世界保健機関(WHO)の西太平洋地域事務局長に葛西健氏が選ばれた。日本人では三人目だ。国際社会の最前線で感染症対策などに取り組む。日本の経験と知見を生かしたけん引役を期待したい。
人や物が大量に移動する現代、感染症は世界共通の脅威だ。命と健康を守る公衆衛生は「人間の安全保障」問題と言える。WHOの重要性を考えると日本はもっとその中心的な存在になるべきだ。
西太平洋地域事務局は、六つある地域事務局のひとつで世界人口の四分の一、約十九億人が住むアジアの一部とオセアニア地域を担当する。
事務局長は加盟国・地域による選挙で決められる。昨年十月に実施され葛西氏が選ばれた。今年二月から五年間、陣頭指揮をとる。
担当する地域は「新しい感染症が発生する地域」と言われる。二〇〇二年に中国で発生し感染が拡大した重症急性呼吸器症候群(SARS)は記憶に新しい。新型インフルエンザの発生もこの地域で懸念されている。
感染症は各国の国内対策だけではその封じ込めはできない。地球規模で取り組む必要があるが、その中核としてWHOの行動力が期待されている。まずは感染症の危機管理が重要な役目になる。
SARSが中国で発生した当時、地域事務局長だった尾身茂氏が関わり、史上初の「渡航延期勧告」を出した。患者の発生状況など情報開示に後ろ向きだった中国に国際協調へ背中を押した。同時に加盟国に異変の通告を義務付けるなど国際ルールが改正された。指導力を発揮した好例だろう。
葛西氏は感染症を専門とする医師でWHOでの活動経験も豊富だ。感染症の発生を迅速に把握し対応に結び付ける体制整備にも関わってきた。今後は、国際ルールを各国に守らせることが課題になる。国際協調へさらに歩みを進めてほしい。
西太平洋地域で日本は保健医療体制が整った国だ。ワクチン開発や治療など高い医療技術もある。過去にこうした技術を提供してきた実績もある。最近、加盟国が求めている生活習慣病対策にも取り組んでいる。こうした実績から見ると、国際社会での医療協力は日本が世界に貢献できる分野のひとつである。
WHOは「全ての人が必要なときに必要な医療を受けられる」ことを意味するユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進を掲げる。日本の役割は小さくない。
この記事を印刷する