どうやったらこの駄女神に知性を与えられるかについて   作:コヘヘ
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彼は後に激怒した。

バニルも後に激怒した。

彼ら二人にとっての心理戦、頭脳戦はあの貧乏神店主に破壊されたからだ。

だが、結果的に『世界』は救われた。

...彼の計画に余裕ができた。この後の勝負は、偶然に偶然が重なった。

彼がその致命的な隙を見逃すはずはなく、故に、互いに納得のいかない幕引きだった。

まだ、未来。ほんの数日先の話。

彼はまだ、理不尽な商才なき店主(シリアスブレイカー)と会っていない。

だが、もうチェックメイトだった。


第十一話 理不尽な商才なき店主(シリアスブレイカー)

彼は駆け出し冒険者の街「アクセル」の可能性に気が付いた。

 

それは、彼が万が一地獄の公爵と単騎で遭遇した場合、戦う想定での計画の遂行中にわかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

簡単に説明すると四つだった。

 

地獄の公爵バニル討伐。単騎遭遇時での、計画は四段階となっていた。

 

 

…彼に取ってはこれで全ての対策になった。

 

 

たった、四つで地獄の公爵討伐が彼には可能だった。

 

 

一つ、リッチーである可能性があるキールから『ドレインタッチ』を貰う。

 

これは、彼の賭けだった。

 

無くても、魔王討伐の計画自体は可能だが、一部賭けになってしまった。

 

 

彼は、外付けの幸運では、どうしてもここぞというところで勝てないと彼は、薄々感じていた。

 

 

一人の神以外は知らないが、彼の推測は正しかった。

 

神器でもどうしようもない運命は確かに存在していた。

 

それは生まれ持ったものだ。彼にはそれがまるでなかった。

 

 

運命を必然に変える才能を持たなければ、彼は転生後数日で死んでいた。

 

常人なら、本当に一週間持たなかった。彼の幸運の低さはそれほどまでに低かった。

 

ステータスに表せないほどに低かった。

 

 

彼だからこそ不幸で済んだ。

 

前世であらゆる不幸を乗り越え、高校生まで生き延びた彼だから可能だった。

 

 

最も、前世のままでは、生きることは可能でも、魔王討伐は無理だった。

 

 

だが、彼は『奇跡』を得ていた。

 

 

既に二つの奇跡が彼にはあった。

 

彼はまだ二つとも知らない。

 

最初の奇跡はずっと彼の隣にいたことを。

 

…次の奇跡は彼以外の不幸を招きかねない危険性を。

 

 

そして、これから奇跡を超える偉業を成すことを彼はまだ知らない。

 

 

二つ、ドレインタッチを用いて安楽王女の体力を削りまくり、『死の宣告』で抹消する。

 

彼は、裏の検証で死の宣告を自分では、使い熟せないと悟った。

 

…高レベルモンスターなら弱らせないと不可能だった。

 

除草剤からの死の宣告でもできた。

 

 

だから、一つ目は運命を必然に変える手段でしかなかった。

 

ドレインタッチはここでは本来は不要だった。

 

だが、彼は除草剤で弱らせられるか疑問があった。

 

 

全部へのダメージは間違いなくドレインタッチが有効だった。

 

安楽少女の上位互換なら根が森全体にあると彼は確信していた。

 

 

安楽王女は、高経験値モンスター安楽少女の上位版だ。

 

彼にその高経験値があれば、相当なレベルアップができた。

 

 

彼はあらゆるスキルを取得できた。

 

彼の頭脳があれば容易に全て使い熟せた。

 

 

魔王討伐だけであれば確実に彼の計画では可能だった。

 

…彼は確信していた。

 

 

彼の計画の全容を知れば、『地獄の公爵』バニルも可能だと断言した。

 

彼は、地獄の公爵すら、完封できた存在だった。

 

計画の遂行自体は余裕と断言できた。

 

 

だが、公爵なら、彼を確実に止めていた。

 

その計画を遂行しようとするのをだから女神は学ぶことになった。

 

 

公爵が計画の詳細を知れば、彼の可能性をドブに捨てるような行いだ。

 

公爵からすればだが、彼に取ってはそれが全てだった。

 

少なくとも、現段階ではそれしかなかった。

 

 

なお、地獄の公爵は二つ目の可能性を、安楽王女討伐を、絶対に起こさせない。

 

…何故なら、自分を倒せる可能性だからだ。

 

 

敬意を持って全力で潰すことこそ、公爵なりの謝罪だった。

 

 

