どうやったらこの駄女神に知性を与えられるかについて   作:コヘヘ
<< 前の話 次の話 >>

16 / 18
彼は激怒した。

彼の空気の読まない『変態』に仕返ししてやると決意した。

彼の計画はまだ狂わない。

だが、確実に崩壊しつつあった。


第十三話 宣戦布告

地球換算 12月3日14時頃 王都クレア宅手紙到着

 

 

彼は、楽しみの邪魔をされてキレた。

 

彼を王都へ招いた者へ、必ず下手人に仕返ししてやると決意した。

 

幸い、レインが下手人の名を簡単に教えてくれた。

 

彼は自分の日頃の行いの良さに歓喜した。

 

 

なので、こんなお手紙を書いて王都のクレアに送ってやった。

 

 

『拝啓、シンフォニア家のクレア様へ。

 

 いきなりのお手紙で失礼致します。

 

 初冬の候、肌寒い季節となってきましたが、いかがお過ごしでしょうか?

 

 私は、もうすぐあなたに王都へ無理やり連れてこられる予定の一介の冒険者でございます。

 

 アイリス姫に劣情を抱いていらっしゃるあなたのことです。

 

 肌寒いくらいは無意味。きっと頭の中は年中暖かいことだとは存じます。

 

 ですが、季節の変わり目は体調を大変崩しやすいものです。

 

 栄あるベルゼルグ王国の騎士たる者、どうぞお体をご自愛くださいませ。

 

 ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス第一王女様の直属の護衛という大任を担っている事実は、下賤な身の上の私ですら存じ上げております。

 

 私は日々、他人のために身を粉にして魔王討伐を目論んでおります。

 

 大丈夫、私の計画は万全です。安心してクレア様がお休み頂けるように手配しました。

 

 どうか、安心してお休みくださいませ。

 

 私が必ず、あなたの代わりにアイリス王女をお守りします故。

 

 末筆ではございますが、シンフォニア家に恥の無いようにお過ごしください』

 

 

日本語でわかりやすく訳すと彼の手紙は上記の内容だ。

 

 

『アイリス姫に劣情している変態へ。覚悟しとけ、お前の仕事を奪ってやる』

 

彼の長々しい手紙を略すとこうなる。

 

 

「…殺す!何だ、この男!!ふざけるな!!!」

 

当然、クレアは激怒した。

 

 

この手紙の送り主は確定だった。

 

態々名前まで達筆な字で書かれている。

 

ダスティネス家のララティーナの仲間だから、文章等から類推した人物像から逸脱し過ぎていた。

 

彼は狂人だった。彼は人の感情を逆なでする才能に関して人一倍長けていた。

 

 

この冒険者に身の程を教えてくれるとクレアは決意した。

 

 

だが、この時、クレアはもう手遅れだった。

 

クレアは完全に彼の策に嵌ってしまっていた。

 

 

この時、クレアは彼を理由をつけて始末する気満々だった。

 

彼の思い通りにことは進んでいた。

 

 

大貴族のお嬢様なら、世間知らずのプライドの高い騎士のクレアなら確実に彼を殺しに来てくれると思っていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

話は過去に戻る。

 

 

彼はバニル戦後、彼の想定する最低限の計画だけ備えて、色々仲間との交流を楽しんでいた。

 

 

だが、彼最大の復讐が邪魔されたので、彼はキレた。

 

彼が何しても喜ぶ変態ダクネスへの復讐だ。

 

ララティーナお嬢様アクセル中羞恥プレイは彼の個人的な最大の計画だった。

 

彼は、王都から来いと命じられた。王家の命令でだ

 

ダスティネス家のお嬢様だということをとっくの昔に知っている。

 

 

ダクネスの権威何ぞ怖くない。王都へ行きたくないと彼はぶちまけてしまった。

 

 

結局、無駄な抵抗だった。嫌がる彼をダクネスに縛られそうになった。

 

彼はダクネスに縛られるのは嫌なので、自分で歩き出した。

 

 

彼は、下手人を把握した。

 

彼はダクネスに抵抗している間に沢山の『お手紙』を王都へ堂々と送った。

 

 

彼なりのクレア個人への宣戦布告とその布石だ。

 

王都でお姫様に見世物の道化を演じて彼は帰るつもりだった。

 

 

彼は完全に空気を読まなかった。

 

 

地球換算12月1日10時頃。

 

アクセルと王都を繋ぐ転移所のテレポートにより彼は王都へ到着した。

 

彼の計画が始動した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

11月20日17時頃(ウィズ魔道具店)

 

彼の計画は無茶苦茶だ。最低限でも、論外だった。

 

 

万が一アクセルに魔王軍やデストロイヤーが来た場合の迎撃用の最高品質のマナタイトを備蓄させていた。

 

デストロイヤーに関してはウィズに理論上破壊可能か話し合っていた。

 

情報漏洩の無いウィズの店で内密に計画を話した。

 

 

…彼をしてウィズの頭脳は凄まじかった。

 

確かにその瞬間だけ氷の魔女がそこにいた。

 

 

彼は何故この頭脳を商売に活かせないのか不思議で仕方がなかった。

 

つい彼がバニルの方を見たら、何か嘆いてそうな雰囲気だった。

 

彼と同じことを考えているようだった。

 

 

彼が用意していた不在時でのデストロイヤー討伐計画だ。

 

あるわけないが、備えないというのは彼にとって愚策だった。

 

 

彼の『最低限』の計画遂行の為の、金はもうあらゆる取引で満たされていた。

 

 

ベルディア討伐で3億エリス、バニル討伐で2億エリス。

 

その他モンスター討伐費用及び彼の裏取引での違法なお金もある。

 

 

違法なお金は税金対策だ。万が一毟り取られてもアクアや仲間を助ける非常事態の金だ。

 

なお、彼の怪しいお金を追及した瞬間、この国の貴族何人かが破滅するトラップ付きだ。

 

貴族は最早彼を守るしかない。彼は助け合いの精神を学んでくれた元悪徳貴族の成長を喜んだ。

 

悪徳貴族達はもう二度としないと彼に誓った。

 

彼を庶民と処刑しようとした愚かものにはお茶目をくれてやった。

 

心から謝ってくれたので彼は許した。彼は寛大な心の持ち主だと自画自賛した。

 

彼は悪徳貴族等には容赦なく悪意に満ちた教育法を実践していた。

 

彼に取って、この国の悪徳貴族数は物凄い。

 

ベルゼルグ王国は簡単に征服できると確信した。

 

国教の女神エリスを恐れているため大々的にはしない方針だが、彼は容易過ぎて困った。

 

いずれあの策謀の神のこと、このペースでは勘付かれると思った彼は自身の悪意に制限を設けた。

 

 

だが、表向きおよそ計5億エリスの元手と彼の頭脳とその情報網さえあれば計画の必要資金以上の金が揃っていた。

 

 

最も、彼の完全な成果が出るのは少し未来だ。

 

今はおよそ2.5億エリスが税金対策として保管、及び緊急時に使用可能な金としてストックしていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

11月18日7時半頃(自宅)バニル戦後、復帰後二日目

 

 

バニル討伐後、気まずい状況で、彼はめぐみんとダクネスにお金をいらないか聞いてみた。

 

