LORD Meets LORD(更新凍結)   作:まつもり
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第二十五話 大森林

整備されていない街道を進んでいるせいで、ンフィーレアとエンリが乗る荷馬車が上に下にと揺れている。

 

モモンガ達は馬車の周囲を、モンスターや山賊に警戒しながら徒歩で追随していた。

 

「結構進めましたね。 恐らく、後3時間もすればカルネ村のあった場所に到着すると思いますよ」

 

「わかった。 このまま行けば、昼過ぎには到着できそうだな」

 

現在モモンガ達のチーム、虹色の蛇はンフィーレアからの指名依頼により、トブの大森林へと薬草の採取に行く彼らを護衛している。

 

エンリはンフィーレアに同行して薬草の知識などを学ぶと共に、無事に暮らしていけそうな事を、両親の墓前に報告したいらしい。

 

 

しかし、今朝早くにエ・ランテルを出発してから、一度もモンスターに遭遇していない。

退屈を持て余したモモンガは、ンフィーレアに話しかけた。

 

「まだモンスターに一度も遭遇していないが、いつもこのような感じなのか?」

 

「そうですね。 カルネ村へは何十回も行っていますけど、もしモンスターに遭遇してもゴブリンかオークが数匹ってところです。 なので普段は銀級の冒険者の方を雇っているんですけど……」

 

モモンガも、それについては気になっていた。

モモンガ達が白金級冒険者チームとなってから、受けられる依頼の難易度と報酬額が、大きく跳ね上がった。

 

この程度の護衛に、自分達を雇うのはあまり合理的とは言えない気がする。

 

「ならば、なぜ依頼料が高い私たちを?」

 

「ほら、カルネ村の周辺には盗賊団がいるらしいじゃ無いですか。 実際に荷馬車が襲われたという話も聞きますし。 もし数十人の盗賊に襲われたら、相当腕利きの冒険者じゃないと厳しいだろうと思って」

 

「なるほどな。 そういう事ならば、任せてくれ。 私達、虹色の蛇がいるからには二人には指一本触れさせん」

 

「ありがとうございます。 ……でもアインズさんの言う通り、だいぶ奮発してしまったので、今回は大森林の少し奥まで行ってみようかな」

 

ンフィーレアの本当の目的は、リィジーに頼まれてモモンガ達の情報を収集することだ。

 

謎に満ちた出自の冒険者、アインズ・ウール・ゴウン達の母国では、王国よりも魔法やポーションの研究が進んでいる可能性が大いにあるという。

 

リィジーは人生の全てを錬金術にかけた者として、更なる研究の手がかりになりうる、アインズの情報を少しでも知りたいと願っていた。

 

ただンフィーレアの言う通り、モモンガ達が白金級冒険者に昇格してしまったのは誤算だったと言えるだろう。

 

そのせいで、予定外の出費を強いられることとなり、薬草の採取で少しでも埋め合わせをしなくてはならない状態となっていた。

 

だが、そんなンフィーレアの言葉にエンリが反応する。

 

「大森林の奥? それは危ないんじゃないかな。 もし、森の賢王様の縄張りに入っちゃったら……」

 

「森の、賢王?」

 

モモンガが聞いたことのない単語だ。

 

「あー、そうか。アインズさんは知らなくても無理はありませんね。 カルネ村近くの森の奥には森の賢王と呼ばれる強力な魔獣が住んでいるらしいんです。 自分の縄張りに他の者が入るのを嫌うらしいので、人間が狩りや薬草採りで森の奥に入ることは難しくなっているのですが、反面他のモンスターや亜人の侵入も食い止めているので、森の近くにあるカルネ村も、モンスターに襲われずに存続できていたんです」

 

「まさか、盗賊に襲われて滅びるとは思っていなかったけどね……」

 

「あっ、……ごめん、思い出させちゃって」

 

「う、ううん、あまり気にしないで。 ンフィーに気を遣わせるつもりは無かったの」

 

ふむ、トブの大森林という多数のモンスターがひしめく領域で、広範囲を自分の縄張りとして確保できるほど強力な魔物なのか。

 

