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【暮らし】

<私の言葉見つけた>(上)小学生に詩の授業 自分を隠さず表現

子どもたちを見て回り「すごくいい」と声を掛ける浜文子さん(右)=東京都狛江市で

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 作文が苦手な子どもは少なくないが、自分なりの表現で書けるようになる作文教室が、東京都狛江市にある。子どもたちが自分でも気付かないうちに内面にためている言葉を見つけ、引き出すことで、子どもたちの文章と表情が生き生きしていく。 (出口有紀)

 コツコツ足音が鳴る

 雑音の中に鳥の歌声がまざる

 コツコツ足音が鳴る

 友達が私の名前をよぶ

 コツコツ足音が鳴る

 友達の足音がふえる

 コツコツ足音が鳴る

 私がはな歌を歌い始める

 コツコツ足音が鳴る

 友達も続いて歌い始める

 合しょうが始まる

 この日は市内の集会所の会議室で詩を書く授業があった。小学三~六年生八人が、自分の体験からキーワードを見つけ、リズムをつけて詩を作った。

 出来上がると、子どもたちはわれ先にと、指導する埼玉県在住の詩人でエッセイスト浜文子さん(73)に見せる。子どもたちの勢いとは対照的に、浜さんの動きはゆっくりだ。丁寧に読み、赤ペンでいい表現に線を引き、花丸を付け、コメントを添えていく。

 その手元を気にするのは五年生の辻山陽菜(ひな)さん(10)。友達と登校する時の様子を、冒頭の詩にした。「なーんてすてきなの。文句なし」と浜さんは絶賛。「みんなで歩く時のざわざわする感じを思い出した」と、辻山さんは誇らしげだ。

 教室は十年前に始まった。浜さんは三十代のころから、子育てや福祉関連の雑誌などに記事を書き、本も多数、出版している。教室の開設は、以前から育児の相談を受けていた読者の母親の一人から「子どもが作文を書けない。三行書くと止まる」と聞いたのがきっかけ。「『作文を見てあげる』と言ったら、多くのお母さんたちから、ファクスが届くようになった」

 そこで当時、茨城県内の高校で作文の授業をしていた体験を生かし、小学生向けの教室の開催を思い立った。今では関東地区の六カ所で毎月一回、開いている。一クラス十人までで、さまざまな年齢の子どもが集まる。参加者を募ったことはないが、口コミで参加の依頼が相次ぐ。

 子どもたちにとって、いきなり詩を作るのは「かなり難解で高度なこと」と浜さんは言う。でも、子どもたちは詩のリズムとキーワードについて提案されると、すぐに取り掛かる。

 「空が青い、落ち葉が黄色いなどと感じたことが自分の心。日々、考えていることを言葉にしてつかまないと、流れていく時間の中で消えていく。すると、自分の心に気付けない」。浜さんの語り掛けに背中を押されるように、筆が止まっている子も書き始める。

 浜さんが「よく思い付いたわね」などと声を掛けると、不安げだった子どもたちの顔がぱっと華やぐ。「先生、もうちょっと書きたい」と、二枚目の原稿用紙を取り出す子も。

 三年生からほぼ休まずに通う狛江市の六年奥村朱理(あかり)さん(12)は「学校の授業では言葉を選ぶが、教室では、感じたことをそのまま書いていいと言われる。自分を隠さず、ありのまま表現できる」と話す。浜さんは「子どもって、みんなすごい。親はテストの点数を気にする注意力を、わが子の今生きている心への気づきに使ってほしい」と願う。作文が苦手な子どもより、目の前の子どもをじっくり見られなくなっている親たちが気掛かりだ。

 

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