どうやったらこの駄女神に知性を与えられるかについて   作:コヘヘ
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彼は、全力で彼女を避けていた。
何故なら、彼は変態を完全には、理解できないからだ。
ある意味わかりやすいが、それが彼の『計画』を妨げる可能性があった。

彼は、自分のことを完全に棚にあげて、『変態』を忌避していた。

実は、幸運とはある意味『不幸』であることを彼は知らなかった。


第七話 幸運という名の不幸。変態という想定外

彼は幸運最低値の知力がお察しの駄女神、つまり想定外の馬鹿をまだ舐めていたと悟った。

 

ことの経緯は簡単だった。

 

 

彼はアクアを一人にした。

 

自由行動ということで事前に裏からフォローできなかった。

 

彼は最悪めぐみんがいるという期待をややしてしまっていた。

 

だが、彼はめぐみんが、彼の望む最有力勇者候補なことをその時失念していた。

 

ゆんゆんのような、変態という汚名をきていた彼と話してくれるような優しい子にはいかなくとも、

 

ある程度、一般的な優しさのある常識的な子だと、めぐみんを、うっかり勘違いしていた。

 

さらに言えばまだ、一緒にジャイアントトードの五匹討伐の依頼を達成したとはいえ、

 

めぐみんはアクアの能力を知らなかった。

 

彼もゆんゆんから口頭でしか、まだきちんとめぐみんを理解していなかった。

 

めぐみんもアクセルに来たばかりだった。彼とほぼ同時期にアクセルに来ていた。

 

彼の情報網には、ほぼめぐみんの情報がなかった。

 

 

何より、お互い会ったのが、まだ初日だったから。

 

 

お互いの状況をよく知らなかった。

 

 

彼はめぐみんの状況を想定していなかった。

 

だが、めぐみんこそ彼の望む勇者に相応しかった。彼は確信した。

 

…それくらい彼にとって、女神エリスとの接触はあまりに、想定外だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…アクアは自由時間でアクセルの街をめぐみんと共に散策したそうだ。

 

 

アクアは、途中魚屋の生け簀を見かけたらしい。

 

 

アクアは水槽の水を見て、『水の女神』として何か譲れない物を感じたらしい。

 

 

…アクアは生け簀の水を、海水から綺麗な真水に変えた。

 

女神の清めた水だ。確かに相当なものだっただろうと彼は思った。

 

 

だが、アクアのその行為は、魚屋の、海で取って来た生け簀の魚達を全滅させた。

 

 

まだ、一匹も魚が売れていない生け簀の魚を全滅させた。

 

 

なお、その際に、めぐみんはどこかへ逃げたらしい。

 

アクア曰く、

 

「助けを呼んできます!」

 

と言って帰ってこないそうだ。

 

 

誰に助けを呼ぶつもりなのか考えれば、簡単に嘘だとわかった。

 

 

彼はやはりめぐみんは、勇者の理想像だと確信した。

 

 

勇者ならば、例え、仲間であろうと、この場面では切り捨てる。

 

それが『勇者』のあるべき姿だと彼は思った。

 

 

「わ、私は、狭い生け簀でかわいそうだし、水くらいは綺麗にしてあげようと思って!!」

 

アクアはそう言って彼に言い訳をし始めた。

 

 

彼は、アクアの思いやりの精神は素晴らしいと思った。

 

 

だが、肝心なその対象を全て殺してしまったら意味がない。

 

 

彼は自分の浅はかな行為を恥じた。アクアへの教育が足りてなかった。

 

故に、そこまでアクアに怒ってはいなかった。

 

 

だが、全滅させた魚の数を見て、彼は、計画が狂ったことを悟った。

 

 

「弁償代は…?」

 

彼は恐る恐る尋ねた。魚屋の主人に。

 

 

「…25万エリス。これ以上びた一文まけられねぇよ。…いや、本当に」

 

魚屋の主人の、疲れ切った発言だった。

 

 

彼は察した。魚屋の主人は弁償代を吹っ掛けてない。

 