だから、彼に最後の方法が残されていた。シリアスブレイカーが。

 

 

その段階なら、時間軸なら、まだ彼は捨てていなかった。

 

アクアの『散財』の品を彼は持っていた。

 

 

故に、ここから先は無意味となったが、方法論だけ続ける。

 

 

三つ、爆裂魔法を取得する。

 

めぐみんが爆裂魔法を使用する場面を彼は何度も見ていた。

 

めぐみんを通して爆裂魔法の理論を知った彼なら可能だった。

 

 

安楽王女討伐で取得したスキルポイントで余裕で爆裂魔法が取得できた。

 

 

紅魔族随一の天才がその全てを懸けた理論の集大成を彼は、

 

めぐみんの次にそれを理解していた。

 

 

紅魔族のような改造人間ではない彼は、自分で人体を改造を施していた。

 

 

故に、紅魔族随一の天才に知力と発想だけは追い付けた。強引な努力で可能とした。

 

 

彼は計画のために持てる才を使っていた。

 

有り余る才能を全て消費したから可能だった。

 

 

女神エリスの横やりで修正した今も彼は、ただ変更しただけだった。

 

彼の根本は、まだ変わっていなかった。

 

 

彼を気づかせるのは、『他人』では無理だった。

 

だが、余裕ができれば、時間を稼げた。

 

地獄の公爵という彼最大の脅威を早期に倒せれば。

 

この時の彼は、それは不可能だと思っていた。

 

 

...それは、理不尽な商才なき店主(シリアスブレイカー)がいたから可能だった。

 

 

四つ、禁制の禁術の詰まった結晶体を用意する。

 

寿命を削り、やがて死に至る禁術だ。対価として膨大な力が手に入る。

 

 

この四つだけで可能だった。

 

そして、彼は四つ目を手に入れる過程で自分と同じ思考のできた人間の存在を知った。

 

…『氷の魔女』ウィズだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

四つ目の真実で、ウィズの正体を悟ったので、彼の大概の行為が無駄に終わった。

 

 

だが、当初の計画はこうだった。

 

 

キールから『ドレインタッチ』を貰う。

 

彼に取って、キールがリッチーであり、今もダンジョン奥深くにいるかは本当に賭けだった。

 

 

本来であれば、彼はその可能性がなければ、単独で地獄の公爵と戦闘した場合、負けると確信していた。

 

 

 

戦闘手段の『多様性』の確保。経験値が彼には足りなかった。

 

実戦経験を休みなしに積むためには、どうしてもドレインタッチが必要だった。

 

 

 

彼は自らに人体実験の成果を施し、既に寿命の半分以上を減らして時間は確保していた。

 

 

要はほぼ眠らないで、連続行動していた。一日中ずっと彼は考え続けていた。

 

彼は、計画を遂行するためだけの存在に成りかけていた。

 

仲間が居なければ完全にそうなっていたと彼は確信していた。

 

 

まだ、アクセルの人々や世界を気にする余裕は彼にはあった。

 

 

…アクアに気が付かれないギリギリの範囲で彼は自己改造していた。

 

チート等ない彼は、確実に死に向かっていた。

 

ノイズの『研究者』でない以上、紅魔族のような改造人間化は彼には無理だった。

 

彼は自己改造で紅魔族がチートで改造された人間だと確信していた。

 

そして、ノイズの研究者が最初から壊れていたら魔王討伐できたかもしれないと思った。

 

それくらい紅魔族は、理想の改造人間だった。彼からすれば、完成品だった。

 

 

めぐみんやゆんゆんに失礼だが、

 

彼は紅魔族化の手段が失われているだろうことにショックだった。

 

 

彼の人為的な改造は、チート等ない。ましてや、彼は医者ではなかった。

 

これ以上の改造は、彼の思考どころか生命活動に影響が出るほどの危険水域だった。

 

彼は、思いつく限りの自己改造を行ってしまった。

 

彼には地獄の公爵討伐の時間がないから強引に行った。

 

 

これを治すには、彼が瀕死の重傷でアクアが全力で癒すなどしない限り不可能だった。

 

彼にそんな計画はなかった。少なくとも地獄の公爵まで持ちこたえる必要があった。

 

 

彼は本気で消滅を覚悟しているが故の狂気の選択だった。

 

彼は壊れていた。彼は、『愛』があればまだそこまでいかなかった。

 

 

そのことを、まだ誰も知らない。

 

 

彼は、ふと、ゆんゆんが本当に友達になっていたらと考えた。

 

