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身元不明の海外要人発言
東南アジア諸国の要人たちが述べたとされる「大日本帝国に感謝している」「独立できたのは日本のおかげだ」という言葉を集めて、大東亜戦争は植民地解放戦争だったと主張されることがしばしばあります。
百田尚樹『日本国紀』もその一冊です。
が、得てして保守本というのはファクトチェックが非常に甘く、コピペで繋いだような本ばかり作っているため、出典元が未だ確認されない海外要人発言というものもあります。例えばタイの元首相ククリット・プラモートが残したとされる「日本というおかあさん」というネタもその一つです(参考記事)。
今回はそんな保守本の粗雑さを象徴するような現象を紹介したいと思います。
というのも『日本国紀』では、参照元を碌にチェックもせずにコピペで本をつくったため、間違いが間違いを呼び、ありもしない海外要人発言を「創造」してしまっているのです。
『日本国紀』で紹介される「バー・モウ氏発言」は実際には「ブン・トモ氏発言」らしい
『日本国紀』の445頁では、『ビルマの夜明け』という書籍からバー・モウ(元ビルマ大統領)の言葉が引用されています。
しかし肝心の『ビルマの夜明け』にそのような言葉は見当たりません。おそらくNAVERまとめにある誤った記述をコピペしてしまった結果であろうと指摘されていました(関連記事)。
さらに日本会議のサイトなどによれば、『日本国紀』でバー・モウ氏発言として引用されているものは、実際にはブン・トモ(インドネシア元情報相)の発言であるようです。
このような不可思議な取り違えが『日本国紀』で起きていました。
なぜこのような「取り違え」が起きたのか?
なぜこのような取り違えが起きたのか、Sutake Ikuzo氏から興味深いコメントを、さらに匿名88号氏から重要な資料を頂きましたので、その仮説を時系列に整理すると次のようになります。
- 『日本国紀』が参照したと考えられるNAVERまとめでは、基本的に「偉人の写真1枚+発言の引用1つ」の連続という構成(つまり画像⇒引用⇒画像⇒引用…)になっている。しかし当該箇所だけ「偉人の写真1枚+発言の引用2つ 」(画像⇒引用⇒引用)という構成になっている。
- したがって、もともと「画像1⇒引用1⇒画像2⇒引用2」という構成だったものが、何らかの要因により画像2が削除されてしまい、「画像1⇒引用1⇒引用2」という現行の構成になってしまったと推測される。NAVERまとめでは、運営側が勝手に写真削除することはよくある。
- つまりこのNAVERまとめは、もともと「バー・モウ写真⇒バー・モウ発言⇒ブン・トモ写真⇒ブン・トモ発言」の構成であったが、何らかの理由でブン・トモ写真が削除され、「バー・モウ写真⇒バー・モウ発言⇒ブン・トモ発言」という現行の構成になってしまった。 事実、この記事の魚拓を見る限り、2017年3月11日時点では「ブン・トモ写真」はまだあった。(※注 ブン・トモの写真として説明しましたが、実際には誤って別人の写真を掲載していたようです)
- 「ブン・トモ写真」が削除された現行の構成だと、バー・モウ写真の下に二つの発言が置かれているため、「ブン・トモ発言」があたかもバー・モウのものであるかのように読めてしまう。
- おそらく『日本国紀』は、このNAVERまとめを参照したため、「ブン・トモ発言」をバー・モウのものと錯誤したまま記述してしまった。
ということです。根拠となる資料に基づいた論理的かつ合理的な説明でしょう。つまり、原典を確認することなく、ネットにある身元不明の情報を繋ぎ合わせて本を制作したため、『日本国紀』は実際には存在しない「バー・モウ氏発言」を創造してしまったということです。
Sutake Ikuzo氏と匿名88号氏の発見に、および関連情報を指摘下さったhidden氏に衷心より感謝申し上げます。
ミャンマー人なら多くの人が知っているという不思議な信者発言
このように、『日本国紀』にある「バー・モウ氏発言」は実際には存在しない、百田氏が生み出した新概念であることはほぼ確実です。
にもかかわらずネットでは、この「バー・モウ氏発言」はミャンマーの人なら誰でも知っていると発言される信者の方が…。
……。
ミャンマー語版『ビルマの夜明け』に、なぜかブン・トモ(インドネシア元情報相)の発言が収録されているという意味でしょうか…。
ビルマの竪琴氏は、部下を動員してビルマ語原典を捜索されるそうなので、調査結果が出ることを楽しみにしています。
謎が謎を呼ぶ、『日本国紀』「バー・モウ氏発言」をめぐる不思議な現象でした。
取り違えの経緯を見ると、百田と幻冬舎がいかに杜撰な仕事をしていたのかがわかりますね。しかしどれほど欠陥が見つかっても徹底して隠蔽し、不良品も含めて売り切ろうとする百田、有本、見城は日本人の精神から程遠いどころか私から見ると犯罪者と変わりません。人命に関わる家電製品の欠陥であったとしてもこの人たちは同じ対応をするだろうから。それとも「たかが本なんだから欠陥品売っても誰も死なないでしょw家電なら回収するよ?」という考えなんでしょうか。
このような卑怯者どもは徹底的に糾弾されるべき。
「日本人の精神から程遠いどころか私から見ると犯罪者と変わりません。」と主張されるあなたは「日本人の精神」とはどんなものとお考えでしょうか?
