時代とともに変わるホテル - ラブホは「レジャーホテル」へ

瀧澤信秋のいろはにホテル 第3回

時代とともに変わるホテル - ラブホは「レジャーホテル」へ

2019.01.04

近年、ラブホテルは「レジャーホテル」と呼ばれるように

現代的な“おしゃれ感”のあるレジャーホテルが増加

ホテル不足で再注目、一般の宿泊サイトでも予約可能に

ホテルのカテゴリーは多様だ。シティホテルにビジネスホテル、リゾートホテルやカプセルホテルなど、それぞれの業態に応じてサービススタイルも異なる。

筆者は、『ホテル評論家』として“横断的評論”を心がけている。さまざまなスタイルのホテルを利用者目線で横断的に批評することで、評論活動におけるホテルサービスの最適解を導きだそうとしているのだ。「ラブホテル」もそのフィールドである。

今回は「ラブホテル」について話を進めよう

ラブホテルは「レジャーホテル」へ

ラブホテルとは伝統的な表現であり、近年業界では「レジャーホテル」という呼称が一般的だ。筆者が連載している業界誌のタイトルもレジャーホテルという用語を用いている。以前ネット記事で、“ラブホテルは昔ながらの淫靡な雰囲気を醸し出している施設”で、レジャーホテルは“現代的なおしゃれ感のある施設”を指すという見解を見かけたが、あくまで呼び方の変化であり、ラブホテルがレジャーホテルと言われるようになっただけだ。

近年、ラブホテルはレジャーホテルと呼ばれている

呼称はさておき、現代的でおしゃれ感のある施設が増加していることは事実である。確かに昔ながらの淫靡な雰囲気を醸し出している施設も存在感を放つが、多様なスタイルのホテルが誕生する中で、レジャーホテルに区分されるものの、淫靡な雰囲気が見られないホテルが生まれているのだ。リゾートホテルのようなクオリティに加え、一般ホテルに近い形態で利用できる施設もある。

フロントでの対面手続きも珍しくなくなった

では、レジャーホテルの定義とは何か。

レジャーホテルに限らず、料金を受領して人を宿泊させる場合、「旅館業法」が適用される。旅館業法では「旅館・ホテル営業」のほか「簡易宿所」(カプセルホテルやホステルなど)、「下宿」とカテゴライズされているが、レジャーホテルは当然のことながら「旅館・ホテル営業」として届け出されている。

中でも特有の設備を持つ施設は、風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)第2条第6項第4号の「専ら異性を同伴する客の宿泊・休憩の用に供する政令で定める施設を設け、当該施設を当該宿泊・休憩に利用させる営業」に該当する。

それら施設、設備などを設ける場合は、旅館業法の許可と共に風営法の届け出をしなければならず、店舗型性風俗特殊営業の4号営業に分類される。業界ではこのような設備を持つレジャーホテルを「4号営業ホテル」と呼んでいる。

4号営業ホテルには「フロントによる対面接客がないこと」や「客室で自動清算できる機器を設置していること」など、さまざまな要件があるが、その一方で最近はフロントでの対面接客がある施設も目立つようになってきた(対面接客のないレジャーホテルにも正確にはフロントがあるが、遮へいされた場所にありスタッフの顔も見えないようになっている)。

「新法営業ホテル」のフロント(左)、客室に設置されていない新法ホテルの自動精算機(右)

対面接客で料金や鍵のやりとりが行われる施設は、一見するとレジャーホテルでも、実は風俗営業法が規定する要件にはあてはまらない。これらの施設は、ホテルを4号営業ホテルに対して「新法営業ホテル」と呼んでいる。4号営業許可はハードルが高いことも、この「レジャーホテルの一般ホテル化」という新たなフェーズ移行が進んでいる一因なのかもしれない。

「ホテル不足」がレジャーホテルの人気を後押し?