…彼は、恐らく、この手段は取らなかったと確信していた。

 

前世で手に入れられなかった『友情』を、

 

彼は絶対に手放せなかっただろうと確信できた。

 

それこそ本来の寿命まで、その最後まで彼は大切にしただろうと思った。

 

 

そのために、計画すら捻じ曲げたと彼は確信していた。

 

 

だが、もう後戻りは彼にはできなかった。

 

彼はもう完全に修復不可能な自己改造を施していた。

 

普通の回復魔法すら無意味だった。

 

解呪でも不可能。彼は科学と魔法を組み合わせていた。

 

 

実験体との取引は、あちらから持ちかけられたものだった。

 

 

彼の撒き餌に釣られて来た者達だった。

 

 

…実験体たちの要望は、彼の逆、寿命を延ばすためにだった。

 

故に、あらゆる人員をあちらが用意していた。

 

 

彼は知識や発想を与え、一定の成果らしきものを提供できた。

 

だが、彼は本来の取引とは逆、寿命を減らす『副産物』を彼は欲していた。

 

これまでの実験体たちの成果を対価に取引していた。

 

 

彼は、アクアに内密で全て行った。

 

だが、強引なまでの計画の進め方には、無理が出ていた。

 

ベルディアが想定外に早く来たから彼は、加速度的に自己改造を早めていた。

 

彼に取っては、公爵対策のために。必要な計画のために。

 

皮肉にも、公爵は計画を知ってしまっていた。

 

全容は観測していないが、公爵を倒せる可能性を観測していた。

 

 

彼の全容を把握していないのは、

 

好奇心で彼の可能性を摘んでしまった公爵なりの謝罪だった。

 

彼に取っては何の意味もないが。

 

 

女神エリスは恐らく気が付いていると彼は推測していた。

 

彼の隠蔽工作もそこまで完璧でなかった。

 

自己改造の件は、確実に足はついている。彼は確信していた。

 

 

エリス神は確実に気が付いていた。

 

故に、危険がないか世界への『愛』とやらを確かめに来た。

 

 

これしか、天界規定ギリギリまでやる意味がなかった。

 

ただ、彼のことを知るなら時間をかければ良いだけだから。

 

 

 

彼の推察は当たっていた。この女神エリスの推察に関しては。

 

故に、もう既に半分寿命を減らしていた彼の状況は彼女に取って不味かった。

 

 

最悪なことを彼はしてしまったことに彼はまだ気が付かない。

 

彼は、純粋な女神がどう出るか知らない。女神エリス自身もまだわかっていない。

 

彼は知れば、全力で拒否する。

 

 

…故に、女神エリスは気づかせないだろう。このままでは。

 

女神エリスが愛を知らぬなら知らない方が都合の良いこともあるという発想に至るまで、

 

残された時間はない。...ないはずだった。

 

 

彼は愛に欠ける。故に、女神エリスを蝕んでしまうはずだった。

 

 

このままでは彼も女神エリスも互いに、

 

彼の言う神話の『悲劇』が襲い掛かることは明確だった。そうだったのだ。

 

 

彼は、女神エリスの概念を変える一歩手前の行為を行ってしまった。

 

まだ、誰もそれに気が付いていない。

 

そして、これからもいなくなった。

 

 

彼が加速度的に計画を早めたとしてもまだ魔王軍幹部ベルディア討伐だけだ。

 

まだ、彼の言う修復不可能はまだ修復可能だった。

 

 

女神アクアさえ気が付けば彼を説得できた。

 

彼がその可能性に気が付けば直ぐに修正した。

 

だが、彼らに取ってはまだ理解できない。

 

修正できる最後の分岐点はもう目の前にあった。

 

 

…学んだことを活かす時間のリミットは刻々と迫っていた。

 

 

皮肉にも、彼の想定している計画での学びとテーマと被っていた。

 

アクアの知性が試されていた。

 

 

なお、彼の用意していたテーマは、『できなければ、誰かに頼る』だった。

 

材料は既に揃っていた。彼の問は、そして宿敵が皮肉にもアクアの学びとなった。

 

 

…公爵はもうまもなく到着する。

 

そのタイミングで来たからこそ公爵は詰んでいた。

 

公爵の不幸は大概その貧乏神店主のせいだから。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『未来』の話。

 

 

ある日、公爵は意図せずとはいえ、

 

あの駄女神の『教材』に使われたことに気が付き、怒り狂った。

 

 

彼に取って思考を読もうが未来を見通そうが全て想定内だから問題ない。

 

