どうやったらこの駄女神に知性を与えられるかについて   作:コヘヘ
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彼は確かに人として欠けているところはあった。
だが、彼は気が付かない。気が付けない。

彼が本当に悪意しかないのなら、そもそも両親の『思いやり』の教えを守ろうとはしなかったことを。

彼は裏切られても、何故立ち直れたのか、指摘しようとした者には『知性』がなかった。

だから、彼の最も望まぬ方法を取ってしまった。


幸運の女神は、彼の言うポンコツだった。
彼は、それを思いつけない。故に、幸運が舞い込んだ。

後は、『旅』で気づかせれば良いだけだった。

女神が学ぶことができれば、皮肉にもそれは叶う話だった。

彼はまだ気が付かない。

女神という存在が、それほどまで彼の想定を上回らないことに。


第八話 死の宣告

興奮するクリスを宥めて、彼はクリスから盗賊スキルを教わった。

 

女神エリスの取り乱しぶりに、彼は彼女の弱点を探すのを途中で完全に辞めた。

 

 

この展開は作られた物とはいえ、あそこまで取り乱すクリスは見ていて、

 

彼は罪悪感を覚えてしまった。

 

 

そもそも、自分がいなければ、

 

こういう策略を、女神エリスがしなくても良かったと気が付いたからだ。

 

 

『友人』ダクネスまで利用した計画等、流石に、女神エリスと言えども、

 

心から乗り気なわけがないと彼は思った。

 

 

彼には『友人』がいない。...いなかった。

 

だが、彼に友人が、もし居たとしたら、文字通り世界を、

 

全てを敵に回してでもなりふり構わずに守っただろう。

 

 

生前は、その思いを利用されたと知ったが、

 

彼はその思いからの行為自体は悔いてはいなかった。

 

 

そこまで『同級生』を暴走させた彼自身が一番悪かったと反省していた。

 

 

今わの際の死の瞬間も、現在もそう思っている。

 

彼は、そこだけは確信していた。

 

 

彼が、欠陥品なのは、異世界に来て行った行為の、全てが肯定していた。

 

 

彼は、取引と評して、数々の組織の弱みに付け込み、

 

アクセルをいつでも支配できる体制を整えていた。

 

さらにはいくら本人の同意があったとはいえ、

 

科学と魔法の実験体まで用意した彼は完全に外道だった。

 

 

少なくとも本人が教科書で学んだ知識と照らし合わせれば、そうだった。

 

彼は自分が、人とは違う異常者だったと皮肉にも死んでから『気が付いてしまった』。

 

 

だから、彼は最短で魔王討伐をする。

 

アクアを教育し、天界に返し、全てが終わったら、

 

必ず魂ごと、消滅することを女神エリスに内心で誓っていた。

 

 

これだけは、彼自身ではなく、他人に誓った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

女神エリスから、この神器を貰った以上、この結末は変えられないと彼は確信していた。

 

 

その証拠に、今まで、彼の発言を一度たりとも、女神エリスは否定していなかった。

 

 

彼は、今までの時間があればいくらでも『消滅』を否定できたのに、

 

それをしないというのは、どうしようもないポンコツ。

 

…彼は、それは、アクアくらいしか有り得ないと思っていた。

 

 

故に、女神エリスなら有り得ない。

 

女神エリスは決してポンコツではなかったから。

 

彼女は彼を騙せるだけの智謀と計略ができる『神』だから。

 

…清濁併せ吞む恐ろしい神だから。

 

彼の論理は彼の頭の中の情報だけみれば、ほぼ万人が納得するようなものになっていた。

 

偶然にも。…ある意味、幸運でもあった。

 

 

誰もそのことに気が付くものはいないが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

彼は、クリスを宥めすかせて、帰っていただいた。

 

 

その際に、彼は、クリスにダクネスを必ず死なせないことを約束した。

 

 

「ねぇ!それってダクネスに、死ぬ以外のことはさせる気なんじゃないの!!」

 

クリスの戯言は無視した。

 

そのために、ダクネスを寄越した癖に何を言うか。

 

 

彼は質問と確認してから、クリスにお帰り頂いた。

 

 

本当に彼は、『仲間』を死なせる気など、微塵もなかった。

 

それは、水爆などという馬鹿げた案を考えていた時ですら、論外だった。

 

彼が死んでも、仲間の死など考えたことすらない。

 

だから、世界を裏から支配しようとしたのだから。

 

 

…幸運がなかったというのも多分にあるが。

 

 

彼は、ダクネスのドMは最大限利用させてもらうが。

 

正直、あんなに都合の良い囮等、恐らくこの世に存在しないと彼は確信していた。

 

 

ダクネスは、生まれ持ったステータスも、スキルも性癖も合致している恐ろしい変態だった。

 

彼は、ダクネスを神が生んだ逸材だとすら思える程評価していた。

 

…勿論、悪い意味で。

 

 

彼は、多少痛い目を見させて、ダクネスの性癖が少しでも矯正してくれることを願っていた。

 

 

正直、無理だろうと彼は思った。

 

 

だが、現代日本で学んだ知識を活かせばきっと矯正できるはずと彼は自分に言い聞かせた。

 

彼はそう思い込んだ。

 

だが、正直、匙を投げたかった。

 

 

彼は無理難題を押し付けてきた女神エリスを恨んだ。

 

 

彼にとって、ダクネスの矯正など、

 

神器と引き換えとはいえ、ギリシャ神話並みの理不尽だった。

 

 

ヘラクレスの12の功業並みのキツさだと彼は思った。

 

 

そもそも、彼は精神科の医者ではない。ダクネスに関しては本当に扱いに困った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

クリスから盗賊スキルを伝授された彼は、

 