…彼が保管しておいてと言われてしまった。

 

ダスティネス家は清廉潔白な彼に対処不能な数少ないまともな貴族だ。

 

 

…まともな貴族の中に悪魔が堂々といる辺りベルゼルグ王国は詰んでいると彼は思った。

 

 

めぐみんに関しては、

 

「父がお金持てば全額魔法道具の開発に充ててしまいます」

 

とはっきり断言されてしまった。

 

彼は不覚にも憐みを感じた。

 

聞けば幼い妹のためにも本当はもっと実家に仕送りしたいが、まとまった金を送ると父親が使い果たすという話だ。

 

 

「狂人が父とは…少々気の毒に」

 

彼は頭がパーになって心の声が出る。

 

 

めぐみんは一拍間を置いて彼の言葉に反応した。

 

 

「…あなたにだけは言われたくないです!」

 

めぐみんは彼を杖で殴った。

 

彼はめぐみんの家族を馬鹿にしていると思ったし、この反応は当然だと思った。

 

 

ダクネスに止められて、アクアに魔法で治してもらった。

 

思春期だから仕方がないと彼は寛大の姿勢を貫いた。

 

めぐみんはさらにキレた。

 

 

…当たり前だが、彼の予想とめぐみんの反応は微妙にズレていた。

 

 

 

 

めぐみんと時間をかけて話せば、本当に全てがわかった。

 

この時、王都に呼び出されていなければ、彼はもう敵がなかった。

 

 

魔王軍から紅魔族、邪神、悪魔…何より予言だ。

 

彼の知りたいこの世界のあらゆることがめぐみんの『旅』で詰まっていた。

 

 

初対面時、レベル6の13歳のめぐみんを彼は勇者と讃えながら、まだ過小評価していた。

 

いや、めぐみんの能力や性格でいえば、彼の過大評価というのが正しい。

 

彼は親馬鹿に等しいくらいめぐみんを評価していた。

 

 

だが、めぐみんの旅路は彼からすれば、有り得ない可能性が詰まっていた。

 

 

彼が生前の経験則から推定邪神と思っているめぐみんのペット『ちょむすけ』は、本当に邪神の片割れであることがわかる。

 

なお、彼は毎日この小動物に恐れられている。彼はショックだった。

 

 

彼は、魔王軍幹部に爆裂魔法を使える邪神がいることにまで気が付ける。

 

めぐみんの恩人と戦わないといけない運命にこの段階で気が付けた。

 

 

 

彼が最初から狂人と思われていなかったら、彼に最低限以上の幸運があれば、

 

彼は邪神ウォルバクを魔王軍から切り離すことも可能だった。

 

 

 

彼に幸運が最初から最低限あれば、バニルとの心理戦がメインになった。

 

彼の頭脳戦で魔王軍を丸裸にして対処可能だった。彼は正攻法で魔王軍と対峙し出した。

 

 

更にめぐみんとゆんゆんの関係性と彼のすれ違いであった。

 

ゆんゆんが彼を見捨てたわけではないと確信できた。

 

 

めぐみんの友人セシリーの存在とその騒動。

 

彼は一瞬でアルカンレティアにデッドリーポイズンスライムが来ることを察せてしまう。

 

 

彼がその事実に気が付いた時、アクシズ教は永遠の繁栄が約束されてしまう。

 

彼は演説の天才だ。神でも悪魔でも利用する外道だ。

 

 

アクシズ教最高司祭ゼスタはアクアが彼の仲間にいる以上、彼の言うことを聞いてしまう。

 

なお、いなくても聞いてしまう。ゼスタは人間ならセーフだ。

 

彼は悪魔以上の悪魔だが、悪魔ではない。

 

彼は、アクアも偶に疑うレベルで悪魔だ。

 

彼の前世は、アクアですら読めない空白が点在しているのも拍車をかけていた。

 

 

ゼスタは、オークでもオーガでも愛でられるタイプの変態だ。

 

皮肉なことに、彼はゼスタなら理解可能だった。

 

 

全部守備範囲の変態なら彼には頭脳で理解できてしまう。

 

そう、『全部』なら可能なのだ。

 

 

彼はこの世界の異端児ゼスタを理解してしまうことができる。

 

最も、普通の変態なら彼の想定外を行く。故に、ゼスタ以外のアクシズ教徒は制御不能だ。

 

 

そして、ゼスタは魔王関係者と疑われた際に、別にいらなくても良くない?

 

等と全アクシズ教徒が思い込み、次期最高司祭選挙をやり出すくらいには影響力がない。

 

 

勿論能力はある。ゼスタは、人間ではこの世界で二番目にプリーストとしての実力がある。

 

変態は強かった。アクアの神託を聞ける時点で人間の限界値を突破していた。

 

 

ゼスタは彼の世界の、時代にはもういない純粋無垢な『聖人』だった。

 

彼は聖人を完全に理解できてしまう。彼は聖人を理解することが本当に可能だった。

 

 

…アクシズ教徒は彼の戯言を間違いなく鵜呑みにする運命にあった。

 

彼はまだこの事実に気が付いていない。

 

 

後に、この恐ろしい事実気が付いた彼はバニルとの旅を敢行した。

 

休暇というのもあったが、アクシズ教徒の弱点を探る旅だった。

 

アルカンレティアに攻め込む最初の提案者、魔王軍幹部セレスディナを彼は絶対許さなかった。

 

 

 

なお、アクアには有り金を全額寄越せと言われた。

 

彼は異世界転生初期に出会った乞食を思い出した。

 

アレはもうアクシズ教の破壊僧だと思い始めた。

 

 

実際合っている。セシリーはアクアを探しにアクセルに来ていた。

 

だが、彼はまだこの不味すぎる事実に気が付けない。

 

 

 

アクアが金を欲する理由は、隣国のエルロードまで行ってカジノで数倍にする。

 

そして、アクシズ教の教会を再築したいそうだ。

 

 

彼は流石に激怒した。

 

 

アクアの幸運値なら有り金使い果たすどころか逆に借金になると確信していた。

 

しかし、アクシズ教会を再建したい程度なら…と彼は考えてしまった。

 

 

彼はアクアの“些細な願い”を叶えてしまった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

???8月17日9時~未来(異世界転生時~)

 

 

彼どころかアクシズ教の上層部しか知らない事実があった。

 

 

めぐみんはさらっと聞いたが、もう覚えていないくらい馬鹿げた荒唐無稽のお告げだった。

 

 

アクシズ教団の最高司祭ゼスタは、アクセルの街に女神アクアが光臨したと神託を受けていた。

 

 

「『お金を貸してくれると助かります』」

 

ゼスタ、つまりこの世界の聖人がこう断言していた。

 

女神アクアはアクセルにいて、今金がないと言っていた。

 

 

彼のこのアクアの些細な我儘を聞いた行為は、完全にアクシズ教に勘付かれてしまう。

 

…アクシズ教徒の弱点は金だ。アクシズ教徒のほとんどは散財するから金がない。

 

アクセルのアクシズ教会はボロボロも良い上に、今の管理者も杜撰だった。

 

 

雑草以上の生命力を誇るアクシズ教徒には、教会が襤褸でも新築でも祈りに差はない。

 