新法ホテルとレジャーホテルの一般ホテル化について考察してきた。

男女が特定の目的のために利用する施設という側面を保ちつつ、ビジネスプランの提供や女子会プランなど多目的な利用が周知されている現況もある(4号営業でもビジネスプラン・女子会プランなど提供する施設はある)。アメニティや備品、食事のサービス、ドリンクサービス等の充実もレジャーホテルの定番であり、レジャーホテルがセレクトされる理由になっている。

「タオルウォーマー」が用意されていたり、無料でスイーツを選べたりと、サービスが充実している

ここで誤解のないように申し上げたいのは、「業態としてはレジャーホテルに区分されるものの淫靡な雰囲気は皆無で、リゾートホテルとしてもクオリティが担保できるような施設も増えている」という前述部分であるが、これは決して“4号営業=淫靡な雰囲気の施設で、新法営業はそれ以外”ということでない。4号営業であっても一般ホテルでみられるようなコンセプトを有するホテルもあるし、新法営業でもアダルトな雰囲気を持ち合わせる施設もある。

近年訪日外国人旅行者の激増もあり、ホテル業界が活況を呈している。それに伴い、これまでになかったスタイルやサービスが見られるホテルが増えている。たとえば、デイユース(休憩利用)といえばレジャーホテルの十八番だったが、最近ではビジネスホテルなども積極的に採用する利用形態だ。一般ホテルのスタイル多様化は、レジャーホテルの業際化ともいえる新たなシーンを創出している。

ここ数年、ホテル不足問題という観点からもレジャーホテルがフィーチャーされている。一般の宿泊予約サイト(OTA)でもレジャーホテルの取り扱いがなされるようになった。都市部では駅近や繁華街至近といった場所に立地していることが多く、何より客室の設備、アメニティについては一般ホテルを凌駕しているケースも多い。たとえば、ドライヤー類4台というのはレジャーホテルでは常識である。

複数のドライヤーが用意されている

そのほかにも、一般ホテルは相応の料金変動がみられる中、レジャーホテルの料金は均一感があったり、一般ホテルが満室でもレジャーホテルは稼働に余裕があったりすることも、レジャーホテルの人気を後押しする。ホテル不足問題は、レジャーホテルの一般ホテル化への流れを促進し、かつその周知性を高めていると言えるだろう。

次回も引き続き、レジャーホテルについての話が続きます。ホテル評論家の選ぶ、3つの“驚きのレジャーホテル”とは? 掲載は1月5日を予定しています。

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ミクのアシストで“To LOVEる”回避!? ホンダの「osoba」で次世代ドライブ

ミクのアシストで“To LOVEる”回避!? ホンダの「osoba」で次世代ドライブ

2019.01.12

ホンダとドワンゴが共同でスマホアプリ「osoba」をリリース

スポーツカーS660と接続することでクルマのステータスを確認できる

走行中は初音ミクがさまざまな言葉をかけてくれる

osobaの画面イメージ

ホンダとドワンゴは、スマートフォンアプリ「osoba」を共同で開発し、1月11日に提供開始した。

同アプリは、スマートフォンをホンダのスポーツカーS660にUSB接続することで、ガソリンの残量など、クルマのステータスを確認できるというもの。走行中には、ボーカロイドの「初音ミク」が「速くなってきたので制限速度に気を付けてね」「右に曲がっています」などの言葉をかけてくれる。

今回、アプリのリリースに合わせて、S660に初音ミクのデザインを施したコラボラッピングカー(いわゆる痛車)を手がけると発表。幕張メッセで開催されたカスタムカーイベント「東京オートサロン 2019」で、完成車が披露された。

公道でもちゃんと走れる初音ミクのデザインカー

今回、痛車のデザインを担当したのは漫画家の矢吹健太朗氏。矢吹氏といえば、週刊少年ジャンプで『BLACK CAT』や『To LOVEる -とらぶる-』などを連載していた漫画家である。特に『To LOVEる -とらぶる-』では、大胆な描写が話題となり、多くの人から「矢吹神」と崇められるようになった。