 

彼は素直に貯金で支払った。魚屋の主人に弁償した。

 

 

…彼の財産はパーになった。所持金はほぼゼロ。

 

 

本来なら今日で、常時、宿屋暮らしになる予定だった。馬小屋からの脱却。

 

 

一時ではなく、泊まり込みには、最初に20万エリスは必要だった。

 

敷金みたいなものだ。

 

…彼は、アクアの浪費に耐えて必死に貯め続けていた。

 

モンスター討伐の合理性を初期で計画し、武装を整え、一気に稼いだ成果が失われた。

 

 

…初級魔法を覚えていて良かったと彼は思った。

 

最低でも、魚を冷凍保存できる。フリーズで。

 

 

 

彼とアクアは、しばらく魚生活が確定した。

 

 

 

…彼は『幸運』とは何なのか真剣に悩んだ。

 

女神エリスが渡された神器は数値だけ変わる偽物の可能性まで考えてしまった。

 

 

「良かれと思ってやったのにー!!」

 

アクアは泣いた。

 

 

彼は次から気を付けるようにアクアに注意した。思いやりの心は大切だから。

 

彼にはそれが欠落しているようだから、アクアには是非、それを学んで欲しかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

その日の夜、彼は冒険者ギルドで酒を飲んでいた駄女神を、アクアを見つけた。

 

 

…これには、流石に彼も激怒した。

 

アクアから小遣いを取り上げなかったのは、教育に悪かった。

 

 

彼は、自らが甘すぎたことを悟った。

 

 

アクアは、すぐやったことを忘れる鳥頭だった。

 

 

さらに、性質の悪いことに、

 

ダストという経歴詐称疑惑の男が、アクアの被害にあっていた。

 

 

ダストはアクアに宴会芸で物を消されたといい、彼に慰謝料請求し始めた。

 

 

 

彼はもはや幸運など関係ないと思ってしまった。

 

彼にとっては、世界の危機にまで発達する課題だったのにも関わらず匙を投げたくなった。

 

水爆という気が狂った対策まで用意していた。

 

 

...彼はこの世界観ギャップをここで気が付くべきだった。

 

 

 

こうもたった半日で連続して被害にあうとやってられない。

 

 

彼はダストにとんでもない金額を吹っ掛けられそうになった。

 

 

彼は仕方なく、慰謝料などは払えないがと前置きし、ダストに耳よりな情報を教えてやった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

今年はトマトが全国で壊滅的な状況にあった。

 

所謂、品不足だった。

 

 

だが、アクセルにいるとある八百屋だけ直接農家と取引して、

 

高額とはいえトマトが大量にあることを彼は知っていた。

 

 

彼はダストにその八百屋でトマトを購入し、

 

王都に転移し、トマトを転売すれば必ず儲かるという情報を教えた。

 

 

彼は今、魚屋の件で金がない。この情報は使えない。

 

 

本当はトマトの先物取引で最低限の材料費を購入し、日用品を作成したかった。

 

 

全ては氷の魔女ウィズとの交渉のために。

 

だが、元々幸運が彼にはなかったし、本来女神エリスとの交渉後、

 

キャベツ以後に使おうと思っていた情報だった。

 

 

だが、彼は神器で幸運が働いていない疑惑があった。彼に不幸が続いている。

 

手術までしたのに、これでは不味いと彼は思った。

 

 

幸運を利用した狙撃スキルを利用するのも計画もあるので、

 

彼は幸運について要検証になってしまった。

 

ステータスの幸運だけあれば最悪問題ない。

 

 

…アクアを一人きりにすればこうなるというのは、彼には想像がついた。

 

だから、幸運は普通に機能している可能性が高い。

 

 

可能性は高い。

しかし、幸運が高くてもこうなのかと彼は頭を抱えそうになった。

 

 

彼はまた頭がパーになりそうな自分を殴った。会話中突然の暴挙を行った。

 

彼の行動にダストはドン引きした。

 

 