絶望を乗り越え気楽に生きる。アクシズ教徒の本質はそれだと彼は思っていた。

 

奇しくも、前世での彼の信義に似ていた。

 

なお、その方向性は全然違う。彼が指摘されたら誰であろうがキレる。

 

 

故に、教会に関しては、アクアが気にする以外の価値はないと彼は推測していた。

 

 

だが、彼はこっそり恩人のアクアの為に協会を少しずつ治していた。

 

…これならアクアにすらバレなかった。彼の印象操作は完璧だった。

 

毎日ほんの少し治していた。誰にも気取られずに少しずつだ。

 

 

彼のこの行為がバレれば、アクアが調子に乗るから彼は絶対このことを秘密にしていた。

 

 

だが、アクアは丁度二度にわたる魔王軍幹部討伐及び彼の看病をしてくれていた。

 

彼の中で、アクシズ教会アクセル支部の再建の口実ができてしまった。

 

 

アクアの願い通りにアクセルのアクシズ教会を再建などしたら、アクシズ教団は気づく。

 

 

あの時の、最高司祭ゼスタの世迷いごとは正しかった。

 

アクセルに派遣したセシリーは偶々遭遇できなかっただけだ。

 

この時点で教会関係者は確信してしまう。

 

 

彼はこの脅威をわかっていない。

 

最悪なのは、アクセルより帰還した彼の言う破戒僧、自称美人プリーストのセシリーの修行は一部を除き終わっていた。

 

彼の知らないアクセルでの経験でセシリーは努力していた。

 

ゆんゆんもセシリーと関わりが薄いのであまり知らなかった。

 

彼の言う勇者めぐみんとのやり取りで成長したいと願った。

 

めぐみんの姉を自称する聖職者は本気で取り組んでいた。

 

セシリーが習熟したのはまだ座学のみだ。

 

実習はいうまでもない。女神アクアその人がアクセルにはいた。

 

戦闘訓練は彼が面倒みることになる。その理由は簡単だった。

 

 

アクシズ教団的にはアクアはこの世界に遊びに来ていると思われている。

 

 

これだけが、彼に取って唯一の救いだった。

 

しかし、彼は確実に幸運が欠如していた。

 

神器による補正は飽くまで外付けだ。運命を持つ者の幸運には断じて届かなかった。

 

 

彼の前世での『救済者』。

 

この世界にかつて存在した勇者と同じ姓を持つ老人の幸運値には彼は決して届かない。

 

 

何よりセシリーはめぐみんの友人だった。

 

少なくとも彼はそう判断してしまう。彼からすれば完全にめぐみんの友人だ。

 

勇者めぐみんの姉を名乗るのは断じて許さないが、友人だ。

 

アクシズ教団のセシリーは、彼が思っているただの破壊僧ではない。

 

彼に取って仲間の友人がどれほどの価値を持つのか。

 

 

…彼は少なくとも国に喧嘩は売れた。

 

何より恩人のアクアへの使徒を彼は無碍にできない。

 

 

…この真実にいち早く気づいたバニルの嘆きぶりは凄まじかった。

 

よりにもよって、またあの女神がやらかした。

 

最も、バニルは彼と同等の精神力の持ち主だ。

 

だから、バニルもこの面倒臭い事実に関して表には断じて出さない。

 

 

下手に言ったら、悪化することが容易にバニルには計算できた。

 

バニルの不幸はその明晰な頭脳にあった。

 

 

彼と同様に丁度良いおもちゃのダストに八つ当たりするのもやむ負えない。

 

ダストの不幸はまだ序章だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

11月18日10時頃(自宅)

 

 

そんな衝撃の裏話を知らない彼は、アクアの願いは聞き届けると約束した。

 

だが、エルロード行きはダメと言い切った。

 

 

アクアは大変喜んでくれた。

 

彼としてもアクシズ教会を治す丁度良い口実になったと思った。

 

彼はアクシズ教を認めないが、散々利用していた。エリス教よりも利用していた。

 

 

多分、彼のこの行為から波及した変態の繁栄という名の絶望は彼への神罰だ。

 

 

なお、アクアは狂人である彼の仲間なので、女神アクアと名乗っても一切信じられていない。

 

 

彼はバニル戦で仲間内には、勘付かれたと思った。

 

だから、正直に話そうかなとも思った。

 

だが、どうもバニルはただアクアに合わせて言ってます的な感じだったらしい。

 

 

めぐみんとダクネスが行っていたアクアの対応で彼は確信した。

 

完全に女神に対する扱いではない。

 

 

このとき、彼は自分の行為を完全に棚に上げていた。

 

彼もアクアに甘いが、女神に対する扱いではない。

 

割とアクアに対して口頭では容赦ない。

 

最も、彼の貶すときは、大概アクアが悪い。

 

 

アクアにエルロード行を拒絶した最大の原因は破産とかアクシズ教が嫌いだからとかそういう次元ではなかった。

 

 

彼は、まだカジノ大国エルロードの宰相ラグクラフトの分析が終わっていなかった。

 

 

彼の当初の想定通りなら頭の良い馬鹿だった。

 

だが、エルロードを調べていて気が付いた。

 

 

宰相が彼の想定通りならエルロードを、滅びの運命にあった国を救った救世主だった。

 

 

宰相ラグクラフトを改めて調べた彼は自分自身を疑った。

 

この『偉業』をなしていたら、彼の想定通りの人物ならアホの極み過ぎた。

 

 

彼の計画の想定外を警戒していた。

 

これは罠だと思った。彼は魔王軍の情報戦ではないかと警戒した。

 

 

…彼は自らの思い込みで危うく、人類の貴重な人材を失うところかもしれないと考え直した。

 

当初の異世界転生後の二週間程度であった彼の推察通りなら、エルロードを再建した宰相は魔法軍の手先だった。

 

だが、彼の初期とは想像が違う程に、宰相はエルロードを再建し過ぎていた。

 

二週間では気が付けないレベルの偉業だった。

 

彼が敬意を抱くレベルの財政再建を成していた。

 

更に、最大の赤字の原因であるカジノを逆に利用して、巨万の富をエルロードに齎していた。

 

 

…彼からすると余りにアホ過ぎた。有り得ない偉業を宰相ラグクラフトは成していた。

 

 

これは完全に高度な罠だと彼は確信した。彼はエルロード侵略計画を先延ばしにした。

 

 

寧ろ、婚姻外交を進めるべきかと考えた。

 

ベルゼルグ王国とエルロード国の外交方針は彼も知っていた。

 

 

要は金と武力の関係構築だ。彼からしてもまともな婚姻外交だった。

 

彼からすれば理想の外交方針だ。

 

 

これに大反対しているクレアとかいう護衛は恐らく変態だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

10月21日~現在。23時以降(ペーパーカンパニーからレイン間)

 

 

レインの手紙からでも察せた。バニル討伐前のお手紙だ。

 

『債権者が私になりましたこれまでのような暴利、金利はいらないですよ』

 

という優しい彼の言葉を書き連ねた。

 

 

レインは大変恐縮した内容の手紙を送り返してきた。

 

レインの反応から推察するにどうも何か要求されると警戒していたようだった。

 

彼は利害関係なら洞察力の化け物だ。直ぐに察した。

 

