鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず
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22話 交渉

 アインズはナザリックの自室に戻り執務を行っていた。

 

「ナザリックの維持だけならカルネ村で生産した食物だけでなんとかなるか」

 

 目を通しているのはアルベドからの報告書。ナザリックの収支報告に関する内容であった。

 

「それでも5階層の吹雪や七階層の溶岩といったフィールドエフェクトを切った状態でギリギリ均衡を保っている状態か」

 

 侵入者が来ない今、地表部に近い第一から第三階層のデストラップなどのギミックも殆ど停止している。

 

 勿論地表部の監視は怠っていないし、もしナザリックに侵入者が現れた場合は即座に撃退用のギミック全てが作動することになっている。

 

 アインズは書類を一旦机に置き、メイドに用意してもらった紅茶を一口含み喉を潤す。

 

 美味い。

 リアルでは紅茶は嗜好品として扱われ、鈴木悟にとっては縁の無い代物だった。

 一度だけ仕事の関係で呑む機会があったが、ここで淹れられた紅茶ほど香りも味も良くなかった。正直旨くなかった。高い金を出してまで呑む気が起きないほどには。

 

 それがこうして素晴らしいモノを味わえるだけでも人間に────鈴木悟になった価値はあっただろう。

 飲食不要のアンデッドの体は確かに便利だ。だが、人間の三大欲求を放棄するアンデッドの体でいると人間である鈴木悟の精神が無くなっていくのは至極当然と言えた。

 たまにだが睡眠も良い香りのする巨大ベッドでとっている。

 性欲は────。

 

「…………深く考えるのは止めておこう」

 

 ルプスレギナが捕らえたカルネ村でアインズの事を調べていた者達。暗殺集団”イジャニーヤ”の頭領をしている忍者、ティファ。

 

 アインズに対して「上様」と跪き仕えさせてほしいと唐突に願ってきた。

 

 モモンとして外で活動する時は隠蔽効果を持つマジックアイテムを装備しているが、ナザリックに居る時は基本的にそれらは外している。

 あの時はそれらを装備するのをうっかり忘れていた。仕事を全うしたルプスレギナの手前、威厳ある態度を意識して無意識に漆黒の後光まで発動してしまっていた。

 

「上様って、俺は殿様かよ」

 

 ティファにはなんとなくハムスケに似た空気を感じる。

 

 現在ナザリックは暗殺組織などを必要としていないが、現地での諜報活動としてなら使えなくはない。

 そう考えたアインズは彼女の願いを聞き入れた。

 「是非、夜のお供を。<影技分身の術>を使った多重奉仕を披露する」と言われた時は時間停止(タイム・ストップ)でもかけられたようにアインズの時間が止まってしまった。────対策は完璧なのに────ルプスレギナの手前却下したのは言うまでもない。

 頭領の決めた事に従う部下共々、しばらくは様子見としてカルネ村でナザリック監視の下、住んでもらうこととなった。

 

 意外に順応能力が高いエンリならば後から訪れる予定の”フォーサイト”や森妖精(エルフ)達とも巧くやってくれるだろう。必要であればナザリックからの援助も惜しむつもりはない。

 

 

 

 

 

 部屋をノックする音が鳴る。一般メイドのエトワルがデミウルゴスの来訪を告げる。

 いつものやり取りを行いアインズの前に跪く。

 

「アインズ様。王国の復興が間もなく終わるとの報告が上がりました」

「そうか、ようやくか」

 

 犯罪組織”八本指”を襲い、傘下に収め現地通貨を大量に手に入れる作戦『ゲヘナ』。

 あれには王国に対してアインズ・ウール・ゴウンが更なる恩を売るというのもあった。

 その最大の目的は────国造りである。

 

 今までのようにナザリックを隠して活動していると表立って動けない。

 どこかの国を後ろ盾にしては主導権を得られない。

 だからナザリックを表に出しアインズの国を新たに造る必要があると、デミウルゴスとアルベド両者が以前から口にしていた。

 

 王国戦士長救助、王都を救う手助けという貸しを背景にして、ナザリックが在る地とカルネ村両周辺一帯を王国から買い取ろうというのだ。

 国から土地を買うのは昔の現実世界でも可能で、行政目的に使用されている「行政財産」(エ・ランテルなど)はさすがに無理だが、開拓村やなんの整備もされていない草原が広がるナザリック周辺の価値など、王国からすればたかが知れている。