はたして、今回彼の手がけたコラボカーは、どのようなデザインに仕上がったのだろう。その完成車はこちらだ。

彼のイラストで公道を走ることはできるのか? 湯気は仕事をするのか? どんなTo LOVEるが起きるのか? 矢吹氏がデザインすると聞いて、そんな不安を抱いた人も少なくないかもしれないが、ちゃんと全年齢対象のコラボカーに仕上がった

矢吹氏のデザインした初音ミクは、カワイイ系にまとめながらも、「ジャケットは着る! …けどなんか透けてる!」「肩を出せないなら腋を出す!」など、独自のこだわりがふんだんに込められている。

ちなみに、今回矢吹氏の描き下ろしたラッピングカーは、「Honda Cars東京中央」で予約すれば、実際に体験乗車することができる。世界で1台の矢吹ミク車でドライブすれば、注目を集めること間違いなしだ。また、1月21日からは、特定のHonda Carsにおいて、osobaを使用したS660の試乗が可能だという。

ブースには矢吹氏直筆イラストも

また、東京オートサロンでは、プロコスプレイヤーのえなこさんが、矢吹神のデザインした初音ミクの衣装を身にまとって降臨したので、そちらの様子も紹介しよう。

osobaの登場によって、「自動車が意思をもって話しだす」という、かつて物語の世界でしか存在しなかったようなことが、現実の世界でも実現されつつあることを実感した。

便利で、そしてワクワクするようなカーライフが、すぐ目の前まで近づいてきているのではないだろうか。

復活のテクニクス、世界待望のDJターンテーブル「SL-1200 MK7」投入の真意

復活のテクニクス、世界待望のDJターンテーブル「SL-1200 MK7」投入の真意

2019.01.11

みんなが待ってた「SL-1200 MK7」を今夏に製品化

より多くの音楽を愛する人へ、テクニクスの取り組み

2019年はパナソニックそのものが変わる節目になる

パナソニックは、「テクニクス」ブランドの新製品として、DJなどを対象にした「SL-1200 Mark7 ダイレクトドライブターンテーブル」を発表した。2014年にテクニクスが復活して以来、登場が期待されていたDJ向け製品だ。これによって、テクニクスの事業が新たなフェーズに入ったことを示すことになった。

DJ向けに発売する「SL-1200 Mark7 ダイレクトドライブターンテーブル」

あわせて、Grand Classのネットワーク&スーパーオーディオCDプレイヤー「SL-G700」、Premium Classのダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1500C」も投入する。これによりテクニクスブランドの製品は23機種にまで広がり、より多様なユーザーに音楽を楽しむ環境を提案できるようになる。

ネットワーク&スーパーオーディオCDプレイヤー「SL-G700」
ダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1500C」

これらの新製品の発表の場となった家電見本市「CES 2019」(米ラスベガス 1月8日~11日開催)の会場で、テクニクス事業を統括する小川理子執行役員と、パナソニック アプライアンス社 テクニクス CTOの井谷哲也氏に、新製品と事業展望について聞いた。

SL-1200 MK6生産終了から8年、MK7が登場

――2018年は、テクニクスにとってどんな1年でしたか

小川:2018年春に発売した、リファレンスクラスのターンテーブル「SL-1000R」が大きな話題を集めたことがトピックでした。SL-1000Rで実現する音に関しては、技術や企画、デザイン、マーケティングなど、テクニクスに関わるすべての人たちが自信を持って、市場投入したものであり、「この音が、テクニクスの音である」ということを明確に示すことができたといえます。

テクニクスの復活を主導したパナソニックの小川理子執行役員。ジャズピアニストでもある

実際、SL-1000Rは計画の3倍という売れ行きを示しました。アナログの音を最高の環境で楽しみたいというユーザーが多かったことを感じました。最上位のアナログオーディオを実現したことで、「いままでに体験したことのない音が聴こえる」、「アナログの概念を超えた」といった声を、ユーザーの方々やディーラーの方々からいただきました。この製品に象徴されるように、2018年は、テクニクスの取り組みの蓄積がいよいよ実ったといえる1年でした。

