【首都スポ】ツヨカワ空手娘・岩瀬菜緒 東京五輪目指す国士舘大21歳2019年1月16日 紙面から
昨年11月18日、空手の第62回全日本大学選手権(団体戦)の組手女子で、国士舘大が18年ぶり2度目の準優勝を果たした。岩瀬菜緒(3年・静岡北)は近大との決勝で、準々決勝での鼻骨骨折を物ともしない気迫あふれる戦いぶりを見せ、会場を大いに沸かせた。2020年東京五輪出場を視野に入れる21歳を直撃した。 (山崎照朝) 相手が誰であろうと向かって行く。岩瀬は突貫小僧ならぬ突貫娘だ。準々決勝の京産大戦での鼻骨骨折を押して臨んだ、近大との決勝。先鋒(せんぽう)で対戦した相手は、163センチの岩瀬よりも長身で、日本代表の斎藤だった。顔を鼻血で染めながら、飛び込んでは殴られること3度…。 「(骨折したときは)倒されて一瞬、目が見えなくなって。この時は大将で、負けるわけにはいきませんでした。決勝は先鋒でしたが、殴られても、痛いことより試合が大事でした。アドレナリンが出ていて、自分のことよりチームのことでいっぱい。痛みは感じませんでした」。1ポイントも奪えずに0-3で敗れたものの、その果敢な姿勢は、見る者の心に響いた。 「突きから蹴り、蹴りから突きのコンビネーションという、一つの流れで戦える選手になりたいんです」。そんな空手像を持つ21歳。静岡市出身で、兄・諒太さん(23)を慕い、5歳から糸東流「泊親会清水」(堀川博明師範)に入門した。空手が本当に好きになったのは、静岡県大会で初めて優勝した小1のとき。その勢いで、全日本少年少女選手権でも優勝し、勝利の味を覚えた。 「やっぱり勝つとうれしくて。小1で優勝し、今、ここまで来ています」 2014年には、全国高校選抜大会個人組手で優勝。その決勝の相手は、18年世界選手権女子組手50キロ級で金メダルを獲得した宮原美穂(当時帝京高、現帝京大4年)だった。「1ポイントを先取したのに、連続で3ポイントを奪われて。でも、終盤に上段回し蹴り(3ポイント)で、逆転勝ちでした」。1学年上の強者に勝てたことが「その後の自信になりました」と振り返る。 岩瀬の夢は「日本一」になること。日本が世界を引っ張っている空手界では、それはすなわち、世界一を意味する。つまり、五輪へとつながるからだ。 同年代なら興味を示すファッションには目もくれない。好きな芸能人やタレント、スポーツ選手を聞いても、「何も興味がないですね。興味があるのは空手だけです」と返ってくる。「ホントに?」と念押ししても、「ホントです」とさらりと言う。空手へのいちずな愛を感じる。
五輪への道は決して楽ではない。岩瀬が全日本空手道連盟(全空連)の強化選手として代表チームにいたのは、年代別のアジア選手権で優勝した小6が最後だ。世界へ打って出るには、全空連の強化選手で、かつ世界ランキング50位以内という壁がある。現在、国際大会出場は自己負担という苦しい台所事情もある。 壮大な目標に向かい、稽古時間を増やし、大学での練習以外にフィジカル強化にも取り組む。そんな努力する姿を知る国士舘大の亀山歩監督(37)は「性格が明るく、それでいて負けん気も強い。決勝で対戦した斎藤は日本代表で実績もあるトップ選手だが、怖がることなく向かっていく。技術の吸収力も早い」と評価する。「代表チームに引けを取らない力を持っていると思うし、海外に行けば行くほど強くなる選手」と成長を期待し、「経費のこともあるが、どんどん海外で戦ってほしい」と、3月からの国際大会挑戦を望む。 東京五輪への思いを聞くと、岩瀬はこう答えた。「(空手仲間に)知っている人がいっぱい出る。できれば、その中にいたいんです」。夢へ向かって、心を折らずに戦い続ける。
▽国士舘大・菊池瑞希(岩瀬と同期、組手68キロ級・全空連強化選手)「支部は違いますが、幼稚園から試合で戦ってました。中・高・大と、学校も一緒。岩瀬とは、中学からチームを組んでいて、“日本一になろう”とやってきましたが、中学では全国大会準優勝、高校ではライバルの御殿場西高に(県予選で)競り負け、今回の大学選手権も準優勝と、まだ日本一になってないんです。今、3年生なので、(最終学年となる)来年度の大学選手権で優勝し、夢を実現させたいです」 ◇菜緒のアラカルト◆趣味「食べ歩き。料理するのも好きですよ。好きな食べ物はチーズケーキ」 ◆顔が幼いので…「顔が幼いと言われるので、大人の女性を目標にしています。ファッションに興味があります」 ◆気分屋!?「『いつも楽しそうで、悩みがなさそう』とよく言われます。明るいんですけど、気分屋ですね」 ◆壁を乗り越える「好きな四字熟語は、敢為邁往(かんいまいおう)。何か壁があっても乗り越えろというような意味です」 <岩瀬菜緒(いわせ・なお)> 1997年(平成9)4月15日生まれの21歳。静岡市駿河区出身。身長163センチ。静岡北中から静岡北高を経て、国士舘大3年。得意技は蹴り。5歳で空手を始め、小1で全国少年少女選手権女子組手優勝。全国中学生選手権では中2時に3位、中3時は2位。2012年アジア選手権のカデット54キロ級で優勝。14年全国高校選抜個人組手優勝。18年全日本大学選手権団体女子準優勝。家族は父・仁さん(50)、母・綾乃さん(49)、兄・諒太さん ◆亀山監督も驚いた男子大学選手権V昨年の大学選手権で優勝した国士舘大男子は、4年生のレギュラーが1人。空手道部を率いて6年目の亀山監督=写真=は、優勝は考えていなかったそうで「18年は我慢の年。19年に向けて準備して行こうと言ってたんです。それが優勝ですから」と驚きを隠さない。女子も2度目の準優勝。優勝なら初のアベックVだったが「やっぱり優勝するには、苦労するくらいがちょうどいいんじゃないでしょうかね」と苦笑いだった。 好成績を残せた理由は「選手が主体的に取り組まなくてはいけないということをすごく感じていて、それが実を結んだ」とのこと。監督は日本代表の手助けがあり、部の指導が手薄になっていたことを気にしていたようだ。 男子は関東大会の団体戦で2回戦で敗退。その負け方が良くなかったという。それだけに、うれしさは驚きでもあったようだ。 ◇ 首都圏のアスリートを全力で応援する「首都スポ」。トーチュウ紙面で連日展開中。
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