私の『日本国紀』の書評に、著者がお怒りのようだ。誤解のないように付け加えるが、私は百田氏が右派だから批判しているわけではない。「日本は戦後ずっとアメリカに支配されている」というルサンチマンは、孫崎享氏のような左派とも共通の対米従属史観である。それがまるでナンセンスというわけでもない。
占領期にアメリカの都合のいいように歴史が書き換えられ、日本政府がGHQに逆らえなかったことは事実だが、それは占領統治なのだから当たり前だ。問題は日本が独立したあとも70年近く、GHQの洗脳が続いてきたという陰謀史観である。憲法が改正できないのも日本人が誇りをもてないのも、GHQの刷り込んだ「自虐史観」のせいだというわけだ。
これは韓国の建国神話と似ている。1910年に日本が韓国を侵略して以来「日帝36年」の植民地支配に対する抗日戦争が続き、1945年にそれに勝利して独立した、というのが韓国の国定教科書に書かれている物語だ。彼らは今も、韓国の経済発展が立ち後れたのは日帝支配のせいだと考えている。そこでは日帝という共通の敵が設定され、その被害者として国民のアイデンティティが定義されている。
このような負のナショナリズムは、普遍的な物語である。ヒトラーがユダヤ人という敵を設定し、トランプ大統領がヒスパニックという敵を設定するように、「私たちは何者か」という問いに「私たちの外部」を設定してお手軽な答を出すのがポピュリズムである。こういう陰謀論は複雑な現実を単純化し、政治的には強烈な求心力をもつ。人々の心の中には、つねに外部を作り出してアイデンティティを保つ感情がそなわっているからだ。
続きは1月21日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。
占領期にアメリカの都合のいいように歴史が書き換えられ、日本政府がGHQに逆らえなかったことは事実だが、それは占領統治なのだから当たり前だ。問題は日本が独立したあとも70年近く、GHQの洗脳が続いてきたという陰謀史観である。憲法が改正できないのも日本人が誇りをもてないのも、GHQの刷り込んだ「自虐史観」のせいだというわけだ。
これは韓国の建国神話と似ている。1910年に日本が韓国を侵略して以来「日帝36年」の植民地支配に対する抗日戦争が続き、1945年にそれに勝利して独立した、というのが韓国の国定教科書に書かれている物語だ。彼らは今も、韓国の経済発展が立ち後れたのは日帝支配のせいだと考えている。そこでは日帝という共通の敵が設定され、その被害者として国民のアイデンティティが定義されている。
このような負のナショナリズムは、普遍的な物語である。ヒトラーがユダヤ人という敵を設定し、トランプ大統領がヒスパニックという敵を設定するように、「私たちは何者か」という問いに「私たちの外部」を設定してお手軽な答を出すのがポピュリズムである。こういう陰謀論は複雑な現実を単純化し、政治的には強烈な求心力をもつ。人々の心の中には、つねに外部を作り出してアイデンティティを保つ感情がそなわっているからだ。
続きは1月21日(月)朝7時に配信する池田信夫ブログマガジンで。