もはや、魔王軍幹部ベルディアがいつ来ても勝てる状態になったと確信した。

 

 

暇があれば、あのダンジョンにアクアを連れて行くことが可能だと思った。

 

 

もし、キールがただのアンデッドではなく、

 

リッチーだったなら、あのスキルを教えてもらえるかもしれないと彼は考えていた。

 

 

過去の文献を読んで、彼はあの『時代』の魔法使いならば、

 

リッチー化の魔法儀式が確かに存在していたことを知っていた。

 

 

今はエリス教がその魔法儀式を完全に滅してしまっていた。故に、存在しない。

 

いたとしても、恐らく、邪悪な存在しかいないだろうと彼は推測している。

 

 

悪魔と取引でもしない限り再生不可能なロストテクノロジーだった。

 

 

現代では、ほぼ不可能な、取引可能な善性のリッチーがいる可能性が彼には、

 

それしか見つからなかった。

 

 

『キールのダンジョン』

 

その昔、とある貴族の令嬢に恋をした国一番の魔法使いキールがここを作り、

 

立て篭ったという伝説があるダンジョンだ。

 

 

アクセルの街から半日かけて山を登り、麓の獣道を過ぎた辺りにあるというダンジョン。

 

攻略がとっくの昔に終わっている練習用ダンジョンと化していると、

 

彼の裏で取引している、盗賊関係者から念押しされていた。

 

 

盗賊からは、そこへ行っても、意味がないと何度も彼は言われていた。

 

そもそも、その可能性があれば国が動いていると彼は馬鹿にされた。

 

 

だが、ここへ、アクアが入れば、何か反応するかもしれないと彼は考えた。

 

 

彼はその可能性に懸けたかった。

 

希望的観測過ぎるが、彼は、その一手が必要だった。

 

どうにかして、彼は、欲しかった。

 

 

『ドレインタッチ』が。

 

 

これさえあれば、彼は常時戦闘が可能だと確信していた。

 

冒険者の低ステータスでは、必ず限界があった。

 

魔力などを補うためには、マナタイトの外付けやアクアの回復魔法よりも、

 

彼はそのスキルがどうしても、欲しかった。

 

 

だが、それは落ち着いてからだ。

 

まず、ダクネスとめぐみん自身を知らないといけないと彼は思った。

 

 

彼は、時間を急ぎ過ぎていた。

 

そして、彼はそれをわかっていた。

 

 

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彼は、新たにパーティにダクネスを加え、

 

四人のパーティで、何の依頼をするか話し合っていた。

 

 

彼は『ルーシーゴースト』や『安楽王女』等を提案した。

 

 

どちらも、彼の想定する勇者の逸材のめぐみんに非情さを学ばせる素晴らしい依頼だったからだ。

 

 

何故か、どちらも、ダクネスに難色を示された。

 

過激なエリス教徒なら、即座にルーシーゴーストに食いつくと思っていた。

 

 

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彼は、実は、クリスにルーシーゴーストのことを誤魔化して、

 

返す前にこっそり確認したアンデッドや悪魔についてどう思うかを尋ねていた。

 

 

「アンデッドや悪魔なんて滅べばいいと思うよ」

 

即答していた。

 

 

彼は、あまりに醜態を晒す女神エリスを見て、

 

ひょっとして全て自分の勘違いの可能性を思いついた。

 

中世故に、情報が間違っていたら、アクアの言うエリス像が偶々合致していた可能性があった。

 

故にクリスに『過激思想』がないか確認した。

 

 

だが、女神エリスは心の底からそう発言していた。

 

誰から見てもわかる程、彼が何当たり前のことを聞いているのかわからないとキョトンとしていた。

 

彼はここまでの狂信者は前世でも見たことがなかった。可愛らしい顔をした純粋無垢な狂信者クリスだった。

 

彼は背筋が一瞬だけ凍った。

 

彼からしてもこの目の前の存在は恐ろしいくらい狂気に満ちていた。

 

この内心は、幸いにも女神エリスにはバレていないと彼は悟り、ホッとした。

 

何があろうとも、本当に仕方がない理由があったとしても、

 

アンデッドなど、滅ぼしてからあの世で聞き取りを行えば良いと彼に、クリスは断言した。

 

 

彼は、自らの思い違いを恥じた。

 

 

素直にクリスに謝った。

 

今のクリスの行動を見て、彼が女神エリスを、

 

物凄い誤解をしてしまったことを心から詫びた。

 

 

「そう!良かった!…じゃあ、ダクネスに危険なことはさせないでね?」

 

クリスから満面の笑みで言われた。何故かとても嬉しそうだ。

 

 

この勘違いすら、全て計画済みか。

 

ここまで喜ぶ人を、否、神を、彼は見たことがなかった。

 

…彼は怒りよりも恐怖がまた出てきた。

 

 

純粋悪だった。

 

女神エリスは。彼はそう改めて確信した。

 

 

が、彼は、それを絶対に表に出さない。

 

 

彼は、女神エリスに隙を見せたら、不味いと判断した。

 

それほどまでに、彼女の演技力は凄かった。

 

 

彼はそういった内心を億尾も出さずに、答えた。

 

 

「それはそれ、これはこれです。

 

 というか誘導しないと寧ろ危ういかと。

 

 …はっきり言って、ダクネスはもう手遅れでは?」

 

彼の素直な疑問にクリスは目を逸らした。

 

 

あの『女神』エリスですら、彼を完全に騙し、たった今も彼を勘違いさせた、

 

この女神ですら不可能な難題を押し付けられたのだと、軽く絶望した。

 

 

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アクアはルーシーゴーストについては、乗り気だった。

 

だが、アクアは、『安楽王女』に関しては嫌がった。

 

 

アクシズ教の教義には、モンスターについては記載されていないことを彼は知っていた。

 

