平成30年(行ヒ)第491号、障害基礎年金等級変更処分取消請求事件に対する上告受理事件 平成30年12月26日 最高裁第2小法廷判決Add Star



         主       文

         本件上告を棄却する。

         理       由

1 本件上告の趣意
 
上告人は、原審は、上告人が当初は形式的で悪質な判断をして、被上告人に対する障害基礎年金等級の変更処分をしたから、被上告人の病状の実態を見た上でした原審に対する控訴は、信義則に反するもので違法であるとして棄却しているが、上告人は、実際には被上告人に意図的に不利益処分をして悪戯をする目的で等級変更処分をしたわけではなく、実は、仮に障害基礎年金の等級が2級となって被上告人が受給できる年金額が月額8万1千円から月額6万4千円に減額となったにしても、この減少分は生活保護費により補われ、確かに2級になると生活保護障害加算が2万6千円から1万7千円に減るが、被上告人が今回の等級変更処分で被る実際の損益は、障害基礎年金の減額によるものではなく、主として生活保護制度における障害加算の減少額である9千円であり、被上告人の具体的な生活に鑑みて、被上告人が福祉事務所から受け取る生活保護費が9千円減るだけでさして大きな損害がないから、確かに被上告人が今回の処分で9千円の減額という痛手を被るものの、例えば生活保護自体の停止など、被上告人を著しい困惑に陥れる程度の嫌がらせではないから悪質ではないし、また、2級16号への変更処分に付してある理由自体は形式的なものであるが、これは単に年金機構の事務処理上、実質的理由は把握してあるが、これを一々記載するのが面倒であったため、形式的な記載にしただけで、実質的な等級変更理由としては、被上告人がかかっている東京都板橋区常盤台所在飯沼病院で精神科を担当している杉浦麻里子医師(なお現在では同病院を退職)が、被上告人について、以前被上告人の主治医であった宮崎県延岡市にある野田クリニックの野田省治医師が書いたもので、被上告人が飯沼病院に提出した診療情報提供書の内容を踏まえた上で、年金機構に提出する診断書を平成30年7月に作成した時点では、被上告人が、従前は母親と同居していたが、現在では東京都板橋区生活保護を受け、単身生活をしており、身辺のことが一応自分でできていることや、診断書に、アスペルガー障害ではなく、アスペルガーの疑いがあるということと、病名を、広汎性発達障害に変更して記載してあったことその他数点の事項を総合考慮して、障害等級のガイドラインに当てはめ、被上告人については、平成30年11月時点では知的障害が治癒していることと、仮に知的障害があっても、その程度がガイドラインの平均点において3.2であり、1級には相当しない他、母親の介護を必要としない生活に移行しているように見受けられたので、これを総合判断し、1級10号から2級16号に形式的に変更したことと、実質的には、年金機構の審査員の判断において、被上告人は、延岡市に居た従前と比べ、既に数学検定1級や、数学の学習指導塾の活動を取りやめており、公務所に行って支離滅裂な言動や行動をしておらず、自力で東京に来た上、平成30年2月から3月にかけて、神田ネットカフェポパイ宿泊するなどの生活に移行し、2月20日頃には千代田区福祉事務所に対して路上生活者として生活保護申請をしていること、2月中旬には、父親に管理されていた自己の障害年金にかかる年金手帳を取り戻すために、千代田年金事務所を見つけ出して年金手帳の交付を受けていること、一応文京区福祉事務所に行って生活保護申請をしたが断られた形跡があること、父親が持っている年金が振り込まれる通帳のカードに利用停止を図るため、ゆうちょ銀行コールセンターに電話し、カード発行の停止手続をして父親年金を引き出せないように工夫したこと、3月からは、インターネットカフェで、文京区千駄木レンタルルーム「eルーム」を発見し、2月に振り込まれた年金16万円を利用して、同レンタルルームに62000円を支払って、同所で一か月自分で生活したこと、その間に、母親から、自分のマイナンバーカード千駄木4丁目郵便局に送付してもらったこと、同所滞在中に、インターネットシェアハウス掲示板で、生活保護が利用可能なシェアハウス板橋区で見つけ、3月28日に、レンタルルーム自主退去し、その足で板橋区前野町に赴き、同シェアハウスを管理していた富澤佳代子とルームシェア契約を締結し、年金を利用して初月家賃38000円を支払って住居を確保した後、即座に板橋区役所に、マイナンバーカードによる住民票の取得に赴き、翌29日には西台にある志村福祉事務所に行って生活保護申請をし、所定の形式的な手続きを全て自力でやり終えて、4月5日に、同所ケースワーカーである第6係の木田が福祉事務所長大澤宣仁に図って生活保護が開始され、それ以降は、福祉事務所から振り込まれる生活保護費で順風満帆に暮らしており、もはや従前のような社会的絶望感や反社会的行動は消滅しているから、被上告人に対して、1級10号の恩典を与える必要がなく、2級16号に降格しても、分相応であると判断し、平成30年7月から11月までの4か月にかけて、被上告人を十分に調査し、審理した上での決定であるから、相当であるなどと主張する。

