LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり
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第三十四話 夜明け

デミウルゴスは霊廟の扉をくぐった後、念の為ルベドに幾つかの質問をしていた。

 

命令方法、能力、所持スキル、弱点など多岐に渡る情報を聞き出している理由は、この先にあるという罠を警戒してのことだ。

 

どうやら、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを身につけている者にのみ作動するというトラップが霊廟の奥には存在するらしいのだが、デミウルゴスが知っているのは数年前に聞いた情報のみ。

 

至高の存在の多くが"りある"へと帰り、他のギルドの者に指輪を奪われる可能性が少なくなってからは、トラップの仕組みが変更されていてもおかしくはない。

例えば、モモンガとあの宝物殿の守護者以外の者が入ろうとすれば罠が発動するとか……。

 

それに加え、先程の闘いで情報不足が招く思わぬ危険を実感した。

 

守護者は既に倒し、ルベドを保管していた研究室も普段は誰も出入りしない部屋。

少し時間を消費してでも、今知りうる情報を全て得て、不確定要素を減らす価値はあるはずだ。

 

 

「さて、こんなものですか。 ルベド、貴方のことは大体理解しました。 これから霊廟の最奥へと向かいます。 ついてきなさい」

 

「はい、了解しました」

 

デミウルゴス達は薄暗い通路を歩き続ける。

 

ルベドの融通の効かなさは思った以上だったが、まあ勝手に余計なことをする馬鹿よりは、扱いやすい分こちらの方がましだ。

 

それにしてもルベドの能力がこれほどのものだったとは……身体能力の高さは先程の戦いを見て、ある程度理解していたが、その他にも幾つかの強力なスキルも所持しているらしい。

 

ルベドの支配が上手くいかなければ、最悪ウルベルト様から下賜された魔像を使い、宝物殿を悪魔で埋め尽くすことも考えていたのだが……、その方法だと自分も被害を受ける恐れがある。

 

やはり彼女がいて良かった。

 

薄ぼんやりとした光が揺蕩う通路を進んでいると、不意に強い光に満たされた場所に行き着いた。

 

そこも同じように奥への道が続いている通路ではあるが、道の両側には大小様々な異形の立像が佇んでいる。

その姿はデミウルゴスも、よく知っているものだった。

 

煌びやかな衣装に包まれたバードマンに、大きなガントレットを両腕に装備した巨人。 そしてデミウルゴスをもってして思わず視線が釘付けになってしまった山羊の頭を持つ大悪魔……。

 

「ウル、ベルト様。 ここは……既に"りある"へと旅立った者達を偲ぶ場所、ということですか。 ……霊廟とはよく言ったものですね」

 

この像達がつけている装備、これは間違いなく至高の存在が自らつけていたもの。

もう直ぐ、これも自分の手に入る。

かつては手も届かなかった財宝と力が………。

 

デミウルゴスが感動と……、自分が理想を実現する様子をウルベルトに見てもらうことは出来ないという一片の悲しみを覚えながらも通路を進んでいると、不意に金属が軋むような音が聞こえた。

 

それも道の奥からでは無く、横の壁から。

 

デミウルゴスが咄嗟に周囲を見渡すと、至高の存在の似姿である四十体の像がいずれも命を得たように動き、台座から降り立っている。

 

「これは……ゴーレム。 最後の罠というのはこれのことでしたか」

 

今デミウルゴスは指輪を装備してはいない。

にも関わらずゴーレムが襲って来るということは、やはりモモンガが警備システムを変更したか……。

 

(ん? このゴーレム達の視線……)

 

デミウルゴスの仮説通り、霊廟に入った存在を無差別に攻撃する仕掛けならば、デミウルゴスもルベドも同時に攻撃対象になるはず。 

だが、至高の存在を模したゴーレム達の視線はデミウルゴスのみを向いているように見えた。

 

(もしかして‥…)

 

デミウルゴスは、服のポケットから指輪を取り出し、地面に置いてみる。

 

もしかしたら指輪を身に付ける、という言葉が指すのは、効果が出るように装備することではなく、身体に直接的、もしくは間接的に接触していることを指す、という可能性を考慮して。

 

そしてデミウルゴスの指が、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンと離れた瞬間に、今にもデミウルゴスの方へ襲いかかろうとしていたゴーレムは全て停止し、再び台座の上に戻っていった。

 

「成程、こういう仕掛けですか。 なら、ここに指輪を置いておくしか……、いや、それはまずいですね」

 

