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【社説】

勤労統計不正 他にないか、調べ直せ

 国の公的な統計は社会のさまざまな場面で使われる。正確さと信頼性が高いからだ。厚生労働省の統計調査の不祥事はその基盤を揺るがした。他にはないのか。政府の責任で調べ直し公表すべきだ。

 また厚労省の失態である。

 昨年の通常国会で、裁量労働制の対象業務拡大へその必要性を示す労働時間調査データに不適切な扱いがあったことが発覚したばかりだ。だが、今回はさらに深刻である。

 毎月勤労統計は労働者の給与や労働時間を調べる。結果は国の経済規模を示す国内総生産(GDP)の算出などの経済指標の他、雇用保険の失業給付額や労災保険の給付額の算定にも使われる。

 四月から導入される、労働時間規制から外す働き方である高度プロフェッショナル制度(高プロ、残業代ゼロ制度)の対象者の年収要件の算出にも用いられる。

 民間でも春闘の労使交渉の参考にされるし、メディアも度々引用する。

 本来は調査精度を上げるため一定規模の企業の全数調査がルールだが、東京都分は一部の抽出調査にとどまっていた。基準となる数字が本来の手法より低く算定され失業給付額などが過少だったと指摘された。高プロの年収要件も本来より低く設定される懸念はないか。厚労省自身がその重要性を分かっていたとは思えない所業だ。

 しかも、同様な手法は二〇〇四年から担当者の間で引き継がれていたという。調査手法を正しく装う操作もしていた。官僚の隠蔽(いんぺい)体質を感じる。中央省庁が雇用する障害者数を水増ししながら長年放置してきた問題とも通じる。

 なぜ、このような手法がまかり通り、長年放置されたのか。そこに故意はなかったか。厚労省は早急に調べ、こうした疑問に答える必要がある。

 勤労統計は国の「基幹統計」に位置付けられる。特に重要と判断され社会で広く使われている統計だ。国勢調査や人口動態統計など政府全体で五十六(一昨年四月時点)ある。

 調査を受ける企業などには正確な報告が義務付けられ、違反には罰金刑もある。それなのに正確さに欠ける不適切調査が長年続けられたことは許し難い。調査姿勢の不誠実さを重ねて指摘したい。

 勤労統計は国際機関にも定期的に報告される。公的統計の信頼性は国の信用に等しい。安倍政権は政府を挙げて実態解明と公的統計の総点検を行う責任がある。

 

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