LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり
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第三十五話 残ったものは

モモンガは、第九階層の私室の中にある巨大なベッドに仰向けになり、ぼんやりと天蓋を眺めている。

 

一人になってから、色々なことを考えた。

 

自分のこと、ギルドメンバーのこと、ナザリック地下大墳墓のこと、スレイン法国のこと。

 

これから自分とナザリックのNPC達は、スレイン法国との戦いに入るだろう。

例え、向こうに責任があろうが、不幸なすれ違いの結果だろうが、自国の首都を襲撃された上に、大勢の民を殺され、黙っている者などいるはずがない。

 

もし、アインズ・ウール・ゴウンと彼の国が戦争になれば、双方に大勢の犠牲が出るだろう―――。

 

「どうして俺が、アインズ・ウール・ゴウンを守らなきゃならないんだっけ」

 

ほぼ無意識の内に、モモンガの口から言葉が漏れた。

 

自分以外の誰に聞かれるでもなく、宙に溶けたその言葉をモモンガはもう一度反芻する。

 

(俺がアインズ・ウール・ゴウンを守っていたのは、ギルドメンバーの為……、いつか彼らがまた戻ってくる……心の中では、その望みは薄いと分かっていたが……、その為に彼らの居場所を守りたかった。 だけど、この世界で、これ以上アインズ・ウール・ゴウンを守ろうとすると、大勢の人を殺さなくてはならないのか)

 

少し前までのモモンガであれば、何の躊躇いも無く……むしろ怒りのままに率先して人間を殺していたかもしれない。 だが、スレイン法国で何故か人間だったころと同じ感情を取り戻してからは、そのような行動を取ろうとしていた自分には恐怖しか感じない。

 

(それに人を殺し、国を滅ぼし、このギルドを守ったとして、仲間がそれを喜ぶ筈もない……。 そうだ、俺にとってはユグドラシルは全てだったけど、仲間にとっては……いや、本当は俺にとっても所詮はゲーム。 自分が作ったものが多くの人間を苦しめ、死なせてしまったと知って喜ぶ人なんて誰もいないよな。 そんなことにも気付けなくなっていたんだ、俺は)

 

仲間はこれ以上、ナザリックがこの世界に影響を与えることなど望まないだろう。

自分がナザリックを守りたいと願っていたのは、仲間がそれを望んでいると信じていたから。 だが、その過ちに気がついてしまった今は、その目的意識もすとんと消えてしまった。

 

誰にも望まれず、自分も望まず。

 

これから、何をするべきなのかも分からない。

 

モモンガはかつての仲間達との記憶に縋るように手を虚空に伸ばし、やがて、崩れるように手を降ろした。

 

「もう、終わっていたのか。 俺の夢は……、ユグドラシルの最後の瞬間に」

 

自分とギルドメンバーが愛していたものは、あくまでもゲームの中のアインズ・ウール・ゴウン。

 

現実へとなってしまったそれは、最早別物。 ゲーム時代の名残を残すだけの……残骸とでも言うべきものか。

 

ユグドラシルの思い出に縋りつき、その残骸を守るためならば手段を選ばない恐ろしいアンデッド。

そういうものに自分はなってしまったのだ。

 

「怖いな」

 

誰も頼るものなどいない。

自分を崇めるシモベ達も、今では仲間と共に作った外装や設定を被っているだけの何かとしか思えない。

 

仲間もシモベも、モモンガは心の中にあった全ての希望を失ってしまっていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「何度言ったら理解するのですか、シャルティア! 私に従いなさい、モモンガを殺しに行きますよ」

 

「え、いや、でもモモンガ様は……。 でも、デミウルゴス、いやデミウルゴス様に従って‥…、でもどうして」

 

「ちっ!」

 

デミウルゴスは、ギルドマスターとしての権限を掌握した後。

逃がしてしまえば後の面倒を引き起こすであろうモモンガを始末する為に、階層守護者の中でも戦闘力において最強の存在であるシャルティアを引き入れに第一階層を訪れていた。

 

しかし、シャルティアと会ったデミウルゴスは直ぐに落胆する。

 

