【大相撲】稀勢の里、いきなり迫り来る「引退」… あっけなく初日黒星2019年1月14日 紙面から
◇初場所<初日>(13日・両国国技館) 進退の懸かる横綱稀勢の里(32)=田子ノ浦=は小結御嶽海(26)=出羽海=に押し出されて黒星スタート。昨年秋場所千秋楽から、不戦敗を除いて6連敗となった。先場所で初優勝した新関脇貴景勝(22)=千賀ノ浦=は正代を突き出した。高安、豪栄道、栃ノ心の3大関は平幕相手に総崩れ。平成最後の東京開催本場所は波乱の幕開けとなった。 ◇ 棒立ちで土俵を割った稀勢の里が場内のため息に包まれた。座布団もほとんど舞わない。崖っぷちの和製横綱はあっけなく御嶽海に押し出され、黒星発進。「またここからという気持ち」と新たな赤紫の締め込み姿で復活を期したその喉元に、いきなり「引退」の2文字が迫ってきた。 過去6勝1敗と分のいい相手。退けたときの決まり手は、すべて寄り切り。そんな成功体験は、もろくも粉砕された。 場所前はまわしにこだわらない突き押しの攻めが目立ったものの、切ったカードは慣れ親しんだ左差しだった。頼みの左差しは、低く当たった御嶽海の右からのおっつけで封じられた。腰が伸びきる。もろ差しに持ち込まれると、苦し紛れの突き落としも不発。一瞬で土俵際へ押し込まれ、何もできなかった。 途中休場率100%-。絶望的なデータも重くのしかかる。横綱昇進後、計5場所で初日黒星。いずれも途中休場に追い込まれている。横綱審議委員会(横審)から史上初の「激励」を決議されて迎えた今場所。皆勤できなかった場合、横審が引退勧告する可能性を示唆する。もう最高位の責務を投げ出す選択肢はない。 取組を見守った横審の委員たちは「言葉も出ません」「何と話していいか…」と、一様に落胆の色を隠せない。「あそこで頑張り切れないのは(場所を)全うできるか不安になります。でも頑張ってほしい。何とかなってほしい」と話した北村正任委員長、「好きな相撲を取る、その一心に戻ってほしい」と願った山内昌之委員と、そろって祈るような口調だった。 取組後の失意の支度部屋、出場の意欲を問われた稀勢の里は「うん、そうだね」とうなずいた。報道陣を遠ざけると、取組を振り返るように左差しのジェスチャーをしながら、付け人と言葉を交わした。 まだ心は折れていないのだろう。2日目の相手は直近3連敗中の逸ノ城。相撲人生最大のピンチは、横綱の意地ではねのけるしかない。 (志村拓) <決断の初場所> 平成に誕生した横綱は、第1号となった旭富士から3人続けて初場所で引退を決断している。旭富士は1992(平成4)年初場所初日から3連敗後、次の曙は全休した2001(同13)年初場所後、続く貴乃花は全休明けで4勝4敗1休となった03(同15)年初場所9日目に、それぞれ引退を表明した。 <八角理事長(元横綱北勝海)> 「稀勢の里は攻めているけど、おっつけられていた。明日(14日)だ」 <作曲家の横審・都倉俊一委員> (稀勢の里に)「本人は必死だと思うけど、勝負は勝負。本人が一番、後がないのが分かっていると思う。残念」
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