 

というか、モンスターを性的に愛でるような記載の文献は全てアクシズ教由来だった。

 

…何か関係があるかも知れないと彼は保留した。

 

 

アクアにはどうもショタコンの気があるのは、彼は気が付いていた。

 

…そこだけ、発言に勢いがあった。

 

アクアが語る美少年への特に短パンへの魅力に関しては。

 

故に、もはやアクアが、同性愛のモンスター愛者でも彼は気にしなかった。

 

 

性癖ぐらいは、ダクネスクラスじゃない限り問題ないと彼は思っている。

 

 

「ちょっと。何か今、物凄い勘違いされた気がするんですけど」

 

アクアが突然そんなことを言い出した。

 

 

「いや、さっき、女神エリスが恐ろしい存在でないと勘違いしていたから多分それかと」

 

彼は、神違いだろうと思った。

 

 

「それは、アクア様の従者としては見過ごせない勘違いね!」

 

彼は、アクアからどうも従者若しくは、保護者目線で見られていることに気が付いていた。

 

 

…そう思うなら自重しろと言いたかったが、放置している。

 

 

寧ろ、そのことに気が付いてすぐに、彼の変態化をどう対処するのか、彼自身を教材にした。

 

 

だから、アクセル中から、彼は変態扱いされていた。

 

だが、アクアは彼に対して何もしない。

 

それどころか、彼の知らない新たな性癖疑惑を毎日撒き散らしていた。

 

 

…放任主義も甚だしく、それ以上に酷かった。

 

アクアには、年単位での意識改革が必要だと彼は悟った。

 

 

 

めぐみんは、この依頼を提示してから沈黙した。

 

めぐみんの過去に何か関係があるのかもしれないと彼は察した。

 

 

ルーシーゴーストが信仰している神、

 

傀儡と復讐の神『レジーナ』と何か関係があるのかもしれないと彼は考えた。

 

 

故に、彼はめぐみんのことを知るまでは依頼を保留することにした。

 

 

彼は、流石に、仲間達の嫌がることはしたくなかった。

 

勿論、必要ならやるが。

 

仲間の、生死に関わるレベルなら彼は間違いなくやった。

 

 

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そうやって、グダグダ決まらないで悩んでいる四人。

 

 

すると突然、誰かが来た。

 

 

「すみません!緊急案件です!…こちらへ」

 

ルナ女史から彼は声をかけられた。

 

 

そして、ギルドの奥へ案内された。

 

 

この一連の流れは、あからさまにアクアを始め、皆に怪しまれた。

 

 

…段々集まって来た冒険者たちにも見られてしまった。

 

 

彼の『計画』外のことが発生した時のみ、こういうことが起こる予定ではあった。

 

だが、今回に関しては、彼は容易に推測できた。

 

 

これは、彼にとっても計算外に早い緊急案件だった。

 

 

キャベツ収穫の後に来ると彼は想定していた。

 

魔王軍幹部は。移動距離的に考えて。…進軍速度的に早すぎた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

彼は、冒険者ギルドから、魔王軍幹部ベルディアの接近の報告を受けた。

 

故に、彼は、策を弄した。計画済みの修正案を。

 

 

彼は、最初に、魔王軍幹部ベルディア討伐計画をパーティの四人に話した。

 

受けて貰えるか彼はまだ信用が足りていないことに焦っていた。

 

だが、めぐみんとダクネスは何故か協力を約束してくれた。

 

彼に取っては、ほぼ初対面の畜生に協力してくれることが不思議だった。

 

だが、その疑問は放置した。

 

実は既に彼の計画外、三流勇者の引き留め及び仲間にいれることが破綻していた。

 

あまりにもベルディアは彼に取って早すぎた。

 

ベルディアの進軍スピードは、これまでの文献に比して早すぎた。彼の想定外だった。

 

彼の理論値ギリギリ以上にベルディアは急いでいた。

 

 

彼は計画の話を続けた。

 

無茶苦茶な協力を約束してくれた仲間を疑う真似は彼の信義に反した。

 

だから、彼は敢えて理由を聞かなかった。

 

アクアは遠く離れたところからセイクリッド・クリエイト・ウォーターを打ち込んでもらう。

 

アクアの幸運最低値を、彼は最大限除去したかった。

 

 

だから、アクアには、離れたところから魔法を使ってもらう。

 

 

魔法を打ち込んだら、彼の方向へ、こちらへ来てくれるように言った。

 

 

アクアはこの作戦に抗議した。

 

自分が安全なところで、離れていても、

 

たった『四人』だけで、魔王軍幹部ベルディアとは戦いたくないらしかった。

 

 

だから、彼はアクアを、二人だけの空間に連れ込んで説得した。

 

彼はアクアを捲し立てた。

 

 

「魔王軍幹部ベルディアの狙いがアクアな可能性がある。…これは、飽くまで可能性だ。

 

 時期的に、『女神光臨』で、アクセルに来た可能性がある。」

 

彼はゆんゆんの話からほぼ確信していたが、疑わしい神聖なオーラなどゆっくりと来ると推測していた。

 

彼は魔王軍を舐めていたと警戒レベルを最大限に引き上げていた。

 

 

「…偵察任務だ。ベルディアの目的は恐らく。

 

 だから、できる限り、ベルディアは早く倒したい。

 

 そのためには、ベルディアの弱点の流水を、

 

 洪水クラスで起こせるアクアの協力が必要不可欠。

 

 …というかそれ以外無理だ」

 

彼は最悪の場合の計画として、

 

最初の頃、アクセルにいる初級魔法使い達のクリエイトウォーターで対処を考えたが、不可能という結論に至っていた。

 

流水が弱点でも、ベルディアの身体能力的に当たらない。

 