ダストにトマトの先物取引を教えても良いと彼は思った。

 

正直、ダストに絡まれる方が面倒臭かった。

 

故に教えた。トマトの現状と取引で得られるであろう利益をダスト君に教えてあげた。

 

 

それを聞いたダストは、

 

「金がねぇとトマト何ぞ、買えねぇじゃねえか」

 

と彼に言った。

 

 

 

金がない貧乏人のダストに、彼はとある闇金の存在を教えた。

 

 

 

「おい!…ちょっと待て、お前何でそんなところを、知ってんだ?」

 

大声で彼を脅していたと思ったら、急に小声になるダスト。

 

 

その反応からダストは、その闇金は知っていることを彼は悟った。

 

彼は内心舌打ちをした。

 

 

最初の一週間、深夜で接触できる情報源は少なかった。

 

だが、その中でも中々危険度の高い情報だった。

 

 

流石にアクセルを取り仕切ると自称するだけある。

 

彼はダストの評価を一段階上げた。

 

 

...あそこは一介の冒険者では見つけられない。

 

 

所謂、禁制品を扱っているところだった。

 

 

「大丈夫。『私』からの案内と言えば、金利は抑えられる。

 

 そうしなかったら、『惣菜』の件でまた話したいと言っていた、と伝えれば良い。

 

 一回なら金は問題なく借りられるだろう。二度目使ったら消えるが、多分」

 

何が消えるとはダストには言わない。

 

 

そう言って、彼はこっそりと金利と偽名を書いた紙をダストに握らせた。

 

 

バレないように。彼は周囲を警戒していた。

 

…恐らく、幸運は働いていると彼は思った。

 

 

神器入手前までなら、周囲の目を逸らすために、

 

確実にしなければならない行為が必要なかったからだ。

 

 

変態として、目を逸らさせる、思考を誘導させる、物理的に仕掛けを作る、人を操る。

 

…ダストとの会話では今回何も必要がなかった。

 

 

最も彼は、冒険者ギルド内では安全が確証されている。

 

 

…彼は、アクセルを調べ尽くしていた。

 

表も裏も。彼は、変態や狂人を演じ切り、情報を収集した。

 

 

彼の情報網は使えそうな物は勝手に集まるくらいに構築が完了していた。

 

およそ二週間で。

 

彼からすれば、不幸を考慮し過ぎた欠陥しかない杜撰なものだが、

 

アクセルでは恐らく最高峰の情報網を構築できた。

 

 

それを用いて、情報を危険のない範囲、幸運判定にならない範囲で集め、分析していた。

 

 

だから、アクセルの闇の弱みなど容易に握っていた。

 

不幸を回避するための手段として、あらゆる弱みを握っていた。

 

 

幸運に引っかからないように、運命ではなく必然にするかなり手間を要した。

 

 

だが、彼は裏路地で何もなかったことから、察するにもうその手間が省けることを察した。

 

 

…ギルド長と、サキュバスの件で話し合っていたのもその一環だ。

 

 

彼は薄々そういった店があることを最初の数日で察していた。

 

アクセルは異様に結婚率が低いから容易に想像できた。

 

 

なお、結婚率の低さに、出会いのなさにルナ女史が愚痴りたそうにしていたが、彼は完全に無視した。

 

 

あのルナ女史のドス黒い感情は、きっと悪魔の手土産になると彼は確信していた。

 

 

脅威のないというあの悪魔が、公爵が喜ぶに違いない。

 

『愉悦』が生き甲斐ならきっと喜ぶだろうと彼は考えていた。

 

 

 

実際、彼のことを覗いたバニルは歓喜した。バニルに取ってルナ女史は極上のご飯そのものだった。

 

ルナ女史はバニルの定期的なご飯になった。

 

愚痴を聞いているだけでご飯を垂れ流す逸材だった。

 

なお、そのことに関してはバニルは、妄信的な部下のサキュバスにすらアレはないと言われる大惨事を巻き起こす。

 

