日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン容疑者が特別背任の罪で起訴された。リーマン・ショックで発生した私的な取引の評価損約18億円の負担義務を日産に負わせ、サウジアラビアの知人の会社に日産側から12億円余りを不正に支出させた疑いが持たれている。
自らの役員報酬を少なく見せるため有価証券報告書に虚偽の記載をした罪でも、同社元代表取締役のグレッグ・ケリー被告とともに新たに起訴された。すでに起訴されている分を含め、未記載の報酬は8年間で計約91億円に上る。
こうした起訴内容が事実だとすれば、世界的に著名な経営者が権限を悪用し、会社を私物化していたということになる。
一方、ゴーン元会長は、特別背任の疑いについて「日産に一切損害を与えていない」と主張するなど、起訴事実をいずれも全面的に否認している。法律に違反するかどうか識者の間でも見方が分かれている点もあり、刑事責任の有無は今後開かれる裁判の場で司法の判断を見守るしかない。
この事件は、市民が参加して審理を行う裁判員裁判の対象ではない。だが海外でも関心が高く、「勾留期間が長すぎる」といった日本の刑事司法に対する批判も相次いだ。検察は裁判では法律や経営の専門家でなくとも納得がいくよう、ていねいで分かりやすい立証を心がけねばならない。
事件の背景などを可能な範囲で解き明かし、捜査の端緒となった司法取引の経緯も明らかにしていく必要があろう。そうしたことが国際的な疑念にこたえることにもつながるはずだ。
相次いだ批判の中でも、否認すると保釈されない「人質司法」についてはかねて国内でも問題視されていたが、司法取引の一部導入を決めた際の法制審議会でも大きな見直しはされなかった。最高裁や法務・検察はゴーン元会長の捜査とは別に、こうしたあり方について改めて検討すべきだろう。
有価証券報告書の虚偽記載では法人としての日産も起訴された。現経営陣はゴーン元会長が会社を私物化していたと指弾するが、そうであれば経営トップの逮捕に至るまでそれを見逃した罪は重い。
ガバナンス(企業統治)や内部統制の確立と信頼の回復は待ったなしである。日産はこの先も、事件や経営に関して適切に説明を果たす重い責任を負っていることを忘れてはならない。
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