井戸に行こう
え、てか井戸とかあるの?
そりゃあるか。ここなんか昔っぽいし。
とか考えて、玄関を出て、俺は固まった。
「……すげぇ」
家の前の左右からモブが歩いてくる。モブの向こう、俺の家の向かいにも家があって、窓から誰かが動いているのが少し見えた。
家の両側も延々と家が続き、絶えず誰かが出入りしている。
これ、プログラミング大変だなぁ。
とのんきなことを考えていたら、背後から姉キャラの声がした。
「レイヴン…わかった。お姉ちゃんの負け。一緒に行ってあげるから、ほら、こっち」
姉キャラが苦笑して、左手がすいと上がり、見ると姉キャラと手を繋いでいる。
折角女の子と手を繋いでいるのに、感触が味わえないなんて、少しもったいない。
それでも、今まで繋いだのはお母さんだけだった自分にとっちゃかなりな進歩と言えるだろう。
いや、待て。
ここゲームだったわ。
なんか、虚し。
と、ぼんやりしている間にもどこかへと移動し風景は変わる。
次、顔を洗う時自分だけで行けるように場所を覚えておこう、と意識を戻した。
石畳にメルヘンな外装の家々。
まあありがちな設定か。
家の並びにそって歩いていったところ、円形のちょっとした広場があった。家並みが途切れた、本当にちょっとした隙間のようなところだ。そこに四角い物体があった。
井戸だ。
「ほら、水、汲んでいらっしゃい」
姉キャラが俺の手を離した。
俺は、何も持ってきてないぞ、と姉キャラを見上げて訴えかける。
何に汲むんですか。
伝われ、伝われ、という俺の念じにも関わらず、姉キャラは眉尻を下げた。
「まあ、何かあったの?怖い夢を見たの?」
仕方ないわね、と言いながら、姉キャラは俺と手を繋いでいなかった方、左手にバケツを携えて井戸へ歩いていった。
姉さん、それっす。
それが欲しかったんす。
姉キャラが少し天然だということが判明した。