さらにいえば、駆け出し冒険者の街の冒険者たちでは『死の宣告』の恐怖に耐えられない。

 

彼は、数多の勇者候補たちを文献から消し去った死の恐怖に駆け出し冒険者達、中には中堅クラスもいても勝てないと悟った。

 

彼は、この世界に来てから恐怖の活用法を改めて学んだ。

 

故に、この世界の住民の精神力と元の世界の住民と比較できていた。

 

だから、アクアの洪水クラスの流水しか手がなかった。

 

彼には本当にアクアを頼るほかなかった。

 

彼の計画の初期に来てしまうベルディアに関してはどうあがいても無理だった。

 

 

「だが、アクアには安全な場所にいて貰いたい。

 

 アクアの存在が魔王軍に漏れてしまうのをなるべく避けたい。…少なくともまだ早い」

 

彼のこの発言でアクアの顔色が若干赤くなった。

 

彼はアクアが自分を馬鹿にされて怒ったのかと思った。

 

彼には微妙にアクアが読み切れない。

 

...アクアはころころ感情が変わり過ぎて彼に取って天敵だった。

 

だからこその策もあるが、この初期段階ベルディア戦ではまだ使えなかった。

 

彼はアクアのことをまだ知らなすぎると確信していた。

 

 

「俺が、アクアをアクシズ教と接触させてなかったせいで、アクアの安全が保障できない。

 

 とにかく、時間がない。…俺のせいで本当に申し訳ない」

 

彼は全力で謝った。…アクアを利用することを。

 

 

本当に時間がなかった。ベルディアは彼の想定を上回った。

 

彼は魔王軍の本気がこの段階で出るなど想定外だった。

 

だが、まだ彼の計画の修正範囲内だった。

 

 

彼は最悪の進軍速度からの計画の前倒しでギリギリ対処可能だった。

 

しかし、あらゆる計画上の最大値をベルディアは彼に突きつけていた。

 

 

...彼はこれでも、アクアが断るなら、

 

アクセルを巻き込む形でめぐみんに爆裂魔法を廃城に毎日打ち込むつもりだった。

 

 

街への言い訳は容易だ。彼は狂人なのだから。想定される街への被害、借金すら飲み込もう。

 

それは、本当に最悪だが。それはそれで仕方がないと彼は思っていた。

 

 

「わ、わかったわ。き、協力しようじゃない!この水の女神アクア様が!」

 

彼は、女神発言を辞めろと言いたかったが、

 

納得してくれたようなので、心の底からホッとした。

 

 

 

めぐみんとダクネスはベルディアとの本格的な戦闘まで待機するように依頼した。

 

 

彼は、最初にベルディアと一人で話をすると、三人に聞かせた。

 

 

流石に、これは皆、反対したが、これは彼の最初の計画通り。

 

 

最低限以上の幸運、爆裂魔法の使い手、剣士か騎士。それと金。

 

この四つがあれば、余裕の計画だった。

 

 

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先ず彼は、なりふり構わず、闇金から金を借りた。

 

低金利で借りた。取引等容易だった。

 

というか、彼は途中で面倒臭くなり、支配した。

 

アクセルの裏社会の住民の、恐怖の対象の一つである闇金を。

 

神器による幸運により正面から取引できるのだから、

 

支配した方が楽だと無茶苦茶なことを考えていた。

 

 

さらに、計画通り、冒険者ギルドに貯蔵していた金属を買い占めた。

 

彼の取得済みの鍛冶スキルで最低限、簡単な金属板に加工を施した。

 

 

彼は、それをアクセル郊外、平原に作成し始めた。

 

設計図通りにそれは完成した。

 

 

表向き、闇金から借金で購入したマナタイトで、

 

彼はクリエイトアースを強化して外見を完全に誤魔化した。

 

適当に雑草を混ぜ込めば、アクセルのことを知らない魔王軍を容易に誤魔化せた。

 

 

全て、一日かけて、突貫工事で作成した。

 

流石に、一人では無理なので、他三人、皆にも協力して貰った。

 

 

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彼にはステータスの『筋力』が足りなかった。情けないことに。

 

レベルアップしても用意した全て金属板を持ち運べなかった。

 

故に、四人で運んだ。そうせざる負えなかった。

 

 

アクアと彼の、外壁工事の経験が存分に発揮された。

 

…アクアの権能は、防壁を作るのに最適だった。

 

 

築いた外壁の、水分を簡単に蒸発させられるのだ、アクアは。

 

 

アクアのこの能力がなければ、彼は人を雇うか、数日かける計画だった。

 

アークウィザードなのに、結構筋力があるめぐみんにまで協力を要請した結果、

 

 

全てが、一日で済んだ。恐らく神器の『幸運』もあった。

 

予定通りにことが進んだからだ。

 

魔法やスキル、道具を準備していたが、それでも予定通り過ぎた。

 

彼は、流石に、工期は遅れると思っていた。

 

一日でできるのは、想定内の想定外だった。

 

 

アクアが一切ふざけなかったことが何よりも大きい。

 

普段ならやらかすことも想定に入れた工期スケジュールだった。

 

 

アクアは確実に成長していたのだと、彼は驚いた。本当に。

 

 

彼は、この成果から、アクアの能力を、今後の計画に組み込むことを決意した。

 

学びを活かす経験をアクアに体験して欲しかった。

 

 

この作戦の上位互換、彼の想定する二番目の脅威。

 

 

アクアクラスの邪神との闘いを彼は想定していた。

 

アクアに近しいチートは魔王軍にいてもおかしくない。

 

彼は『地獄の公爵』から類推していた。

 

彼に取って魔王軍幹部は判明している者だけでチート過ぎた。

 

これくらいはいると確信していた。

 