だが、突然、怒り狂ったバニルは想定外だった。

 

 

『地獄の公爵』バニルは思考を読み、更に過去・現在・未来を見通す能力だ。

 

どう考えても、チート過ぎるが、彼はその天敵だった。

 

 

まともに思考する者全ての敵が彼だったから。

 

…アクアくらいの馬鹿でないと彼には勝てない。

 

彼の知るもう一人の公爵くらいパーでないと勝てない。

 

 

若しくは、変態だ。アクシズ教徒の扱いには二人揃って匙を投げた。

 

 

アクアの醜態をばら撒いても、エリス教の対立感情を煽っても、

 

アクシズ教徒は喜ぶだけだった。

 

 

アクアの醜態に至っては、

 

「さすが、アクア様だ!」

 

アクシズ教徒は、これしか言わない。

 

本当に彼らは正気を疑った。

 

寧ろ、彼らからすればアクアの醜態を感謝されそうになるくらいだ。

 

アクシズ教徒は本当に頭がおかしかった。

 

彼は教義を暗記していてはいた。

 

だが、真面目にあの教義を実践する者の行動原理が理解できなかった。

 

過去も現在もアルカンレティアは彼にとって魔境だった。

 

 

彼とバニルはダストを玩具にして、

 

ある意味、単純なアクシズ教徒を揶揄って、罠にかけて騙し、

 

金を巻き上げるだけが精一杯の抵抗だった。

 

 

アクシズ教徒は基本金がない。大体散財するから本当にその瞬間で生きている。

 

彼からすれば狂気の沙汰だった。完全に頭おかしい。

 

ところてんスライムが主食の自称美人プリーストが典型だ。

 

...それ以外食べないから彼はこっそり餌を与えた。

 

故に、自称美人が家に来るようになっていた。

 

彼は、アクアの教育に悪いからこの自称美人を追い出したくて仕方がなかった。

 

めぐみんの『友人』でなければ、追い出していた。

 

真面目に彼はあの破壊僧に転生初期の段階でも、それ以降会った時も餌を与えるべきでなかったと反省していた。

 

本当に調子に乗るのだセシリーとかいうアクシズ教プリーストは彼にとってアクア以上に扱いが困った。

 

アクアが甘やかされ、教育の成果が失われ欠ける可能性を彼は危惧していた。

 

アクシズ教徒に唯一ダメージを与えられる手段が『金』しかないとバニルと彼は、今回の休暇の旅で漸く気が付いた。

 

 

彼ら二人に取って、最も恐ろしい邪神エリスがアルカンレティアに光臨したときは、

 

ダストに責任を押し付けて全力で回避していた。

 

 

あんな劇物を、休暇の旅に連れてきたダストにはキチンと復讐した。

 

 

…ダストは二人の玩具と化していた。

 

ダストは日頃の行いが悪すぎたレベルを超えていた。

 

 

 

そんな、お茶目な休暇の、後始末を終えた彼はリフレッシュどころか疲れていた。

 

 

彼の計画は遂行中だ。もう面倒臭いことこの上ないが。

 

彼の家は、もう変態の宝物庫になりつつあった。

 

バニルは不愉快な店の理不尽な店主に振り回されていた。

 

彼は未だに氷の魔女とあの残念店主が同一人物と認めていない。

 

彼とバニルの二人は、ストレス発散のためにダスト『で』遊んで、

 

毎日調子に乗っているアクシズ教徒を懲らしめようと、

 

二人して全力で悪意を振り回していた。

 

 

確かに色々面白かったが、

 

劇物の存在やらアクシズ教徒の想定外の変態さに彼らは疲れていた。

 

 

…バニルが意図せずに、教材になっていたことを彼もそのタイミングで察した。

 

彼は突然のバニルの発狂で、アクシズ教徒の振舞いで気が付いた。過去の行いを思い返していた。

 

 

「そちらが先にズルしたのが、全てが悪い。勝てば官軍負ければ賊軍。

 

 世界の命運を懸けた最終決戦とやらで、果たせば良い。

 

 そこまで私は知らないし、興味がない。私からすれば、悪魔も神も似たようなものだ」

 

彼なりにバニルに、悪魔と神に、喧嘩を売った。

 

 

バニルに取ってそれは屈辱以外の何者でもない答えだった。

 

 

「言わせておれば…いい気になりおってからに…

 

 …いいか!敢えて聞かせてやる。

 

 貴様の思考や真意などお見通しの我輩には無意味と知っているが敢えて言わせろ!!」

 