バニルも計画を相談した人間が、『彼』という畜生極まりない行いをしてしまっていた。

 

バニルは敢えてそれを狙っているだけに性質が悪すぎた。

 

彼ら二人は世の女性を敵に回しかねない暴挙にでた。

 

 

 

話は過去の彼に戻る。

 

 

 

彼が、ルナ女史の側にいるだけで、

 

カップルや寿退社していく他所のギルドの受付女史への怨念がひしひしと伝わってくるのだ。

 

 

故に、この感情は熟成させた方が吉と彼は考えた。

 

しれっと、そういう悪魔の思考ができる彼は最低だった。

 

 

 

このように、彼は情報さえあれば容易に活かせるものを見つけられた。

 

 

だから、もし闇金がダストに低金利で金を貸し出さなければ、

 

彼が関わった証拠も残さずに闇金を警察に突き出し、

 

アクセルから追い出すことなど彼には容易だった。

 

 

「お、おう。…ただの変態じゃねぇなお前」

 

ダストは警戒を滲ませる目で彼を見た。

 

 

彼からすればこれからは道化として振る舞うのに、ダストのこの反応は不味かった。

 

ダストは良くも悪くも影響力が強かった。

 

彼は、遠目からダストを観察していたのでよく知っていた。

 

 

あのドM来たら、こいつに投げれないか。

 

 

そう口に出しそうになり彼はまた自分を殴った。

 

 

ダストは急に自分を殴り出した彼を変態で見る目になった。

 

 

だから、彼はこの瞬間、全力で誤魔化すことにした。

 

 

「当然だ。我こそは真なる魔王。あらゆる手を使い、弱みを握り、掌握する者である」

 

彼は、大振りな仕草を行いながら、注意を惹きつけた。

 

 

ダストの彼への疑いを全力で誤魔化した。

 

 

案外、めぐみんで対処したこの狂人設定は使える。彼はそう思った。

 

 

「ああ、頭がおかしいのか、普通に同類で集まっているのか」

 

ダストも納得してくれたようだ。

 

 

ダストは彼を馬鹿を見る目になった。

 

 

彼は安心した。とりあえず、この方針で行こうと彼は決めた。

 

そして、ダストにはいつか同類呼ばわりした件について問いただすことにした。

 

ダストの不幸は全てここから始まった。

 

 

駄女神経由で、悪魔以上の悪魔がダストで遊ぶ『愉悦の物語』がもうすぐ幕を開ける。

 

それは腐女子界に永遠不滅の物語になってしまうことをダストも彼もまだ知らない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

翌日。

 

 

深夜の時間帯に彼は幸運がきちんと作用していることを確認できた。

 

具体的には神器を取り出したり、入れ戻したりしてスキルの効果や深夜に徘徊した際の差を確認した。

 

実験の結果。彼は血だらけになったが、クリエイトウォーター等で完全に隠蔽した。

 

血は伝を使い、補給した。

 

彼は、血液型判別法は確立済みだし、献体とは取引済みだった。

 

 

彼は、ダストに情報を教えたことを若干、後悔した。

 

 

闇金を正面から脅して、彼が乗っ取る最大のチャンスだった。

 

…彼は本当に残念に思った。

 

 

「…ねぇ、昨日何かしていた?」

 

アクアが珍しく何かに気が付いていた。

 

 

なので、彼は凍ったままの魚をアクアの前に出した。

 

 

「ちょっと!どういうことこれ。そのまま食べろってことかしら!?」

 

彼はそうだそれを朝食として、それを食えとアクアに言ってやりたかった。

 

 

だが、それよりも不味い事実に気がついた。アクアは今まで彼の深夜の行動に気が付かなかった。

 

いや、気がついていた可能性もなくはないが彼を不信に思う様子はなかった。

 

アクアに彼が何かをしていたと、バレかけたことの方が不安になった。

 

 

神器の幸運は、彼の望む幸運と致命的にズレているかもしれない。

 

 

彼はそう思った。神器の元の持ち主は思うが儘生きたという話と全く違う。

 