 

だから、彼はレインの、普段のお仕事だけ聞いた。

 

彼は優しかった。…彼は悪魔以上の悪魔だった。

 

 

この行為は極々一般的な内容だ。

 

普通に善意の債権者がレインの仕事ぶりを通して債権の返済可能か見極めているような感じだ。

 

現代の税務関係者やローン会社が良くやる行為だ。

 

収入や現状の財産を確認する当たり前の聞き取り調査だ。

 

だが、レインは彼という劇物に与えてはならない情報を提供してしまっていた。

 

 

彼はレインからの聞き取り調査の結果、この世界での経験則からクレア変態説を半ば確信した。

 

 

アイリス姫に変態並みの忠誠心を持つ優秀な人材だ。

 

 

彼はこの世界に来てから変態ばかりでウンザリしていた。

 

前世には決して戻りたくない。

 

だが、彼からすればまともな人物がゆんゆんと他数名を除けば、悪人しかいなかった。

 

どこかしら、皆変態性を持っているように彼には思えてならない。

 

 

前世は狂人に満ちていた。そして今世では変態に満ちている。

 

 

…今世の方が遥かにマシだった。何より仲間がいた。

 

 

彼は思考を戻した。

 

仲間との思い出は恐らく消滅のその時まで彼の宝に変わりはない。

 

 

だが、婚姻外交だ。これをどう乗り切るかで彼の計画も代わって来た。

 

 

別に放置するのも構わないし、今は仲間達との関わりが重要だと思う。

 

だが、最低限必要限の方針はないと行けなかった。

 

 

エルロード国のレヴィ王子は、ベルゼルグ王国のアイリス姫の婚約相手だ。

 

 

彼は前世の経験則で不穏な動きの始まりを察していた。

 

当初は宰相ラグクラフトを疑った。彼に取って、一番分かりやすい国の中枢にいた。

 

というか、宰相で国が回っていた。ほぼ全部、宰相が支配していた。

 

宰相の許可がないと、王族の強権しかそれに歯向かう方法がなかった。

 

 

彼が考えた魔王軍の戦略は、魔王軍との仲介だった。

 

エルロードを魔王の中立ないし共存共栄を謳う大戦略だ。

 

これが成功すれば、ベルゼルグ王国は孤立無援だ。

 

彼でもそうしたが、この路線はあまりに露骨過ぎた。

 

宰相がいないと話にならないくらい支配されていた。

 

ブラフが一つもない。彼なら数十のブラフを用意し反対勢力すら作る。

 

寧ろ、半ば、公然の事実にして、隠蔽不可能で人類を裏切る選択肢しかなくした。

 

こうすれば、国が亡ぶから王族だろうが魔王軍に編入することを認める他なくなる。

 

 

だから、最低限以上の幸運が手に入った以上は、さっさと宰相を排除しようとしていた。

 

 

彼からすれば、この一手を成されれば、人類戦力は著しい弱体化を免れない。

 

彼ですらも勝てなくなると思っていた。

 

 

しかし、宰相ラグクラフトが魔王軍に本当に騙されている可能性を彼は考え始めた。

 

後、二年もあればエルロードは魔王軍の手に落ちてしまう。

 

彼には最低限方針を固めないといけなかった。

 

侵略か婚姻か、それとも第三の道か。

 

 

彼はアイリス姫とベルゼルグ王国を直接行って見極めた方が早い気がしてきた。

 

 

彼は断じて王都のお誘いなど拒否するつもりだった。

 

名誉は彼の行動を阻害した。バニル討伐でもう狂いに狂いまくっていた。

 

王国全体がかかってこない限り、彼は無視するつもりだ。

 

返事のお手紙だって頑張って書いたのだ。

 

あれをそのまま受け取らないのはできる人材がいる証拠だ。

 

バニル討伐の功績で招かれたら、エルロードの不味い状況を相談する人材がいない可能性すらあった。

 

一介の冒険者風情への対応で彼は王国を見極めようとしていた。

 

 

最も、クレアという変態は彼の想定外を引き起こした。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

11月23日12時頃(自宅)

 

 

彼はレイン君にしっかりお手紙を書いた。

 

王都に強制的に招かれるとかあったら、下手人に宣戦布告するから教えてねというお手紙だ。

 

 

このタイミングで手紙の入れ違いでも起こらない限り、

 

きっと恩人の彼を王国の魔の手から防いでくれると彼は思った。

 

 

レインがしなかった若しくはできなかった場合は、全力で仕返しする。

 

王女様を見極めてとっとと帰るが、下手人は断じて許さない。

 

 

彼は、ベルゼルグ王国の王都等よりも、宰相が人間かドッペルゲンガーか何か迷っていた。

 

彼は人狼というゲームは知っていたし、そういう茶番を前世で演じられたこともあった。

 

だが、これは悩んだ。余りにあからさま過ぎて、彼の手を止めた。

 

 

彼の知る魔王軍は、地獄の公爵バニルすら魔王軍幹部の超絶軍隊だからだ。

 

 

彼の想定では、隠し玉に潜在能力バニルクラスの化け物の魔王軍幹部候補生が最低数十人はいる。

 

パワーレベリングをして緊急時には人類に攻め込むと半ば確信していた。

 

 

こんなことをされたら、彼の計算上ベルゼルグ王国の王族は時間稼ぎにしかならない。

 

ただの魔王軍幹部候補生なら余裕だ。ベルゼルグ王国の王族は戦闘民族だ。

 

エルロードがベルゼルグ王国を『野蛮』と評するのもわかる。

 

それくらいベルゼルグ王国の王族は、逸脱した戦闘能力だった。

 

 

最も王族は、彼が行う搦手に弱すぎる戦術しかとっていない。

 

彼はアイリス姫を誑かせば正直、将来的に正攻法で勝てるような気がしていた。

 

 

だが、それは断じて有り得ない。彼の変態の名はアクセルで知らぬ者はいない。

 

普通に考えてこんな馬鹿を一国の姫が呼ぶこと自体おかしいと彼は思っていた。

 

 

アイリス姫は、まだ幼い。戦場に兄も父もいつも元気で攻め込む野蛮人だ。

 

姫ならば、護衛も使用人も多数いるが…それが寂しくないかと言われると彼には疑問だった。

 

少なくとも、恵まれてはいる。レインやクレアなど忠義に満ちていた。

 

しかし、彼などを呼ぶというのは、ひょっとしたら『孤独』なのかもしれない。

 

彼は、ふと思った。籠の中の鳥は辛かった。流石にレインも姫のことはシークレットだ。

 

彼に中々書いて寄越さない程度には良識があった。

 

 

だが、彼はそれを確かめる術はないし、今は忙しい。

 

彼は本気で予備戦力、魔王軍幹部候補生を警戒していた。

 

 

アイリス姫に確認する時間などない。彼は仲間の確認で精一杯だ。

 

知らない姫を優先する機会がない。だが、彼は気になった。

 

 

どうやっても、現状、バニルクラスの魔王軍幹部候補生が数十人来たら詰みだ。

 

これに対応できるのは、彼の計画のみだった。アイリス姫の確認などしている余裕はない。

 

 

自己改造がなくなった以上、彼には数か月か長くて一年しか準備期間がなかった。

 

