揺らぐ経済統計への信頼

社説
2019/1/12付
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日本の経済統計への信頼を揺るがす重大な問題だ。賃金や労働時間の動向を示す厚生労働省の毎月勤労統計が、決められた方法で調査されず、公表データに誤りのあったことが明らかになった。

この統計は公的統計のなかでも重要度の高い「基幹統計」のひとつだ。雇用保険や労災保険の給付額算定をはじめ、経済分析や政策立案の基礎資料として活用されている。来年度予算案の修正も迫られるなど、調査の誤りの影響は極めて大きい。厚労省は原因の究明を急がなければならない。

毎月勤労統計は従業員500人以上の事業所については全てを調査すると定められている。だが東京都分では2004年から、対象の約1400カ所のうち500カ所程度を抽出して調べていた。

給与が比較的高い事業所が集計から抜け落ちたため、公表した統計では賃金が実際より低く算出されていた。厚労省によると、雇用保険と労災保険の過少給付は対象者が延べ約2000万人に上り、総額は500億円を超える。

追加給付が急務なのはもちろんだが、併せて厚労省に求められるのは、なぜ、こうした事態が起きたかの解明だ。原因がわからなければ的確な対策は打てない。11日の根本匠厚労相の記者会見でも職員の関与など詳細ははっきりせず、徹底究明が欠かせない。

毎月勤労統計の賃金データは所得や消費動向の指標として注目度が高い。政策の効果を検証する材料にもなっている。ほかの政府統計の信頼性を損なわないためにも、不適切調査の背景を入念に分析し、改善を図る必要がある。

厚労省は昨年も、裁量労働制で働く人の労働時間調査の不備が表面化した。たがの緩みは深刻だ。自浄作用が働かなければ、重要統計の調査を総務省統計局に移管することも検討してはどうか。

産業構造の変化に伴い、経済の実態を表す統計の役割は増している。調査の予算に制約はあるが、今回の問題を機に関係省庁は経済統計の意義を再認識すべきだ。

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