 

彼は所有者が違う劣化のせいで、完全に効果が変わっていることに気が付いた。

 

…彼はアクアの思考誘導案を練らなければならなくなった。

 

 

彼は女神エリスが先輩の神であるアクアを監視に使うつもりなのだと推測した。

 

 

『残忍で狡猾だから気をつけなさい。エリスはあざといわ。だから国教になれたのよ』

 

やはり、アクアは正しかった。

 

このような弊害を誘発する神器は計画にとって危険だ。

 

 

…だが、修正された計画にはこの神器は必要不可欠だった。

 

彼はアクアの語る女神エリスについて、

 

もっとしっかり聞くべきだったとやや後悔した。

 

何せアクアとエリス神は先輩後輩の間柄なのだ。彼は自分の愚かさを悔いた。

 

そのことに関しては、本当にアクアを信用すべきだったと思った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

朝食の魚を炙ってアクアと共に食べた彼は冒険者ギルドに来た。

 

 

金がないから。アクアのせいで。

 

 

昨日のエリス神との取引後、彼はこの日、氷の魔女ウィズと接触する予定だった。

 

 

彼は、アクアは彼女の店で適当にあしらえば魔王軍との密約についての相談等、バレないだろうと思っていた。

 

 

彼の作成する商品の情報を提示し、彼はウィズと取引する気満々だった。

 

 

鍛冶スキルは取得済み。商品は本来作って持ってこれた。

 

だが、ウィズと会わないことにはわからない。彼はまず対話を求めていた。

 

 

事前情報に欠けるところがあるが、ウィズが『善人』なのは確定なので問題ないと判断した。

 

 

何より現役時代バリバリの武闘家だったそうだ。

 

ウィズは話によれば、

 

あの過激思想のエリス教に被れ、魔王軍と戦いまくった歴戦の強者と聞いていた。

 

何でも相当な切れ者だったらしい。彼は大雑把な情報からでも読み取れる女傑を想像した。

 

伝聞のポンコツ店主は何かの間違いか偽りの姿だろうと彼は推測した。

 

魔王軍と取引している以上、善人で優秀な人材ならば偽りの姿を容易にできると彼は確信していた。

 

 

故に、魔王軍との取引も不本意な可能性が高いと彼は判断していた。

 

 

少なくともウィズの現状を察するにその可能性が高かった。

 

彼は一応、幸運のステータスも本当であると確認できたので、ウィズに会っても問題ないと判断していた。

 

 

…だが、死活問題で金がない以上、その予定は延期になった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

めぐみんは彼とアクアを待っていた。

 

めぐみんは昨日の魚屋でのことなど知らないと言わんばかりに、

 

堂々と冒険者ギルドで彼らを待っていた。

 

 

流石は勇者候補。一切、罪悪感なしか。

 

 

「今日、稼いだら、一緒に泊めてくれませんか?宿代がかかるので」

 

めぐみんは彼にそう言った。

 

 

昨日のことなど微塵も感じさせないこの娘。なんという胆力だろう。

 

…この太々しさは、彼の求める理想の勇者だった。

 

彼はますますめぐみんを気に入った。

 

 

そんな彼のいい気分が、台無しになる声が届いた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「……すまない、ちょっといいだろうか……?」

 

ダメです。ダスティネス家に帰れ。

 

 

彼は本気でそう思った。

 

 

彼はこの遭遇を女神エリスからの嫌がらせだと確信した。

 

 

「ドMはお断りなんです。家に帰りなさい」

 

彼は頭がパーになって言ってしまった。心の底からの本音を。

 

 

…彼は最悪の答え方をしてしまった。

 

 

これでは不味いと彼は確信した。してしまった。

 

 

「んん……!?やはり、私は間違えていなかった…」

 

あっ、ヤベェ。彼はそう思った。

 

 

思考の言語が貧弱になるほど焦った。

 

 

彼は、目の前の女騎士がある意味、彼の真実にたどり着いたことに悟った。

 

