漆黒の英雄譚   作:焼きプリンにキャラメル水
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墓地騒動③--面影--

「ここか・・」

 

モモンとナーベはそこで立ち止まる。

 

エ・ランテル墓地の最奥に位置するその場所は霊廟であった。

 

だが2人が足を止めたのは霊廟があるからではない。

 

その手前に数人の者たちがいたからだ。

 

禿げ頭の魔法詠唱者の男とそれを囲うようして立って覆面を被った者たち。禿げ頭の男に至っては左肩に流血した跡があった。見た所乾いており回復薬か何か使ったのか出血は止まっている様子であった。

 

(回復魔法を使った可能性もあるか・・・)

 

そう思いモモンは禿げ頭の男・・ナーベがナイフを突き刺した魔法詠唱者を警戒する。警戒しておいて損はない。

 

「カジット様、敵です」

 

覆面を被った一人がそう告げた。

 

「無駄だ。明らかに我らに気付いているではないか」

 

禿げ頭の男・・・カジットがそう答える。

 

「やぁ。良い夜だな。カジット」

 

モモンはそうカジットに呼びかける。だがカジットがその冗談めいた発言に対して余裕を持って答えることは出来なかったのはある意味当然といえよう。

 

「どうしてここが分かった?」

 

どうやらカジットは何も気づかなかった様子であった。

 

「ナーベ。教えてやれ」

 

ナーベが頷くと前に出て口を開いた。

 

「ポケットの中身を見て見なさい。そこにプレートがあるでしょ?それを目印として追跡したの」

 

「何!?」

 

そう言ってカジットはポケットを探る。何やら硬いものに指先が当たる。それを掴み取り出した。手には銅の冒険者プレートがあった。

 

「これは一体いつの間に?」

 

「その程度のことにも気付かないなんて・・・ダニめ」

 

気が付くとカジットの目の前にナーベがいた。

 

「なっ!?転移<テレポーテーション>!!?」

 

ナーベはカジットの手からプレートをサッと取った。

 

「くっ!」

 

カジットは魔法を何か詠唱するのでは遅いと判断し、ナーベに向かって杖を叩きつけるようにして振るう。しかしそれは空を切っただけであった。カジットがハッとして前方を見るとナーベは元の位置に立っていた。彼の周囲にいる覆面の者たちはその一連の出来事があってからようやく異変に気付いたらしく「師よ。どうすれば」「カジット様!」などと慌てている様子であった。

 

「そうか分かったぞ!お主の切り札はその魔法だな。この儂を転移魔法を使って殺すつもりだな!」

 

「そんなわけないでしょ?」

 

ナーベは溜息を吐くとプレートを首に掛けた。それを見たカジットたちに冷や汗が流れる。

 

「あなたたちの血でプレートを汚したくなかっただけよ」

 

その一言でカジットたちの中で格の違いを感じ取ったのだろう。

 

 

 

 

_____

 

 

 

(あっちは大丈夫だな・・)

 

モモンがそう思った時であった。

 

金属音が響き渡る。

 

「あれ!?おかしいな。完全に気配を消していたはずだったんだけど」

 

女がモモンから距離を取る為に跳躍する。

 

モモンの背中から不意打ちで攻撃しようとした女であったが、モモンは最初から気付いており女の攻撃に合わせて大剣を抜いて防いだのだ。そのため女の武器・・刺突に特化したスティレットによる不意打ちは完璧に防がれた。

 

「バレバレだっ・・・」

 

『バレバレだったぞ』と言いたかったモモンであった。だがその言葉を発しようとしながら振り返った時だった。

 

思わず思考が停止する。その女の顔を見て昔を思い出したからだ。

 

「あれれ?どうしたの?」

 

女が口元を歪ませ笑いながら首を傾げる。

 

「・・・・・」

 

モモンは背中から大剣を抜くと両腕に大剣を持ち構える。

 

「?」

 

女の容姿を詳細に述べるのであれば金髪。顔立ちは可愛い猫を連想させた。ただし女の瞳には人間でありながら野生の肉食動物の様な必要最低限な感情を持った瞳。だが肉食動物と印象が決定的に異なるのはその瞳の奥に狂気を感じたからだろう。

年齢は20歳前後だろう。

 

そしてその女の容姿はモモンは昔を思い出す。

 

「一つ聞きたい」

 

「?何?」

 

「お前の名前・・フルネームは何だ?」

 

「私の名前はクレマンティーヌ=クインティア。よろしくねぇ」

 

自身の名前を話したことをクレマンティーヌは僅かながら後悔した。名前を言った途端モモンの全身からとんでもない程の威圧感を感じっとったからだ。全身の血液が凍り付いた様な錯覚に陥る。

 

「・・クインティアか・・」

 

「!っ・・・」

 

クレマンティーヌはモモンの言葉を待った。それは威圧されて全身が石にでもなったように重く固まってしまったからだ。

 

「私たちはあちらでやろう」

 

そう言って二人はその場を離れる。

 

_______

 

 

「くっ・・」

 

カジットは倒れた弟子たちを見て舌打ちをする。全員ナーベが詠唱した魔法によって倒されたのだ。

 

「あら?もう終わり?ノミでももう少ししぶといわよ」

 

「馬鹿にしおって!ならば見せてやるわ」

 

そう言ってカジットは右手を空に向かって掲げた。

 

(この感じ・・・)

 

ナーベは瞬時に上を見る。

 

「ふははははっ!もうお終いだ。貴様の負けは確定したぞ。魔法詠唱者!」

 

「骨の竜<スケリトルドラゴン>ね・・・」

 

「魔法を無効化するこのモンスター相手では手も足も出ないだろう!これが私の切り札だ!」

 

「そう・・・ならば叩き潰す」

 

ナーベは鞘に納めた剣を紐で固く結んだ。打撃武器として使用する為だ。

 

「やってみろ!小娘が!」

 

カジットがもう一度手を掲げるとそれが現れる。

 

「流石に魔力がほとんどなくなったか・・・まぁいい。やれ!」

 

「面倒ね・・・」

 

ナーベがそう言ったのも無理は無かった。何故ならこのモンスターは魔法を無効化するといった特性を持つ。それゆえ魔法詠唱者にとって天敵であった。

 

(勝った)

 

(・・とか思っているんでしょうね)

 

「もういいかしら?」

 

「何?降参か?考えてやっても・・」

 

「違うわよ」

 

「何?」

 

「少しだけ『本気』を出していいかしら?」

 

ナーベが両腕を横に広げる。

 

まるでそれは何か儀式をするような動作の様に思えた。カジットはそこに神々しさすら感じ取った。

 

ナーベが手を合わせた。パンと夜空に響き渡る。その動作は神に祈りを捧げた様にも思えた。

 

だがそういった神々しさとは真逆にナーベの両手から現れたのは荒々しい龍であった。

 

その龍は雷で作られ手の中で暴れており今にも飛び出そうとしていた。

 

「一つ良いことを教えてあげるわ。骨の竜は魔法を無効化するのは確かだけど。それは正確には第6位階以下の魔法を無効化するということ。つまりこの魔法は防げない」

 

「そんな・・・」

 

「二重最強化・連鎖する龍雷<ツインマキシマイズマジック・チェイン・ドラゴン・ライトニング>」

 

ナーベの両手から打ち出された雷の龍がカジットが召喚した骨の竜に向かって飛んでいく。

 

骨の竜が二体とも雷を受けて砕け散る。

 

そしてカジットの視界が白く染まった。

 

 

 





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