隣の家1
水を汲み終わった後朝ごはんになった。
びしょ濡れの俺を見て姉キャラは何か言いたげな表情だったが、黙ってタオルを持ってきてニコニコ微笑みながら拭いてくれた。
お疲れ様と労うのを忘れない辺り、このキャラをプログラムした人はいい親御さんに育てられたんだなきっと。
まだ髪はしっとりしていたが、姉キャラはどうやら仕事をしていて、その時間に遅れてしまうということで、台所とひと続きになっているリビングのテーブルについた。
目の前には、野菜の切れ端が浮いたスープにバケットが一切れ。
バケットはともかく、このスープはスープと呼べるものかどうか、なんとかスープっぽい風体を成しているだけでとても美味しそうには見えない。
目の前の食事を手も出さずに観察している俺に、姉キャラは困った顔でなだめるように笑った。
「ごめんね。バケット、もう少しで無くなっちゃうから今日は一切れで我慢してくれる?今日、もしお残りに預かれたら頂いてくるわ。」
姉キャラは食事を再開し、結局スープには触れずじまいだった。
そっち?
スープは?これが普通なの?
特にいつもと変わったところはないとか、そういうこと?
どうやらこの家は、裕福ではないを通り越し、少し貧乏なようだ。
じゃああれか。
成り上がりものかな。
貧乏な田舎の若者が勇者に選ばれて出世街道まっしぐら、ってストーリーなのかな。
ここは田舎ってほど田畑はないけど。
朝食が終わると姉キャラは仕事の為に家を出て、俺は左隣の家に預けられた。
預けられた家も中の様子は似たようなもので、家族の人数が多い分、こちらより荷物が多いといったくらいで生活水準は変わりないようだった。
隣の人と仲良くしたら、何か起こるのか?
とかそんな期待を胸に抱いて姉キャラに連れられて来たものの、姉キャラには何の説明もなしにわかるよね?いつも通りいい子にしててね。と置いていかれ、預かってもらう家、つまり俺の面倒を見るべき家には完全に無視られている。
まず、姉キャラが出ていった途端、応対に出てきた母親キャラの顔つきが変わった。
姉キャラがいる時こそ笑顔だったが、俺だけになった途端、顔にありありと面倒くささに辟易している様が見て取れた。
「いつも通り、別にどこにいてもいいけど、邪魔しないでね。」
母親キャラはそう言いおいて踵を返し、それから俺に何か言ったりさせたりすることはなく、本当に放ったらかしだ。
俺は、いつも通りと言われてもいつもがわからないので、変なことをして怒られるよりここでじっとしていよう、と思い玄関で膝を抱えてぼんやりすることにした。
することがない退屈さを、親に育児を放棄された子どもの気分で感傷に浸ってやり過ごしていると、ドアが開き、姉キャラより少し歳上っぽい少女が入ってきた。
「あら、レイヴンちゃん!おはよう」
少女キャラはにっこり笑って、ドアを閉めながら挨拶してきた。
誰だろう、とじっと見つめていたせいで返事を返せずしまったと思ったときには、もう少女キャラは奥へ行ってしまい玄関には誰もいなかった。
また俺はぼんやりを開始した。