 

…彼女が変態であるが故に、

 

 

「…あなたは、どうみても噂に聞くマゾヒストではない!…私にはわかっていた」

 

ああ、言葉だけ聞くと、自分をわかってくれた女性になるな。

 

 

彼は遠い目をしながら考えた。

 

 

なお、めぐみんとアクアはこの光景には流石に呆然としている。さもありなん。

 

 

「あなたは、それ以外の行動が、完全なるサディストだ!!畜生だ!!」

 

そう目の前のダスティネス家の『恥』は周囲を憚らずに叫んだ。

 

 

彼の計画していた道化像にひびが入る発言だ。

 

下手人は何としても見つけ出す。彼は誓った。

 

 

…運の良いことに周りに誰もいない。そう幸運なのだ。彼には有り得ない幸運だった。

 

神器を身に着けてなお、彼には欠如していた幸運だった。

 

故に、犯人は間違いない。

 

 

彼はクリスを血眼で探した。

 

あの邪神はどこだ!!

 

彼は激怒した。常に計画を壊しまくるあの邪神をその場から動かない範囲で探しまくった。

 

 

 

すると、クリスが冒険者ギルドの扉から現れた。

 

 

こちらを見ると、さらに女騎士を見つけると、全力でこちらへ向かって走ってやってきた。

 

 

そして、叫んだ。

 

…『友人』と、同じく人目を憚らずに。

 

 

「ダクネス!その人には近づいちゃダメって言ったでしょう!!」

 

クリスはかなり切羽詰まった様子で女騎士ダクネスに掴みかかった。

 

 

迫真の勢いを感じさせてダクネスを止めようと頑張っているように見える。

 

 

だが、彼は知っている。

 

目の前のクリスの正体が『幸運の女神』であり、このような醜態はありえないことを。

 

 

何て白々しい。真に迫っているだけに彼は本気でそう思った。

 

 

…彼は女神エリスを、やはり邪神だと確信した。

 

 

確かに、このダスティネス家のお嬢様の能力は、彼の計画に合う。

 

今からでも修正は確かにギリギリ可能だった。

 

 

…だが、彼は知っているこの女騎士、ダクネスは致命的な変態だということを。

 

 

「さて、クリスさん。私は知っている。

 

 このド変…お嬢さんと私を敢えて合わせるように誘導した。

 

 まさに、あなたにこそ、真なるドS。

 

 ダクネスさん。クリスさんの方がきっとあなたのためになります」

 

彼は演技を辞めて『素』で返した。

 

 

もう神罰など恐れはしない。彼はそれくらい激怒していた。

 

 

「ああ…もう…昨日もアレそのまま渡しちゃうし。どうすれば良いの…」

 

悲壮感漂わせるクリス。

 

 

完全に、女神エリスになっている。

 

 

だが、彼は知っていた迫真の演技だ。

 

 

ここまで計算済みの行動であるはずなのに、

 

女神エリスは、まるで被害者にしか見えない。

 

 

「ぜひ私を!ぜひ、私をこのパーティに入れてくれ!!」

 

変態、ダクネスは平常運転だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

彼はこのお嬢様を調べていた。

 

 

ダスティネス・フォード・ララティーナ。

 

 

貴族の社交界では花形。仲が悪い貴族もたった一人。

 

だが、それ以外の誰にも優しく振る舞える上に立つ者としての『才』を持っている。

 

王家とも親密であり、エリス教の熱心な信仰者。

 

庶民の盾であろうとするその姿はまさに、理想の女騎士の鑑。そのように見える。

 

 

…客観的評価はそうなっている。だが、彼だけは違った見方ができた。

 

 

父親が本気になって隠蔽工作をしていたから逆に、容易にわかってしまった。

 

 

この女騎士は冒険者になった動機がR18に該当する目に逢いたいとかいう変態だ。

 

彼には本気で理解できなかった。このマゾヒズムの塊は恐ろしい程完結していた。

 

 

彼はダスティネス・フォード・ララティーナを分析していて気が付いた。

 

ダクネスという極めた変態の真実を知ってしまった。

 

だから彼はダクネスを避けに避けまくっていた。

 

 

「おお、良かったじゃない!

