訳者あとがき
この書物は、Geschichte und Klassenbewusstsein. Der Malik Verlag. 1923. のなかにある論文 Klassenbewusstsein. の翻訳である。この論文をはじめ、ルカーチの社会科学論については「解説」でのべるとして、ここではこの飜訳のなりたちだけにふれることとしたい。
この翻訳は、訳者が昨年十月ごろから、出口ゼミナールの学生有志諸君を中心としてルカーチ研究会をもっているなかですすめられた。われわれは『階級意識論』を済ませてから、Die Verdinglichung und das Bewusstsein des Proletariats という論文をも読んだ。はじめは、この二つの論文を合せて公にする予定であったが、訳者の仕事上の都合で、先ず本論文だけを切りはなして出版することとした。後者についても、できるだけ早い機会に完成したいと思っている。
ルカーチの恩恕は、本文をお読み下さればすぐおわかりになると思うか、きわめて深くかつ宏いものである。ことに、弁証法的方法で全文が貫ぬかれており、いたるところにこれが展開されている。そのために、訳者はまず、ルカーチの深い思想に迫ることに難関を見いだした。この困難さのうえに、さらに語学上のいろいろな問題にぶつかった。これは原文が後期のもののように素直ではないためである。こうしていたるところで難関につきあたり、そのたびごとにいろいろと討議を重ねて、仕事は思うように進まなかった。訳者の思考度の不徹底さと語学力の貧しさが、この仕事をより以上に困難にさせたことは、いうまでもない。だが、こうした欠陥があったけれども、なんらかの恰好をつけることができた。というのは、この訳文を仕上げるにあたっては、出口男蔵先生・田中真晴氏それに山口和男氏が目を通され、原文にあたっていろいろ注意していただいた。ことに出口先生は細部にわたって、訳者の欠点を修正された。この拙い訳かいくらかでも正確で読みやすくなっているなら、これらのひとびとの御好意のおかげである。厚く御礼を申し上げさせていただきたい。だが、訳文についての責任は、もちろん訳者にある。訳者の貧しい語学力をもってしては、まだまだ原文の意をとりちがえたり、あるいは充分にその意をつたえていたいことがあるだろう。この点については読者の親切な御叱責をお願いしたい。
出口先生には、そのほかに出版についての御配慮をたまわった。また、西谷能雄氏にはいろいろ訳者の無理をきいていただいた。最後になったが、感謝の意を表させていただきたい。
一九五五年九月一〇日
京都にて
平井俊彦