彼は人類の追い詰められ具合を嘆いた。彼には余裕ができてもまだ時間がなかった。

 

 

彼は魔王軍を絶望的な脅威と確信していた。

 

 

彼に取って魔王軍は、人類を追い詰めてなお侮らない確実に攻めてくる軍隊だ。

 

魔王軍幹部ベルディアは女神の光臨という不確実過ぎる対処に凄まじい進軍スピードで派遣していた。

 

 

彼ならあれ程まで急がない。

 

急ぐ理由がなかったし、じっくりとアクセルを調べれば良かったはずだ。

 

 

ベルディアがアンデッドとはいえ精神的疲弊はある。

 

だから、あそこまで急がせる必要がなかった。

 

 

彼は、魔王軍があの高潔な騎士の鑑であるベルディアを使い捨てできる軍隊だと推測していた。

 

 

魔王に絶対の忠節を誓う。

 

いざとなれば物語同様の、魔王と勇者の決闘である一対一の大原則すら破棄する超越者だ。

 

 

…魔王の為に、即座に自害できるレベルで、捨て駒にすらなるほどの忠誠を誓う圧倒的な軍隊だ。

 

 

彼はそんなものに正攻法で勝てる自信はなかった。

 

彼は対抗するために、計画を立てた。

 

心理戦、情報戦、技術、奇襲、搦手等。

 

 

…前世のあらゆる経験の下に作成した。全てに対応できる計画だった。

 

 

彼の計画上、そのバニルクラス数十人を暴く必要があった。

 

情報戦だ。彼はバニルをこの段階で排除できた事実に感激していた。

 

同時に、計画外のことをさせられる今の実情に少し焦っていた。

 

彼は楽しんではいたが、焦ってもいた。

 

 

だから、彼は計画を最低限確認した。

 

彼に取って思考の放棄にも等しい。

 

 

…対国家レベルの情報工作員地獄の公爵バニルを排除できたから可能だった。

 

彼の想定外が発生した時のみ発動可能な最低限にした。

 

 

彼の想定する魔王軍幹部デッドリーポイズンスライムをアルカンレティアに攻め込ませる。

 

アクシズ教徒を世界に撒き散らすような愚を犯さない。

 

 

彼がアルカンレティアを落とすなら、もっと確実な手を使うからだ。

 

アクシズ教徒を世界に撒き散らさない。究極の一手が、彼が魔王軍の立場なら存在した。

 

 

それは費用対効果が合わない。彼が魔王ならしない。

 

 

何よりマッドサイエンティストの魔王軍幹部がアルカンレティア対策のため、開発に専念しなければならなくなる。

 

 

彼は究極の改造人間である新人類、紅魔族対策にマッドサイエンティストは現在取り掛かっていると警戒していた。

 

魔法さえ、どうにかなればあの偉大なる研究者の遺産、『紅魔族』は詰む。

 

 

彼でも思いつくことを強大過ぎる魔王軍の専門職の頭脳が思いつかないはずがない。

 

 

だから、彼はアルカンレティア攻めをほぼほぼ有り得ないと思っていた。

 

勿論、彼は、対策はしている。

 

アクアがいるからアルカンレティアに等くれば魔王軍幹部は秒殺可能だった。

 

 

彼は魔王軍幹部のマッドサイエンティストを警戒した。

 

恐らく、魔王軍開発部門の責任者だ。排除可能なら即座に実行したい。

 

 

彼の技術漏洩はこの時代の存在では絶対有り得ないと断言できた。

 

女神エリスやバニルですら彼の情報防壁の最後のラインは勘付かなかった。

 

彼は断言できた。心が読めて、現在・過去・未来を読めるチートを誤魔化せた彼に、この世界に情報戦で勝てる者は存在しない。

 

 

だが、彼の計画上推定するの魔王軍幹部なら容易に技術を再現できてしまうだろう。

 

彼は専門家ではない。彼は飽くまで高校生だ。

 

 

例え前世で少しおかしかったとはいえ、その道のエキスパートには勝てない。

 

現に、彼は常に専門家に任せていた。オカルトとか知らん。

 

 

…頭の良い馬鹿を思い出した。どの道アクア以下の神だろう。忘れるに限った。

 

 

彼の計算外でアルカンレティア攻めが敢行された場合は、彼の予測不可能な変態すら制御可能な人材が必要だ。

 

彼以上に精神分析に長ける人材が魔王軍にいるということになる。

 

彼は専門家ではない。自らは悪意しか感知できない異物だと確信していた。

 

 

善意の変態を分析できる魔王軍幹部が入れば彼はもう完全に詰んだ。

 

現代でも不可能な所業を、この時代のこの世界にいないことを彼は否定しきれない。

 

 

彼の想定外でバニルは来ていた。

 

彼の予測を上回る計画外で現に来ていた。

 

 

ベルディアも来た。彼の想定よりずっと早く来た。

 

魔王軍が転生前の空間で想定したよりも遥かに強大なのは確実だと彼は認識していた。

 

 

彼が魔王なら、魔王軍幹部ベルディアやバニルをここで投入しない。

 

 

やるなら魔王軍幹部による複数の不意打ちで確実に仕留めた。

 

最も、バニルは想定内だ。魔王軍に忠節があまりないのは計画通りだからだ。

 

 

彼は心を読む、精神分析のプロであるバニルを倒した。

 

だから、今から最低数か月程度の時間は稼げたと彼は確信している。

 

魔王軍ですら、バニル程の絶大な能力を持つ情報工作員及び精神分析官を無くした以上、侵略計画が一時中断すると彼は推測していた。

 

 

少なくとも、現段階の作戦以外は中止するのが定石だ。

 

彼は魔王軍が理性的な軍隊でかつ人類に勝っている段階での隙を捕らえた気でいた。

 

 

彼の推測は正しいが、間違ってもいた。

 

 

先ず、潜在能力がバニルクラス数十人の魔王軍幹部候補生は断じて有り得ない。

 

 

確かに魔王軍幹部候補生はいることはいるが、今の彼でも対処可能だ。

 

効率的なレベルアップをした彼は、その才能と神器による幸運補正込みの搦手なら魔王軍幹部候補生の奇襲にも対応できた。

 

 

彼の想定は断じて有り得ない。あっていいはずがない。

 

 

バニルは一応、魔王と親しかったが故に、堂々と彼に語って聞かせることができない。

 

悪魔のプライドがその想定を否定できない。

 

 

…だから、女神とその仲間達にヒントはくれてやった。

 

ネタ種族の小娘は、彼の知りたい情報で満ちていた。

 

すれ違いがなければ、彼の知りたい全てがわかった。

 

魔王軍を再計算可能だ。彼の才能ならほぼ魔王軍を見極められた。

 

バニルからすれば、彼に目をつけられた魔王軍はどうあがいても完全に詰みだった。

 

寧ろ、誘導しないと魔王軍は壊滅どころか消滅しかねない程に彼の計画は完璧過ぎた。

 

 

バニルの計算上、彼の計画に魔王軍が対応するためには、最低三倍の戦力が必要だった。

 

バニルからすれば、エルロードの件等あってもなくても変わらない。

 

 

バニルは彼のおかしさを指摘できない。既に女神と取引してしまっていた。

 

