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ゲームの世界ならもっと幸せに暮らしたい 作者:光好
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隣の家2

お腹がぐうと鳴った。

そこで、ぼんやりしていた頭が覚め、意識が(仮想)現実に引き戻された。


どれほどぼんやりしていたんだろう。

少しの間だった気もするが、長い間だったような体の強張りもある。


てか、お腹空いた。

朝ごはん、あれだけじゃ全然足りないんですけど。

昼までもたないって。


ため息をつくと、肩がとんとんと叩かれた。

細い木の枝で叩かれているくらいの弱さで、何だろうと肩を見やると細い指が見え、その指を上に辿っていったらさっきの少女キャラがにっこり笑って腰をかがめて立っていた。


人差し指を口に当て、しーっと言う。

それから一欠片のチーズを差し出した。


「いつも通り、こっそりよろしくね。」


なんだ。みんなやたらいつも通りを強調するな。

少女キャラは上手に片目だけをつむって、「召し上がれ」と囁いて台所へ戻って行った。


俺にくれるってことかな。

きっと腹の虫が鳴いたのを聞きつけて気を利かしてくれたのだろう。

優しい子!


俺はありがたく、そのチーズをちまちまかじって少女キャラの優しさを噛み締めた。


ほんのり味はするし、鼻を発酵臭は抜けるし、本当に現代のゲームってハイスペックだな、わしゃ、ついていけん。


ここは玄関で、口にしているのはチーズだが、縁側で茶をすするご老人の気分で時代に取り残されている自分の知識に遠い目をした。


チーズを食べ終え、指も舐め終え、収まらない空腹感と、胃が活動し始め食欲がわいてきたことにひもじさを煽られていたところ、またドアが開き、今度は見た事のある子どもが入ってきた。

あの井戸で俺を笑っていたやんちゃ君三人組だ。


え、まじ。

ここの家の子なん?

てかおたくら兄弟だったん?


驚きを隠せない俺に、三人組は始めこそたじろいでいたが、俺が端に寄って縮こまると自信を取り戻し、ニヤニヤと楽しそうに笑い始めた。


「やあ、レイヴン」

「学校には行かなくていいのかなぁ?」

「やめてあげろよ。レイヴンはビンボーで金が出せないんだから」

「可哀想にねー」

「レイヴン、学校行きたきゃお姉さんに娼婦になることをおすすめするよ」

「下女なんかより絶対稼げるよ」


三人はけらけら笑って通り過ぎた。

全員、俺の脇腹に蹴りを入れながら。


あの三人。息が合うんだな。

考えることやること、全部同じだ。


やんちゃどもが奥へと消えると、母親が友人を歓迎する声が聞こえてきた。三人のうち誰かがこの家の子どもで、その他は友達だったようだ。学校が終わって友達の家へ遊びに来たらしい。


あれの中のどれがここの子どもか知らないが、お姉ちゃん(多分)を見習え。

同じ笑うでも、やんちゃの笑顔と少女キャラの笑顔は全然違う!少女キャラは俺に慈愛に溢れた笑顔をくれると言うのに、あのやんちゃどもは嘲笑しかくれない!

どんな育て方をしたら、あんな対照的な子どもが育つんだ。


あの少女キャラの優しさを少しも受け継いでないらしい、やんちゃの内面の未熟さを残念に思った。


蹴られたところで何も感じないから別にいいけど、あの言い方は腹が立つ。

あんなに純粋に笑う姉にそんなこと言っちゃだめだ。

たとえその笑顔が誰かの創作物だったとしても、いや創作物だからこそ、理想的な姉として作られたキャラクターだからこそ、容易く傷つくだろうし、そのことを言い触らさずに心のうちに仕舞って抱え込むはずだ。

弟の俺に弱いところは見せてはくれないだろう。


多分、あるとしたらギャルゲの主人公に打ち明けるくらいだ。

「実はね、誰にも言ったことがないんだけど…」って重い過去を打ち明けて、主人公がそれにほだされて親密度が超アップ、の展開だ。

姉キャラにはそのうち、そんな男キャラが出現するに違いない。

それまでは俺が姉キャラの純潔を守らねば。


玄関で膝を抱えながら一人、固く決意をするのだった。

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