「・・・・」
「・・・・」
モモンは黙ってクレマンティーヌを見下ろす。モモンは足元で悶絶しているクレマンティーヌの首に剣先を向けていた。クレマンティーヌが先程持っていたスティレットは既に彼女の手から離れていた。
勝負は一瞬だった。
クレマンティーヌがあらゆる武技を使ってモモンと接近しようとしたが、モモンはそれを上回る斬撃の速度のままクレマンティーヌの腰に大剣を叩きつけた。ただそれだけだった。
「手加減したつもりだったが・・・」
クレマンティーヌは腰の骨が折れたのか下半身はほとんど動いていなかった。何とか上半身だけで立ち上がろうとしているも立てずにいる。それがより一層痛々しく感じた。
「お前ぇ・・何者なんだ?まさか『神人』か?」
「『神人』?何だそれは」
モモンが気になったのも無理はなかった。かつて奴隷にされそうになっていた所で聞いた単語だったからだ。忘れもしない記憶の断片。
「知らない?じゃあ『流星の子』か?」
「『流星の子』・・・それも知らない」
「じゃあ・・・」
「クワイエッセはどこだ?」
「・・アンタあの男に何でそこまで拘る?復讐か?」
「いいから!答えろ!」
「・・あいつは今、スレイン法国の特殊部隊・六色聖典の一つ。『漆黒聖典』に所属している。居場所は分からない」
「そうか・・・ンフィーレアはどこだ?」
「あの霊廟・・・そこの地下室にいるわよ」
「無事なのか?」
それを聞いてクレマンティーヌが高笑いする。
「何がおかしい?」
モモンは嫌な予感がした。
「無事よ。命はね」
「どういう意味だ?」
「叡者の額冠を装備したンフィーレアはもう元には戻れない」
「教えろ!彼に何をした?」
「あのアイテムを装備した者は自我を失う。無理に外そうとすれば発狂する。お前の負けだよ」
「もう黙っていろ」
モモンは大剣でクレマンティーヌの首を叩く。クレマンティーヌは意識を失い制御を失った身体が倒れこんだ。
(これ以上は理性が持ちそうになかった。)
手が震えている。怒りからだろうか・・・
両手が震えていた。
「スレイン法国・・・・」
何の罪もない少年から強引に自我を奪う。そしてアンデッドを使って街を襲わせるなんて・・・
「そんな国なんて・・・」
モモンは倒れたクレマンティーヌを通してスレイン法国を睨む。
血が出そうになるほど睨む。視界が歪んで・・・
「モモンさん!」
ナーベの呼びかけられてモモンはハッとする。視界の広さが元に戻る。
「どうした?」
「ンフィーレアさんを助けましょう」
「あぁ」
モモンは無限の背負い袋から縄を取り出した。アダマンタイトが編み込まれた縄だ。それでクレマンティーヌを蓑虫の形になる程グルグル巻きにした。これで逃げられる心配はないだろう。
モモンとナーベは霊廟に向かって歩き出した。
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エ・ランテル墓地 霊廟 地下室
「分かってはいたが・・・」
モモンは拳を強く握る。食い込んだ爪によって血が流れ出る。
「モモンさん・・・これって・・」
先程赤いポーションを飲ませてみたが目の出血は止まらなかった。それが意味するところは・・
「間違いない。彼の目はもう・・」
ンフィーレアは両目から血が流れていた。裸の上に透明な衣を纏い、頭には先程クレマンティーヌが言っていた叡者の額冠だろうアイテムが乗っていた。
「彼を助けることは無理なのか・・」
モモンは拳を強く握り・・
「ふざけるな!!」
床に叩きつけた。床の一部が砕ける。
ナーベはそんなモモンを見兼ねて口を開いた。
「モモンさん。彼が助かる可能性が一つだけあります」
「それは・・・あっ」
モモンは唯一の可能性に思い当たる。
「まさか・・」
「えぇ。アインズ・ウール・ゴウン殿を頼りましょう」
ついに『墓地騒動』編がついに終わります。
次回、後日談へ