もし自分ならば、敵にこのゴーレムの仕組みが看破されることを見越して、宝物殿内に指輪を放置すると小型モンスターやゴーレムで指輪を回収し隠してしまう仕掛けを作る。

 

そうすれば、もしアイテムが敵に渡ってもそれを持ち出す術を封じることができるから。

 

自分が少し考えて思いつく程度のことだ。 当然、至高の存在が思い至らない筈はなく、似たようなトラップが仕掛けてあるだろう。

 

だからといって指輪を持つと、数十のゴーレム達の餌食になってしまう。

ルベドに命じれば、破壊は可能かも知れないが正直いって、もう直ぐ自分の物となるナザリックの戦力を消耗させるのは気が進まない。

 

とは言え、ルベドに指輪を預けて置くのは……不安が大きすぎた。

 

「ま、特に問題はありませんか。 大したトラップでもありませんし」

 

デミウルゴスは床に置かれた指輪を素早く回収して、ゴーレムの反応圏外まで離脱すると、スキルを発動させる。

 

―― 下位悪魔召喚 小悪魔/インプ ――

 

デミウルゴスの前に、赤子程の小さい身体にずる賢そうな顔を貼り付けた、緑肌の悪魔が3体現れた。

 

「宝物殿の奥まで行って、私が指定するアイテムを取ってきなさい。 指示は魔法を使って伝える」

 

そう言うと、デミウルゴスは召喚した存在と感覚を共有する魔法と、伝言の魔法が込められたスクロール二つを取り出す。

 

もしこれがユグドラシル時代であれば、一人で宝物殿に来た者は先へ進む術を失い、立ち往生したかもしれない。

 

だが、召喚した存在をユグドラシル時代より遥かに自由かつ繊細に操ることができるようになったこの世界では、ユグドラシル時代では考えられなかったような方法を取ることができた。

 

 

デミウルゴスの視界に、宝物殿の最奥に収められた幾つものワールドアイテムが映る。

 

しかし、デミウルゴスは全てのワールドアイテムの効果を把握している訳ではなく、少しでも知識があるのはそのうちの5つ程度だろう。

 

まあ、その内の一つのアイテムがあれば、デミウルゴスの計画を完遂させることは出来るのだが。

 

最初は、山河社稷図。 そして次に……。

 

デミウルゴスはそこまで考えて、ふと横のルベドを見る。

 

ルベドはワールドアイテムである熱素石を使用して作られた自動人形。

だが、熱素石というアイテムは消費するタイプのアイテムだと聞いたことがあった。 だとすれば、彼女はワールドアイテムを所持している訳ではない、つまりモモンガの持つオーブ型のワールドアイテムの影響も受けうるのでは無いだろうか。

 

デミウルゴスも、モモンガの持つオーブ型のワールドアイテムの効果は知らず、もしかしたらルベドを無力化、或いは乗っ取られることも否定はしきれない。

 

(一応、ルベドにも一つワールドアイテムを持たせておきますかね。山河社稷図は大きすぎるので携帯したまま戦うのには不向きですし。 ……あれは、ガントレット? 効果は知りませんが……、まあどうせ使用する為ではないし、あれでいいか)

 

そう判断したデミウルゴスは小悪魔に、神聖な雰囲気を持つ白銀の右手と、禍々しさを感じさせる漆黒の左手が、鮮やかな対比をなす一組のガントレットを取らせておいた。

 

そして本命。

最も重要なあのアイテムは……、あった。

 

鮮血や紅蓮の炎を思わせる、毒々しくも、艶やかな花弁を持つ一輪の薔薇の造花。

 

至高の存在も、ついぞ使用することはなかった、ギルドに所属する者にとって最悪とも言えるワールドアイテム。

 

その名は……『簒奪の薔薇』。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ナザリック地下大墳墓 第九階層 ―円卓の間―

 

ユグドラシル時代、ギルドメンバー達の会議の場として使用されていた大部屋であり、四十一人分の旗の下に、豪華な椅子が並べられている。

 

そしてギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンが配置されている場所でもある。

 

今でこそ、円卓には誰一人監視するモンスターはいない……、警備を任されているデミウルゴスがそう仕向けたからであるが、その為にスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは一見無防備に部屋の一角に置かれていた。

 

だが、ナザリックの警備網にいくら自信を持っていたとしても、流石にギルド武器が何の安全対策もなされずに放置されているなどありえない。

 