「あ、でもいつもより少し奥に行くくらいなら、何とか大丈夫だと思うんです。 カルネ村の住民が実際に森の賢王を見たという話は聞いたことがありませんし、相当の奥地にいる魔獣のようですから」

 

「そう、ですか。 分かりました」

 

その後、アインズ達は小川のほとりで暫しの休憩を取ることにした。

 

川の水は透明に住んでいて、小魚が身を翻す度に銀色の光が水中で閃く。

 

鈴木悟が住んでいた現実世界では考えられない光景に、モモンガはこの世界に来てから何度目になるか分からない感動を覚えた。

 

しかし、カルネ村周辺の森の中にいるという、森の賢王。

一体、どのような魔獣なのだろうか。

 

ンフィーレアから、白銀の体毛を持ち、鱗に覆われた長い尾を武器にする、魔法さえも使える魔獣ということだ。

 

白金級に昇格し、銅級の時よりはできることも増えてきたが、やはりまだエ・ランテル内において注目されている冒険者程度でしかない。

 

最高位のアダマンタイト級になるためには、そのような強力な魔獣の討伐実績を作るのが手っ取り早いか?

そこまで考えて、モモンガはアウラが現在トブの大森林を調査していることを思い出す。

 

エンリとンフィーレアが、セバスと談笑していることを確認すると、ひっそりと《メッセージ/伝言》を発動させた。

 

『アウラ、聞こえるか?』

 

『あっ、モモンガ様。 どうしたんですか?』

 

『いや、我々も今、トブの大森林に向かっているのだが、カルネ村周辺の森に、森の賢王という魔獣がいるらしい。 白銀の毛に、鱗に覆われている長い尻尾を持っているらしいが、見かけていないか?』

 

『うーん、白銀の毛……。 あっ、もしかしてあいつかも知れません。 毛皮をご所望なら、狩っておきますよ?』

 

『いや……、私が薬草採取にトブの大森林に入ったら、こっちに向かってけしかけてくれ。 その魔獣は現地では有名らしいからな、冒険者としての名をあげるいい道具になる』

 

『了解です!』

 

『他に何か見つけたものはないか?』

 

『そうですね……。 この森の中は魔獣が多いみたいですけど、どれも大した強さではありませんでした。 あっ、それと、エルフとダークエルフを見かけましたよ。 私が見たのは十人程の集団でしたが、二つの種族が一緒に行動していたので、多分協力関係にあるんだと思います』

 

『エルフとダークエルフ? 冒険者組合では森の中に、そのような種族が暮らしているとは聞いていないが。

とは言え、森の中の情報は少ないらしいし、別に居ても不思議ではないな。 その者達は何をしていた?』

 

『薬草の採取をしていたみたいですね。 接触はするなというご命令だったので、特に話しかけたりはしませんでしたが、森の東側に帰って行ったことは確認しました』

 

『そうか。 まあ、その件に関しては今のところは触れなくていい。 森の賢王については頼んだぞ。 後、二時間程でそちらに到着する』

 

『任せてください!』

 

モモンガは《メッセージ/伝言》を切ると、出発に向けて荷物……無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)を背負いなおした。

 

そしてアルベドとセバスにも《メッセージ/伝言》を使い、森の賢王と戦うことになる旨を伝え、モモンガ達はトブの大森林へと向かっていく。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

トブの大森林は、王国で暮らす人間の生活圏の五分の一に匹敵する面積を持つ広大な森である。

 

森と平野の境界から数百メートルも進めば、鬱蒼と茂る木々の葉に遮られている薄暗い原生林が姿を現す。

 

倒れた木や、大きな岩が人の侵入を拒むように存在しており、モモンガ達は障害物を乗り越えながらゆっくりと進んでいた。

 

「ングナクの草がこんなに群生しているなんて……。 森の奥は人の手が入っていないので、大量の薬草が生えているかも知れないとは思っていましたが、これほどとは予想していませんでした」

 

「ングナク、か。 初めて聞いたなぁ。 ここまで森の奥に来ると、やっぱり珍しい薬草が多いんだね」

 

既に人類の領域を離れた森の中だというのに、モモンガ達は全くモンスターに遭遇していない。

 

