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大マスコミが報じない経団連会長「原発はもう無理」発言の衝撃度

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原発にノーを突きつけるかのような年頭会見での中西経団連会長の発言が一部メディアで話題となりましたが、大手マスコミでは全くと言っていいほど報じられていません。中西氏といえば日本の3大原発メーカーの1つである日立製作所の会長でもあり、そんな「要人」が発した言葉とあらば大きく報道されて然るべき。いったいどんな力が働いたのでしょうか。ジャーナリストの高野孟さんが自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で事の真相を探っています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年1月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

「原発はもう無理」という経団連会長の宣言

年明け早々のビッグ・ニュースで、恐らく今年末に発表される「10大ニュース」に間違いなく入るだろうという重大な内容なのに、ろくにマスコミで報道さなかったという不思議な一件がある。経団連の中西宏明会長が1月1日に行った年頭会見で、原発を作るのはもう無理だとして、こう述べたのである。

▼東日本大震災から8年が経とうとしているが、東日本の原発は再稼働していない。
▼お客さま〔エネルギー会社=電力会社〕が利益を上げられていない商売でベンダー〔設備納入業者〕が利益を上げるのはすごく難しい。どうするか真剣に一般公開の討論をすべきだと思う。
▼全員が反対するものを、エネルギー業者や日立といったベンダーが無理に作ることは、民主国家では、ないんですよね。

これは、1月1日のANNニュースなどが伝え、それをヤフーやニフティなどのネットニュースがキャリーし、またYouTubeにも画像がアップされて多少とも話題にはなったが、私の知る限り、それ以外の大手新聞・テレビでは取り上げられることはなかった。唯一の例外が、「東京新聞」5日付の第1面左の「『原発、国民反対なら無理』/経団連会長、政権と同調姿勢転換」という記事と、同日第7面の「経団連から見直し論」という解説であった。

原子力ムラが壊れ始めた

中西氏は、経団連会長であるばかりでなく、日本の3大原発メーカーの1つである日立製作所の会長である。しかも、中西氏の前に日立の会長を務めていた川村隆氏は、今や東京電力ホールディングスの会長であって、柏崎刈羽原発の再稼働を前提としての東電の経営再建に必死に取り組んでいる最中である。さらに、中西氏の前の経団連会長だった榊原定征氏は、ベッタベタの安倍首相追随者で、今年1月2日の安倍首相の初ゴルフのお相手も務めているが、彼は「原子力は最も重要な基幹エネルギー」などと言って原発推進の旗を振っていた。

それを考えると中西発言は大変なことで、日立会長の前任者と経団連会長の前任者の2人を斬って捨て、さらにその後ろで何が何でも原発再稼働と原発輸出を国策として推進しようと糸を引いてきた安倍晋三首相・今井尚哉秘書官の原子力推進コンビに対して爆弾を投げつけるような行為だった。

この「経団連会長の反乱」の直接のきっかけは、日立が中心となって進めてきた英国への原発輸出計画が失敗し、同社は今年3月期連結決算で最大3,000億円の損失を計上せざるを得なくなっていることである。これは、英西部のアングルシー島に原発2基を新設しようというもので、日立が現地に子会社「ホライズン・ニュークリア・パワー」を設立して着工準備を進めてきた。しかし、世界的な原発安全基準の厳格化や資材の高騰によって事業規模が当初の2兆円という見通しから大きく膨らみ、新たに日立、英政府と英企業、東電など日本企業の3者からそれぞれ3,000億円、計1兆円程度の追加出資を集めなければならなくなった。ところが、日立が当てにしていた東電が難色を示したのをはじめ必要な資金が集まらず、このままでは傷が広がるばかりだとして、すでに昨年12月の段階で中西氏はもう限界だと計画断念の意向を英政府に伝達していた。

その経緯からして、日立の会長としての中西氏が原発輸出の未来について絶望的になるのは分からないでもないが、そのことと、“財界総理”とも呼ばれる経団連会長としての彼が、国内の原発に関してまで事実上ノーを宣言するということとの間には大きな飛躍がある。その事情について、上述5日付「東京新聞」は、「日立には、このままでは経産省の政策に沿って海外の原発会社を買収した結果、大損失を被った東芝の二の舞になりかねないとの危機感もあるとみられる」と解説したが、たぶんその通りで、海外でも国外でも、政府の言うなりに無理に原発を進めれば企業として命取りになりかねないと判断したのだろう。

東芝の破綻は、経産省で産業政策・エネルギー政策畑を歩み、資源エネルギー庁次長を最後に安倍総理秘書官に転じた今井氏らの「原子力ルネッサンス」というお囃子に乗って、06年、すでに経営が行き詰まっていた米ウェスティンハウス社を買収するという無謀に打って出たことが発端である。東芝はその巨額投資の失敗を株主や世間に対して隠すために史上空前の粉飾決算を繰り返さざるを得なくなり、それが15年に露呈して事実上の細切れ解体状態に陥って、今は何の会社であるかも分からない有様である。中西氏が、今や下り坂の安倍=今井に義理立てして会社を潰したのでは元も子もないと考えたとして不思議はない。

こうして、正月早々、原子力ムラはその中枢のところで大きなひび割れを露呈し、これをきっかけに崩壊の過程に入って行くだろう。福島第一原発事故から8年にして、ようやくこの国は脱原発へと舵を切ることになるのではないか。

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