 

防衛戦は確実に有り得ると彼は思っていた。

 

アクアの防壁作成能力は攻める側からすれば反則過ぎた。

 

 

彼なら対策が容易だが。マナタイト爆弾の連続投下で破壊できた。

 

彼からすれば水爆でないだけギリギリセーフの破壊力の爆弾に改良できた。

 

ダイナマイトの比でない。冒険者だからできるスキルの組み合わせがあれば容易だった。

 

鍛冶スキルでの加工、物理学での破壊力の一点集中、初級魔法ティンダーによる遠距離での着火、潜伏スキルからの隠蔽工作等々だ。

 

外付けの神器を用いた幸運による狙撃スキルまであれば、精鋭部隊だろうが絶対防げない。

 

威力だけ見れば爆裂魔法を連発するような行為も可能だと彼は断言できた。

 

彼に取ってはいかなる存在に対しても、貫通ダメージのある爆裂魔法は本当にチートそのものだった。

 

彼ですら不可能な魔法だった。彼の破棄した水爆擬きですら起こせなかった。

 

彼はどうやっても魔法ダメージを含む消滅までしか再現できなかったと確信していた。

 

いくらでも運用可能な貫通ダメージの爆裂魔法は彼には再現できないし、これからも求め続ける理想の魔法だった。

 

爆裂魔法を極めためぐみんは彼にとって偉大な勇者そのものだった。

 

故に、爆裂魔法を馬鹿にする風潮は無くしてやると彼は決意した。

 

仲間のためならば、彼は神ですら喧嘩を売る決意をした。

 

成長する勇者めぐみんならば、彼からすれば悪意の最低ラインも良いところな技術でしかないマナタイト爆弾を遥かに上回る規模の爆裂魔法を起こせるようになると彼は確信していた。

 

なお、この彼の脳内にあるマナタイト爆弾は、彼が秘匿すれば全く問題なかった。

 

 

…彼も大概チートだった。彼からすれば想定する敵がチート過ぎるのが悪いと断言した。

 

そして、彼のこの想定は魔王軍幹部ベルディアの早過ぎる対応で確信へと変わった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

翌日の早朝。彼は、魔王軍幹部ベルディアに一人で会いに行った。

 

 

魔王軍幹部ベルディアは、進軍中だった。

 

アクセルからやや離れた辺りにいた。

 

 

当初の計画では、確実に拠点にするであろうアクセル郊外にある廃城ごと洪水にする計画だったが、

 

ここならば、何をしても全く問題のない平原だった。

 

 

最短で魔王軍討伐できるならそれに越したことはないと彼は判断した。

 

故に、彼は一切、躊躇わなかった。

 

 

例え、腕を振るうだけで彼を殺せる存在を前にしても、彼は恐れなかった。

 

…自分でも不思議なほどに。

 

 

「初めまして、魔王軍幹部ベルディア様とその御一行様!

 

 私はあなたが向かっているアクセルの名もなき、たかが一冒険者!

 

 直接、魔王軍幹部ベルディア様とお話がしたい!!」

 

彼は、騎士ベルディアの進軍中に用意していた拡声器を使い、声をかけた。

 

 

ベルディアの周りには、

 

手下のアンデッドナイトが大量にいるが、彼は一切それを恐れなかった。

 

ベルディアは『騎士』だから、一人で来た彼を無碍に扱ったりはしない。

 

 

彼が、魔王軍幹部ベルディアの性格を分析した結果、そう結論付けられた。

 

 

…このような真似は、半分賭けだが、彼には神器による幸運があった。

 

故に、彼の、修正された計画の範疇にあった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ベルディアは正々堂々と首なし馬に乗って一人で、彼の下へと来た。

 

 

アンデッドナイトや首なし馬は、アクアの洪水で押し流す。

 

 

ベルディアを倒した後で、アクアがターンアンデッドで消滅させる予定の首なし馬。

 

はっきり言って、彼にとっては、ベルディアよりも首なし馬の方が恐ろしかった。

 

 

…本当に。

 

 

アンデッド達が、

 

洪水で流されない場合の策もあるにはあるから問題ないと言えなくもないが。

 

 

「さて、ベルディア殿。あなたに耳よりの情報がある。

 

 あなたが偵察任務に来た目的を、私は知っている」

 

彼はベルディアの目的をゆんゆんの話から確信している。

 

 

「ほう、あのような予言など、占い師の戯言の可能性もあったが、

 

 急がされて来てみれば…何かあったのか」

 

ベルディアは何やら、相当急がされたらしい。

 

言葉の節々から不満が言葉から彼には感じられとれた。

 

 

「…それは私の仲間が持っている。故に、あなたを通して、取引がしたい」

 

彼は、完全にその予言が、アクアのことだと確信した。

 

ゆんゆんからの話は、飽くまで彼の仮説だった。

 

 

魔王軍幹部ベルディアが、ここまで来た以上、間違いなかったが。

 

本人の口から確認できた。

 

 

故に、彼は、ベルディアの思考を少しズラす。

 

者ではなく物であると誤認させる。

 

 

ベルディアが、彼の想定外の手段で、彼が万が一、失敗した場合に備えて。

 

 

だから、彼からすれば、ベルディアに取引を提案する。

 

 

一方的な。

 

 

 

「…………」

 

ベルディアは彼の発言を聞いて沈黙していた。

 

 

そして、殺気が空間を支配した。

 

 

…ベルディアは、彼の想定通りの人物像だった。

 

故に、彼は一切怯えない。

 

 

「…仲間を売るのか?」

 

ベルディアの声は恐ろしく冷たい物だった。

 

彼の立場でも同じことを言われたら、ベルディアと同じことを思う。

 

 