これまで見かけたのは、小動物や昆虫だけだ。

 

(ここが、森の賢王の縄張りだからなのか……)

 

だとすれば、余程縄張り意識の強い魔物なのだろう。

 

不自然な程の森の静けさは、その奥に潜む魔獣の強大さを告げているようだった。

 

 

その時、アウラから《メッセージ/伝言》が掛かってきた。

 

『モモンガ様、今、例のモンスターを吐息でそちらに誘導しました。 あと30秒くらいで到着すると思います』

 

『よし、わかった』

 

《メッセージ/伝言》を切ったあと、モモンガは周囲の音に耳をそばだてる振りをする。

 

エンリがそれに気がついたようだ。

 

「どうかしたんですか? アインズさん」

 

「……足音が聞こえます。 どうやら森の賢王のお出ましのようですね」

 

「えっ? まだ、そこまで奥には進んでいないのに…」

 

ンフィーレアが顔を青くして、モモンガの聞き間違いであってほしいと祈るが、やがて彼の耳にも、地面を蹴る足跡が聞こえてきた。

 

「ンフィーレアさんとエンリさんは私の後ろに。 ご安心ください。 絶対に守り抜きますので」

 

セバスが二人を背中に回し、足音の方角へと拳を構えた。

 

 

そして、茂みが揺れ、その向こうから大きな何かが姿を現す。

 

白銀の毛、つぶらな瞳、げっ歯類のような歯……。

 

その魔獣は、モモンガのギルメンが飼っていた動物に余りにも似ていて…。

 

「ジャンガリアンハムスター、だと?」

 

「んっ? それがしの種族を知っているでござるか?」

 

人語を解し、魔法すら操るという強力な魔獣。

 

だが、モモンガが見たその姿は余りにも愛くるしすぎた。

 

「い、いや。 多分人…獣違いだ。 私の知っているものは、掌に乗るくらいの大きさだからな」

 

「そうでござるかぁ。 森の外にそれがしの同族がいるなら喜んで探しに行きたいのでござるが」

 

「……もしかして、この森には同族はいないのか?」

 

「そうなんでござるよ! やはり生物として生まれたからには子孫を残さなければならないでござる。 でも住み慣れたこの森を離れて、当て所なく彷徨くのは気が進まないでござるし……」

 

出会い頭に戦闘にはならず、普通に会話が出来てしまった。

 

だが、モモンガの予定ではここは勇ましく森の賢王を倒し名声を上げるところだ。

 

(いや、そもそもこんなモンスターを倒しても、動物虐待として逆に名声が下がるだけでは無いのか?)

 

モモンガは、ンフィーレア達の方をちらりと見てみる。

 

そこには、恐怖にこわばった表情で後ずさりつつある二人の姿があった。

 

「こ、これが……森の賢王」

 

「うっ…」

 

その姿は少なくとも愛玩動物を目の前にした人間のものでは無い。

 

モモンガは少し気を取り直し、森の賢王に向かって問いかけた。

 

「ところで…、会話もいいが、お前は自分の縄張りに入った私達を排除しに来たのではないのか?」

 

森の賢王の耳がピクリと動き、自分のすべきことを思い出したように目に力がこもった。

 

「そうでござった。 さあ、ここはそれがしの縄張り。 命が惜しければ、さっさと出て行くでござる。 そこの目が隠れた若いオスが採った草は別に持ち帰ってもいいでござるよ」

 

「えっ?」

 

意外に平和的な申し出にモモンガは困惑する。

てっきり、ユグドラシルのアクティブモンスターのように、いきなり襲いかかってくるものと思っていたが…ここでもユグドラシルとは大分違っているようだ

 

「ほ、本当ですか? あ、アインズさん、帰りましょう。 でも、あなたみたいな凄い魔獣が見逃してくれるなんて…」

 

「ちょっと今は事情があって、侵入者が人間の場合は大人しく立ち退くなら手出しはしないことになっているでござる。 だからと言って、次また入ってきたら違う対応をするでござるよ」

 

流石に、この状況でこちらから手出しをするのはまずいだろう。

もし勝利をしても、戦う気のない魔獣に襲い掛かり、殺害した人物という評価になるだけの気がした。

 