日本国紀でいうと、ルイス・フロイスが日本人に言及した部分の記載ですね。
あ!第5刷以降では修正されてるんだった!
えーと、第1刷~第4刷はルイス・フロイスの言葉とされている所で、第5刷以降だとフランシスコ・ザビエルの言葉とされている所です。
この辺りって読者にかなりウケるポイントの1つだと思うので、「ルイス・フロイスって日本人は最高だっていう言葉を残してるんだよ」と忘年会や新年会で広めてしまわないか心配です。
幻冬舎は正誤表の公開くらいしろよと。
「ミャンマー語で読みましたか?」の発言が確認できないのですが、彼が削除したんですかね?
〔追加補足〕
ブントモとされる写真が当該まとめに2017年3月11日までは出ていたことが魚拓(インターネットアーカイブ)で確定できたわけですが、その後さらに次のことが判りました。
・ 掲載されていた画像の人物はブントモではない
・ おそらく アラムシャ・R・プラウィネガラ宗教相
まとめは最初から写真を間違えていたわけです。
そのため本記事の表現のままでは不正確です。取り違えの経緯を説明した部分のあとに「注釈」を入れて対処するのがお手軽で良いかと思います。
※注 ブントモの写真として説明しましたが、実際には誤って別人の写真を掲載していたようです。
――みたいな。
アーカイブの記述を鵜呑みにして報告し、修正の必要が生じたことをお詫びいたします。
なお、実際には画像がアラムシャ宗教相だったことを「おそらく」としているのは、本当にそうかまだ確認できてないからです。昭和56年6月の靖国神社参拝時の写真だとして多くの右派ブログに貼られていますが、公的ソースからはまだ確認できていません(昭和56年来日は外務省HPで確認取れましたが文字情報だけで写真が無い)。
そのため、ブントモで誤報告した反省からここは慎重に「おそらく」としておきました。
アラムシャさん
http://www.geocities.jp/takanome7/leader.html
ブントモさん
https://www.pondokjeruk.com/2017/11/koleksi-foto-bung-tomo.html
ほんと助かります!
〔校正〕
× 本ばかり作っているのため
○ 本ばかり作っているため
× というこです。
○ ということです。
× プン・トモ
○ ブン・トモ
名前の表記で「ブン」と「プン」が混在してますが、「本名:ストモ(Sutomo) 通称:ブン・トモ(Bung Tomo)」で、「B」なので「ブン」で統一するのが正しいかと。
ちなみに「ブン」は親密を表す呼び方の表現なのだそうな。「ブン+本名(ス)トモ」。
いつもありがとうございます…!
「ありもしない発言を創造してしまう」というクセは、人間には古代からありますね。いわゆる「伝聞録」とか「口伝録」とかーー。「文字で記された書類」を逆に無視する。文献学では「文字で記された一次資料」が一番重要な位置を占めますが、これは近代以降ですね。「風評」とか「うわさ」とかとはちがうのですが、日本人には、「言い伝え」とかいうものを何となく大事に思ってしまう心性がはたらいているようです。
Twitterで「ビルマの竪琴」氏のように「バー・モウ著の『ビルマの夜明け』に確かにある。ミャンマー語で読みましたか?」と明らかな嘘が出たのにも理由があって、当初、論壇netの「NAVERまとめのコピペ疑惑」の記事には、例の発言は『ビルマの夜明け』には載ってなかった、と記述してあっただけで、実はブン・トモの発言とされるものだった、とまで書かれていなかった。だから「ミャンマー語版では載ってる」「英語版ではそう翻訳できる文章がある」などと話を拡大させて有耶無耶にしようとする人たちが現れた。その後、論壇netでは加筆修正で「実は日本会議のサイトなどでは、ブン・トモの発言として紹介されていて、バー・モウの発言ではなかった」と書き加えられた。実際はブン・トモの発言だから、バー・モウ著の『ビルマの夜明け』に載ってるはずがないのに、「外国語版の『ビルマの夜明け』に載ってた」と主張する人が出たのは、こんなカラクリです。
前記事の初稿で、別人の発言とされていることを記述してなかったことがトラップになってたみたいで興味深かったです。
そういうことでしょうね。気分の良くなるものは「真実」、気分の悪くなるものは「虚偽」とする信者さんが多くて恐ろしいです。真実を追究する勇気を持って欲しい。
「気分が良くなる」「気分が悪くなる」の生物的反応のちがいは、人間の場合、レヴェルの違いでおおきくわけて二つあるようです。ひとつは、典型例では、食べ物を摂り入れた場合の胃腸の反応で、人間以外にも胃腸をもったすべての動物に共通する反応で、動物的な本能反応でしょう。人間の場合には、この本能レヴェルの反応以外に、ふたつめの「理性的反応」のレヴェルがあるようです。これは五感を含めた「身體情報」を前頭前野が「認定」する場合に生じるもので、この場合の「前頭前野の気分の良い反応」というのは、「依存症」(addiction)を生む生理的基礎です。
ちなみに、有史以降の人類の歴史は、すべて、地球上の生物にとっては「気分が悪くなる」ものばかりです。
出典元がかなり怪しい箇所だとの認識はありましたが、最初の段階ではそこまで気がまわっていませんでした。結果的にトラップになっていたようで(笑)Sutake Ikuzoさんの素晴らしい発見に衷心より感謝申し上げます。
会社で見城さんめっちゃキレてたな笑
身元不明の内部情報大歓迎ですよ(笑)