急に自分の主がデミウルゴスに変わったことに対して、シャルティアは完全に混乱していたのだ。

 

もっとも、これはデミウルゴスのミスという訳ではない。

 

これがゲーム時代であれば、簒奪の薔薇を使いギルドマスターとしての権限を手に入れた後は、直ぐにギルドのNPCを自在に動かすことが出来たが、現実世界へと移りNPCが自分の意思で行動することができるようになったことが思わぬ作用をもたらしていた。

 

自分の記憶では、自分達を作った至高の四十一人の一人であり、ギルドマスターである、モモンガに逆らう事など許されない。

 

しかし、何故か今はモモンガへの忠誠心が急に失われ、デミウルゴスに従うべきだという衝動が芽生えている。

 

現実化に伴い、NPCに自己決定能力が芽生えたことで、よくも悪くも彼らは機械的には動かなくなった。

それがこの混乱を引き起こしているのだ。

 

(恐らくこの混乱は一時的、現在のギルドマスター権限がこちらにある以上、時間をかければシモベ達の完全な掌握も出来るでしょうが……今はまずい。 無理にモモンガ討伐に参加させれば、思いもよらない行動を取らないとも限りませんね)

 

やはり、自分とルベドで行くしかないか。

 

既に薔薇の発動から三分が経過しようとしている。

 

これ以上、時間をかければマスター権限が剥奪されたことに気がつき、向こうから手を打ってこないとも限らない。

 

「本当に、ままなりませんね……。 まあいい。 狭い室内戦で、ワールドアイテムも所持しているルベドとの戦い。 負ける要素は……0です」

 

デミウルゴスはルベドを伴い、モモンガの寝室へと移動した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

「そうか……」

 

突如部屋に転移してきたデミウルゴスから、ギルドマスターとしての権限を剥奪されたことを伝えられたモモンガは、自分でも意外な程に落ち着いていた。

 

「それ程驚かないのですね?」

 

「いや……驚いているさ」

 

確かに、頭ではこの異常事態に驚愕している。

しかしシモベへの、かつての仲間達の子供に対するような親近感はまやかしだと気がついてしまった今では、その驚愕が心にまで伝わりにくくなっているのだろう。

 

「お前たち、シモベの忠誠は絶対だと思っていたのだが……なぜ裏切る気になった? 

デミウルゴス」

 

「何故? 何故ってそれは……私が悪魔だからです」

 

「どういうことだ?」

 

モモンガは、デミウルゴスの言い放った抽象的な言葉の真意を尋ねた。

 

「まあ、もはや時間は私の敵ではない。 教えて差し上げましょう。 ……全てのきっかけは私がダンジョンに引きずり込まれたあの後、気がついた時には赤い星へと続く、光の通路を飛んでいたのです」

 

その後のデミウルゴスの話はこうだ。

 

光の通路を通っている途中、突如として巨大な手の中に包み込まれるような感触を味わった。

 

そして頭の中に声が響く。

 

『お前には洗脳の痕跡がある。 無理やり意思を書き換えられ死地へと送り込まれた、哀れな者よ。 お前の洗脳を解除し、どこか遠い地へと逃がしてやろう』

 

直後、視界が光に包まれ、再び意識を取り戻した時にはスレイン法国の首都に佇んでいたというのだ。

 

「あの後、私は気がついたのですよ。 己が本当になすべきことを。 それはナザリックのシモベとしてあなたが世界を支配する手助けをすることではない。 むしろこの世界の全ての生命を、苦痛と怨嗟の内に滅ぼさなければならないのです。 ……私がこれを実行に移そうとすれば、必ずあなたと対立する。 ですから……排除させて頂きました」

 

「では、スレイン法国の件はやはり……」

 

モモンガの心の中が罪悪感で満ちていく。

あの国はデミウルゴスのせいで一方的に襲撃され……あまつさえ、自分の手により滅ぼされようとしていたのだ。

 

「だが……、だが何故全ての生命を滅ぼす必要があるのだ? そんなことをしてお前に何の得がある」

 

モモンガの言葉にデミウルゴスは、呆れたように肩をすくめる。

 