 

 

脅威を想定しながらも、彼の計画は一時中止だった。

 

バニル討伐と仲間の疑義は彼に取って利と不利両方が存在した。

 

時間をかけて『素』で対応しないと不味かった。

 

 

魔王軍は奥の手を数十枚持つ、理性的な軍隊だと彼は考えていた。

 

 

なお、彼の想定している魔王軍とは、第二次大戦状況で日本がアメリカに勝つくらいの無茶ぶりだ。

 

しかも最初から本気のアメリカを想定していた。勝てるわけがない。

 

 

1920年代後半に奇襲すれば、その時代のアメリカ陸軍が壊滅的だ。

 

理論上は勝てなくはない。戦前日本でも理論上は勝利可能だ。

 

 

…有り得ない仮定だが、備えていない軍隊なら確実に勝てた。

 

アメリカと言えども、備えるためには数年はかかった。

 

 

だから、彼は急いでいた。

 

魔王軍の再編が行われる前に勝つための方法を求めていた。

 

彼は滅茶苦茶な想定をして、しかもそれで勝っていた。

 

 

軍事・経済・政治の全てを計画に組み込んでいる彼の計画はこの時代の世界では、対処不可能なレベルで極まっている。

 

彼に勝つためには、彼自身を暗殺するしかない。

 

だが、魔王軍でも、人類でもアクアがいる限りそれは不可能だった。

 

アクアはチート過ぎた。彼の無限蘇生ができれば、魔王軍に人類は確実に勝てた。

 

 

彼もそれをわかっていて、計画の大前提として無限蘇生を組み込んだ。

 

彼はだからこそ、女神エリスに神罰不可避の狼藉を敢行した。

 

 

彼に取っては、それ以外で勝てないからだ。

 

何度も言うが、彼は魔王軍を警戒し過ぎていた。

 

 

彼は完全に『ダークファンタジー』の世界観で生きていた。

 

中世故に情報が不確実な上に不足していた。

 

彼は敵がわからないために、自分ならこうするだろうと計算していた。

 

 

彼は軍事の専門家ではない。

 

心理戦は極めていたが、対個人や狂人団体のみだ。

 

 

流石に、魔王軍と人類の、世界規模の大戦は彼の経験値が不足していた。

 

 

彼は、その想定は有り得ないと断言できなかった。

 

 

軍事の専門家なら気が付く。彼の想定通りの魔王軍なら人類に降伏勧告を出した。

 

理性的な軍隊なら、確実にそれをまず行う。

 

次に、それに逆らった人類を大義名分の下滅ぼし始めた。

 

さらに、大義名分を元に確実に内通者とその事実を宣伝した。

 

こうすれば、人類を滅ぼしたりせずに完全に世界征服が可能だと軍事関係者なら彼に言った。

 

 

彼は前世の軍事家の伝手を探偵消去時に捨て去っているし、専門家でない。

 

彼の素性は独学した優秀な高校生止まりだ。異常なレベルだが、許容範囲内だ。

 

彼は皮肉にも第二次大戦で地政学を独学したが故に、戦略を誤ったヒトラーの状況にあった。

 

最も、彼の場合は警戒し過ぎで、逆のパターンだ。

 

彼は自身が専門家じゃないが為に、必死で計画を立てた。

 

 

彼は、軍事の大前提をはき違えていた。戦わずして勝つことこそ王道だ。

 

彼は、『兵は詭道なり』という孫子の言葉を完全に理解しきっていなかった。

 

 

未来技術のあらゆることが可能なゲームを体験し、軍事に詳しい友達でも入れば彼は無敵だった。

 

 

常道からの搦手が戦争の基本だ。これは西暦が始まる前からの基本原則だ。

 

彼は『搦手』だけで今まで勝てた。

 

魔王軍という彼の才能だけで勝ててしまうが故に、正確な戦力を見誤っていた。

 

 

彼の戦略は正しい。だが、間違っていた。

 

 

現代日本で軍事教育を受けないが為に彼なりに独学の成果を引き出すしかなかった。

 

 

…そんなことを知らない彼は魔王軍対策として裏工作と金稼ぎを行う。

 

転移初期から彼以外の第三者を使い、徹底的に行っていた。

 

 

女神エリスから貰った幸運等なくても両方可能な程の大金が手に入ってしまった。

 

彼はもはやこの世界の経済活動に干渉できた。

 

 

5億エリスもあれば余裕でこの時代の技術革新のきっかけぐらいは作れた。

 

 

問題はどの産業を重視して発展させるかだと彼は考えていた。

 

彼は傾斜生産方式での人類の軍事技術増強を考えたが、専門家でないので困っていた。

 

 

何より、彼はこの世界の貴金属、鉱物の知識がまだ不足していた。

 

何が可能で不可能か、この世界基準ではまだ不明な点が多かった。

 

 

彼の技術が使えることだけは確信していた。

 

ライターやマナタイト爆弾、地雷他多数は作成可能だった。

 

 

大金をさらに増やす手法は、第三者を挟めば彼の幸運はほぼ関係なかった。

 

念入りの調査結果は支配した警察組織と冒険者ギルドで簡単に手に入った。

 

勿論、予想外の儲けは神器による補正と理解していた。

 

事実、幸運等関係なく計画通りに儲かった。

 

 

彼は仲間にいつでも元手以上に返せる手配を整えた。これも計画通りだ。

 

 

大金を利用した計画を彼は敢行できた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

11月20日18時頃(ウィズ魔道具店)

 

 

ウィズに彼は尋ねた。

 

「この計画で理論上は、デストロイヤー討伐は可能かと思います。

 

 …最も、デストロイヤーがアクセルに来ない限りは使わない杞憂に等しい計画だが可能か否か。

 

 ウィズさんに確認したい。私には少々時間が足りない」

 

彼は専門家に尋ねた。魔王軍幹部とはいえ、絶対この会話の内容は漏らせない。

 

 

バニルとの取引もあるが、もう一段彼は噛ませていた。

 

 

ウィズは、彼のバニルすら利用した地雷作戦計画を完全に理解していた。

 

バニルからは苦情が来たが、デストロイヤー何て来ないだろうから別に良いじゃないかと彼は笑った。

 

 

バニルは何かを言い淀んでいた。

 

彼は気になったが、聞かない方がお互いのためだからバニルが言えないと確信した。

 

 

「そうなのだが…我輩の能力をこれほどまでに悔いたことはない」

 

彼はもの凄く気になったが、それ以上の思考を辞めた。

 

 

「…貴様、本当に悪魔ではないだろうな?」

 

バニルから突然、こんなことを言われた。

 

彼の多分記憶か心を読んでいったと推測できたが、突拍子がなさ過ぎた。

 

 

彼はキレた。余りにもバニルの発言は酷い侮辱だと思った。

 

 

「何て失礼な!アクア。俺の前世を知っているのならはっきり言ってやってくれ!」

 

彼はアクアに援護を頼んだ。

 

 

彼は何かバニルと知らぬ間に取引したと思われるアクアを平然と連れ歩いていた。

 

もう、彼は悪魔だろうが、神だろうがセーフなら使わない手はないと判断した。

 

 

アクアも嫌々だった。ウィズはともかくバニルを嫌悪していた。

 

