば、原告は、一度千代田区路上生活者と認定されており、平成29年7月には文京区で都内の単身者と認定され、平成30年2月19日に生活保護申請をしたのも、明らかにその続きのことであると解されることからすると、2月19日時点での原告の実質的な居住地は、宮崎県延岡市ではなく、千代田区内にあったと認めるのが相当であり、すなわち、原告は、生活保護法19条1項1号にいう「その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者」であったのであるから、その居住地宮崎県延岡市であると認定し、法19条1項により保護を実施しなかったのは、事実認定を誤った違法があると言わざるを得ない。
 よって、被告が平成30年2月26日付けでした生活保護申請却下処分は違法なものであるからこれを取り消すこととし、更に、原告は平成29年7月に文京区において、単に所持金が保護の要否判定計算式の結果、最低生活費を超えていたことを主な理由として生活保護申請が却下されており、生活保護申請を却下する理由としては、それ以外にはなく、今回の申請時のおいては、明らかに所持金が最低生活費を下回っていたことは明らかであるから、それ以外の事項に関する被告における調査は必要なく、原告に対する生活保護の開始を被告に命じるのが相当である。よって、主文のとおり判決する。
 

コメント
2件
トラックバック
0件
ブックマーク
0 users
xedamame0
xedamame0

全国各地の裁判所および最高裁判所で出された判決を掲載するサイトです。

2019年春「はてなダイアリー」終了に伴う「はてなブログ」への統合スケジュールのお知らせ