不思議なことに、ベルディアのその騎士道精神と彼の思考はその点だけは一致していた。

 

 

彼は、理解できたのが、不思議なほど、ベルディアの憤怒がわかってしまう。

 

 

「ええ、そうなるかもしれませんね」

 

だから、敢えて、肯定するようにベルディアに言う。

 

 

そうかもしれない。

 

というのは、彼にとっては、アクアを利用している以上間違っていない。

 

 

「…俺は生前貴様のような奴に裏切られ、殺された。

 

 …俺は、騎士から、魔道に落ちた。故に、これはただの俺の私怨だ。

 

 身の丈に合わぬ取引を持ちかけた愚か者よ」

 

ベルディアの殺気がさらに濃厚になる。

 

彼はこのような気配を感じたことがなかった。

 

だが、彼はどこまでも冷静だった。自分でも不思議なほどに。

 

 

「貴様は、アクセルを、街を守ろうとしたのだろう。

 

 …その決断力には敬意を評する。

 

 

 たかが、一冒険者が街を救おうと死を覚悟してきたと理解できる。…今の俺には。

 

 

 だが、それは、俺にとっては、決して、そう決して許せない。

 

 …故に、絶望して死ぬが良い」

 

ベルディアは本気で彼を絶望させようとしていた。

 

 

ベルディアから見て、ただのどう見ても完全な弱者に、

 

本気で絶望を与えようとしていた。

 

それは、彼の計画通りでは、あった。

 

 

だが、魔王軍幹部ともあろうものが、たかが冒険者風情に完全に憤怒していた。

 

 

…彼はベルディアを生前、誰も救えなかった場合、

 

異世界転生などすればベルディアのようになったかもしれないと思った。

 

 

故に、彼は、生前であった亡き老人に感謝した。

 

 

欠けた自分でも、人が救えたと。

 

この事実だけは彼の最後の救いだったから。

 

それがなければ、最悪、アクアが居ても、彼は世界を滅ぼしたかも知れなかったから。

 

 

「『汝に死の宣告を』」

 

ベルディアは、彼に絶望を与えに来た、死の宣告だ。

 

彼はこの脅威を知っていた。

 

 

あらゆる勇者の、可能性が文献から消え去った。

 

『死の宣告』。これは、アクアという反則がなければ解呪できない呪いだった。

 

…飽くまで、彼の調べられた範囲では、だが。

 

悪魔などいれば違うかも知れないと彼は思った。『地獄の公爵』など。

 

 

彼は、ベルディアからの宣告、わきあがる恐怖を感じた。

 

 

恐らく、これは死の恐怖というものなのだろうと彼は思った。

 

 

だが、彼の思考は死を前にしても、一瞬でもブレなかった。

 

寧ろ想定されていた、頭がパーになりそうな感覚が掻き消えた。

 

 

生存本能から、脳が活性化したのだと彼は推察した。

 

 

彼は、恐怖こそすれ、怯えなかった。

 

自分に『死の宣告』をかけて日々を送ろうかと思うくらい、平然としていた。

 

頭がパーになって自分を殴るのはかなり痛かったから。

 

神器前、どれくらいでパーが治るのか、

 

慣れるまで彼は、アクアに魔法で癒してもらっていた。

 

彼はそれが、内心かなり屈辱だった。

 

 

『変態プレイで、治して欲しいとか馬鹿じゃないの!!』

 

彼はガチでキレかけた。アクアの嘲笑に。

 

 

魔王軍幹部ベルディアの『死の宣告』を受けながら、

 

そんなバカげた日常を思い出しつつも計画とのズレを彼は修正していた。

 

 

だが、ベルディアは彼のその異常さに気づいていなかった。

 

 

「貴様とは取引せん。その情報だけで特定できるだろう。

 

 …精々残り三日の寿命を残してやる。

 

 この俺、魔王軍幹部ベルディアと知って、たった一人で取引にきた蛮勇だけは…」

 

ベルディアは、何か言おうとしていた。

 

だが、彼はそれを全く聞いていなかった。

 

 

「…フハハッハハハハハハハハ!!…計画通りだ!!!」

 

彼は、ここまで、計画通りにことが運んだことを、

 

 

欲しかった手段の一つすら手に入ったことに歓喜していた。

 

そして、ついでにアクアに馬鹿にされない方法も。

 

 

「な、なんだ貴様!」

 

ベルディアは、彼の異常さに漸く気が付いたようだ。

 

 

彼も、ベルディアが『死の宣告』を使用する思考に導くためにあらゆる口上を考えていた。

 

 

魔王軍幹部ベルディアが、彼に死の宣告を使ってくれると計画の可能性が増えるから。

 

 

「…私はね、ベルディアさん。あなたと大体同じ経歴の持ち主なんですよ。

 

 恐らくは。規模こそ違えどもね。

 

 だから、決して、私は、何があろうとも『仲間』を裏切ることはしない」

 

彼の本音だ。

 

 

ダクネスは正直早めに配置換えをしたかったが、

 

女神エリスの存在がある以上、彼は彼女と共に『旅』をする。

 

 

これは、もう確定事項になった。

 

 

彼は、ベルディアと話を続ける。

 

 

時間を稼ぐために。計画の内にある時間稼ぎ。

 

 

洪水への警戒。待機、発信準備。彼は秒単位で計算していた。

 

勿論、想定外もあるので、知らせる方法は複数用意していた。

 

 

彼の計画の、想定内の最善に持ってきた以上、ベルディアとはもう少し会話する必要があった。

 

 

「例え、裏切られようが、死の絶望にあろうが一切関係ありません。

 

 私は、必要ならば、仲間のために、命など簡単に捨ててご覧に入れましょう。

 

 …いや、最悪、消滅しようが、絶対に有り得ない」

 

