中国が香港で適用し、統一を目指す台湾に呼びかける「一国二制度」が揺らいでいる。香港で「高度な自治」が骨抜きにされる現状を見れば、台湾人が“空証文”を信じられぬのは当然ではないか。
「一国二制度」は中国では「一国両制」と言われ、一つの国に社会主義と資本主義を共存させる知恵であった。一九九七年に英国から返還された香港に、中国は外交と国防を除く五十年間の「高度な自治」を認めたはずである。
だが、香港中文大の研究所は今月初旬、香港の十八~三十歳の若者のうち51%が海外移住を考えているとの世論調査結果を公表した。前年調査より5・5ポイント増え、香港住民全体でも34%が移住を希望しているという。
香港行政長官選の民主化を求めた二〇一四年の「雨傘運動」以降、中国は香港の民主化運動や自由な言論を極端に締め付けた。「二制」が揺らぎ、共産党統治の「一国」に染められる失望感が、世論調査結果に表れたといえる。
昨夏、林鄭月娥長官は就任一年の演説で「『一国』の根本を堅持…」と強調した。中国の代弁者のような長官の姿勢が、民主の失われゆく香港に見切りをつけ、海外移住を希望する住民を増やした一因でもあろう。
台湾にも目をむけてみたい。「一国両制」はもともと、中国による台湾統一構想として、一九七九年の「台湾同胞に告げる書」に盛り込まれた。〓小平氏が最高指導者だった時代の「告げる書」で、中国は台湾政策を武力解放から平和統一へと大転換させた。
これに対し、習近平国家主席は「告げる書」四十周年の今月初め、台湾政策を発表し、外国の介入には「武力使用も放棄しない」と強硬路線を露骨にした。
前任の胡錦濤主席は〇八年の台湾政策の演説で「武力使用」に言及していない。習氏の演説は「一国両制による平和統一」を呼びかけながらも、衣の下から鎧(よろい)が垣間見える危険なものである。
「一国両制」による統一の呼びかけに、蔡英文台湾総統は「中国の民主的体制の不十分さ、人権状況の悪さ、武力行使を放棄していないことに、台湾人民は強い疑義を感じている」と、突き放した。
香港は「一国両制」に愛想をつかし、台湾は信用しない。その原因は、「一国」にのみ込んでしまえば後は思いのままという、自身の傲慢(ごうまん)なふるまいにあることを中国はよく考えてほしい。
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