大韓航空オーナー一家に対する凄まじいバッシングが起き、社会的な批判にさらされる中で、突如として存在感を示した「組織」がある。韓進KALの会長に次ぐ大株主、「国民年金公団(以下、国民年金)」である。
国民年金は韓国証券取引所最大の機関投資家で2200万の加入者が納めた年金資産620兆ウォンのうちの131兆ウォンを韓国内で運用している。国民年金が5%以上の持分を占める韓国企業は276社で、その中にはサムスン電子(9.5%)、SKハイニックス(9.9%)、現代自動車(8.4%), NAVER(10.8%)、韓進KAL(10.35% : 大韓航空が所属する韓進グループの持株会社)等、韓国を代表する企業が含まれている。
日本の年金資産を管理するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が信託銀行などの金融機関へ運用を委託しているのとは異なり、韓国の国民年金は直接株式を取得して運用している。国民年金が保有する株式は韓国株式市場の時価総額の7%に達する。
(日本では2016年GPIFが株式を直接取得する「自主運用」の許可を求めたが、GPIFの理事長を政府が任命している以上、彼を通して政府が民間企業を支配するという構図になることを危惧した経営者団体の反発により実現していない)
とはいえ、これまで国民年金は積極的な株主権の行使を自粛してきた。政権の意向を無視することのできない国民年金が企業の活動に対して過度に干渉すれば経営の自立性が損なわれるという批判があったからだ。
ところが、今回の沸き起こった、大韓航空一族の相次ぐ不祥事を契機に、国民年金が積極的に株主権限の行使をしようと動き出している。パワハラ事件が、国民年金の「名分」となったのだ。パワハラ事件以降、国民年金が保有していた韓進グループの株式評価額は6109億ウォンから5537億ウォンへ下落。572億ウォンもの損失を被ったのだ。
つまり、オーナー一族の逸脱行為が株価へ影響を及ぼし、国民年金の収益性を下落させたのだから、今後は国民年金の利益を守るため、議決権行使、社外理事や監査の推薦など株主としての権利を積極的に行使するということだ。
こうなると、マスコミの異常で、執拗なバッシングが一族の不祥事のためだったのか、それとも株価を一旦、下落させるために叩いたのか怪しく思えてくる。
この点については韓国の日刊紙世界日報も指摘している。政府の執拗な捜査、調査に対し『タイミングが絶妙だ。文在寅大統領の大統領選における公約「スチュワードシップコード」の7月導入を目前にしたタイミングで国民年金を通じた(大韓航空への)圧力が具体化した』と問題を提起したのだ。
スチュワードシップコードとは、機関投資家が、投資先企業の株主総会などにどのような態度で臨むべきかを定めた行動原則で、7月から導入を目指し政府が推進しているものだ。