2 当裁判所の判断

 確かに、被上告人は、平成30年2月10日まで、延岡市で家庭教師業務をおこなっており、とりわけ数学の指導に取り組んでいたが、2月12日の上京以降は、母親の介護なしで自力で生活をした上、最終的には板橋区で単身生活にこぎつけ、平成30年7月段階では、生活保護費により、板橋区で自力での生活が可能となっており、このように、他人の介護がなくても生活できるようになった被上告人に対して、もはや精神障害1級者扱いする必要がないこと、実質的には、年金の診断書が提出された平成30年7月から11月にかけて、年金機構審査員は、何も考えなかったわけではなく、上告趣意に述べる被上告人の平成30年2月から4月における自力の活動という実態をも踏まえつつ、単にこれに言及しなかっただけで、実質的には被上告人がもはや精神障害1級相当の者ではないことを理解した上で、2級16号に降格させたというのも、理解できないではない。
 しかしながら、一審判決が指摘するとおり、確かに被上告人は、平成30年2月から4月にかけて、諸般の知的活動を行って自力で板橋区に住まいを見つけ、生活保護で単身生活にこぎつけているものの、4月中旬頃に、居住のシェアハウスの隣室の者の生活騒音に発狂して、夜中に目が覚め、「うるせえんだよ、ぶっ殺すぞコラ」と叫んでしまったことと、被上告人が当該生活騒音が東京都条例に違反すると考え、志村警察署の警察官を呼んで指導してもらった件で、オーナーである富澤佳代子との間で「隣の子が、あなたのことが怖くて怯えている」「警察呼ぶなら出て行ってくんない?」などと言われ、いかんともし難いトラブルに陥って、これを収拾するのに被上告人において著しい困苦があったこと、この件の始末をつけるために、富澤との間で電話でのやり取りを行い、一時は、「もうあなたをこの家に住ませることはできないから今月末で出て行ってちょうだい」などと言われるなど、実質的に生活に基礎が奪われる危険な状態に陥ったこと、そして、いわれがないのに形式な謝罪を重ねてギリギリのところで同ハウスで生活をさせてもらえるところまで富澤を説得し、部屋もより家賃の高い206号室に変更してもらったこと、4月23日に、富澤と再度契約を取り交わし、部屋と家賃が変わったために福祉事務所の木田ケースワーカーに連絡して、家賃扶助の変更をしてもらったこと、206号室に転居した後も、5,6月頃に、205号室の者が立てる生活騒音があまりにうるさいために、同様の発狂をした件で、富澤から注意のメールが来たこと、また、6月頃にまたも志村警察署の警察官を呼んで、居住している者とのいかんともし難いトラブルがあり、この時にも、オーナーの富澤から、「また警察呼んだよね?もう出て行ってくんない?」などといった電話が入り、被上告人との意思疎通がこじれたことから、富澤の父親であり、実際に同所を管理していた者が電話に出て「お前さっさと出て行けや。出て行かんのやったら俺が実際にお前の部屋に行って追い出すぞ」「もう絶対に警察は呼ばないな?約束だな?男同士の約束だぞ」などといったやり取りがあり、実際に、同シェアハウスのオーナーである富澤佳代子およびその父親にも精神疾患があって、発狂しており、被上告人と意思疎通ができず、支離滅裂で住居を失う危険な状態に陥った時期があったことも認められる。
 また、平成30年11月6日には、4月に入居したときから、ゴキブリホイホイを設置してそのカラの箱を捨てていなかった件で、同ハウス209号室に住む篠原直樹と口論があり、この件を被上告人が富澤にメールで苦情を言った件で、篠原が徐々に被上告人に対して反感を持つようになり、5月頃に、篠原が被上告人の部屋である206号室にゴキブリホイホイを投げつけてくるなど、篠原と被上告人の関係は次第に悪化し、平成30年11月6日午後3時ごろ、被上告人が洗濯をするために共同ベランダに出ていたところ、篠原が遂に業を煮やし、ドアの開け方がうるさかったなどといった口実をつけて、共同べランダで被上告人を突き飛ばし、その着衣を損壊した上、「お前は気持ち悪い」「このシェアハウスの全員から嫌われている」「何でキッチンにゴミを放置していたんだ」「蕎麦を食ったらそのカスくらい自分で片付けろや」「ぶっ飛ばすぞ」「さっさと出て行けよ」などといった、暴行、器物損壊、侮辱、脅迫行為を行われたこと、この件で、被上告人は、前野町交番の警察官に110番をしたものの、警察官が形式的にしか仕事をせず、その後も何度も通報をしたものの、志村警察署の者が仕事をしなかったため、現行犯ないし通常逮捕には至らず、被上告人が犯罪被害を受けたにもかかわらず現在でも司法救済を受けていないか、もしくは、前野町交番巡査から捜査中との電話を受けただけで、捜査は何ら進展していない等の各事実が認められる。