 

 あなたが、変態でも受け入れてくれそうな感じがするわこの人!!」

 

アクアが祝福の言葉が彼を傷つけた。

 

 

彼は目の前の、このド変態と一緒にしないで欲しかった。

 

 

「…フフフ、前衛がついに来ましたね。さぁ、魔王討伐の始まりですよ!!」

 

昨日、彼が狂人を演じたせいで、テンション上がっている勇者めぐみん。

 

 

だが、違う。こいつじゃない。彼はそう言いたかった。叫びたかった。

 

 

だが、確かに揃ってしまった。

 

…彼はいつか人員を交代してやると決意した。

 

 

「よし!盾になる騎士がきた。使い倒しても女神エリスが、何とかしてくれる。

 

 だから、全く問題のない。馬車に引きづって囮にしても良いと『神』が保証してくれた!」

 

彼はこれから行われる全ての惨劇を、全部『女神』エリスのせいにすることにした。

 

 

実際、間違っていない。

 

 

「おお、良いこと言うじゃない!そうよ!全てエリスのせいにしなさい!

 

 この『女神』アクア様が保証するわ!じゃんじゃんやんなさい!!」

 

アクアが賛同してくれた。

 

…しれっと『女神』言うなと彼は思うが、彼の、狂人の仲間だ。

 

 

…全く問題がない。悲しいことに。

 

 

「……あの私はエリス教徒なのだが……」

 

変態はこういうところは『素』で真面目だと彼は思った。

 

 

その真面目さを何故、性癖にまで反映させないのだろうか。

 

 

彼は今まさに地べたに転がってジタバタしているのが、

 

貴様の信仰する『神』だと言ってやりたかった。

 

 

「さぁ、いくぞ!...さて、ダクネス。

 

 とりあえず死ぬ一歩手前な囮役と死なないけど苦しい囮役どちらが良い?」

 

彼は全ての思考を放棄した。

 

 

それがこの場では、最適解だったから。

 

 

「…くっ!どちらも甲乙つけがたい!やはり、私の目に、狂いはなかった!!」

 

ダクネスはその狂いまくっている目で叫んだ。

 

 

本当に、何で、今日に限って人がいないのか。

 

いつもなら、彼の変態疑惑の際には、必ず人がわんさかいるのに。

 

彼は世の理不尽さに怒った。

 

 

 

彼は、その幸運にイラッときた。

 

…このお嬢様の本性をアクセル中に、本気でぶちまけてやりたかった。

 

 

真面目に塩漬け依頼のグリフォンとマンティコアの同時討伐をしてやろうかと彼は考えた。

 

 

幸運がどうにかなった以上彼にはこれくらいは容易だから。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…受付のルナ女史に止められてしまった。

 

流石に即席のチームに任せられないという。

 

 

だが、彼は言いくるめる自信があった。

 

ルナ女史等、婚活の場でも彼が適当に設けるなどと嘯けば容易に動かせる。

 

 

 

だが、そう思ったらクリスに邪魔をされた。

 

彼はクリスから盗賊スキルを教わる条件で諦めた。

 

 

幸運値が上がった彼ならば、魔王の娘をスティールで剥けば詰みになる。

 

その他色々使えた。

 

少なくともデストロイヤーは詰みだ。デュラハンも容易だった。

 

彼はできれば、デュラハンのスキルを覚えたかった。

 

 

故に、彼はこの提案を受け入れた。

 

…彼の盗賊の関係者達は、彼に盗賊スキルを教えることを拒否していたから。

 

 

だが、彼を含む、パーティの四人全員が、クリスを非難する目で見た。

 

もう既に彼の作戦を聞いていたからだ。

 

 

誰もが得をする完璧なプランを邪魔された。

 

約一名は性癖と引き換えに危険に晒されるが、ギリギリセーフなのにと彼は思った。

 

 

全員がため息をついた。

 

 

「ねぇ。待って!あたしが正しいよね!常識なのはあたしだよね!!