軽く後ろ髪…髪はもう無いが…、を引かれる思いをしながらもモモンガは雇い主のンフィーレアに従い帰還しようとする。

 

その時だった。

 

森の賢王が妙な声を上げた。

 

「あっ……がぁぁぁっ。 こ、これは? ぐぅぅっ、に、逃げるでござる。 このままではまず…あぁぁああがぁ」

 

尻尾を滅茶苦茶に振り回し、何かを振り払おうとするように、頭を木にぶつける。

 

森の賢王の瞳がこちらを捉える。

明らかに理性を感じない、正気を失ったような目つきだった。

 

「コ、コロぉすぅ。 ガァァぁぁ」

 

尻尾が、セバスに向けて風を切り飛んでいくが、手の甲で軽くはじかれる。

 

「はあっ」

 

一瞬で森の賢王との距離を詰めたセバスは、掌底を賢王の腹部にあて、十メートル程吹き飛ばした。

 

「オォアぁぁぁぁ」

 

苦しみと狂気に満ちたおぞましい声に、セバスは眉を潜める。

 

「モモンガ様、これは……」

 

言外に何かを示すアルベドの声に、モモンガは頷いた。

 

「ああ、十中八九…」

 

アウラの仕業だろう。 恐らく、モモンガの森の賢王をこちらに差し向け、自分達と戦わせろという命令を遵守しようとしての行動には違いないが、しかし……。

 

(幾らなんでも不自然過ぎるだろう)

 

吐息のスキルを遠距離から叩き込み賢王を錯乱させたらしいが、余りにも突拍子もなさすぎて、ンフィーレア達は戸惑いの方が先に来ているようだ。

 

「どうしていきなり…そうだ! 《アナライズ・コンディション/状態解析》……なっ、毒による混乱?」

 

おまけにンフィーレアが、第二位階の魔法で状態を看破してしまった。

 

モモンガは内心で大きくため息をつき、頭を抱える。

 

「アインズさん! もしかして、解毒さえ出来れば元に戻せるかも知れません」

 

「そうか…」

 

ここで倒しても、自分が狙った通りの効果が起こせない上に、下手な疑惑まで生じかねない。

 

とうとう、そう判断したモモンガは背嚢の中から、透明なポーションを取り出す。

 

「アルベド、これをあの魔獣の口に突っ込んでくれ」

 

「はっ」

 

モモンガからポーションを受け取るやいなや、アルベドは狂乱しながら暴れまわる森の賢王の毛を鷲巣かみ、無理矢理口に腕をねじ込む。

 

鎧を何度か、森の賢王の歯が叩いたが、神器級の鎧に傷一つつくわけが無い。

 

口の中で、ポーションが握り潰され、賢王の喉にポーションが流れ込んで言った。

 

「……げほっ。 ん…、それがしは一体? 急に、頭の中がぐるぐる回って……」

 

「よ、よかった。 ンフィーの言う通り毒でおかしくなっていただけだったみたい」

 

「えっ、毒でござるか?」

 

「あ、ああ。そうだったみたいだな。 何か悪いものでも食べたんじゃないか? 多分……」

 

モモンガは急いで《メッセージ/伝言》を発動し、アウラにこれ以上の手出しを禁じておく。

 

この件に関しては、作戦を中止する場合の取り決めをしていなかった自分のミスが大きい為、特に彼女に罰を下すつもりはないとも、言い足して。

 

「でも危なかったでござる。 もしあのまま近寄るものに、手当たり次第に攻撃を続けていたら、いずれ殺されていたでござろう。 この恩は……そうだっ! それがしもそなたらについて行くでござるよ。 いずれ森を出て行くつもりだったし、いい機会かもしれないでござる」

 

「つ、ついて来るだと?」

 

モモンガは、このジャンガリアンハムスター似の魔獣を連れ歩く自分の姿を想像して、何とか辞退しようとするが、賢王の勢いは止められない。

 

「そなたらは冒険者なのでござろう? ダークエルフ達に、モンスターを退治してお金とやらを稼ぐ仕事だと教わったでござる。 こう見えてもそれがしは、この森の魔獣の中では一、二を争う強さでござるよ? …まあ、魔獣の中では、でござるが」