 これらの事情を考慮すると、被上告人は、必ずしも4月5日以降の単身生活によって順風満帆生活段階に移行したとはいえず、居住するシェアハウスの多数の者とトラブルを起こしたり、オーナーである富澤佳代子およびその父と、いかんともし難い一触即発のトラブルで住まいを奪われる危機に何度も直面している実態があり、11月段階でも、同居人から重大な犯罪行為を行われるなどして、現在でも社会的コミュニケーション能力や、危険な者に対する対処能力は発達していないことと、一審が認定しているとおり、被上告人の社会的絶望感や他人に対する憎悪や不信感、嫌悪感は消滅しているどころか、日に日にその程度を増しており、また、一日の活動範囲も、概ね居室に限られていて、三日に一回の買い物以外は外出しておらず、仮に外出するとしても、福祉事務所に用事があるか、裁判所に書類を提出するため、都営三田線で西台や日比谷までいくことがたまにあるのみで、4月から12月にかけて、ほとんどの日は、部屋で寝ているか、ツイッターで細々と愚痴を垂れ流しているだけであって、幸福感をもって街歩したり、社会に興味を示し、色々な施設を利用するといった活動は何ら行っている実態がなく、現在でも社会や他人に絶望し、被上告人が若かった頃が楽しかったのに比較して、現在の生活があまりに不幸であるため、東大法学部法曹会会長に毎日のように電話をし、「何もいいことがない」「ろくなことがない」「何で東大法学部を出たのに災難ばかりに遭うのか」等々といった諸般の愚痴をこぼしており、被上告人の精神状態が、現時点においては極めて重傷で更に悪化しており、その他、原審が認定した諸事実をも踏まえると、被上告人に関しては、現在でも重度の精神障害があって、社会的関心がなく、食事内容もバラエティに欠け、基礎代謝を維持できる程度の物しか食べておらず、美味しいものを食べようという気力もないこと、日中は大体午後3時までベッドで寝ており、杉並区に住んでいて被上告人が懇意にしているツイッターの「ぷちくらちゃん」と、東京の隅の方に住んでいて東大教養学部理1に合格したことが分かっている「ざんぎょうちゃん」のことばかり思っており、その他、イオンスタイルなどですれ違う小さなかわいい子が好きであると述べていることや、それ以外のことは何も考えておらず、就労を行うことも極めて困難で、特に既に35歳となっており、高齢化に対する激しいコンプレックスや、平成26年まで2年4月、刑務所に収容されていたことから来る拘禁精神障害が依然として残留していることが綯い交ぜとなって、アンチエイジングのために、一日60分の激しいジョギングを、平成26年からの4年間、雨が降る日も関係なく、ほぼ一日も欠かさずに実行している結果、精神面の悪化に比して体年齢は20歳を維持しており、これを敢行するだけの激しい狂気だけは持ち合わせているといった実態を踏まえると、平成30年7月から11月までの間、仮に日本年金機構が被上告人について、十分な実態調査をしたとしても、なお、年金機構の審査員は、被上告人の精神状態について、評価を誤っているというほかなく、被上告人の精神障害が2級相当になっているとの審査員の判断には過誤があると言わねばならない。
 他方、国民年金法の趣旨は、毫も厚生労働省といったお上が特定の人に対して恩恵的に金銭を給付するといったものではなく、飽くまで一定のガイドラインないし基準に即して、精神障害の実態が存する者に対して、その生活危機に瀕して憲法25条が規定する生存権が損なわれることがないよう、公共の福祉事務として実施されているものであるところ、これを被上告人についてみると、一審および二審が認定した被上告人のこれまでの人生の経緯も踏まえつつ、現在の生活実態の内容も詳細に検討すれば、単に他者からの介護を要しないで生活できているという外観を有するだけで、実態としては、深刻な精神障害、社会的適応能力の欠如、法や社会制度に対する著しい興味関心のなさと、数学など必ずしも社会とは相容れない抽象的な自然科学などへの激しい関心(平成30年10月に高田馬場にある栄光ゼミナールの校舎に数学の講師として採用してもらえるよう、面接に行っていることなどから推察される)を見てとることができ、依然として実態としては高度の精神障害を認めることができるのであって、上記法の趣旨からすれば、厚生労働大臣が被上告人に対してその生活待遇が向上していることを理由に、1級の恩典を与える必要はないとした実質的判断は理由がなく、法の規定に従えば、被上告人は、まさに精神障害1級10号に該当する程度の精神心理状態の持ち主であることを優に認めることができるから、被上告人の生活待遇が向上していることを実質的理由としてした等級変更処分には理由がない上に、法の趣旨に照らせば、上述のような態様の生活をしている被上告人に関して言えば、精神障害1級10号の場合に当たると認めるのが相当である。
 よって、仮に年金機構の審査員が被上告人の生活実態を詳細に調査した上で2級16号に等級変更したとしても、なお、審査員は、被上告人の障害の程度につき、その認定を誤ったというべく、1審および2審の判断は、相当であると認められ、上告人の上告趣意には、理由がない。
 したがって、本件上告には理由がないから、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三浦 守 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸 裁判官 菅野博之)

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