「必要? 得? ……私はウルベルト様に、全ての生命に滅びをもたらす絶対悪であれと作られた。 だからその願いを果たす為にはどんなことでもする。 それが私の存在意義で……あなたの友であったウルベルト様の意思でもあるのですよ?」

 

「なっ、ち、違う。 ウルベルトさんはそんなことを望んでは「黙れ」……」

 

デミウルゴスの全身から殺気が放たれ、表情は怒りに満ちている。 

 

モモンガは、デミウルゴスの逆鱗に触れてしまったのだと悟った。

 

 

「ウ、ウルベルト様が私に託した願いを否定したなぁぁァ! 巫山戯るな、ゴミがぁぁ! 

き、貴様に、かの偉大なる御方の御心が理解できると一片でも思った私が愚かだった……。 

ルベド、モモンガを殺せ!」

 

「了解しました」

 

「うっ……」

 

モモンガはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの発動を試みるが、転移はしない。

 

恐らくはデミウルゴスのスキルによる転移阻害が張られているのだろう。

 

(まあ、いいか。 もしここから逃げられて……デミウルゴスからギルドマスターの権限を取り返すことが出来たとしてどうするというんだ。 もう仲間に望まれていないものを守る為に大勢の人を殺すのか? ……このまま無意味に流される続けるよりも、いっそのことここで……)

 

だが、モモンガが諦めかけ、大人しくルベドの手にかかろうとしたとき、部屋の扉が勢いよく弾け飛び、黒い影が飛び込んできてルベドを吹き飛ばした。

 

「なっ、あなたは……」

 

デミウルゴスが、焦りの声を漏らす。

 

そこに居たのは、悪魔めいた全身鎧を纏った、ナザリックの守護者統括アルベドだった。

 

「デミウルゴス、あなた……何をしているか分かっているの!? モモンガ様を手にかけようとするなど……その大罪、万死に値するわ!」

 

「あ、あなたこそ、このナザリックの頂点である私に向かい……」

 

そこまで言ってデミウルゴスの目は、アルベドが持つギンヌンガガプに吸い寄せられた。

 

「……成程。 ワールドアイテム所持者はワールドアイテムの影響を受けない。 簒奪の薔薇にも同じことが言える訳ですか……だが、あなた一人が加わったところで形勢は変わりませんよ、ルベド、ターゲットにアルベドを追加しなさい」

 

「はい、了解しました」

 

部屋の壁際にあるクローゼットへと叩きつけられ、残骸の中に埋まっていたルベドは、勢いよく木片を飛散させながら立ち上がる。

 

その姿に、殆どダメージの痕跡は見られなかった。

 

「どうです? ルベドの防御は例えたっち・みーであっても易々とは損傷を与えられないレベル。 それに加え、現在はワールドアイテムも所持しています。 あなたのギンヌンガガプの効果を発動しても意味がありませんよ」

 

ルベドが、周囲が振動する程の強さで床を踏み込み、一直線でアルベドへ向かう……かと思われたその時。

 

急にルベドの動きが止まった。

 

「な、何が起こって……」

 

呆気に取られるデミウルゴスの前で、ルベドの身体から白い煙のような物が抜け出していく。

 

その煙はモモンガの目の前で見覚えのある、人型の姿を取った。

 

「ベ、ベルリバーさん?」

 

ゴースト系の種族をとっていたプレイヤーであり、ナザリックの中でも頭脳派のメンバー。

 

ぷにっと萌えとはよく戦略談義をしていたことをモモンガはよく覚えていた。

 

「い、いえ。 違います。 この気配はナザリックのシモベのもの……」

 

アルベドの声に、ベルリバーの姿をとっていた何者かは答える。

 

「それは後です。 あなたが守護者統括殿ですね? 今の内に、ギンヌンガガプを」

 

よく見ると、目の前の者の両手にはルベドが装備していた筈のワールドアイテムが装備されている。

 

ならば、今ルベドは……。

 

アルベドにより解き放たれた力は、未だ硬直状態にあったルベドに襲いかかる。

 

その衝撃は、私室の壁を打ち抜き、ルベドをその向こうに続く廊下まで吹き飛ばした。

 

 

