オーバーロード シャルティアになったモモンガ様の建国記 作:ほとばしるメロン果汁
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オラサーダルク=ヘイリリアル。
彼にとって生きることは強くなる事。この世界を生き抜くためには強さが必要であり、強さを求めない者は生きていない者である。
この世界に生きる者には珍しくない考え方。少なくとも大勢の集団である『社会』を形成しない種族にとって、安全な暮らしを手に入れるためには一定程度の強さは必要だった。尤も、通常ドラゴンという種族は巣立ってしまえば家族でも争い合うのが当たり前であり、二十頭程度とは言え集団という『強さ』形成した彼は、ドラゴン族では珍しい部類に入るのだが。
アゼルリシア山脈は広大な世界である。
そうして家族を徐々に増やしていき、他の部族を滅ぼしていき勢力を拡大していった彼が
そして、あの夜。主張する縄張りをいつものように長である自身で見回りしていた時、今までの考えをゴミにする物を見てしまった。
――圧倒的な強さを。
最初どこかの身の程知らずが
大きな羽を持っていた小さい生き物は、とんでもない速さで空を飛び、巨人を片手で投げ飛ばす力を持ち、そして闇夜を一瞬で真っ赤に燃やし山脈を吹き飛ばした。
信じられなかった。そしてその光景が理解できなかった。どうやって住処の入り口へ戻ったのかも覚えていない。気が付けば叫びだし、今まで集めた財宝を搔き集め部屋に駆け込んでいた。そしてあの光景を何度も思い出し、やっと理解してしまった。
――アレは次元が違う強さだ。自分ではどうあっても勝てない、戦うことすらできない存在なのだ、と。
アレは一体なんなのか、そんなことはどうでもよかった。オラサーダルク=ヘイリリアルにとってあれは厄災なのだ。つまり過ぎ去るのを隠れて待つしかない存在。
できる事と言えば扉越しに家族に特徴を伝え、絶対に手を出さないよう言い含めるくらい。それ以外はひたすら食事もせず隠れておくつもりだった。多少飲まず食わずでもドラゴンは衰えたりはしないのだから。
そしてようやく自らのできる事をみつけ、落ち着きを取り戻しつつあった時――
「ここに引き籠っているの?」
「は、はい。あの晩帰ってきてから一切外に出ず、部屋の中で叫んでいました。最初は意味が解りませんでしたが、あなた様の事かと…」
まさか自分の行いでニートを生み出すことになるとは、ある意味今までの人生で一番罪悪感を感じてしまう。
場所はドワーフの元王城一室、その手前の豪華な装飾が施された扉の前。装飾や部屋の位置取りを見る限り王城だった頃は、さぞかし地位の高い人物の部屋だったことは見て取れる。
キーリストランに事情を聴いた後、とりあえず話をするために会いに行くことにした。とは言ったものの、彼の見た光景はドワーフに説明した事情と異なるため、どういった方法で口止めするか考えながらであったが。
そのためドワーフの三人には残ってもらっている。当然降伏したとはいえドラゴン達がいる不安もあったため、
「この扉壊していい?」
「え!?あ!、も、もちろんです。オラサーダルクはこの城を壊さないようにと、私たちに日々言っておりました。ですが、あなた様のすることに文句などあるはずありません」
どうにも、というかかなり恐れられているのはわかった。とはいえ恐怖が忠誠心に繋がるならば、ドラゴンを飼ってもいいかもしれない。ドワーフは帝国と小規模ではあるが貿易をしているらしい。帝国でドワーフ国の物品がどの程度価値があるのかはわからないが、ドラゴンによる空輸は輸送手段の一つとして必要とされるかもしれない。
そもそも過去にドラゴンスレイヤーを倒したという称号よりも、二十頭近いドラゴンを使役できる者の方がインパクトがあるのではないか。それに強さは兎も角飛べることと大きな体は何かに使えるかもしれない。