 セバスが入手した王国の法律を記した本を調べてもらったが、そのあたりの記述は特になかった。

 土地価値の相場も調べ、見合った額にいくらか上乗せした額を提示する予定だ。

 王国がこの提案を呑んだ場合、同盟国として両国の友好関係を築くのも可能。

 王国に爵位を要求し、治める土地を求める方法もあるにはあるが王国には全く魅力を感じない。王国貴族などになってしまっては様々な不都合を起こすのは目に見えている。

 王国領に転移してしまった以上、周辺諸国にナザリックのある血はアインズの土地だと示す必要がある。

 穏便に済ませられればプレイヤーが居た場合、敵対行動を取られにくくなる。

 アインズは正義感に釣られた者なんかと敵対などしたくなかった。

 

「では、ユリに王都に居る戦士長との打ち合わせを頼むとするか」

「はっ、直ちに」

 

 嬉しそうに尻尾を振りながら「失礼致します、アインズ様」と退室していくデミウルゴスを見送り、椅子に背中を預ける。

 

(交渉の成功率は半々…………か)

 

 知恵者達が示した成功率はアインズが考えるのと同じぐらいだ。

 デミウルゴスは僕を送り込み百パーセントにするのも可能だと言っていた。交渉が決裂しても別の手段があるとも。なんとなくだがデミウルゴスは決裂した方が良いと考えているようにアインズには感じられた。

 デミウルゴスのことだ、更に先のことを見据えているのだろう。

 

「王国はどちらを選ぶかな」

 

 マジックアイテムの効果でいつまでも冷めない紅茶を飲む。

 その後、アルベドと王との交渉時の対応方法などを相談して時を待つ。 

 

 

 

 

 

 

 王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフは自らの命の恩人であるアインズ・ウール・ゴウンとまた会えるのをずっと楽しみにしていた。 

 

 村を虐殺して回っていた狼藉者を倒し、大して得にならない辺境の村を救う義侠心を持った心優しい魔法詠唱者(マジック・キャスター)

 同時に敵対するものには容赦しない苛烈な部分もある。

 後詰の特殊部隊も追い払ったと言っていたが恐らくは嘘だと思っていた。

 それについては言及したりはしない。話してみて感じたのは恐ろしい強さを持ちつつも素晴らしい御仁だというのが自分の中での評価だ。

 

 数日前、我が家に現れたユリ・アルファという眼鏡をかけた美しいメイド。

 悪魔が王都を襲ったあの日、ゴウン殿の命で民を救うのに尽力してくれたメイドの一人。

 彼女の用件は主人であるゴウン殿にようやく時間が取れ、王都まで足を運ぶ準備が出来たというものだった。

 それを聞きすぐさま陛下に報告。王都の復興も落ち着き、陛下の準備もいつでも可能だと受け、再度ユリ殿と段取りを決めることとなった。

 

 そして今日がゴウン殿が王城へと来られる日。

 

 本当なら自らが城門で迎えたいと思っていたが、王の剣としている自分が陛下の傍を離れる訳にはいかなかった。今頃は他の誰かが迎えている頃だろう。 

 

 玉座に座る陛下の斜め後方で不動の姿勢で立つ。

 ガゼフの居る反対側には第一王子、第二王子、第三王女が並んで座っている。

 クライムと新たに王女の傍仕えとなったブレインの姿はない。

 王族が揃って一介の魔法詠唱者(マジック・キャスター)を迎えるのは珍しい事態だろう。 

 しかし王国領のカルネ村。更に王都を救う手助けをしてくれた相手だと考えれば、逆に王族の誰かが居ない場合、その者は王国のことを考えない者と捉えられるかもしれない。

 ガゼフとしては陛下がかの御仁に対して心から感謝していることの証と思っている。

 

 六大貴族からはレエブン侯の姿も見える。

 これもガゼフの進言を聞いてくれた陛下の采配だろう。と思っていたが実際はなんてことはない。ただ他の貴族達は地位の低い魔法詠唱者(マジック・キャスター)相手にわざわざ感謝する必要が無いと出席していないだけだった。

 それでも貴族の者が全く居ないわけではない。六人ほどの貴族が居る。ガゼフには何人か見覚えがあった。六大貴族それぞれの派閥の下位貴族達。この場の成り行きを見守るだけに出席させられた所謂小間使いだろう。彼等は大した発言権は持っていない。ゴウン殿に対して何か言うことはないだろう。

 