「あの自動人形は、改良の余地が大いにありますね。 宝物殿からずっと憑依していた私に何の対策もしなかったのですから」

 

「宝物殿、だと? お、お前はまさか……」

 

「パ、パンドラズアクターか!?」

 

モモンガの口をついて出た言葉に、ベルリバーの姿を取ったパンドラズアクターは頷いた。

 

「ええ、宝物殿であまりにも傷を負いすぎたせいで、あなたがギルドを乗っ取ることを止める事は叶いませんでしたが……モモンガ様の御命だけは……私が守ります」

 

たっち・みーの姿を取ったパンドラは、ルベドに蹂躙されながらも、あるスキルを発動した。

 

昆虫系の種族が習得する、そのスキルの名は"擬死"。

 

一時的に身体の生命活動を極限まで低下させ、生命感知の魔法すらも誤魔化すこのスキルによって、ルベドは誤った死亡判定を出してしまう。

 

やがてパンドラは一瞬の隙を突き、スキルを解除した後、ゴースト系の種族であるベルリバーに変身しルベドに憑依したのだ。

 

とはいえ、憑依状態になったことは当人であれば直ぐに分かることであり、ルベドがデミウルゴスに報告すれば、簡単な方法で解除できただろう。

 

だがあいにく、その時にデミウルゴスが命じていたことは"ついてこい"という命令のみ。

 

その命令の遂行には特に問題が無いために、ルベドはデミウルゴスに自分の状態を報告してはいなかった。

 

 

……ベルリバーのスキルには憑依状態から発動するものもあるが、強力なスキルになるほど、憑依から一定時間が経過していることが条件になっている場合が多い。

 

デミウルゴスがギルドを乗っ取った際は、その条件を満たしておらず、憑依を解除しても無駄死には確実だった上、異空間に隔離されてしまった為、止めることが出来なかった。

 

……しかし、ワールドアイテムを装備したルベドに憑依していたおかげでパンドラズアクターも、簒奪の薔薇の影響下から抜けることが出来たのだが。

 

その後、モモンガに危機が迫るまさにこの時、ベルリバーの憑依スキルの発動条件が満たされたのだ。

 

スキルにより、ルベドのワールドアイテムを奪い、更に硬直状態にすることでアルベドのギンヌンガガプの攻撃を直撃させることは出来た。

 

しかし―――、この程度でどうにか出来るほど、ルベドという存在は甘くはない。

 

形勢は三対一。 

ルベドがいるとは言え、彼女はワールドアイテムを所持しておらず、このまま行けばモモンガを逃がす時間くらいは作れる。

 

絶望的な戦況の中で、僅かな希望を見出したアルベド。

 

だが、その束の間の楽観さえ吹き飛ばすように、デミウルゴスの鋭い声が周囲に響く。

 

「ルベド、"心臓"の発動を許可する。 こいつらを纏めて吹き飛ばせ!」

 

「心臓、か」

 

三人の中で、唯一思い当たる節があったのはモモンガだけであった。

 

タブラがルベドを作成する際に、身体の各パーツ毎に組み込んだ特殊スキル。

 

その中でも心臓に仕込まれたそれは、四十八時間に一度という厳しい使用制限がある代わりに、超位魔法をも凌駕する破壊力を誇る、タブラの自信作だった。

 

「了解、"アポロンの矢"を起動します……、最高クラスマスターの影響範囲内の存在を確認。 カウントダウン終了までに避難してください。 20……」

 

(後はギリギリまで引きつけて、私はリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンで転移すればいいだけですね。 私が転移しても、次元封鎖の影響は、約五秒程この場に残留するはず。 逃げ場の無い、この部屋の中で転移魔法も使わずにルベドのスキルから逃れることは不可能。 ……もし生き残っても虫の息でしょうし、アポロンの矢を発動した後のルベドにあっという間に始末されるでしょう)

 

念の為に、デミウルゴスはギルド武器から根源の火精霊を召喚し、モモンガとルベドの間に配置しておく。

 

根源の火精霊はレベル87の強力なモンスター。 

 

更には、自身のスキルでレベル60近くの悪魔も複数追加した。

 