「あなたは戻ってくれる?話をするだけだから」
「はい!そ、それでは失礼します」
大きな長い体を蛇のように階段へ滑り込ませ、そそくさとこの場から離れていく。一応夫の危機だと思うのだが、随分と薄情に見える。とはいえ一応はドラゴンをまとめて飼う気になりつつあるモモンガにとって、長であるドラゴンが従順であればそのまま従える方がいい。一番心配なのはドワーフとの関係だが、逆に言えばそこがクリア出来れば後はどうとでもなる。
(とりあえず壊すか)
要点をまとめ終えた後、視線を目の前の扉に移す。少々壊すのがもったいないが、そもそも扉を含め城全体の老朽化が激しいのだ。扉一つ余計に壊しても誰が怒るわけでもないのでさっさと用件を済ますことにする。
手に軽く力を籠め扉に振り下ろした。
「な!なんぎゃあああああああ」
内部に吹き飛んだ扉が命中したらしい。長年積もった埃の舞う部屋の中に入る。想像していた通り埃と汚れで隠れてはいるが豪華な装飾が目につく部屋だった。そしてその部屋の半分を埋める大きな体のドラゴン。
「あなたがオラサーダルク=ヘイリリアル?」
「な!?なんだ!きさまぁ!」
部屋の奥の黄金の山を背にして守るように此方を睨みつけてきた。どうやら先ほどの扉は頭に命中したらしく少し欠片が刺さっている。扉の方は流石にドラゴンの皮膚には耐えられなかったらしく、隅でバラバラになっていた。
「私はシャルティア・ブラッドフォールン・アイン」
「おぉ!なんだその身に纏う衣装は!」
名乗りの途中で興奮したよな鼻息に遮られる。全くこちらの話を聞いてない。そしてアインズ・ウール・ゴウンを名乗る途中ということに、初対面とはいえ少しばかり不快感を覚える。
どうやらシャルティアの装備品に興味深々の様だ。思えば他のドラゴン達が最初に体に注目していたのは、実はこのドラゴンと同じく服や装備を凝視していただけかもしれない。
黄金や貴重品を集めるのが種族的特徴と、ドワーフから聞いた覚えがある。シャルティアの装備品は伝説級止まりだが、この世界ではどれほどの価値があるのか。今のようにドラゴンが反応するほどの価値なら、ある意味気を付けなければならない。
それはともかく、ペット扱いで飼うにしても躾は大切なことだ。餡ころもっちもちさんも言っていた。「命を飼うのは遊びじゃないんだよ」と。
「……とりあえず、上下関係はハッキリさせとこうか?……絶望のオーラ
「!ぎ、っがああああああああああああああああああああ」
劇的な光景だった。モモンガに顔近づけてきた先ほどの光景と逆に、背後に飛び逃げるように飛びあがって行った。尤も部屋の入り口はモモンガの入ってきた一つしかなく、壁に強かに打ち付けていたが。壁は思いのほか頑丈に作られていたようで、完全に破壊されずひび割れ程度で済んでいた。何度も耐えられるものでもなさそうであったが。
(というか問題なく絶望のオーラも効いているな)
当初ドラゴン達に使おうと思っていた絶望のオーラだが、思ったよりあっさりドラゴン達が降伏したため使わずにいたものだ。当初は念のため
「や、やめええてくれえ!殺さないで!!!」
「遠目だったからわからないのかな?あの夜、
「んあ!?あ、お、お前があ!っぎゃああ」
とりあえず先ほど名乗りを遮られた分と合わせて殴っておく。犬と違って喋れるのであれば口の利き方も直させなければならない。
「悪いけど、ペットは飼ったことがないから。加減はわからないけど恐慌が自然回復するまでとりあえず殴るね、練習にもなるし」
「や、やめゴボッ」
最初のオラサーダルクの過去や設定は、作者の補完や捏造もあるかと思います。
リアルニートやペットにこんなことしてはいけない。