――2018年のテクニクス事業全体を振り返って自己採点すると何点になりますか

小川:100点満点で、85点ですね。昨年からは5点ほどあがった感じです(笑)。

2018年は、SL-1000Rによって、テクニクスの音はこういうものだということを定義できましたし、自信をもってお勧めできるものが完成しました。「まずは、ここまでやりたいな」と思った音が実現できました。ただ、やることはまだまだありますから、そのあたりが15点のマイナスになります。

――今回、新たにDJ向けのダイレクトドライブターンテーブル「SL-1200 Mark7」を、2019年夏に発売すると発表しました。この製品はテクニクスにとって、どんな意味を持ちますか

小川:2014年にテクニクスの復活を発表したときに、DJの方々から嘆願書をいただくなど、登場が期待されていたのがDJ向けのダイレクトドライブターンテーブルでした。私たちも、「いつかは製品化したい」と考えていました。その「いつか」というタイミングが、いま訪れたというわけです。このSL-1200 MK7の開発をスタートしたのは2018年1月頃でしたが、このタイミングで様々な要素が揃って、今ならばDJにとって一番いいターンテーブルが投入できると判断し、製品化しました。

ダイレクトドライブのモーターを新たに開発したり、DJ向け製品として搭載する新機能を追加できたりしたことに加え、コストダウンした上でもテクニクスの音を出せるようになったことが大きな要素です。

CES 2019のテクニクス プレスカンファレンスでは、レジデントDJであるSkratch Bastid氏によるデモプレイも披露

テクニクスの再参入当初は、マーケティングの観点から、Hi-Fiオーディオとしてのブランドを確立することを優先し、DJ向け製品の投入は先送りしてきた経緯があります。しかし、この3年間の取り組みを通じて、アナログに対する揺るぎない自信ができたこと、Hi-Fiオーディオとしてのモノづくりをしっかりとやってきたからこその技術やノウハウが確立できました。

そして日本国内のDJを中心に、カナダや英国など世界中のDJの意見も聞き、操作という点での心地よさを追求し、使いやすいものを開発できる環境が整いました。加えて、新たにマレーシアの製造拠点で生産できる体制を敷いたことで、1,200ドル以下という購入しやすい価格の実現にもめどがたちました。さらに楽器店などの新たな販売ルート開拓の体制もできつつあり、DJ向けダイレクトターンテーブルを市場投入するための土壌を、あらゆる観点から整えられたことが背景にあります。

――DJ向けダイレクトドライブターンテーブルは、Hi-Fiオーディオとはモノづくりの手法が異なるのですか

小川:ターンテーブルの技術者は一緒です。そして、SL-1200 MK6の開発者も、今回の新製品の開発に携わっています。ただ、私が開発チームに言っていたのは、これは「楽器」であるということでした。楽器を使う人の声を聞くことが大切であり、それをもとに、楽器として、どんなモノづくりをすればいいのかを追求してほしいといいました。私を含めて、テクニクスの開発メンバーには楽器をやる人が多く、楽器とはどういうものかを知っていますから、この言葉の意味することについては、理解が早かったですね。

井谷:2014年のテクニクスの復活以降、ラインアップしてきたターンテーブルは16ビットのCPUを採用していましたが、今回のSL-1200 MK7では32ビットのCPUを採用しました。また、トルク・ブレーキスピードの調整機能や逆回転再生など、パフォーマンスの可能性を広げる新たな機能も搭載しています。

一方で、新生テクニクスとしての3年間に渡る蓄積も生かされています。2016年に製品化したSL-1200Gをはじめ、アナログオーディオで培ってきた技術を用いて音質を高めています。そしてボタンレイアウトやプラッターの慣性質量など、DJパフォーマンスに影響する仕様についてはSL-1200 MK6を踏襲しているので、過去の製品を使い慣れているDJでも、同様の操作感で使ってもらえます。「楽器」という位置づけですから、手触り感や使い勝手といった点はとてもこだわりました。

