アクセント史

このページでは院政期(鎌倉時代)のアクセントから現代の東京式アクセント及び京阪式アクセントへの通時的な変化を扱う。


※平安時代以前の体系に於ける、所属語彙の極少または不安定な類は無視した。
※鈍アクセント記号か鋭アクセント記号かは本質的な問題ではないので、分かり易さの為に現代東京式では鋭アクセント記号を使った。
※現代京阪式は低核と下降核の体系になっていると考えた。

この解釈の根拠:

・アクセント核が音節間にあると仮定すると、それは超分節音素ではなく分節音素ということになってしまうと思われる。
・アクセント核を「何らかの方法で強調される音節が持つ超分節的音素」として扱いたいが、高起式で高さを強調すると低起式との区別が難しくなる。
・院政期/現代京阪式/現代東京式の核の位置が上手く対応する。
・二拍以上の語に於いて、京阪式では高起式の語末に拍内下降が現れない。
・二拍名詞では第二類より第三類の方が、三拍名詞では第二類より第四類、第三類より第五類の方が所属語彙の数が多いと思われる。
・京阪式の方言で母音の無声化があまり進んでいないことと低核の位置とに関連があるかも知れない。

※この解釈は渡邉の個人的なものであり、学問的に認められたものではありません。ご注意ください。ただし、院政期アクセントについては既にこれと近い解釈(上野善道や屋名池誠など)があります。
感謝: @monk130/@nkmr_aki/@theloyaltouch

関連文献:
桜井茂治(1958) 「平安・院政時代における複合名詞のアクセント法則–五音節語を資料として–
屋名池誠(2004) 「平安時代京都方言のアクセント活用
高山倫明 木部暢子 松森晶子 早田輝洋 前田広幸(2016) 『シリーズ日本語史1 音韻史』 岩波書店


上記の解釈に基づいてアクセント史に「綴りの維持」を適用する場合は下記の規則に従う。
※核の具体的な音価を無視して説明する必要があるので、上図に於ける類(院政期アクセント)で扱った◎の核(形態素頭からの低音を要求した核)を「強核」、⦿の核(形態素頭の高音と自身の低音を要求した核)を「弱核」と呼ぶ。
※現代東京式と現代京阪式とを纏めて「東西アクセント」と呼ぶ。
※ここでの「重音節」とは撥音/長音/二重母音を含む綴り上の音節のことであり、促音を含むものは除外する。

東西アクセント共通:

・院政期アクセントの記述をできる限り維持する。(※1)
・核の位置が変化した場合、それが規則的な変化であっても、現代語の音韻上の核の位置に基づいて記述する。ただし、音韻上の音節内部に収まるズレであれば、元の位置を維持する。
・重音節を除き、弱核は語頭に立たない。
・同一単語内で弱核記号がもう一つの核記号に先行することは無い。
・二拍以下の形態素が接尾辞的に自立性の高い形態素に低く接続する際に発生した核は強核とみなす。
・複合によって後部要素の頭が高くなる際に発生した核は弱核とみなす。
・上昇調の音節が低平調の音節の直前にあった場合、それら両方の音節に強核があったとみなす。
・終止形は失われ、連体形の用法が拡大したとみなす。
・強核を持つ形容詞の連体形語尾の弱核は失われたとみなし、記述しない。
・現代京阪式の不完全複合語の前部要素では音の下降に関わる核の記号を記述できなくなることに基づき、複合によって前部要素からその様な核が音韻上規則的に失われた場合でも、その核の記号を記述しない。
・できる限り同種の語彙の核を揃える。
・東西アクセントの対応も核の強弱の判定に利用する。(※2)
・東西アクセントが綺麗に対応している場合、更に鹿児島などの二型アクセントも核の強弱の判定に利用する。(※2)
・強核記号と弱核記号のどちらを使うべきかの根拠を得られない場合、単独では強核記号を、二つ目の核記号では弱核記号を優先する。

※1: Segsyoxafuでは上代特殊仮名遣を採用しているので、上代から院政期までのアクセント体系が今後判明することがあれば、それを活用して基準となる時代の差を減らす。ちなみに、「日琉語類別語彙」を見た限りでは、琉球語でなければ区別出来ない様なアクセントの最小対は見つけられなかった
※2: 方言間の比較に基づく場合、偶然の対応でないとする根拠が求められる。


現代京阪式のみ:

・重音節に置かれた弱核が低平調を示すことは無い。
・基本的には現代東京式と同様に「分かち書きと大文字」を適用するが、不完全複合語は下記の様にする。

不完全複合語の前部要素については、音の下がり目の無い形容名詞が体言を直接修飾する場合に近いのでは無いかと考え、独立した語として扱ってみる。また、低起式の後部要素が高起式に変わることもある様だが、規則的に必ず起こる変化であれば、それを綴りに反映させる必要は無い。

中央: Tyùghàg
市民: Simìn
映画館: Eggwakwàn
会議室: Kwàigisìtu
中央会議室: Tyùghag Kwàigisìtu
市民会議室: Simin Kwàigisìtu
中央映画館: Tyùghag Eggwakwàn
市民映画館: Simin Eggwakwàn


現代東京式のみ:

・「分かち書きと大文字」の規則に従う。
・一拍語に於いては弱核記号が音価を持たない。他では単独の核記号は必ず音価を持つ。
・同一単語内に二つの核記号(強+強, 強+弱)がある場合、二つ目の核記号が語末拍にあれば一つ目の強核記号のみが、そうでなければ二つ目の核記号のみが音価を持つ。


第一類:
飴: Amay
葦: Asi >Àsi
底: Soko
竹: Takay
鼻: Xana
端: Xasi

第二類:
垣: Kakî
川: Kafâ
方/型/潟: Katâ
下: Sitâ >Sita
弦: Turû
橋: Xasî

第三類:
足: Asì
皮: Kafà (>Kàfa 京阪式)
事: Kotò
舌: Sità
花: Xanà

第四類:
肩: Kàta
其処: Sòko (>Soko 東京式)
岳: Tàkay >Takày
箸: Xàsi

第五類:
雨: Àmây
牡蠣: Kàkî
琴: Kòtô
鶴: Tùrû


他の方言のアクセントについては保留。

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