LORD Meets LORD(更新凍結) 作:まつもり
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二人は周囲を警戒しながら、地下都市の中を進んでいた。
時折近くの建物の中を覗き込んでみるが、人の気配はない。
床には塵が溜まっており、長い間誰の手も入っていないことを示していた。
「生活感は全く無いな。 ここの住人は相当昔に滅びたようだ。
それにしても、この都市は凄いな・・・、当時は相当美しかっただろうに」
町中に水路が張り巡らされているようで、二人はそこにかけられた美しい装飾が施された橋を渡る。
その先にあった広場の石畳は、街路樹の根により侵食されつつあった。
中央には杖を掲げた人間の男性を模した、石像が置かれていた。
「この石像を見る限りでは・・・、この都市は古代の人間が作った町なのか?」
幼い頃より宮中のみで育ってきたジルクニフは、世界の広さを感じることが出来る英雄譚や冒険録の類を好んでいた。
その中には、六大神や八欲王の時代の遺跡が世界中に点在している、と記してあったことを思い出す。
(だが、これほどの規模の都市が歴史に一切の痕跡を残さず、最近まで知られていなかったことなどあり得るのだろうか・・・。 もしかしたらスレイン法国ならば知っていたのでは・・・)
周辺国の中で最も古い歴史を持つスレイン法国。
かの六大神が作ったという国で、二百年ほどの歴史しか持たない帝国や王国が知らない情報を持っていたとしても不思議ではない。
しかし、ジルクニフはすぐにその可能性は低いと判断する。
(スレイン法国も当時は冒険者達に紛れて、特殊部隊の隊員を調査に送り込むなどしていたようだが、ある程度の損害を出したところで調査は凍結したようだ、と報告が上がっていた。
もしここが六大神ゆかりの地だという情報があれば、どんなことがあっても引き下がることは無いはず。
恐らく、その可能性も考慮して調査部隊を送ってみたが、リスクが高すぎるしリターンも不明なので引き下がった、といったところか)
暫く歩いているうちに、二人は目的地にたどり着いた。
目の前には、都市の中でも一際目を引いていた巨大な塔がある。
都市の中央で大きな存在感を放っており、何らかの重要施設である可能性が高いとジルクニフは判断していた。
「しかしこの扉、近くで見ると更に大きいな。 取っ手はついていないから押せばいいのか。
バレット、一緒に押してくれ」
「は、はい・・・」
バレットが弱弱しい声で返事をする。
「よし、やるか」
だがジルクニフが扉に触れると、全く力を込めていないにも関わらず、扉は奥へと開かれる。
「魔法の扉、か? しかし、ここは・・・一体?」
そこには広い空間があり、床や備え付けられている棚には多数の装飾品などが置かれていた。
「色々な道具があるようですけど・・・、全部ただの石で出来ているみたいですよ」
「ああ。 あの声が宝物庫という単語を出していただろう。 もしかしたらここがそうなのかと思ったのだが、これは宝というより、どう見てもガラクタにしか見えんな。 古代人はただの石で出来た装飾品を纏う習慣があった、などという話は聞いたことが無いし・・・」
もしかしたら隠し扉でもあるのかも知れないと、塔の内部を歩き回ってみるが、それらしいものは見つからなかった。
「あ、殿下。 ちょっとこれを見てください」
「ん、どうしたんだ?」
バレットが指さす先には、祭壇らしき台の上に置かれた一つの壺。
ここにある他の物品と同じように石で出来ていたが、それには図形が描かれていた。
黄金の膜をくぐったあと、最初に飛ばされた地点にあったものと同じ。
円の中に星が入っている図形だ。
その図形は近くで見ると、微かに光を放っていることに気が付いた。
ジルクニフは罠を警戒するが、この壺以外に、ここには手掛かりになりそうなものは無い。
意を決して、ゆっくりと手を伸ばし壺に触れた。
「うっ、な、なんだ⁉」
ジルクニフが壺に触れたその瞬間。
壺の口から眩い光があふれだし、塔内を駆け巡った。
周囲に置かれていた石の道具は、光に触れた部分から黄金色の輝きを放つ材質に代わっていく。
光が壺の上に集い、竜のようにうねった。
そして光が収まったとき。
「誰だ? 王になるのは・・・?」
そこには塔の天井を突き破らんというばかりの、青色の肌をした巨人がいた。
「吾輩はサレオス・・・、犠牲と献身のジン」
その巨人は、豊かな髭を蓄えた筋骨隆々の男だった。
顔は人間によく似ていたが、その額からは二本の角が生えており、首から下の胴体は蛇のような鱗で追われている。
かぎ爪の生えた指の間には水かきが存在していた。
