放送内容

北川悦吏子からゼフィレッリ監督へ

TITLE

北川悦吏子からゼフィレッリ監督へ

DATE

2019.01.18

COUNTRY

イタリア/ローマ

ゼフィレッリ監督へ。

多分、それは昔の話です。
あなたにとっても、50年も前の話です。

私があなたの撮った「ロミオとジュリエット」に出逢ったのは、14歳の時です。

物語は、時を越えます。
あの映画は、私の中で生き続けました。
そして、今なお、憧れは止まず。

50年前にあなたが、上がったり下りたりした
石の暗い階段を
私は、今日、降りました。
そして、バルコニーに出ました。
ロミオが駆け上がった、石畳の階段を見つけました。
涙が出ました。

私は、50年前に思いを馳せます。
ここで、「ロミオとジュリエット」を撮っていた、あなたと、
役者たちと、その撮影クルー。
ここで、にぎにぎしく、撮影が行われたのですね。

14歳の時に、ロミオとジュリエットを見た私は(それは、公開時ではありません。遅れて見る機会を得ました)、
その虜となり、部屋にポスターを貼りました。
その世界から抜け出すことが出来なくなりました。

少女の頃、私は、薬科大学に行って、薬剤師になろうとしていました。
母の教えです。
女も手に職をつけろ、と。

しかし、何をどう間違ったか、
私は、今、ドラマを書いたり、映画を撮ったり、物語を作る仕事をしています。
デビューしてもう、25年になりました。私なりに、頑張っています。

私は、主にラブストーリーを得意とする作家と言われています。
そして私の書く物語のそこかしこに、ゼフィレッリ監督の「ロミオとジュリエット」が色濃く、反映しています。
手紙の悲しい行き違い。(余談ですが、シェイクスピアの原作にある、神父の手紙がロミオに渡らなかった部分が、ロミオの使いが、神父の使いを追い越し、そして、またその帰り、あのロバが水を飲んでいて、行き違った、としたエピソードの差し替えは、お見事!と唸りました!あそこが、大好きです)。
バルコニーでの会話。
最後のふたりの、顔を互い違いに寄せた死のカット。
さまざまに形を変えて。
私が物語を書き続ける限り、オマージュが続きます。
私のラブストーリーの源がここにあるので。
14歳の憧れは永遠です。

物語は、時を越え、距離を超えるのだ、と
あのバルコニーのシーンが撮られた場所から、遠い日本の方角を向いてしばらく佇んで、私は思いました。
神様ではなく、人が作った永遠です。
それが、フランコゼフィレッリ監督の「ロミオとジュエット」でした。

どうぞ、お身体を大事になさってください。
安らかな時間が多いことを祈ります。

突然の、お手紙失礼しました。
50年遅れの、ファンレターでした。

2018年 12月6日

北川悦吏子。

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