『地獄の公爵』バニルは、今までかつてこれほどまで自分の能力を悔いたことがない。

 

 

彼の真意が裏に隠された複数の意味が容易にくみ取れた。

 

彼は、悪魔にも神にも喧嘩を売っていた。

 

 

だが、この目の前の存在は、可能性に満ちている。

 

 

だが、彼は、それ以上に神と悪魔の天敵だった。

 

バニルだけがそのことに真っ先に気が付いた。

 

その能力が故に。

 

 

「神という連中は日ごろ何もしてくれないくせに、

 

 信じれば救われると嘯き寄付をすれば天国に行けると言って金を毟り、

 

 人に害しか与えることしかしない連中ではないか!!」

 

バニルは人間風情に激怒した。

 

 

これの『答え』が見通せる自分に腹ただしかった。

 

だが、彼の可能性の面白さを楽しむ自分がいた。

 

 

バニルは、彼に勝てなくはない。寧ろ余裕だ。

 

地獄の公爵が、人間風情に全力で大人げなく行けばだ。

 

だが、それは無粋だと公爵は思っている。

 

彼もそれをわかってやっていることがバニルに取っては大変腹ただしかった。

 

 

彼は言った。

 

「だから、私からすればどちらも同じなんだ…

 

 どちらも人に害にしかならないなら、地獄や天界何て、正直、征服してやりたい。

 

 何、簡単だ。互いに争っているなら利用しない手はない。

 

 …条件は全て満たされている」

 

彼の才能は、空前絶後の『魔王』だった。

 

 

神も悪魔も決して恐れはしない。

 

神や悪魔など、支配すれば良いと平然と宣う狂人だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

そんな誰も知らない未来は、今は存在しない。

 

 

今の彼は、愛も友情もない自分には計画しか依るべきところがなかった。

 

 

だからせめて、仲間と笑える『旅』がしたかった。

 

彼がいなくとも、楽しかったと思ってもらえるような旅を彼は計画していた。

 

魔王討伐は、彼の初心。故に臆さない。死も消滅も彼の前には恐怖にならなかった。

 

 

『孤独』になってしまうのが、彼は覚悟していても辛かった。

 

だから、仲間は守ると彼は決めた。

 

さらに言えば、アクアを天界に返し、教育するのは大前提だった。

 

 

 

彼の思いは完全にアクアの逆を行っているのに気が付くものは誰もいなかった。

 

彼は、本当に全てを懸けていた。

 

…それ以外何もできることを思いつかなかったから。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

彼の最大の武器、思考を失わない手段として『ドレインタッチ』が必要だった。

 

…アクアは女神エリスより過激な姿勢ではないと彼は確信していた。

 

 

彼は本当にどうしようもない理由があるアンデッドの扱いについて聞いた。

 

 

「んなもん滅ぼすに決まっているじゃない!」

 

アクアも即答した。

 

だが、それでは不味い可能性に気が付いた彼がどうしても無理か尋ねると、

 

 

「…場合にもよるわ。流石にそんなアンデッドなんていないと思うけど」

 

彼の必死の懇願を聞いてくれた。まだ、ギリギリセーフだった。

 

 

この時、彼は計画を変更できる重要な『ターニングポイント』を発見していた。

 

これが最後の分岐点だった。この扱いで彼の運命が決まった。

 

彼も誰も、公爵ですら気が付けない。

 

 

バニル曰く、忌々しいピカピカと、

 

貧乏神店主の存在のせいで意図せぬ空白が生まれようとしていた。

 

 

バニルの弱点、同格や神は読めない。正確には読みにくい。

 

二人もいれば完全に読めないに等しかった。

 

 

…端的に言って、ウィズのせいで地獄の公爵バニルは負けた。

 

彼からしても大変不本意ながら、アクアの無駄遣いのせいでバニルに勝つことになった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…彼は、寿命を減らし、潜在能力を高める禁術の詰まった結晶体を手に入れる過程で、

 

『氷の魔女』の真実を彼は確信した。

 

 

だが、アクアがウィズを許すかがわからない以上、

 

キールのダンジョンに地獄の公爵が潜む可能性がある以上、

 

まだ、彼は一つ目を変える気はなかった。キールとの接触は変えない。

 

 

キールとの取引の後に、恐らく、キールの望む願望は『死亡』だ。

 

彼はキールの願望を何故か完全に理解していた。

 

彼が愛を手に入れたら、リッチー化できたらキールと同じことをすると確信していたから。

 

