2013年03月08日

ミツマタ

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ミツマタは独特の雰囲気を持った花だ。派手ではないがかといって清楚というのでもなく、洋風でも和風でも、はたまた北方風でも南方風でもない。ジンチョウゲ科で、確かに部分部分を見ればジンチョウゲによく似ているが全体の印象はずいぶん違う。ただ目をつむればあのすばらしい香りは、幾分弱めではあるがそっくりだ。

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ひと月以上前の1月末、面白い形の蕾のかたまりがいくつもぶら下がっていた。通りかかりの人たちが、なにこれ、ハチの巣みたいとはしゃいだ声をあげた。なるほどぴったりな表現だなと思う。まだまだ寒い中で気の早い一輪だけが咲いていた。こうしてうつむいたまま、端の方から咲き出して、このあたりでは2月末か3月頭に花盛りになる。

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中心はまだ緑の蕾、咲き始めたばかりは濃い黄色、それがだんだん薄くなって周辺ではよくぞここまでと思うほどの純白になっている。

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咲いたばかりの花では大きめの葯が目立つ。しばらくすると4つに離れ花粉を出し、そして花が純白になる頃には出し終わっている。花はその後でもしばらく咲いているのでたぶん雄性先熟なのだと思う。

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真正面から見るとひし形の花だった。これは萼の筒の先端が4裂したもので、この花には花弁はない。筒の外側にはびっしり白い毛が密生している。葯からたくさんの花粉が出て飛び散ったりしているので何かハナバチの類でも訪れたのだろう。

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白くなるころ、葯はもう枯れている。しかしその奥にまだ元気そうな葯がいくつか見える。それより雌しべが見つからない。いったいこの花はどうなっているのだろう。

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落ちた花があったので分解してみた。雄しべは上下2段になって4本ずつ萼筒の表面から出ていた。上側が先に熟し、それが枯れ、それから下側が熟すようだ。寒い季節に咲くのでこうして長い間花粉を出し続けて、めったに来ない虫を待ち続けるのだと思う。雌しべはとみると1本の短い棒が、下の雄しべのさらに低いところにあった。きっとここまでハナバチの頭が入るということだろう。

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ミツマタは枝が三叉になっていることから付いた名前で、見ての通りなので一度で覚えられる。これ以降も、花の後それぞれの枝の先からまた3本の枝が出る。主幹が伸びないで分枝を繰り返していく灌木はよくあるが、こんなにはっきり3つ3つとなっていくものは珍しいのではないか。枝の先端の頂芽が花芽になるためそこで止められるのは判る。その代りに側芽が成長するのだが、なぜ必ず3つなのだろう。今の状態では花芽の上に1つしかない。これがそのうち3つに分かれるのだろうか。きっと何か単純な原理なのだと思うが、こうして結果だけ見るととても不思議な感じだ。

ミツマタはその昔、皮を紙の原料にするため中国から移入されたもので、今でもお札の原料として使われているそうだ。あちこちで栽培され、それが逸出したり放棄されたりして各地で野生化しているという。ジンチョウゲと違って両性花でちゃんと種子ができるので、増えて一面見事な林になってるところもあるそうだが残念ながら見たことがない。花の時期は葉がないのでよく目立つし、香りも良く大木にもならず、もっと園芸用に栽培されてもおかしくないと思うが、知らない人が多いようだ。最大の欠点は下向きに咲くので花がよく見えないということだろう。また花が終わるとどうということもない葉が茂るばかりで面白みもなく目に付かない。そういえば私も、どんな葉だったか、またどんな果実だったか注意したこともなく、1枚の写真も撮っていなかった。


posted by 夜泣石 at 09:04 | Comment(0) | 花草木 | 更新情報をチェックする
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