 ゴウン殿は礼儀正しい対応を自分にしてくれたが、貴族と言う感じではなかった。どこか遠くから来たとも言っていたからこういった場の作法に疎い可能性があった。自分も人のことは言えないが。

 もし口やかましい愚かな貴族がこの場に居ればゴウン殿の不興を買いかねない。

 レイブン侯の事は王派閥と貴族派閥を行き交う蝙蝠だと言われている。以前から嫌いだったが陛下自身が同席するように言ったらしく反対することはなかった。 

 

 部屋の周りには何十人もの騎士が王族達を守る為に配置されている。

 得体の知れない魔法詠唱者(マジック・キャスター)を招き入れるのは危険だと過剰気味に動員させたのは第一王子だ。

 正直彼の存在が一番不安だ。他の方々は強大な力を持つゴウン殿を怒らせるのは得策ではないと理解している感がある。多少粗野な態度があったとしても目を瞑るぐらいの器量はあるだろう。

 陛下が事前にそのあたりの釘を刺していなければ、首根っこを掴んで放り出したい衝動を抑えられなかったかもしれない。

 

(そろそろか)

 

 玉座へと繋がる扉が開かれる。

 ガゼフの予想した通りに案内されたゴウン殿が姿を現す。

 左右に、黒髪に眼鏡をかけたユリ・アルファ殿と赤金(ストロベリーブロンド)の長い髪をストレートにした、片目を眼帯で隠したメイドを伴っている。

 どちらもありえないほどの美女であり、”黄金”と称される第三王女に匹敵する美貌の持ち主である。

 

 ゴウン殿はあの時と同じ豪華な漆黒のローブを纏い、泣いているような怒っているような奇妙な仮面を被っている。違う所と言えばガントレットを嵌めておらず、人の手が見えているぐらいだろうか。

 

(なんだ?何か違和感が…………)

 

 強者が放つ特有の気配は同じ。だが、圧倒的支配者足るオーラが強まっているように感じる。

 しかし別人だとは思えない。戦士として積み重ねた勘が同一人物だと告げている。

  

「初めまして国王陛下。アインズ・ウール・ゴウンといいます」

 

 深く、ではないが手を胸の前に当て頭を下げる。二人のメイドは見惚れてしまうほど綺麗な礼をとっている。

 その姿に不快感を露に眉を潜めたのは第一王子だけだった。

 

「よ、良く来てくれたアインズ・ウール・ゴウン殿。その仮面については戦士長から聞いている。なんでも魔法的な意味でおいそれと外せないとか。戦士長を救ってくれた事、王都の民を救う手助けをしてくれた事といい、ずっと礼を言いたかったのだ」

「しなければならないと思っての事ですので。それとこちらの事情を察して頂けて感謝します」

 

(間違いなく本人だ)

 

 数ヶ月前に少し話した程度だったが、ゴウン殿の発する声はあの時と同じ声だった。

 

「戦士長から聞いた通りの御仁のようだ。早速だがそなたに褒賞を渡そうと思うが受け取って貰えるかね?」

「それについてですが。褒賞とあればこちらが望むものでお願いしたいのですが」

 

 ゴウン殿は後ろに控えたユリ殿に綺麗に封書されたものを渡し、それをレエブン侯が受け取る。

 

(こういった作法が無縁の私では良く分からんな。いつまでもこのままでは駄目なのだろうが)  

 

「詳しくは今お渡しした紙に書いてありますが、私が望むのは…………」

 

 

 

 

 

 

(帰られたか)

 

 ガゼフはなんとなく気疲れから「ふう」と深呼吸した。

 ゴウン殿の王に対する態度はガゼフから見ても決して褒められたものではなかった。まるで対等でもあるかのようにも感じられた。

 第一王子辺りが一人憤慨して鼻息が荒かったが、ゴウン殿の望みを聞いて少しは納得も出来た。

 

(まさか自分の国を造ろうとは、なんともゴウン殿らしいな。ふふふ)

 

 国を造れば彼こそが一国の主だ。王に成ろうとする者として舐められる訳にはいかないからこそ、対等の立場でこの場に臨んだのだろう。

 

 もし、陛下より先にゴウン殿と会っていれば自分はどうしただろうか?