2010年に生産終了となったSL-1200 MK6までのシリーズ累計の販売台数は350万台を超えており、いまでも多くのDJに愛用されていますが、そうした方々にSL-1200 MK7を使ってもらったところ、「MK5やMK6に比べて音質がかなり良くなっている」という声をいただけました。

小川:製品化の経緯のなかで、型番に「DJ」と名称をつけようという話もあったのですが、最終的には、これまでの継承性を感じていただけるMK7の型番としました。DJの方々にとって、いままで使っていたものと操作が変わっては使いにくくなってしまうので、その点は継承し、そこに、テクニクスとして新たな機能を搭載しました。継承はしているが、進化をしているというのが、SL-1200 MK7です。

CES 2019の会期中、テクニクスはホテル「ベラッジオ」のナイトクラブを貸し切って「Technics 7th イベント」を開催。多くの招待客で賑わった

2019年は、音楽を愛する多くの人をファンに

――2019年は、テクニクスの復活から5年目を迎えます。どんな1年になりますか

小川:もっと裾野を広げたいですね。昨年後半には、ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン「EAH-F70N」や、ワイヤレスヘッドフォン「EAH-F50B」を投入し、ヘッドフォンのラインアップも増やしました。より多くの人にいい音で、音楽を聴いていただきたいという狙いからです。また、今回のCES 2019にあわせて、Premium Classのダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1500C」と、Grand Classのネットワーク&スーパーオーディオCDプレイヤー「SL-G700」を発表し、ラインアップを拡充しました。

ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン「EAH-F70N」

テクニクスは、特定の人たちだけにいい音楽を楽しんでもらうのではなく、まさに、「くらしにもっと音楽を」という考え方で製品を投入していきます。現在、23機種のラインアップを、29カ国で展開しています。これをベースに、いままで以上に多くの人にテクニクス製品を届け、ファンになってもらいたいと考えています。

井谷:SL-1500Cには、コアレスダイレクトドライブモーターや高感度トーンアームなど、テクニクス独自の技術を数多く搭載しています。さらに、フォノイコライザーアンプを内蔵するとともに、Ortofon 2M Redフォノカートリッジも付属し、それでいながら、コストを抑えることにも成功しました。

フォノイコライザーを内蔵することで、配線を短くできるというメリットがありますが、一方で、回路が集中することで発生する課題を解決しなくてはならないという難しさがあります。そこで、フォノイコライザー用の専用電源については、ノイズの影響を軽減するためにモーターや制御回路用の電源から絶縁し、さらに、シールド構造により、外来ノイズの影響を抑制しています。「内蔵でありながら、こういう音まで出せるんだ」ということを言ってもらえるほど、追いこんだ作りになっています。これは大きな挑戦ではありましたが、自信を持ってお勧めできる性能を実現しました。

しかもカートリッジもついていますし、フォノ入力端子のないオーディオ機器につなげても、すぐに聴いてもらえます。これによって、アナログレコードを簡単に楽しんでもらうという新たな提案ができるようになります。

――テクニクスは、2014年に、「Rediscover Music」をメッセージに掲げ、「音楽を愛する人たちに向けたHi-Fiオーディオの実現」を目指してきました。今回のDJ向けダイレクトドライブターンテーブルの投入によって、ユーザーターゲットが広がります。このメッセージも刷新となるのでしょうか

小川:それは変わりません。DJ向けダイレクトターンテーブルも音楽を愛する人に向けた製品のひとつです。むしろ、多くの人に音楽を楽しんでもらう方法はまだまだあると考えています。