 

最後の言葉は消え入りそうな小ささだったが、モモンガは賢王の話の中に気になるフレーズを見つけた。

 

「ダークエルフ? この森にはダークエルフが住んでいるのか?」

 

本当はアウラからの報告で、そのことは知っているが冒険者組合でも得ていない情報を自分が知っていては不自然だろう。

 

「本当ですか? 何かの本で大昔にはダークエルフが住んでいたって記録は読んだことがありますけど、何百年も前に出て行ってしまったと書いてあったような……」

 

「うーん、三年くらい前でござったか、数百人くらいのダークエルフが、森の東側を拠点にこの森で活動をするようになったでござるよ。 東にはグという強いトロールがいたのでござるが、問答無用でダークエルフ達に戦いを挑んで、殺されたらしいでござるなぁ。 それがしのところにも、ダークエルフ達の王を名乗る男が来たのでござるが、ダークエルフとエルフには手を出さないこと。 人間が侵入した場合は、とりあえず追い返して、諦めないようなら排除することを条件に、今まで通りに縄張りを維持していいということになったのでござる」

 

「ほう。 だが、その条件ではお前が少し不利なように聞こえるが…。 お前は強力な魔獣なのだろう? よくそんな条件を飲んだな」

 

「うーん。 ダークエルフの王と戦っても勝てる気がしなかったでござるからなぁ。 森の木を巨大な蛇みたいに自在に操ったり、植物系モンスターも何体か引き連れていたでござるし…。まあ、ダークエルフやエルフはたまに来て、草を採っていくだけでござるし、人間が侵入した場合も、排除していたのは元々だったから、特に悪い条件ではなかったでござる」

 

「そうなのか」

 

確かに、この森の情報が得られるというだけでも、賢王を連れて行くメリットはあるが…。

 

(しかし、ハムスターだしなぁ)

 

未だに、どうも踏ん切りがつかないモモンガはンフィーレアとエンリに尋ねてみる。

 

「ところで二人共。 この森の賢王を見てどう思う?」

 

「えっ、どう思うというのは?」

 

「いや、そう難しいことじゃなくて、ぱっと見の印象についてだ」

 

「そう、ですね」

 

始めはエンリが口を開いた。

 

「凄い、強そうだと思います。 怖さと同時に、どこか憧れてしまう勇ましさを感じるっていうか」

 

「それに、目にも惹きつけられますね。 普通の魔獣にはない深い知性が伝わってきます」

 

「い、いやー。 照れるでござるな。 そういえば、森の賢王とそれがしを呼んだ人間も、同じようなことを言っていたでござる」

 

自分の認識とはあまりにも違う二人の意見に、モモンガは自分がおかしいのかと疑ってしまう気分になった。

 

セバスを見ていても、二人の感想を当然のものとして受け止めているような、平然とした顔をしている。

 

(いや…、もしかしてハムスターが可愛いと思っているのは自分だけなのでは…。 ひょっとしてあの人も、かっこいいと思ってジャンガリアンハムスターを飼っていたのか……)

 

「そ、そうかもしれないな……。 確かによく見ると、かっこいい…かも知れない。 これからよろしく頼むぞ、森の賢王」

 

疑心暗鬼に囚われながらも、モモンガは取り敢えず多数派の意見に合わせることにした。

 

「あっ、森の賢王というのは、それがしの称号のようなものでござる。 人に呼ばれるのは兎も角、自分で名乗ることを考えると、ちゃんとした名前があったほうがいいでござるなぁ…。 アインズ殿、この中ではあなたが一番博識そうだし、何かいい名前を考えてくれないでござるか?」

 

「あ、ああ。 任せておけ」

 

取り敢えず、名前だけでも強大な魔獣らしいものをつけなくてはなるまい。

 

モモンガは頭をひねる。

 

ジャンガリアンハムスター、ハムスター、ござる、侍言葉…。

 

「よし、思いついた! お前の名前は――ハムスケだ」

 

「「……」」

 

なんとなく、微妙な雰囲気が漂った気がした。

 

 






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