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【芸能・社会】

市原悦子さん死去 82歳心不全 「家政婦は見た!」など

2019年1月14日 紙面から

2008年6月、記者会見で「家政婦は見た!」のヒロイン秋子の“のぞき見”を披露する市原悦子さん

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 テレビドラマ「家政婦は見た!」シリーズなどで知られる女優の市原悦子(いちはら・えつこ、本名塩見悦子=しおみ・えつこ)さんが12日午後1時31分、心不全のため東京都内の病院で亡くなった。82歳だった。千葉県出身。葬儀・告別式は18日午前11時から東京都港区南青山2の33の20、青山葬儀所で。葬儀委員長はワンダープロダクション社長の熊野勝弘(くまの・かつひろ)氏。

 市原さんは、2012年にS状結腸腫瘍の手術のため、クランクイン直前だった13年公開予定の映画「東京家族」を降板した。代役を吉行和子が務めた。

 17年1月には、自己免疫性脊髄炎のため休業することを発表。6月に、NHK大河ドラマ「西郷どん」のナレーションで復帰することが発表されていたが、体調が優れず、降板。西田敏行がナレーションを務めた。

 18年3月放送の同局「おやすみ日本 眠いね!」で仕事復帰した。

 昨年12月上旬に体調不良を訴え、検査を受けた結果、盲腸と診断されて入院。手術は行わず、薬で治療、順調に回復し、同30日に退院した。

 年末年始は自宅で過ごすことが出来たが、再び体調不良を訴えたため大事をとって年明けの1月5日に再入院していた。

◆新海監督が追悼

 市原さんが声優を務めたアニメ映画「君の名は。」(2016年)の新海誠監督(45)と主題歌を担当した「RADWIMPS」の野田洋次郎(33)が13日、ツイッターに追悼のコメントを掲載した。新海監督は「僕は『まんが日本昔ばなし』で育ちました。『君の名は。』の収録で初めて市原さんにお会いした瞬間、初めてセリフを頂けた時の感動、披露試写であたたかいお言葉を頂いた時、すべてつい昨日のようです」。

 ▽テレビドラマ「家政婦は見た!」などで共演した女優の野村昭子(92)「俳優座から一緒で、家が近かったこともあり、親しく付き合っていた。普段は明るく優しい人。理屈っぽくなく、仕事が好きで、誰よりも女優という仕事に向いていた。芝居の話ができ、共演していてやりやすかった。あの人の芝居を尊敬していたし、天才だと思っていた。ある時代をつくった人で、本当に惜しいです」

 ▽女優渡辺美佐子(86)「俳優座でたくさんの作品に出ていて、女優として素晴らしいと注目していた。舞台『アンドロマック』で共演したのが思い出。俳優は自分を通して何かを表現する。その人間を通してこういうことを訴えたいというのが、すごくはっきりしている女優だった。まだまだ個性的な声を聞けると思っていた。残念です」

◆きょう追悼放送 テレ朝系「徹子の部屋」

 テレビ朝日系「徹子の部屋」(月~金曜午後0時)は、14日放送を市原さんを追悼する内容に差し替える。

 また、市原さんが声の出演予定だった手塚治虫生誕90周年記念舞台「悪魔と天使」の代役は、後日発表される。

◆常田富士男さんと2人だけで語り

 市原さんは、千葉県立千葉高校演劇部で活動。早大第二文学部演劇専修を経て、俳優座養成所に進んだ。同期には、ジェームス三木、大山のぶ代、冨士真奈美らがいた。

 57年に俳優座入団。舞台「りこうなお嫁さん」でデビュー。同年、新劇新人推賞を受賞、59年には「千鳥」で芸術祭奨励賞を受賞。63年に新劇演劇賞、64年にゴールデン・アロー賞新人賞に輝いた。71年に俳優座を退団。72年に番衆プロを設立した。

 75年に始まった「まんが日本昔ばなし」(TBS系)では、すべての登場人物を故常田富士男さんと2人だけで演じた。83年からは「家政婦は見た!」(テレビ朝日系)で、庶民的な“おばちゃん”をコミカルに演じ、圧倒的な支持を受けた。

 人間味のある演技で悲喜劇をこなし、脇役でも存在感を発揮。今村昌平監督の映画「黒い雨」で日本アカデミー賞最優秀助演賞を受賞した。

 岩崎加根子、渡辺美佐子とともに俳優座が生んだ三大新劇女優とうたわれた。

 ほかの代表作に映画「うなぎ」、舞台「ディア・ライアー」、NHK大河ドラマ「秀吉」など。

 2011年、福島第1原発事故に関連して、湯川れい子、根岸季衣らと「原発ゼロをめざす7・2緊急行動」の呼び掛け人を務めた。

◆卓越した演技力と温かな語り口

 25年にわたった人気ドラマシリーズ「家政婦は見た!」の主人公・秋子は、市原さんにとって、思わず応援したくなる愛すべき存在だった。「汗を流して生きる姿がいとおしい」。秋子を演じ続け、市原さんは視聴者から愛された。

 ドアの隙間から他人の家庭の秘密をのぞき見ていた秋子だが、夫や子はおらず、生活はつつましやか。「体調を崩して休んだら日当がもらえない。だから秋子は風邪をひかないよう、首にネッカチーフを巻いていたんです」と市原さんは説明していた。

 のぞき見についても「『何かを見たい』と思う欲求があるのは非常に知的で、健康的なこと。秋子には、知ってしまった真実への憤りがいつもあった」。好奇心旺盛で、エリートの傲慢(ごうまん)さに腹を立てる。そんな、どこにでもいそうな“おばちゃん”をチャーミングに演じた。卓越した演技力で知られ、コメディーからシリアスまで幅広い役をこなした。アニメ「まんが日本昔ばなし」では語り手を約20年間、俳優の故常田富士男さんと務め、ゆったりと温かな語り口で親しまれた。

 その語りの速度には「もっとゆっくりしたい人、世の中の大きな流れから少し外れた人たちに、共感の焦点を合わしている」との信念があったという。昨年、常田さんが他界した際、市原さんは「社会のスピードは速くなっていったけれど、2人ともそういうことには動じず、じっくりとやりました。あちらでお会いしたらまた一緒に昔話の語りをやりましょうね」と話していた。

 

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