 

(なんて。詮無きことを考えても仕方がないな)

 

 ゴウン殿の望み。土地を買いたいに対する陛下の返答は「少し時間が欲しい」だった。

 「良き返事をお待ちしています」と返したゴウン殿が帰られ、二人の王子と王女はそれぞれ自室に戻られた。

 陛下とレイブン侯は二人でゴウン殿に対してどうするか話し合っている。

 

 国造りには驚いたが、それよりもガゼフには気になることがあった。

 

(自分と同じ黒髪黒目だったとはな)

 

 何を思ったのか、ゴウン殿は帰る間際にその素顔を晒したのだ。

 この辺りでは珍しい南方出身を示す特徴の髪と瞳。彼も南方の血を引いているのだろうか?

 かの『逸脱者』と同等、或いはそれ以上の力を持っているとガゼフは睨んでおり、年齢もそれ相応にとっていだろうと思っていたが、予想に反して彼は若かった。あの容姿から自分よりも年下と思える。

 一番目を引いたのが優しげな瞳だった。ずっと見ていると吸い込まれそうになる不思議な魅力を持っていた。

 

 ガゼフは訓練所へと歩を進める。ブレインと鍛錬する約束があったからだ。

 

 恐らく陛下はゴウン殿の提案を呑むだろう。こう考えるのはガゼフとしても気分の良い事ではないが、提示された村と土地の価値の代わりにあの強力な魔法詠唱者(マジック・キャスター)と友好関係を結べるのだから。

 

(そういえば)

 

 ゴウン殿を現れた時からラナー王女の様子がおかしかったのも気掛かりといえば気掛かりだった。

 最初は目を見開いてゴウン殿を見ていた。それからは見たこともないほど真剣な眼差しで凝視していた。

 あれだけ圧倒的な存在感を放つ御仁を思えば無理もないかもしれない。

 あの場に居た誰もがゴウン殿から放たれたプレッシャーに呑まれる中、眉を潜めるという不快感を表した第一王子には驚きだ。

 

 

「色んな感覚が麻痺でもしていないとあの反応は出来んな」

 

 

 

 

 

 

「レエブン侯はこの申し出をどう考える?」

 

 ランポッサⅢ世は権力闘争を繰り返す王国で、王派閥と貴族派閥の間をさまようコウモリと思われているが、その実、国が崩壊しないように均衡を維持するのに尽力している真の忠臣と相談していた。

 

「少し難しい問題ではありますが、私は彼の提案を呑む方が良いかと存じます」

「ふむ、私もそう考えてはいるが…………」

「問題は貴族共…………ですね」

 

 アインズ・ウール・ゴウンが提示してきた土地は王国直轄領だが。だからと言って王の好きなように出来る訳ではない。悪魔騒動で王の力が強まっている今、勝手にこの話しを進めてしまえば貴族派閥からの反発が予想される。

 貴族派閥にも話を通しておく必要があった。

 

 王国では魔法詠唱者(マジック・キャスター)の地位は低い、愚かな貴族達は得体が知れない妖しげな奇術師・手品師などと蔑んでいる者が大半で、魔法というものを全く理解していない。

 

「ふう、納得させるのに骨が折れるかもかもしれませんな」

 

 レエブンは愚鈍な貴族を思うと溜息しか出なかった。

 

 反発される要因は他にもある。

 開拓村の価値などはたかが知れている。戦士長からの報告によればあの村は最近不埒な輩の襲撃で人口が半減してしまっている。王自身は手厚い援助を施したかったようだが、今年の徴税、徴兵免除ぐらいが精一杯だった。

 そんな村と草原ばかりの周辺地域に示された額は実際の価値以上だった。

 転移事故に巻き込まれ、ナザリック地下大墳墓なる魔法詠唱者(マジック・キャスター)の拠点がある地域など丘が在る程度で整備もされておらず本当に何も無い。

 

 王国直轄領が減るのを喜ぶか。

 本来の価値以上の金銭を王側に入るのに憤るか。

 さしものレエブンにも判断出来なかった。

 

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)の提案を受け入れた場合。

 王国に隣接する形で小国が出来上がる事になる。狭い領土しか無い国相手に大した貿易関係など築けないだろうが王派閥が認めたとあれば友好関係は築きやすい。

 戦士長が計り知れないほどの強さと言った魔法詠唱者(マジック・キャスター)を貴族派閥が関係を持つ前にこちら側と繋がりを持てればそれはメリットとなる。

 

「では早急に会議の招集をかけましょう」

「頼んだぞレエブン侯」

 

 レエブンは部屋を後にする。

 六大貴族に召集をかけたとしても全員は集まらないだろう。王に屈していないという姿勢を示すために仮病や暇が無い等を理由に王の招集に応じないことが度々ある。

 それは特に問題ではない。事後報告が行われて終わる話だ。会議に参加しなかった者に文句を言われる道理は何も無いのだから。

 

 すれ違うメイドに礼をされながらレエブンには気になることがあった。

 

(彼の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が身を包んでいた見事なローブはどれ程の一品なのか?)