次のステップでは、パナソニックのアプライアンス社全体で取り組んでいるスマートホームとの連携などを通じて、「くらし」のなかでさりげなく音楽を楽しんでもらう取り組みや、クルマと家をつなぐなどし、様々な空間にテクニクスの世界観を広げていくことも考えたいですね。クルマは、電動化が進んでいますが、それに伴い、軽量化が課題になっています。車内に重たいスピーカーを10個搭載して高音質を実現するのではなく、音場制御をはじめとしたデジタル技術を活用することで、軽いシンプルな構成で、いい音を鳴らすといったこともできるでしょう。そこにはテクニクス独自のLAPC(Load Adaptive Phase Calibration)の利用も有効だと思っています。

私はテクニクスを復活させてから、毎年のように、「飛躍の年にしたい」と言い続けてきました。2019年も、さらに飛躍する1年にしたいですね。これまでにも、私たちなりには飛躍をしてきたつもりですが、外からみると、小さな飛躍にしかみえないかもしれません。外から見ても、大きく飛び始めたといえるように、さらに大きな飛躍をしたいと思っています。

パナソニック全社が次の100年に向かう節目

――小川執行役員は、2018年1月から、パナソニック アプライアンス社の技術担当副社長および技術本部長も兼務しています。この1年の成果はどうですか

小川:2018年は、パナソニックが会社として100周年を迎え、様々な取り組みが行われた1年でした。「くらしアップデート業」や「知能化」といった新たなキーワードも出しました。そうした節目において、技術本部では、これまで100年の家電のモノづくりを、次の100年のモノづくりにどうつなげていくかということを考えはじめました。

くらしに貢献する技術や製品、サービスのすべてが変換点を迎えていますが、最終製品が変化するためには、まずは技術から変わらなくてはいけません。しかし、100年に渡るモノづくりのプロセスを変えるのには、ものすごい力が必要になるのも確かです。

私たちは、この変化に挑戦していきます。技術本部のなかでは、変えなくてはならないという共通認識ができています。そして、変化をドライブするために開発体制も変更しました。現在、技術本部のなかに、エアコン・コールドチェーン開発センター、ホームアプライアンス開発センター、イノベーティブ・エンターテインメント開発センター、R&Dプランニングセンターの4つの開発センターを設置し、デジタルトランスフォーメーションを推進したり、ソフトウェア技術やネットワーク技術に明るい黒物家電の技術者に、白物家電の開発に取り組んでもらったりといったことをしています。

これまでは、ひとつひとつの商品に向き合って開発してきた人たちが、IoTや知能化、くらしという文脈から、横につながったり、サービスとつながったり、あるいはプラットフォームを活用した新たな開発に取り組むといったことをはじめています。

パナソニックの100周年という節目は、技術者の意識を変えるにはいいタイミングでした。そのきっかけによって、次の100周年に向けて、変革をしていくという意識が共通認識として浸透しはじめています。

――パナソニック アプライアンス社では、2021年までに、家電製品の”すべて”のカテゴリーにおいて、知能化した製品を投入する姿勢を明らかにしています

小川:もはや、ハードウェア単品での性能向上や機能強化には、限界があります。ハードのなかに詰め込もうとしていた機能、性能を、クラウドとつないでソフトウェアでアップデートし、ハードウェアを買い換えることなく、くらしに寄り添った家電へと進化させる必要があります。

家電の「知能化」においてはネット接続が前提となり、人の気持ちを察して、ちょうどいいアップデートをしていかなくてはなりません。これをすべてのカテゴリーで展開していきます。また、地域ごとに見ても差がありますから、地域×商品のマトリクスで「知能化」をする必要があります。優先度を考えながら、「知能化」に取り組んでいきます。

パナソニックが、家電業から「くらしアップデート業」に変わって行くには、「100年続いた家電をどう変えていくのか」という意識を全員が持つ必要があります。そして、世界の技術の変化の激しさや、スピードに追随しなくてはなりません。その点では、まだまだ足りないことばかりです。ダイナミックさも足りていません。世界という観点でみると、もっと変えないと変化にキャッチアップできない。今年は、よりダイナミックに、よりスピード感をもって変えていきます。