 

 そんな滅茶苦茶な『作戦』認められるわけないでしょう!!」

 

クリスは常識とやらを叫ぶが、彼からすれば成り立つのであればそれが常識だ。

 

 

故に、彼は常識という概念をクリスに語って聞かせることにした。

 

 

「非常識というものは、大概未知の場合を言います。

 

 未知を既知として、あるべく姿に戻すこと、常識にすることこそ。

 

 本来、『冒険者』のあるべき姿だ!

 

 滅茶苦茶なのはあなたです!クリスさん!!」

 

彼は、本気だった。少なくともこの言葉だけは間違いなく彼の本音だ。

 

 

「そうよ!そうよ!」

 

アクアが賛同する。

 

本当は是非、神として後輩を叱ってやって欲しい。

 

この不条理で非常識な女神エリスはどうして常識をはき違えているのか彼にはわからなかった。

 

 

「ええ、そうです。おかしいのはクリスの方です」

 

めぐみんも同意する。流石は勇者だと彼は思った。

 

 

「そうだ!クリス!止めてくれるな!!

 

 初対面の、私の能力を完全に見極めて、

 

 ここまで限界まで扱き使おうとする『畜生』を止めてくれるな!!」

 

やはり、変態には彼の言葉が通じない。

 

それでは言いがかりだと彼は思った。まるで彼が本物の外道のようだ。

 

「なんでなのよー!!!」

 

クリスが叫ぶ。これは『素』の叫びだと彼は確信した。

 

 

初対面で完璧な偽りの女神様を演じたので、彼には、

 

どうも目の前の存在を信じ切れないところが多い。

 

 

だが、これは間違いなく女神エリスの素だと彼は確信した。

 

間違いないはずだが、一体どこで気に障ったのか。

 

 

彼は常識を説いただけ。つまり、その前にヒントがあるはずだと考えた。

 

 

彼は女神エリスの弱点を知りたかった。

 

彼に、もう、このような『想定外』を起こさせないためにもなるべく知りたかった。

 

彼は、変態と遭遇してしまった不幸などを嘆きはしない。

 

 

 

 

…悔しいことに、彼の計画に沿う能力の持ち主ではあるからだ。ダクネスは。

 

変態でなければ、彼がスカウトに向かうくらいの最適な能力の持ち主だ。

 

 

例え、あの女神エリスを相手にしてでも、逸材。完全に振り切った能力の持ち主。

 

世界に二人といないだろう。

 

あの、もうすぐやって来ると彼がほぼ確信している魔王軍幹部ベルディアの本気すら耐えそうな頭のおかしい防御力だ。

 

 

 

…最も、変態というのは、彼の『想定外』を行く可能性が高いから、本当は嫌だったが。

 

別の人材を用意していた。本来の計画では、彼に入って貰うつもりだった。

 

…勇者としてはめぐみんと比べて三流かもしれない。

 

だが、腕は一流の剣士を騙す計画がパーになった。

 

 

条件は全て満たしていた。

 

…後は時間をかければ、全く問題なかった。

 

 

 

彼はまた女神エリスに計画を邪魔されたことに恐怖より、今度は、怒りを覚えた。

 

女神エリスに恐怖し過ぎて、反転したのだと彼は冷静に分析した。

 

 

 

アクアの教育もめぐみんの教育は良いと彼は思った。それは最初から計画通り。

 

 

 

だが、致命的な変態のダクネスを教育しろというのは彼の限界を超え始めていた。

 

段々無理ゲ―になってきたことを彼は悟り始めた。

 

だが、まだ、まだギリギリ許容範囲内だ。彼はそう思いこんだ。

 

 

 

彼は、全てを演じ切って見せることを自分自身に誓った。

 

 

 

最も、彼の限界を超える存在は最初からいたのだが、彼は気が付かなかった。

 

 






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