 

彼は、キールの亡き後に、

 

爆弾を設置し、誘爆でダンジョン諸共いつでも消滅可能な状態にする気でいた。

 

 

これが彼の、未来を覗いた公爵の逆鱗に触れた。

 

故に、公爵はこのタイミングで彼に奇襲してやることを決意していた。

 

…彼に取っての幸運は、本当にアクアの無駄遣いだった。

 

公爵の不幸は、ウィズという商売人にあらゆる意味で向かない逸材のせいだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

彼は、ウィズの真実を知った。

 

ウィズの経歴の、ほぼ全容を彼は把握した。

 

 

ウィズは仲間をベルディアの『死の宣告』から救うために、禁制の禁術を用いていた。

 

それで地獄の公爵と取引をしたと彼は確信した。

 

 

リッチーになった経緯や思考は流石に、彼には理解できなかった。

 

彼と違い、根から『善人』のウィズの思考はわからなかった。

 

 

だが、彼と同じ思考ができる存在の天才だった。氷の魔女ウィズは。

 

彼は、同じ思考で有りながら、善性のウィズが羨ましかった。

 

 

だから、本来、キールの存在は不要かも知れなかった。

 

だが、彼はダンジョンを崩壊させる罠を仕掛けるためにも行く必要性を思いついた。

 

 

ここが彼の知らない最後の分岐点だった。アクアの知性が試された最初でもあった。

 

悪魔と女神、彼の知らないやり取りが存在した。

 

 

彼はアクアに詳細は伏せつつも、

 

善性のリッチーの存在と、そのリッチーがいないとアクセルが滅ぶと断言した。

 

 

アクアは言った。

 

「一応、話させなさい。…場合によっては見逃すわ」

 

彼はアクアを確かに成長させていた。

 

 

本来の計画ではまだ先だった。

 

お題は、『できなければ、誰かに頼る』。

 

彼もアクアの教育、その計画が前倒しになっていたことに気が付いていなかった。

 

 

善人のリッチーは世界を救った。

 

皮肉にも、リッチーになったせいで捨てざる負えなかった女神エリスの危機すら救った。

 

女神エリスはそれを知らないし、彼もアクアも公爵も知らない。

 

 

完全なシリアスブレイカーの存在。

 

かつての氷の魔女という名の過激派。

 

今や、貧乏神のポンコツ店主が、全ての可能性を収束させた。

 

 

それは、最後の分岐点。本当に偶然に偶然が重なっていた。

 

 

条件は満たされていた。

 

彼からすれば、全ての努力がパーになるほど、ウィズの商才は壊滅的だった。

 

 

…だが、彼の悪意を活かせる最高の商品たちだった。

 

しかし、彼は絶対認めない。こんな反則を。

 

アクアが買った以上、返品は不可能。彼は教育のために敢えてしばらく様子見にした。

 

彼の財布を勝手に使ったアクアを叱るために。

 

 

「お買い上げありがとうございます!やはり私にはちゃんと審美眼が…」

 

彼は、ウィズにアクアお手製の聖水をぶちまけたくなった。

 

割と本気で。

 

 

バニルも全力で賛同したこと間違いなしだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

後で彼の話を聞いたバニルは、

 

 

「…何故、その時にやらなかった!!我輩が許した!そこでやれ!!」

 

本気で彼の胸倉に掴みかかった。

 

 

ウィズは、そのときの体験から、

 

調子に乗って彼すらも活用法を思いつかない『ゴミ』を大量に仕入れてきたからだ。

 

 

例えば、スティールを使えるようになるが、盗賊専用装備。

 

しかも、かなり重くて、盗賊の装備にならない。

 

 

こんなものを一体どこから仕入れたのか、

 

どこで大量に仕入れてきたのか彼すら不明だった。

 

 

大体、盗賊ならスティールを使えて当たり前だった。

 

消費スキルポイントはたった1。

 

…スティールを使えない方が馬鹿だった。

 

彼は、公爵との心理戦を楽しみにしていた。

 

実は、地獄の公爵バニルは、彼に取って一番、正攻法で挑める魔王軍幹部だったから。

 

 

バニルもそう思っていた。未来まで対策する彼の策謀を最後まで見たかった。

 

だが、完全に可能性は収束し、気が付けば、もう負けが確定していた。

 

彼に取っても、バニルにとっても不幸だった。

 

 

…だが、ウィズは世界を救った。本当に偶然だった。

 

それを知る者は、誰もいないが。

 

 






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