彼なりの礼を述べる。ベルディアは、本当に想定通りに動いてくれたから。

 

 

『死の宣告』は頭がパーになる対策で使えることが判明した。

 

 

元々、なくても良い手段だが、この発見は彼にとって大きかった。

 

 

「そんな馬鹿な!貴様は本気だった!!俺にはわかる!!」

 

ベルディアは確信していた。

 

 

彼の想定通りに。勘違いをしてくれた。

 

 

だから、彼は、ベルディアに『答え合わせ』をしてあげる。

 

 

計画通りに。決して、冥土の土産などという戯言ではなく必要な行為だから。

 

 

「いや、何、嘘は言っていないだけですよ。

 

 これまでの流れは、私目線での取引でした。

 

 仲間を売るとかではない、一方的なあなたへの、私なりの『死の取引』だ。

 

 さらに言えば、私の行為は、あなたからすれば裏切りに感じるかもしれないと思っていた。

 

 だから、本気で言えるのですよ。敢えて、言ってあげましょう。

 

 

 …あなたは完全に詰みです」

 

彼は最後の一言は言わないつもりだった。

 

 

彼自身、慢心しつつあった。

 

 

だから、気を引き締める。

 

ベルディアと首なし馬との連携は解いた。

 

彼は、恐らく、剣に手をかける。単騎で。

 

 

その緩んだ瞬間でベルディアは終わる。

 

 

もうすぐ、アクアへの合図の時間だ。

 

 

「…貴様は、危険だ。占い師の予言より遥かに優先される脅威だ。

 

 俺の勘違いでお前を見誤った。お前は本気で俺を倒すつもりでいる。

 

 この、魔王軍幹部ベルディアを。

 

 本当にどう見ても雑魚の冒険者なのに、だ。

 

 

 全ては、『仲間』を守るために。

 

 

 …魔王軍幹部として、俺を最後に救ってくださった、

 

 魔王様に仕えるが故に、謝罪などしない。いや、できない。

 

 故に、お前はここで、俺の全てを懸けて殺す」

 

ベルディアはそう言って、彼の想定通りに、剣を抜いた。

 

 

いや、寧ろ、ベルディアは馬から降りた。

 

 

…彼を確実に殺すために、首なし馬から降りた。

 

完全に、ベルディアは詰みだ。彼は確信した。

 

 

よりにもよって、ベルディアは自分から最後の、逆転の可能性を手放した。

 

 

故に、彼はこれ以上、ベルディアと会話しない。必要ないから。

 

 

「だから、詰みなんですよ。もう遅い」

 

彼は発煙筒を空高く打ち上げた。

 

アクアへの合図だ。少し遅れてもセーフという合図。

 

 

首なし馬から完全に切り離せたから。

 

 

「…それで終いか?」

 

ベルディアは拍子抜けしたようだ。

 

まぁ、彼もまさか洪水を引き起こせるなんて普通思わないだろうと思った。

 

 

「だが、何があろうとも貴様だけは、確実に殺すことに変わりはない!!」

 

ベルディアは本気で殺すために剣を構える。

 

だが、遅かった。全ては計画通り。

 

 

「さて、デュラハン。『流水』が弱点なら『洪水』はいかがでしょうか?」

 

彼は、ここまでの一連の流れを計画済みだった。

 

彼はもっと安全策で行くつもりだった。

 

女神エリスに感謝した。

 

 

本当にこの神器がなければ、幸運がなければ、

 

『死の宣告』という可能性に気が付けなかったから。

 

 

「へ?」

 

間抜けな声を上げるベルディア。

 

 

その瞬間、天空から恐ろしい量の水が降り注いだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

彼は予め、浮き輪になり得る物を服の内側に仕込んでいた。

 

本当に、これまでの一連の流れは、何もかも計算済みだった。

 

 

クリエイトアースを使い、軽く雑草を生やした防波堤を作成した。

 

 

最も一日で作ったから、よく見れば、近くで見ればバレる偽装工作。

 

 

アクアの洪水も耐えきれる設計。

 

 

彼は、幸運だったから、理論値だけで行けると確信していた。

 

そこには、めぐみんとダクネスが潜んでいる。

 

彼は、洪水から、早期に脱した。

 

 

防波堤の位置、飛び出す二人を確認した。

 

 

まもなく、二人は到着する。

 

 

もう、ベルディアはチェックメイトだ。

 

 

「ふざけんな!馬鹿じゃないのか!この頭のおかしい変態!策士気どりの大馬鹿者が!!」

 

ベルディアは叫んだ。

 

ベルディアは彼から見ても、完全に弱っていた。

 

 

アンデッドナイトも首なし馬も見えない程流されていた。

 

彼とベルディアだけに等しい状態だった。

 

 

彼は、改めて冒険者カードを確認した。

 

冒険者カードのスキル取得可能欄に『死の宣告』が更新されていた。

 

 

もはや、彼にとって、ベルディアは不要だった。

 

 

「策士ではないな。俺は奇策士だ。強いて言うなれば。

 

 …本当は、正攻法で戦いたいが、力がない。

 

 故に、騎士殿には、これから行う非道を詫びさせてもらう」

 

彼はそう言いつつも、この口上はただの時間稼ぎだった。

 

 

めぐみんとダクネスが駆けつけてくるまでの。

 

 

彼はベルディアを本当に、一切無視していた。

 

 

「スティール」

 

彼は発動した。

 

 

『手術』により外付けされた幸運を利用した彼自身どうかと思う反則技を。

 

 

「!!武器を狙うか!…着眼点は、見事だ。俺を、弱らせてからの武器強奪か。

 

 だが、この魔王軍幹部の、

 

 俺に駆け出し冒険者の街にいる者のスティールなど効くかぁ!!」

 

