わが身を利するためなら手段を選ばない。そんな傲慢(ごうまん)さが透けてみえる。女性や浪人生を入試で差別していた東京医科大であらたに裏口入学の疑惑が浮上した。医学部入試の膿(うみ)は出し切るべきだ。
弁護士などでつくる第三者委員会の最終報告書が東京医科大のホームページに掲載されたのは昨年十二月二十九日。多くの職場が仕事納めをした後の年の暮れだ。記者会見も開かれなかった。
報告書は長年にわたり、国会議員や同窓会関係者らの依頼で、特定の受験生を優遇していた疑惑を指摘。優遇と寄付金との間に「何らかの関連性があった可能性がある」としている。
調査の過程を記した記述は生々しい。「もし入学を許されましたら育てて頂く大学のためには寄付は三千万円は用意するつもり」などと記された手紙や、受験生の名前の横に「2000」「2500」などの数字が記されたリスト…。推薦入試の直前、ある受験生が予備校で「試験問題が手に入った」と吹聴していたという情報提供をもとに調べたところ、小論文で一位の成績を収めていたという。
文部科学省は年明けに同大の関係者を呼び、事実関係の調査と原因究明を指示した。二〇〇二年、帝京大が合格発表前などに寄付金を集めていた時には、入試の公正を損なったとして、五十億円近い補助金の返還を求めた。今回も事実を明らかにした上で厳正に対処するのは当然だ。
このような不正が東京医科大だけなのか、気がかりだ。同大入試の女性差別が発覚した昨夏、文科省は全国調査を始めたが、当初はどの大学も不正があるとは回答しなかった。
訪問調査などを重ね、ようやく十校の校名公表に至ったのは昨年暮れのことだ。女子を差別していた大学からは「女子の方がコミュニケーション能力が高い」(順天堂大)などという珍妙な弁明も聞かれ、罪の意識は希薄に映る。
先行き不透明な社会で、安定した待遇が期待できる医師になれる医学部の人気は高止まりで、全国で約九千の定員を十数万人の志願者が争う狭き門だ。その状態が、公正さを逸脱しても自分たちの都合の良い選抜をしてもよいとの大学側の傲慢さを生む温床となっている側面もあるだろう。
文科省は昨年の調査で一区切りとせず、信頼回復のためのメスの入れ方をさらに考える必要があるのではないか。
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