 

 彼だけではない、傍に仕えていたメイドの衣服も並大抵の代物ではなかった。

 

(陛下や他の方も感付いておられただろうが)

 

 もしかしたらとんでもない者を相手にしているかもしれない。

 冷や汗を流しながら急ぎ会議の準備をしなければと早足で歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

「あんな感じで良かったか?」

「なにも問題御座いません、アインズ様。御疲れ様でした」

「お帰りなさいませ、アインズ様♪」

 

 アインズは王城を出た後、都市の外までをナザリックで用意した簡素(ナザリック基準)な馬車を使い。人目の無くなった辺りまで来ると転移魔法で一気にナザリックまで帰って来ていた。

 

 アインズは自室でいつもの椅子に座り、アルベドは傍に立ち、机の向かい側にデミウルゴスが笑顔を浮かべている。

 

 謁見の場では、アインズの傍には戦闘メイドが二人おり、デミウルゴスが遠隔視で観察していた。部下の手前、王相手とはいえあまりへりくだった態度をとる訳にはいかない。かと言って傲慢不遜な態度では交渉どころではない。

 丁度良い按配がとれたかアインズは不安だったがデミウルゴスが問題無いと言うならそうなのだろう。

 アイテムで疲労は無効化しているのに精神的に疲れている気がしていた。

 

「土地を買い取るための資金の準備は出来ているな?」

「はい、既にパンドラズ・アクターに用意してもらっています」

「そうか。…………そういえば資金の元となった八本指はうまくやっているか?」

「一部の元幹部は王都に潜んでおります。金融部門、賭博部門のみの活動で、我々の傘下に入る前ほど派手にやらせておりません。六腕には訓練、及び新たな武技、魔法の研究に従事させております」

「アインズ様がお連れになったなんとかティーヌという女は多数の武技を習得していますし、その知識も豊富なようで今後の研究も捗るかと。さすがですわ、アインズ様♪」

 

 デミウルゴスが話を途中で奪ったアルベドに対して不満そうに睨んでいる。

 悪魔の視線もどこ吹く風。女神のごとく僅かな微笑を浮かべている。

 

「ん、んん!そうか、私も後で顔を出してみるとしよう」

「それでしたら私もご一緒してよろしいでしょうか?アインズ様のおかげ(・・・)双角獣(バイコーン)に乗れるようになったのにまだ一度も戦闘訓練が出来ておりませんので」

「お、お、おう。そ、それは構わないが」

「はい♪では私は準備をしてまいりますわ」

 

 腰の羽をパタパタと振り、淑女らしからぬ走りで部屋を出て行くアルベド。

 

(アルベドの騎獣召喚で呼べるのって、確かレベル100でアルベドの能力に合わせて強化されていたよな。人馬一体で闘うとどれぐらいの強さなんだ?第六階層にコキュートスでも居てくれたらいいけど) 

 

 アインズが内心そんなことを考えていると、デミウルゴスが窺うように声を出す。

 

「時にアインズ様。私が王国に赴く許可を頂きたいのですが?」

「ん?何か用事でもあるのか?」

「はい、王国に一人気になる人物が居りまして。一度会って話してみたいのです」

「お前が他人に興味を持つとは珍しいな。構わんぞ」

「ありがとう御座います。では、私もこれで失礼致します」

 

 尻尾をフリフリさせて退室するデミウルゴスを見送り、アインズはアルベドの相手の生贄にパンドラでも連れて行こうかな。なんて考えていた。

 腕を上げたと言えど正直、近接でテンションの上がったアルベドの相手が務まるとは思えなかった。

 

 

 国王との謁見をパンドラに代役させた方が良かったと気付いたのは彼のオーバーアクションを見てからだった。

   

  

 

 その頃、帝国では調査依頼した”イジャニーヤ”が消息不明という報告が届く。

 ほぼ同時に王国の内通者から、<伝言>(メッセージ)を使ったアインズ・ウール・ゴウンと国王とのやり取りの情報が入る。

 情報の精査を終わらせた皇帝は危険を承知で自らナザリックへと赴く方針を決めた。

 

 

 




ナザリックの支配者として相応しくあろうと振舞ってきたアインズ様の魅力値はカンストして付き抜けていると思って下さい。




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