日本人が紅茶を愉しむ習慣は、イギリスにおける「紅茶文化」である“アフタヌーン・ティー(Afternoon Tea)”が、明治時代に輸入されことで始まりました。現在でも、イギリス式のアフタヌーンティーは、少し贅沢な時間や空間を提供する場として、日本の高級ホテルなどでも楽しまれています。
そのためか、ポットで淹れる紅茶は、少し特別な飲み方というイメージが定着しているかもしれません。
一方で、19世紀初頭にアメリカで開発された「紅茶ティーバッグ」は、20世紀にかけて世界的に普及していきました。日本でも、1960年代後半から国産の紅茶ティーバックが積極的に紹介され、家庭の食卓に定着するようになりました。
その後、日本では1980年代後半からペットボトル入りの紅茶飲料が登場し、現在では、日本で飲まれている紅茶のおおよそ半分が、ペットボトルなどに入った飲料として、とても身近な飲み物として飲まれています。
とはいえ、コーヒーやココア、緑茶など、いろいろな飲み物があふれる中で、紅茶を選ぶ基準は人それぞれかもしれません。
ですが、「健康」を基準にするなら、自分の好みに合わせて簡単に作れるティーバックで淹れた紅茶というのを見直してみるのも良いかもしれません。どういうことか、これから説明していきましょう。
紅茶の味の基本は「コク」と「渋み」です。
そのうち渋みを決める重要な要素が「ポリフェノール」です。これは分子内にフェノール性水酸基を複数(ポリ)もつ植物成分の総称で、5000種類以上あるとされています。赤ワインの赤色色素や渋柿の渋みなど、いろいろな飲み物や食べ物の色や味に関わっていることが知られています。
紅茶、緑茶そしてウーロン茶も、みんなチャノキ(Camellia sinensis)の葉や茎を原料として製造されている仲間です。チャノキにたくさん含まれているポリフェノールの一種に「カテキン」があります。緑茶はこのカテキンがそのまま残るように製造されています。
一方、紅茶は、製造工程でしおらせた茶葉を丁寧に揉むことにより、茶葉が持っている酵素の力を利用し、カテキンなどのポリフェノールを酸化させて、紅茶独特の香りや味、色の特徴を作り出しています。
乳酸菌や麹カビなどの微生物は関与していないのですが、それでもこの酸化工程を「発酵」と呼びます。生の茶葉に含まれている酸化酵素の働きによって、茶葉に含まれているカテキンが大きく変化して「紅茶ポリフェノール」となり、紅茶特有の味や特徴的なオレンジ色が形成されるのです。
紅茶と緑茶のポリフェノール成分を比較すると、紅茶は総ポリフェノール量におけるカテキンの割合が小さく、代わりに緑茶にはない「テアフラビン」という成分を有しています。
この、テアフラビンをはじめとする種々のポリフェノールの集合体のことを「紅茶ポリフェノール」と呼ぶのです。
また、紅茶はインドやスリランカ、ケニアなどで生産されていますが、各地で生産される紅茶のポリフェノール成分は表1に示すように、産地ごとにその量や比率が大きく異なっていることがわかります。
紅茶ポリフェノールのなかには、その構造が未解明な部分もありますが、すでに多くの健康機能が明らかになっています。
たとえば、食事からの脂質の吸収を抑制したり、食後の血糖値上昇を抑えたりといった効果や、抗菌性などについてご存じの方も多いと思います。
くわえて、私どもの研究成果などを通じて、これからの季節にきわめて重要な「インフルエンザに強い」という機能が明らかになってきているのです。以下、順番に説明していきましょう。