 

だが、彼がデストロイヤー対策の件を全て正直に話したら、何故かアクアは喜んでいた。

 

 

彼には不明だ。全くわからないが、良いなら良いと割り切った。

 

 

「…そうね。人間であることには間違いないわ!」

 

彼は、アクアの沈黙が気になった。

 

何故、今、言い淀んだ。彼は物凄く落ち込んだ。

 

 

「ほう…女神なのに、担当している地域の人間の魂の記憶を覗ききれぬとは。

 

 いやはや失敬!貴様は人間の、それも駆け出し冒険者の街のプリーストだったな。

 

 フハハハハハハ!!」

 

バニルの煽りは彼も真似したいくらいのものがある。

 

だが、彼は完全に戦闘態勢に入ったアクアを止めた。

 

 

ウィズが死んだら彼に取って、人類滅亡のお知らせだ。

 

さらに、アクアが天界に帰れる可能性の消滅だ。

 

 

転生者等いなくても駆け出し冒険者の街アクセルが滅ぼされれば、魔王討伐の可能性が生まれなくなる。

 

想定外の手段で、爆裂魔法を連打する暗殺法などを敢行された場合、最悪の奥の手としてアクセルは必要だった。

 

可能性に懸ける最終手段、アクセルの住民達の意識改革は日頃の演説で進みつつある。

 

彼が塵一つ残らずに滅ぼされた場合、アクアを天界に返すためには、将来の可能性に懸ける他なかった。

 

 

彼のデストロイヤー対策は、現代知識の悪意に転換した作戦だ。

 

ウィズはこの計画書通りなら、ウィズ単独でデストロイヤー破壊可能になると彼に断言した。

 

 

なので、彼は緊急用に最高品質のマナタイトをウィズからの購入という形で行った。

 

地雷も作成して渡した。作成法は極秘扱いだ。

 

ウィズには魔王軍幹部でも魔王軍に漏れないように魔法の契約まで用いた。

 

 

彼の計画の最低限は出し尽くした。

 

後は仲間との交流のみだ。彼は急ぎ過ぎていた。

 

魔王軍がチート過ぎるとはいえ、バニル討伐できた今なら完全に時間の余裕ができた。

 

 

アクアはあからさまにホッとした様子だった。

 

…この分だとバニルは近日の予定くらいはバラしたと確信した。

 

 

バニルの印象操作が上手すぎて、彼にはまだ全容がわからない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

11月21日~26日(アクセル内外)

 

 

彼はめぐみんと二人して爆裂魔法の運用法について語り合ってみた。

 

ダクネスと露店を巡ったりしてみた。貴族令嬢だから、微妙に常識に欠けた。

 

まだ世間知らずのお嬢様だった。

 

彼はダクネスを変態と改めて確信していたが、まともな面を見られた。

 

 

彼なりに全力だった。

 

 

彼にはめぐみんやダクネスと行ったこの年頃の女性の関心はわからない。

 

何より、前世ではぼっちだった。そんなこと言われても知らない。

 

 

彼に取って真面目にめぐみんと関わろうとすると学問という形でしかできない。

 

ダクネスは秘密主義ぶっていたが、彼はとっくに知っていた。

 

アクセルの冒険者も皆知っていた。彼の計画はもう少しで最高の形で完成だった。

 

 

彼はこの楽しみを邪魔されたのは、許せなかった。

 

堂々と宣戦布告してやるし、仕返ししてやると決意した。

 

 

なお、クリスにだけは彼の計画を話していない。

 

ダクネスの正体を知っていることは女神エリスとの対面時に話していた。

 

 

というかキャベツ収穫後、クリスを見かけない。

 

彼はダクネスの友人ということで、クリスの為にバニルと遭遇しないような特等席を準備して待っていた。

 

彼に取って、女神エリスは生粋のサディストだ。

 

なので、この計画は喜んでくれると思っていた。

 

 

彼は女神がサディストとか酷い。

 

きっとあの世で幻想をぶち壊した反応を楽しんでいるのだろうと思った。

 

 

彼は自分をサディストと認識していない。

 

この考えは、自分ならそうすると喜ぶと思っていた彼は気が付けない。

 

彼は自分が悪意で構成されているが、まともだと思っていた。

 

 

彼のアイデンティティは強固だ。論破できる者がいたらそれはまさしく神だ。

 

 

クリスに会えないのは、忙しいからだと彼は推測した。

 

ダクネスから確認したが、忙しいからしばらく来れないと言っていたらしい。

 

 

彼はアルダープ領主の屋敷に義賊が行っていたら最悪だなと思った。

 

最悪、女神と悪魔が対面する。そうすれば国が滅んだ。

 

…国教の神が国を裁くのなら意外と良いかもしれないと彼は少し思った。

 

 

アクアの為にもダクネスの為にも許さないが、飽くまで神としてなら正しいと彼は思った。

 

 

それ以外という思い付きで、彼はゆんゆん同様に異世界チェスをやってみた。

 

 

…彼は計画のことで頭が一杯だった。

 

仲間内でいつもチェスをやっているのに気が付かなかった。

 

正確には見ていただけだ。彼はぼんやり眺めていた。決して混ざろうとしなかった。

 

 

バニル戦復回復後、アクアに挑発されてチェスを本格的にやってみた。

 

 

「あんた勝てないからやらないんでしょう?」

 

彼はこの一言でキレた。彼はアクアの単純な挑発に乗った。

 

彼はアクアに手加減などしなかった。彼がポーンだけで勝ったとき、アクアは泣いた。

 

 

 

アクアは彼に1勝もできていない。無謀な攻めばかりだ。

 

先手と同じ手を打てば勝てるとか戯言をほざいた。

 

彼はアクアでは勝負にならないと確信した。

 

彼は元の世界で言うところのポーン、冒険者だけで勝てた。話にならなかった。

 

 

ダクネスは守ってばかりいた。…一応攻めもできるが、守りが固い。

 

攻めの一手は恐らくダスティネス家の教育の成果と彼は推測した。

 

だが、彼からすれば守りしかできないに等しい。

 

彼はこの世界に来て生粋のサディストと変貌していた。

 

守りで彼には勝てない。ダクネスも勝負にならなかった。

 

 

実に性格が読みやすい。チェスと言う題材は彼の精神分析の一助となった。

 

 

めぐみんとの異世界チェスは割と癖があるので読みやすい。

 

めぐみんの爆裂魔法を防ぎ、よそ見さえしなければ勝てた。

 

異世界チェスのエクスプロージョンは盤面破壊の一手だ。

 

めぐみんは追い詰められると多用する傾向にある。

 

 

彼としては、心を読むバニルと一度打ってみたかった。

 

バニルならばきっと凄まじい手を打ってくると彼は確信していた。

 

彼は頭がパーになりその胸中をめぐみんに言ってみたところ、

 

 

「あなたは、本当に狂人なんですね…」

 

何か凄く哀れな者を見る目で見られた。

 

 

彼は自分が変なことを言っていないはずだと思った。

 

だから、何故こういう反応が返って来るのかわからない。

 

 

彼は客観視に欠けていた。バニルとチェスがしたいくらいならめぐみんに憐れまれない。

 

この時言った胸中に問題があった。だが、まだ気が付けない。

 

