閑話:小動物愛でたい症候群
[レイドside]
いつものことながら、主に無茶振りされた。
主の私室に呼ばれて何かと思えばペットの子どもを風呂に入れて欲しいと言う。
子どもの面倒を見ろと言うのか、この俺に。
主を影から支える隠密たる己に。
「ふざけんなでございます」
「頼むよ。他に頼める人がいないんだ。」
「いっぱい……」
いや、今日はパーティの支度で誰も彼も忙殺されている。手が空いていようはずがない。
そしてこの準備、己の領分ではないので忙しくない。
「…いませんね。承知しました。」
「それとね、使用人は信用できない。またレイに何かあったら嫌だから」
最近、スパイがいなくなったと思ったら主のものに手を出してしまったらしい。
確かに効果的で、最も逆効果だ。
同情はする。主に敵視されたらそれこそこの先の人生はないと思っていい。
だが可哀想だとは思えない。無力な子どもを手段にするなど、反吐が出るほど嫌いな人種だ。
「…わかりました。」
俺は仕方なしに引き受けた。
か細くてみすぼらしい少年を連れて主の湯殿へ向かう。あそこならば誰も入ってくることはない。
「脱げ」
子どもと話す時、どうすればいいのだろう。
弟や妹の世話の仕方は知っているが、赤の他人の子どもを同じように扱っていいものか悩ましいところだ。
少年は死んだような目を見開きもせず眉一つ動かさない。多分これでいいのだろう。
服を脱ぐのに苦労していて、そこは年相応で見ていて和んだ。
俺は小動物が大好きだ。
「両手を上にあげて」
少年がぴんと指先まで伸ばす。
いやそこまでしなくても。
ハイネックのセーターを捲りあげ、見事に裏返しに脱がせると、少年は歴戦の
まだ新しい傷は血がついている。
これでは感染症になっていつもの子どもたちの二の舞だというのに、主は全く学ばない。
「この傷は主が?」
「あるじ?」
「マリウス様だ。」
少年はこくりと頷いた。
「…あの方は全く…はあ、こんなことじゃ、傷は癒えないとわかっているくせに」
放ったらかして治ると思ってる主は自分の治癒能力の高さをわかっていない。
普通の人間はこの深さの傷は放っておくと化膿して熱が出て大変なことになる。
また子どもが死んだら主が発狂しそうで面倒だから、今度から俺が傷の手当をしよう。
今度こそ死なせてはだめだ。
主があそこまでの執着を見せることはない。もしかすると、もしかするかもしれない。
もうこれ以上傷を広げるようなことはしなければいいのに、それでも壊さずにはいられないとは、難儀な方だ。
「…むしろ深くなるばかりだというのに」
あの方が、本当に殺したいのは自分自身なのだと気付くのはいつも誰かを殺した後だった。
もうあんな姿を見なくて済むのなら、教育係でも世話係でもなんでもなって、この少年を主から守らなければならない。
きっと主も自分の凶暴性から護って欲しくて俺に頼ってきたのだろうから。
少年の頭を洗いながらふと思った。
ここまで綺麗な黒い髪の毛を持つ人間というのはこの国では珍しい。まあ貧民街は不法な移民も多いから異国の血が入っていても不思議ではないが、こう目の前にするとまじまじと眺めたくなる珍しさがある。
シャンプーで二度洗い、髪の艶出しのためにコンディショナーを使うと、黒いながらも輝き始めた。
濡羽色とはこのことを言うのだと変に納得した。
体はさすがに他人に洗われるのは痛かろう、と石鹸を手渡すと掴めず困っていたのにまた和んで洗ってやった。
すました顔とやることのギャップが激しすぎてとても撫でくりまわしたいのを堪えていると、少年は何かを察して震えていたので冷静になった。怯えられては目も当てられない。
正直に言おう。
この美少年は誰だ。
か細さは華奢になり、みすぼらしさが取れて鋭利な魅力がある。触れたら棘が刺さる華のような。
「…だいぶ見違えたな。」
死んだような目も冷たい美貌に花を添えるのだからこれは令嬢たちが放って置くはずがない。
「あんた、なんてよべばいい?」
唐突に少年が甲高い声で言った。
可愛い。
声変わり前の声可愛い。
児童期までしかない儚さが素晴らしい。
「レイドでいい」
「レイド、かみのけいじるのうまいから」
眉を微動だにさせないと、褒められているのか気を使われているのかわからない。
「俺を褒めてるのか?」
「こんなかっこいいかみ、はじめてだ」
一瞬、死んだ目が子どもらしく輝いた気がした。愛い。喜んでる。すごい喜んでるこの子どもいじらしいな可愛い。
主のご執心もわかる気がする。
これは至宝と呼んでも過ぎないほどの尊さだ。
自分の小動物好きは思ったより重症らしい。我ながら変態じみてきて怖い。
主に毒されてきたらしい。
気をしっかり持たねば。
話し方の拙さから六つか七つくらいを想像していたが、十と聞いて驚いた。
明らかな栄養不足と教育不足だ。
由々しき事態に面倒見たがりの性分がくすぐられて仕方がない。
少年自身は必要ないと言うが、俺としてはこの先マリウスの傍にいてもらわなければいけないのでそうもいかない。
すると、
「おれのかいぬしはマリウスだ。マリウスにきいて。」
正直予想をしなかった返事だった。
「…随分と従順だな。主に懐く子どもは初めてだ。」
「なついてない」
即答したのは彼の意地だろう。
少しいじめたらもっと彼は自分を見せてくれるかもしれない。
「言うことを聞くのは懐いている証拠だ」
「さからったって、いいことない」
「落ち着き払ってるな。主の気が変わって殺されるかもしれないとしたらどうする?」
「…そのときは、レイドがいるから」
「俺がお前を助けると?」
俺は予想しなかった。
「ちがうよ。レイドがマリウスといる。だから、マリウスはさびしくならないし、またあたらしくこどもをいじめようなんておもわないだろうから、だいじょうぶ」
なんて悲愴で、優しい覚悟なのだろう。
俺にはまるで、少年自身がここにいることを受け入れた理由のように聞こえてならなかった。
貧民街の子どもが売られてきた先の、自分をいたぶる人間の心配をしているとは。
俺の質問をどう受け止めたのか、
「マリウスに、レイドみたいなひとがいて、よかった。」
少年はそう言った。
自分の、鋼の涙腺を褒めてやりたい。
戻って見違えた子どもを見て主は固まっていたが、それを愉快に思うほど今平静ではなかった。
「主」
「…ん、なんだ」
「素晴らしい宝を手に入れられましたね」
「…え」
「彼の全てはお任せ下さい。何人にも、指一本触れさせませんから」
「…待った。ぼく頼む相手をすごく間違えた気がする。」
「もう遅いですよ」
「…はあ」
主の珍しい顔に、少年が微かに驚いた。
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