デミウルゴスは警備の責任者という役職上、このスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに仕掛けられた罠を知っているが、それはギルドマスター以外が安置されているギルド武器に接触しようとすると、それぞれ属性の異なる六体の精霊が召喚され、それらを全て始末するまでは、円卓の間の閉鎖と共に転移阻害が張られるという凶悪なもの。

 

もしルベドの起動に成功しなければ、ここで多くの時間を取られ計画は失敗していたかもしれない。

だがデミウルゴスには、出来るだけ早く、この部屋にギルド武器がある内に動く必要があったのだ。

 

なぜならば、ここ数日のモモンガとの会話の中で、ナザリックの防衛体制の更なる強化に関する幾つかの案が話題に上ることがあり、その中にはギルド武器の桜花聖域への移動も含まれていた。

 

デミウルゴスが見たところ、モモンガはナザリック外の存在について、そこまで大きな脅威は先日まで感じておらず、ギルド始まって以来動かされることの無かったスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの移動には、そこまで積極的には感じられなかった。

 

しかしながら、ギルド外に"ぷれいやー"という至高の存在をも脅かしうる脅威が現れた今となっては、ギルド武器の移動はすぐにでも実行に移される可能性が高い。

 

今でこそ、モモンガは自室に篭って何やら考え事をしているようだが……きっと、ぷれいやーへの対策や、これからの行動について一人思案に耽っているのだろう。

 

この束の間の機を逃せば、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンはプレイアデスの末妹であり百レベルのシモベ、オーレオール・オメガの守護する桜花聖域へと移動させられ、ルベドの力をもってしてもモモンガに勘付かれずにギルド武器を手に入れることは不可能になっただろう。

 

だが……、幸運は全て私に味方した。

 

「ルベド、モモンガ及び各守護者の居場所を教えなさい」

 

「はい。 モモンガ様は現在第九階層の私室に。 アルベド姉様も、その近くにいます。 そしてセバス・チャンは……」

 

ルベドは淀みなく、ナザリック内の階層守護者達の居場所を挙げていく。

これは、ルベドに与えられた能力の一つ。 彼女は自分への命令権を持つ存在、即ちリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを装備している存在の位置を全て把握することができるのだ。

 

勿論、距離が遠くなれば多少精度は落ちるが、このナザリック地下大墳墓内ならば、どの部屋にいるかまで正確に把握できる。

 

ルベドの報告を聞いたデミウルゴスは、この付近にいて直ぐに駆けつけて来そうな守護者は居ない、と判断しこのまま最後の仕上げをすることに決定した。

 

「ルベド、これからレベル80台の六体の精霊が周囲に召喚される筈です。 そいつらが現れたら、この山河社稷図を使い、暫し隔離空間で時間を稼ぐように。 戦闘はしなくていいので、精霊が全て送還されたら、山河社稷図を解除しなさい」

 

「はい、了解しました」

 

デミウルゴスは絡まりあった七匹の蛇が、それぞれに宝玉を咥えている意匠の杖に手を伸ばす。

 

すると、予想通りにトラップが発動し周囲にレベル80前半の六体の精霊が現れ……、一瞬後にはルベドが発動した山河社稷図の効果で、ルベド諸共異空間へ隔離されていった。

 

「やっと……終わりますね」

 

デミウルゴスは守る者の居なくなった杖に、一輪の造花、簒奪の薔薇を近づける。

 

そして薔薇がスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに触れた瞬間に、簒奪の薔薇は淡い光を放ち、その蔦はギルド武器に絡みついていった。

 

デミウルゴスにとっては、まるで一時間以上にも感じられる程の緊張の時間。 だが実際は一分程度だろう。

 

簒奪の薔薇は、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの全体にその蔦を伸ばし終え……、まるで何かの完了を表すかのように、花弁が一度だけ、鮮やかな紅に光輝いた。

 

デミウルゴスの手がゆっくりとスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンに伸ばされ、台座から取り外す。

 

モモンガ以外は装備することさえ出来ないはずの杖から、主の到来を喜ぶように漆黒に染まった赤いオーラが揺らめいた。

 

 

ワールドアイテム、簒奪の薔薇。

 

その能力は……ギルド武器、そして一部権限を除くギルド全体の掌握。

 

アインズ・ウール・ゴウンのメンバーが多くの時間と、財産を消費して生み出したスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンは、デミウルゴスをギルドマスターとして認めたのだ。

 

ナザリックの外に広がる草原では、地平線から昇った朝日が新しい一日の到来を知らせていた。

 

 

 






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