(きょ、巨人族なのか? いや、しかし本で読んだかぎり、ここまで大きな巨人など存在しないはず・・・)
青肌の巨人は、じっと二人を見つめている。
そして、少し考える素振りを見せてから口を開く。
「王の器の大きさは・・・、金髪のそなたは中の上。 赤毛のそなたは、上の下、といったところか。
そこまで大きな差は無いな。 どうしたものか・・・」
「王の、器?」
バレットが呟いた。
「王の器、すなわちその身に宿る
私達の世界ではない、この地でもルフは存在するようだな。
これなら私も力を貸せる。 そなたら二人の、どちらかに王たる力を与えよう」
「ま、待て。 話が見えんぞ! ここは一体何なんだ? それに王たる力、というのも説明してくれ」
「仕方ないな・・・。私が話せる範囲ならば教えてやる。
ここは、
本来はマギの意思を無視して、勝手に行動するべきではないが・・・、この世界に我らがやってきたのも、きっと何か意味があるのだろう。 何もせずに待ち続けるよりは、この地の王に力を貸すのも悪くないしな・・・」
巨人は更に続ける。
「おっと話が逸れたか。 私が貸すジンの力は巨万の富を得て大国を築くことも出来れば、一国を一夜で滅ぼすことも出来る強大な力だ。 これから、そなたらのどちらかがジンの力を得ることになる」
「強大な・・・、力。 それは・・・、オレでも手に入れることが出来るんですか?」
「バレット?」
バレットの質問にジンが当然のことのように答えた。
「無論だ。 お前も私の力を使うのに十分な量の
この世界の魔法は私の言う
「オレも、オレにも・・・、力が・・・」
それを聞いて、大いに内心が乱れていたのはジルクニフも同じだ。
(一夜で国を亡ぼす力、だと? もしそんなものが手に入れば、確実に帝国を私の手で統治できる・・・、そして全てを守ることも・・・)
「オレに力をください!」「私にその力を!」
ジルクニフとバレットが叫んだのは、ほぼ同時だった。
「ほう・・・、分かれたか。 しかし、これもまた必然かもしれんな・・・」
サレオスが手を目の前まで上げると、手のひらを向かい合わせる。
「吾輩は王となるものにとって、最も重要なのは意思の力だと考えている。
思想の違う他者とぶつかり合い、相手をねじ伏せる強固な意思だ。
双方とも譲る気が無いならば・・・力ずくで勝利をもぎ取ってみせよ」
手の平の間から、人が数人楽に入りそうな大きさの透明な水球が生成された。
それはゆっくりと落下し、地面の僅か上を浮遊する。
「ここに来るまでの経緯を見たところ。 純粋な力では赤毛のそなたが大きく勝っている。
だから、少し特殊なやり方をさせてもらうぞ。
もし王の力を得ようとするなら、この水球の中に入れ。
この球には、精神に作用する特殊な魔法が込められていてな。 対立する二人が中に入ると互いの精神をぶつけ合うことになり、どちらか一方が、もう片方の意思をねじ伏せるまで決して出ることは出来ない。 ただの言い争いとは異なり、この中では嘘をつくことも出来ない。 まさに裸の精神のぶつかり合いだ・・・。言っておくが、一度中に入れば出られるのは勝利した者のみ。
つまり、どちらか一方は確実に死ぬことになる。 ・・・それでも良いならば、中に入れ」
どちらか片方が確実に死ぬという試練の水球。
透き通り鈍い光を湛えたそれに、先に近づいたのはバレットだった。
「裸の精神のぶつかり合い、か。 はは、良いですね・・・。
殿下、先に言っておきますが私はこの力を手に入れた場合、自分の為だけに使いますよ。
もしサレオスの言うことが本当なら、だれもオレには逆らえなくなる。 何だって手に入る。
帝国なんかもう知ったこっちゃない。 いっそ肩慣らしに滅ぼしちまうのも悪くない、かな」
「バレット、お前・・・、帝国を滅ぼすだと? そんな事は許すわけにはいかん!」
いきなり態度を変えたバレットの言葉にジルクニフは語気を荒くした。。
「殿下・・・、いや、どうせ二人でここを出ることは出来ないんだし、もう敬語はいいか・・・。
ジルクニフ。 お前は帝国、帝国ってやかましいんだよ! いつまでそんな偽善を続けるんだ!
自分を犠牲にしても帝国を生かす・・・?
はっ、そんなことを言うお前はきっと自分の心に嘘をつきすぎて、真実が分からなくなっているのだろう。
あの鏡に触れた時だって、混乱していたせいで血迷っただけだ!
そんな・・・、そんなお前に自分の心を、弱さまで全て受け入れているオレが負けるわけがない。お前の偽善でオレに打ち勝てると言うのなら・・・、それを証明して見せろ、ジルクニフ!」
バレットが水球の中に頭から潜り込む。
数秒後、ジルクニフも同様に後を追った。