ベルディアは彼のスティールに、全力で耐えようとしているが、

 

彼が狙っているものは違った。彼は空気など読まない。

 

 

確実な弱点があればそれを突く。

 

 

彼の本質は『外道』だ。

 

 

「……え?」

 

ベルディアが間抜けな声を上げる。

 

 

ベルディアの頭部は彼の手の中に納まった。

 

 

「さて、チェックメイト。…クリエイトアース、クリエイトアース、クリエイトウォーター」

 

彼は、ベルディアに目つぶしを行った。

 

そして、全力で、めぐみんとダクネスの方向へ蛇行しつつ駆けつけた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「エクスプロージョン!!」

 

めぐみんは、ダクネスに何度となく、切り付けられ、

 

彼に魔力の限り嫌がらせに等しい攻撃を受けまくったベルディアに止めを刺した。

 

 

 

確実にベルディアの魔王の加護の鎧を破壊するためには、騎士か剣士が必要不可欠だった。

 

筋力のステータスが高く、ただ目の前にある者を斬る程度ならダクネスでも問題なかった。

 

故に、めぐみんの爆裂魔法という反則技は、弱体化したベルディアには十分過ぎる威力だった。

 

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

ベルディアは最後には頭部と共に爆裂魔法で消し飛んだ。

 

 

 

「ふぅ…」

 

めぐみんはその場で倒れた。大変、満足そうだ。

 

 

やはり勇者の鑑だと彼は思った。

 

 

おいしいところを持っていく才能。

 

それを開き直る才能がめぐみんは、非常に強かった。

 

 

「…本当にこれで良かったのだろうか?」

 

ダクネスは、ベルディアの散り様に思うところがあるようだ。

 

 

彼は、一切、ベルディアのことなど気にしていない。

 

十分に話せた相手だ。

 

 

だが、魔王のカリスマは恐ろしい。彼はそう思った。

 

 

ベルディアが魔王へ心から忠誠を誓っていなければ、恐らく、首なし馬から降りなかった。

 

彼の方が殺されていただろう。

 

無論、対策もあったが、不要だった。

 

 

「ダクネス。パーティを抜けたいとか、魔王討伐を辞めたいなら俺はいつでも構わない。

 

 騎士道に反する行いを平然とするぞ俺は。

 

 …必要ならば君のいう『畜生』にだってなる」

 

彼は『素』で話した。

 

 

彼からすれば一時的とはいえ、仲間となったダクネスに最後の、確認だ。

 

 

ベルディアに言ったように、途中で彼を見捨てるなら、それはそれで構わなかった。

 

彼は、自らが『悪』の才能を有しているのは完全に理解していた。

 

 

アクアに最後に見捨てられる『孤独』すら覚悟している。

 

 

でなければ、消滅など女神エリスに言い出さない。

 

 

女神エリスと言えども、計画に反しない以上、

 

ダクネスを連れて行かないという選択肢は存在した。

 

 

だったら、神意に逆らおうとも、『仲間』の意思を尊重したかった。

 

 

彼は、ダクネスを皮肉にも、敵であるベルディアを通して、多少理解した。

 

騎士には荷が重いと彼は悟った。彼の『旅』は。

 

 

「い、いや、そんなことはないぞ!あなたが私の望む『鬼畜』だ!!

 

 寧ろ、私が、勝手についていくつもりだ」

 

彼は変態に、失望した。

 

 

ダクネスは興奮していた。彼からすれば碌でもない答えだった。

 

少なくとも、この発言。本気で言っているダクネスは。

 

 

彼にもはや躊躇しない計画を決意させたダクネスは無視した。

 

 

だが、あの声が彼に届いた。早口言葉みたいな繰り言が聞こえてきた。

 

 

「ターンアンデッド!ターンアンデッド!ターンアンデッド!花鳥風月!

 

 ターンアンデッド!ターンアンデッド!…」

 

アクアが来た。やたら生き生きとアンデッド達を滅している。

 

 

彼は、それを見て、アンデッド討伐とかしていなかったななどという、

 

どうでも良いことを考えていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

彼は気が付かなかった。

 

ベルディアは確かに、女神光臨を、

 

何か来たことを察した占い師に言われて偵察しに来たことがあった。

 

 

だが、ここまで急いだのには、もう一つ別な『予言』があったからだ。

 

 

…だが、占い師の予言は途中で突然掻き消えた。

 

だから、それを定期報告で、予言の消滅を知らされたベルディアは、

 

アクセルへ向かうというほぼ意味のない行為に感じていた。

 

 

ベルディアは言いようのない、徒労感でウンザリしていた。

 

 

彼は、ベルディアと話していて『不満』を感じ取ってはいた。

 

しかし、そのことに気が付けなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『地獄の公爵』はそれを興味深く聞いていた。

 

公爵は、占い師とはそれなりに長い付き合い。

 

公爵は、占い師の『予言』が消滅するというのは聞いたことがなかった。

 

占いが、外れることはあっても消えることはなかった。

 

 

「ふむ…中々どうして面白い。

 

 あの首無し中年が死んだりしたら、我輩が自ら行くのも良しか…」

 

彼は、『地獄の公爵』に目をつけられた。

 

 

…彼の想定外の速さで。

 

 

 

…彼と言う存在は間違いなく、『世界』を動かしつつあった。

 

 

 

 

そんな彼は、アクアが三億エリス手に入ることを思い出したら、

 

余計な事をし始めないかと恐れていた。

 

…ベルディアからの、死の恐怖より、そんなアホなことを彼は恐れていた。

 

 




ベルディアの最後の内心について記載したものを書きました。

活動報告『他キャラ視点での彼。第一段、ベルディア編』。

...これは完全に蛇足です。





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