いかにモモンガ達とは言え20秒にも満たない僅かな時間で、この精霊達と自分を突破し、ルベドのスキルを阻止することは不可能だろう。

 

 

 

「ここは私達が何としてでも防いで見せます。 モモンガ様だけでも退避を……モモンガ様?」

 

アルベドが後ろを振り向くと、モモンガは力なくベッドに腰を下ろしていた。

 

その姿から感じられるのは、最後まで足掻こうという必死さでも、何か策があっての余裕でも無く……むしろ無気力に近いもの。

 

「ギルドの機能による洗脳が解けて……その結果がアレか。 お前たちも、ギルドに縛られて私を守ろうとしているだけなのだろうな。……もうどうでもいい。私の夢は……既に終わったんだ。 ここで吹き飛ばされればいっそすっきりするだろう。 ……アルベドは恐らく自分の防御に徹すれば生き残れる。 パンドラは、そうだな、スキルを上手く使えれば希望はある。 ……私のことは放っておいてくれ」

 

「何を言って……モモンガ様!」

 

アルベドが必死にモモンガの肩を揺するが、もはやモモンガは何も反応を返さない。

 

絶望と悲しみに心を支配されたアルベドに、伝言の魔法を使ってパンドラが声をかけた。

 

『守護者統括殿。 ……私がルベドの"アポロンの矢"とやらを防ぎます。 ルベドの言葉からして、デミウルゴスはスキル発動前にこの部屋から退避するはず。 それから、次元封鎖が解除されるまで凌げば、指輪を使い転移が出来るでしょう』

 

「あなた……」

 

アルベドがパンドラズアクターに何かを言おうとするが、直ぐに口を閉ざす。

 

そして小さく、

 

「ありがとう」

 

とだけ呟いた。

 

 

 

「アポロンの矢、照射開始」

 

アポロンの矢。 

そのスキルの正体は熱素石の膨大なエネルギーを使用した、強力な光線の照射だ。

 

圧倒的な熱量で全てを焼き尽くすその攻撃は、まさに太陽の神の名を冠するにふさわしいだろう。

 

だが、その攻撃の前に一歩も引かずに彼は立ちふさがっていた。

 

現在は、ぶくぶく茶釜の姿を取った彼が発動しているスキルの名は慈愛の盾(シールド・オブ・アフェクション)

 

己の命を犠牲として、一定範囲を超位魔法すら防ぐ強力な盾で覆うスキルだった。

 

「すまないな、パンドラズアクター……。 私がお前の意思を縛っていなければ……お前もこんな無意味な死に方はせずに済んだのに」

 

アルベドの言葉にも、何の反応も返していなかったモモンガが、命を捨ててまで自分を守ろうとするパンドラズアクターに声をかけた。

 

ただ、それは感謝から来るものではない……今のモモンガにあるのは罪悪感だけだ。

 

己の命を捧げるパンドラズアクターの行動も、結局はギルドのシステムに縛られている結果でしかない。

 

自分が作り出したNPCが、偽りの忠誠心故に命を捨てようとしている。

 

それにモモンガは、哀れみを覚えていた。

 

パンドラズアクターは、それを黙って聞き……アルベドに自分が装備していたガントレットを投げ渡した。

 

「そろそろ盾が消失します。 ……効果時間の限界まで待ってから指輪を発動してみてください。 運が良ければ、転移出来るでしょう、それと……」

 

ぶくぶく茶釜のスライムの身体が、モモンガに正面を向けた。

 

「子供が親を想うのは当然のことでしょう? 例えモモンガ様にでも……それを無意味と言って欲しくはありません」

 

「パンドラ………」

 

パンドラズアクターはその後も何事かを言おうかと迷う素振りを見せるが、結局、もう一度ルベドの方へ向き直った。

 

「もう効果が切れますよ。 3、2、1……今です!」

 

アルベドが、モモンガを伴いリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの発動を試み……パンドラズアクターの視界の隅に閃いた光が、その結果を示していた。

 

パンドラズアクターの視界が、真っ白に染まる。

 

やがてルベドによる攻撃が終わった後。

 

そこには、ただ、灰と焦げた石しか残っていなかった。

 

 






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