 

ここまでの憐みの感情を含む瞳は前世含めても二度目だ。

 

だが、めぐみんはアレと違い邪悪な巫女じゃないし、子どもだ。

 

 

彼は寛大にめぐみんを許した。

 

 

なのに、めぐみんは彼を杖で殴った。

 

 

「シリアス返してください!!」

 

どうしてめぐみんに殴られたのかは、彼には理解不能だ。

 

 

なお、あの邪悪はどうやったのかわからないが彼の腹に風穴開けてきた。

 

杖で殴られる程度、彼の前世と比べたら遥かにマシだった。

 

 

何より、前世ではそういう相手がいなかった。

 

だから、今のめぐみんが彼には本当にわからない。

 

 

彼の知る中で、ホムンクルスを除く、史上最高の改造人間紅魔族の子孫、紅魔族の随一の天才めぐみんは凄まじい可能性に満ちている。

 

 

だが、まだまだ勇者めぐみんは成長する余地があると彼はホッとした。

 

まだ既存の人類である彼が、異世界最高峰の可能性の塊であるめぐみんに異世界チェスとはいえ勝てた。

 

 

彼はまだめぐみんに取って“いらない”存在ではなかった。

 

 

…なお、彼との露店巡りの際、竜の彫刻の入った木刀等にめぐみんは反応していた。

 

中学生くらいの女の子のセンスなのだろうかと彼は純粋に疑問だった。

 

 

何か違うような気がした。…ゆんゆんに会えたら聞いてみたい。

 

彼は前世で異性への興味関心が薄かったことを嘆いた。

 

 

しかし、めぐみんが欲しがりそうなものの特定は極めて容易だった。

 

めぐみんに最高品質のマナタイトを与えてみた。

 

 

めぐみんは大変喜んでくれた。彼も嬉しかった。

 

 

これを使えば、彼がドレインタッチでアクアを経由せずとも爆裂魔法が一日に数発撃てた。

 

 

彼はもはやこれくらいの財を惜しまなかった。時間があった。

 

稼ぐ手段など先物取引から相談や金貸し、ベルゼルグ王国の悪徳貴族を脅せばいくらでもできた。

 

ドネリー家のカレンは彼がダクネスの行った滅亡寸前の一手から助けた。

 

そしたら、カレンは色々話を聞いてくれるようになった。

 

彼としては意図せぬマッチポンプだった。

 

勇者であるめぐみんのプレゼントに反応した凡ミスも良いところのマッチポンプだった。

 

女神エリスも認めない程に、不完全な拙い手段で貴族を滅ぼしたくなかった。

 

ダクネスは真っ当過ぎた。彼なら最高の演出とそこからの救いを用意できた。

 

彼としては物凄く不満な悪徳貴族ドネリー家滅亡だったからカレンを助けた。

 

その辺り事実を説明した。彼としては罪悪感があった。

 

この程度でドネリー家を滅ぼそうとしてごめんねと謝罪した。

 

この諸事情をカレンに確認したら何故か面倒臭くなった。

 

彼は邪神ではない。だが、カレンの中で彼はどう見ても邪神のようだった。

 

 

 

めぐみんはマナタイトを大変喜んでくれた。

 

しかし、彼の想定と違い中々マナタイトを使わなかった。

 

 

彼は聞いた。

 

「それはプレゼントだ。高価には違いないが使ってくれても構わないのだが…」

 

彼にしては珍しく言い切れない。

 

 

彼は女神エリスでの失敗を心から恐れていた。

 

何気に女神エリスは彼の心からのプレゼントを完全に否定したから彼は怖かった。

 

 

「…デストロイヤーがアクセルに来たり、魔王軍幹部が居たりしない限り使いません」

 

めぐみんへのプレゼントは、彼の計画の使い道になってしまった。

 

 

彼は自分の機微のなさを悔やんだ。

 

年頃の少女が喜びそうなもの等彼には分らなかった。

 

 

…だが、どうも紅魔族全体の感性が、彼の前世で見た狂人共と同じようなものを欲するのが薄々わかってきた。

 

 

紅魔族は、恐らくだが、厨二病の合理主義者だ。

 

彼の前世、爆破シリーズの対象になった話の通じない意味わからない自称邪教徒共と感性が似ていた。

 

 

…紅魔族は悪ではないので彼の爆破の対象外、つまりセーフだ。彼は凄くホッとした。

 

めぐみんは彼がこのことを考えていたら、何か悟ったのか警戒していた。

 

別に紅魔族を滅ぼそうだなんて思ってないから安心して欲しいと彼はめぐみんに笑いかけた。

 

…彼はめぐみんに杖でぶん殴られた。

 

 

紅魔族は『養殖』という効率的レベルアップ法だけでない。

 

トルネードとクリエイト・ウォーターを使用した洗濯法等、生活に魔法を取り入れていた。

 

 

ここは彼と似ている思考形態だった。

 

彼も紅魔族の立場なら同じようなことをした。

 

 

…だが、安楽少女の人工栽培等はやっていないようだった。

 

彼は紅魔族が何故それをしないのかわからなかった。

 

 

アレは完全にただの邪悪なのに利用しないなんて勿体ないと言ったら、めぐみんはドン引きした。

 

彼からしても、安楽少女の正体を知らないなら知らないで良いかとその反応を否定はしなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

???(バニル戦三日前)

 

 

 

「この邪悪な存在を私に近づけるな!馬鹿じゃねえのお前!!

 

 言葉が通じないどころか、ただの外道じゃねえかこいつ!!」

 

彼が安楽王女討伐に悩んでいた際に、ドネリー家にて聞き取り調査を行った安楽少女の言葉だ。

 

安楽少女は中々鋭い。狡猾な生き物だった。

 

彼が言葉を発する毎にあれこれ言い方を変えて儚げな美少女を演じるのだ。

 

だが、彼ではなくカレンを罵倒し始めた。

 

彼はモンスター討伐欄に安楽少女を残すわけにいかなかった。

 

アクアは安楽少女に性癖を持っているようだったからだ。

 

 

意味もない殺生を彼は望まない。

 

 

彼は実に優しいだろうと安楽少女に笑みを浮かべ、カレンに処分して貰った。

 

 

彼は悪魔以上の悪魔、外道だ。彼に意図せず逆鱗に触れた安楽少女は即死した。

 

彼に心無い魅了を行うことは死を意味する。彼は洞察力の化け物だ。

 

 

本当に、バニルぐらいでないと誤魔化せない。

 

資料そのものの捏造からの専門家不在の状況を生み出さないと彼に心理戦で勝てない。

 

…幸運の女神エリスは本当に奇跡を連発していた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

11月27日13時頃(自宅)

 

 

彼は、ダクネスの正体は知っていた。

 

 

だが、彼を強制的に連れられる際に、ダスティネス家の名前が使用された。

 

 

彼は激怒した。ダクネスが望まぬタイミングで名前を出された。

 

彼としては全力でダクネスを揶揄う手段だった。

 

しかし、本当に気まずい雰囲気でダスティネス家の名前を彼に出して来た。

 

 

彼はクレアに対して宣戦布告を本気で行った。

 

これで善人でなかったらお茶目で済まさないと決意した。

 

 






※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。